この記事は、明日をまもるナビ「熱波 干ばつ 大洪水“極端気象”にどう向き合うか」(2022年12月4日 NHK総合テレビ放送)の内容をもとに制作しています。
これだけは知っておきたい、極端気象の現状
▼気象庁気象研究所が検証した結果では、平均気温が1.5度上昇すると、35度を超える猛暑日が現在の1.4倍に増加する。
▼向こう数十年の間にCO2及びその他の温室効果ガスの排出が大幅に減少しない限り、21世紀中に、1.5度及び2度の地球温暖化を超えると IPCCは警告。
世界各地で頻発!極端気象
2022年、世界各地で極端な気象による自然災害が多発しました。ヨーロッパでは記録的な熱波で、ヨーロッパ全体で少なくとも1万5000人の命が奪われました。
パキスタンでは国土の3分の1を覆うほどの洪水が発生し、死者はおよそ1700人に及びました。
中国では長江(ちょうこう)流域を中心に記録的な干ばつのため、周辺の農地が深刻な水不足に陥りました。
日本でも、8月には東北地方が記録的な大雨に襲われ、深刻な被害を受けました。
世界各地で頻発する自然災害をもたらす「極端気象」。その大きな要因と考えられているのが地球温暖化です。
「極端気象」という言葉を使う理由
「異常気象」という言葉は頻繁に目にしますが、今回取り上げる「極端気象」とは何でしょうか。
この言葉を使う理由を、気象と温暖化の関係に詳しい国立環境研究所理事長の木本昌秀さんはこう説明します。
「異常気象と同じように『頻度の少ない現象』という意味ですが、正常か異常かを言っている場合ではなく、対策をどうするかを早く考えたほうが良いということで、 “極端気象”という言葉を使うよう心掛けています」
まず、地球の気温の基本データを見てみましょう。
このグラフは、地球上の全ての平均気温の上昇を表しています。年ごとの上下の変化をならすと、19世紀終わりから現在まで、すでに地球は1度以上温暖化しています。
「平均気温が1度上がっていることは、地域や季節によっては、2、3度どころではなく、それ以上に上がっていることを示しています」(木本さん)
気候が暑くなったり、涼しくなったり、ばらつくことを「気象のゆらぎ」といいます。
気象のゆらぎをわかりやすくイメージするために、「夏の暑さ」をピンボールで例えてみましょう。上から落ちるボールは、中央の「ふつうの気温の夏」を中心に山なりの形に分布し、猛暑や冷夏も回数こそ少ないものの起こります。
温暖化とは、このピンボールの台自体が猛暑のほうに傾くことを意味します。台が傾くことで、猛暑のほうに集まるボールが多くなります。つまり、今までは10年に一度だった猛暑の頻度が増えることになります。
イベント・アトリビューションとは?
温暖化の影響で極端気象の頻度がどのくらい増えるかを数値で表すのが「イベント・アトリビューション」(極端気象の要因分析)と呼ばれる科学的な解析手法です。
■事例1:2018年の猛暑
記録的な猛暑となった2018年の夏。埼玉県熊谷市では、国内の観測史上最も高い気温41.1度を観測しました。また、東日本の夏の平均気温も統計を取り始めてから最も高くなりました。この猛暑に温暖化がどれくらい影響していたのでしょうか。
気象研究所主任研究官の今田由紀子さんと国立環境研究所などのグループは、「イベント・アトリビューション」を使うことで、極端気象と温暖化の因果関係を裏付けることに成功しました。

この手法では、まず「温暖化が進んだ現実の地球」と、「今から150年前の温暖化が進んでいない地球」をスーパーコンピューターの中に作ります。
温暖化が進んだ地球には、人間活動によって出た温室効果ガスや森林伐採などの要素が入っています。一方、温暖化していない方はこうした要素を抜いた架空の地球です。
温暖化した地球としていない地球で、風向き、気温、気圧、水蒸気などの気象条件を変えたパターンを100通りシミュレーションします。
シミュレーションの結果をもとに、温暖化した地球100個としていない100個で、“熱波や豪雨などの極端気象が起こる割合を比較”するのが「イベント・アトリビューション」という手法なのです。
