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極端気象と食糧問題 未来の食卓はどうなる!?

地球温暖化による極端気象によって、食糧問題がますます深刻化することが予想されています。新たな穀物の開発や、食糧問題に向き合うユニークなアプローチなど、世界で進行中の対策に迫り、私たちがどのように備えればいいのかを考えます。

この記事は、明日をまもるナビ「熱波 干ばつ 大洪水“極端気象”にどう向き合うか」(2022年12月4日 NHK総合テレビ放送)の内容をもとに制作しています。

これだけは知っておきたい、食糧危機の現在と将来
▼地球温暖化の影響で、今世紀後半には平均収量がトウモロコシは24パーセント減、小麦は18パーセント増という予測がある。
▼小麦の代わりに、中間ウィートグラスやキヌアを次世代穀物として開発する研究が進んでいる。
▼サツマイモを発酵させてメタンを生み出し、発電する取り組みが進行中。ある焼酎メーカーでは8年前から行われている。


2022年 極端気象で食糧生産が…

2022年、世界各地で発生した極端気象。私たちの生活に大きく関わるのが、食糧生産への影響です。

2022年7月 イギリスに全土に熱波

2022年、ヨーロッパ各地で、過去500年で最悪ともいわれる干ばつに襲われました。
地球温暖化の影響を数値化する分析「イベント・アトリビューション」の結果、西ヨーロッパの干ばつ発生率は温暖化の影響で3倍から4倍となっていることが判明しました。

フランスでは地下水が減少し、食料生産に打撃を与えました。鱒(ます)の養殖場を営んでいた男性は、湧き出る水が激減したため、廃業に追い込まれました。

リンゴ農家も水不足で木が育たず、2022年は3割のリンゴが十分な大きさに育たなかった農家もありました。

中国全土も干ばつに苦しみました。長江流域では、猛暑日が観測史上最多となる70日以上を記録。周辺の農地が深刻な水不足に陥りました。


食糧問題にどう対処するか?

極端気象によってますます深刻化することが予想される食糧問題。
2021年11月、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)に向けて、こんなデータが公表されました。

世界の穀物に対する地球温暖化の影響で、今世紀後半には平均収量がトウモロコシは24パーセント減って、小麦は18パーセント増えるという予測です。

平均収量を示すデータ

小麦は、大気中の二酸化炭素の濃度の上昇に伴って光合成が促進されます。また、緯度の高い地域では、気温が上昇することで、単位面積あたりの収穫量が増加します。逆に、トウモロコシは、大気中の二酸化炭素の濃度増加に伴う光合成の促進効果が他の主要作物に比べて小さく、また気温の上昇を受けやすい低緯度地域で広く栽培されているので、収量が減ってしまいます。

小麦の収穫が増えても、世界で最も生産されている作物であるトウモロコシが4分の3に減ってしまうことで、国際的な食糧の争奪戦になり、日本ではこうした穀物が手に入りにくくなる可能性が指摘されています。

私たちは、一体どのように備えればいいのでしょうか。

■次世代の穀物?「中間ウィートグラス」とは

主食の穀物がこれまで通り収穫できなくなるかもしれないという危機の中、注目されているのが麦の一種「中間ウィートグラス」です。小麦との違いは、何年も生きる多年生であること。そのため、乾燥や寒さに強いのが特徴です。

デンマークでは、中間ウィートグラスを次世代の穀物に育てようと研究プロジェクトが進められています。

中間ウィートグラスの写真

中間ウィートグラスは厳しい自然環境には強いものの、粒が小さいのが欠点です。また、同じ広さの畑から収穫できる量は小麦の5分の1です。主要穀物にするには、粒の大きな品種に改良をして生産性を高める必要があります。

「今やっている5年間のプロジェクトの間に、粒の大きさが2倍の改良種を作ることが目標。長期的には小麦と同等の大きさに近づけたい」(デンマーク・カールスバーグ研究所 セーレン・クヌッセン博士)

中間ウィートグラスと一般的な小麦を比較した写真

■キヌア
もう一つ注目されている穀物が、キヌアです。
「この植物は、果てしなく続く南米の高山で生きています。そこは海抜4000メートルという極めて厳しい環境です。太陽の紫外線も極端に強い中で生きられるのです。(コペンハーゲン大学 植物環境科学部教授 ミカエル・ブロベル・パルムグレンさん)

キヌアの写真

キヌアは、南米では古くから食べられてきました。しかし、主要な食料として世界に広まることはありませんでした。

パルムグレン教授は、その理由を表面部分にサポニンという石けんのような成分を含んでいるためだと考えています。人々はこれまでキヌアを何度も洗い、その成分を取り除いて食べてきました。

研究チームでは、この手間を省くための品種改良を行いました。キヌアを水に入れて、よくかき混ぜると改良された品種は泡を出していないのが分かります。サポニンのないキヌアができたのです。

泡を出す従来のキヌアと出さない改良種の写真

「未来の気候はきっと乾燥した厳しい気候でしょう。キヌアはそんな状況でも耐えられると思います」(パルムグレン教授)

■米粉
日本では現在、小麦粉が値上がりする中、見直されている食品があります。それは米から作った「米粉」です。米粉は小麦粉に比べ栄養素が多く、アレルギーの心配も少ないとされています。

米粉の写真

米は小麦と違って国内自給率が高く、世界市場の影響を受けにくいため、価格の変動が少ないのも強みです。主にパンや菓子に使われている米粉。その使い道を広げる取り組みが進んでいます。


未来の食卓?食糧危機に向き合う驚きのメニュー

食糧問題に向き合うために、ユニークなアプローチを考えた人がいます。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)で、温室効果ガス観測技術衛星いぶき2号のエンジニアを務める安部眞史(あべ・まさし)さんです。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)安部眞史さん

未来レストランいぶきのメニュー

「いぶき2号」は、温室効果ガスを宇宙から観測する衛星です。このプロモーション活動の一環として2018年に実施されたのが「未来レストランいぶき」企画です。地球温暖化の問題を「料理」に結びつけることで、身近な課題として認識してもらおうと立ち上げ、メニューを開発したそうです。

「単なる創作料理ではなく、温暖化と食物の関係を示すさまざまなレポートや論文を読み込んで作っています」(安部さん)

フューチャー寿司 ネタの一部は熱帯の果実 イクラは人工イクラ
ステーキ・オン・ザ・サイド(添え物のイモを主役に)
大逆転プリン(卵を使ったカスタード部分を削減)
クリスタルたこ焼き 小麦粉の代わりにゼラチンを使用
ブルーパスタ 青いソースにはスピルニナ(藻の一種)を使用
ズッキーニを細切りにして、麺の半分をかさ増し

ちなみにこのコースの値段は「1万7740円」。このメニューを企画した2018年当時、今後どのくらい食糧の価格が上がるか、国連などのレポートから算出した金額に基づいています。

各料理の値段が書かれた表

「自分の身近なものにどう地球温暖化の影響が波及していくかを想像していただきたい」(安部さん)


「サツマイモ発電」が温暖化対策の切り札に!?

地球温暖化対策の切り札になるかもしれないのがサツマイモです。

サツマイモの写真

「イモはメタンガスを作るのに最適」と話すのは、近畿大学生物理工学部の鈴木貴博教授です。サツマイモ発電の研究を10年余り続けてきました。

サツマイモを発酵させてメタンガスを生み出し、それを燃料に発電するというこの新技術。芋焼酎のメーカーでは廃棄物になるイモを利用して、8年前からこの取り組みを始めました。

サツマイモや焼酎のかすをタンクの中で発酵させ、メタンガスを作り出し、ガスエンジンで燃焼させて発電機を回します。この施設では、年間約850万キロワットアワー(一般家庭2000世帯分)を発電しているそうです。

イモの粉をメタン発酵させるためには、下水処理場のヘドロにあるメタン菌を使います。汚泥の中にいる微生物がサツマイモを分解することで、メタンガスが発生するのです。

サツマイモは成長する過程で、大気中の二酸化炭素を吸収し、酸素を出します。そのため、発電中に二酸化炭素を出しても相殺されるという計算です。

鈴木教授によると、サツマイモ発電は石炭火力発電などよりも発電効率が高いといいます。

発電効率 「サツマイモ」およそ50% 「石炭火力」およそ40% 「木質バイオマス」およそ30%

「イモも作ったメタンも貯蔵できる。太陽光発電や風力のように天候で発電量が左右されることもない。今までの化石燃料と同じような感覚で利用できる燃料になります」(鈴木教授)

近畿大学生物理工学部の鈴木貴博教授

「政府が脱炭素社会の実現を目指すとしてカーボンニュートラル宣言をした2020年前後から、アンモニアや水素など、再生可能なエネルギー技術のニュースをたくさん聞くようになりました。地球温暖化問題も、人間の知恵と技術で乗り越えていけるのではないかと思います。皆さんが強い気持ち、大きい気持ちを持って対策を進めていく、そのよりどころになるような科学をわれわれ科学者は提供し続けたいと思います」(木本さん)

国立環境研究所理事長の木本昌秀さん

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