2018年の記録的猛暑をこの解析手法で調べたところ、温暖化した地球では、およそ20パーセントの確率で発生するという結果でした。
一方、温暖化していなければ、ほぼ0パーセント。「猛暑には温暖化が確実に影響していた」と証明されたのです。
最新の科学的解析手法が示した2つの極端気象
このイベント・アトリビューションを用いて、さらに2つの極端気象を解析した結果があります。
■事例2:2018年西日本豪雨
平成最悪の豪雨災害となった2018年の西日本豪雨。土砂災害や川の氾濫で250人を超える人の命が奪われ、深い爪痕を残しました。深刻な被害を受けた倉敷市真備町では、51人もの人が亡くなり、およそ4600棟が全壊しました。
この災害に温暖化の影響がどれほどあったのか。イベント・アトリビューションの解析がこちらです。
グラフの横軸は、3日間に降る最大降雨量です。200ミリ、400ミリと右に行くほど増えていきます。
縦軸は、その雨がどれくらいの期間に一度起こるか(再帰期間)を表しています。“10”は10年に一度、“50”は50年に一度の確率で起こることを示します。
青い線は温暖化していない地球、赤い線は温暖化した地球での解析結果です。
2018年の西日本豪雨での実際の雨量で比較してみると、温暖化がない地球では80年に一回起こるか起こらないかの現象であるのに対して、温暖化が起こっている地球では25年に一回ぐらいに起きる事象であることが示されました。温暖化のせいで頻度が約3.3倍に増えているということがわかったのです。
■事例3:2022年6月の猛暑
2022年6月の猛暑も、イベント・アトリビューションを用いて解析すると、温暖化によって極端気象の確率が上がっていることを示す例だといいます。
「温暖化していない条件(の地球)では、2022年6月のような猛暑が起こる確率はほとんどゼロ。もし温暖化がなかったらこんなに暑くなることはなかったという結論になります」(木本さん)
世界の気温上昇がこのまま続くと…
世界気象機関(WMO)及び国連環境計画(UNEP)により設立された政府間組織「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が2021年に発表した第6次報告書には、次のような一文が書かれています。
「世界平均気温は、本報告書で考慮した全ての排出シナリオにおいて、少なくとも今世紀半ばまでは上昇を続ける。向こう数十年の間にCO2及びその他の温室効果ガスの排出が大幅に減少しない限り、21世紀中に、1.5度及び2度の地球温暖化を超える」
*出典:IPCC第6次評価報告書 政策決定者向け要約 暫定訳(文部科学省及び気象庁)
「1.5度及び2度」とは、2015年のCOP21の合意「パリ協定」で定められた「世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2度より低く保ち、1.5度に抑える努力をする」という長期目標です。
「このままでは気温上昇は2030年代前半には1.5度を超えるかもしれません」(木本さん)
気象庁気象研究所が検証した結果では、平均気温が1.5度上昇すると、35度を超える猛暑日が現在の1.4倍に増加するということです。
最高気温ごとに熱中症死亡者数を見てみると、35度以上の猛暑日になると急激に増えています。最近の暑い年では年間1500人を超えていて、そのほとんどが高齢者です。
温室効果ガス削減のために日常生活でできること
温室効果ガスの排出量を減らすため、日常生活でできることは何か?それはどんな効果があるのか。数値であらわした国立環境研究所などによる研究があります。
最も効果が大きいのは、「エネルギーを効率よく使える住宅への建て替え」。最大で年間2.1トンを減らす効果があります。
マイカーを電気自動車にして、再生可能エネルギーで充電すれば、年間0.47トン削減できます。
この研究には全部での57の対策の効果が示されています。
こうした研究は、温暖化対策を考えるヒントになるかもしれません。
【参考】
国立研究開発法人 国立環境研究所
「カーボンフットプリントと削減効果データブック」
※NHKサイトを離れます
▼関連記事はこちら
極端気象と食糧問題 未来の食卓はどうなる!?
