この記事は、明日をまもるナビ「今年も警戒!大雪対策 大丈夫?」(2022年11月27日 NHK総合テレビ放送)の内容をもとに制作しています。
これだけは知っておきたい、大雪災害の傾向
▼昨シーズンの大雪はラニーニャ現象の影響。この冬も同じ大雪になる可能性が高い。
▼雪の事故の死亡原因で一番多いのは「屋根からの転落」。亡くなる人のほとんどが65歳以上の高齢者。
▼運転中は、大雪だけでなく、「地吹雪」で見通しがきかなくなる「ホワイトアウト」も要注意。
全国で被害 昨シーズンの大雪
2021年12月から2022年2月にかけて、強い寒気の影響により、日本海側を中心に広い範囲で大雪に見舞われました。
2021年12月、滋賀県彦根市では24時間降雪量が68センチメートルと観測史上1位を記録しました。

この大雪で、彦根市内では7時間以上の立ち往生が発生しました。さらに京都・兵庫を含む3府県でおよそ820戸が停電し、丸一日近く停電した地域もありました。
2022年1月には首都圏でも大雪が降り、東京都心では10センチ、横浜市やつくば市で8センチの積雪を観測。首都高速道路や一般道でスリップ事故が多発し、羽田空港では欠航が100便を超えました。

中でも想定外の影響が起きたのは、雪に強いはずの北海道札幌市です。2月5日から6日にかけて、24時間降雪量が観測史上1位の60センチを記録。積雪は133センチに達しました。積雪が1メートルを超えたのは、8年ぶりでした。

除雪作業が間に合わず、札幌駅を発着するすべての列車が丸2日以上運休。
札幌の雪捨て場は、受け入れることができる量を超えたため、30か所が閉鎖になりました。

市内では車が通るのがやっとの場所が相次ぎ、動けなくなる車も続出。通学路からは子どもたちの姿が消えるなど、市民生活に大きな影響を与えました。

どうなる、この冬の雪?
毎年日本ではだいたい100から150人くらいが雪が原因で亡くなっています。雪が多かった昨冬(2021年~2022年)も、99人が亡くなっています。
雪や氷の災害に詳しい、新潟大学災害・復興科学研究所教授の河島克久さんは、
「他の自然災害は毎年起こるとは限りませんが、雪は毎年降って毎年犠牲者が出るのが、雪の災害の大きな特徴」と言います。

河島さんによると、最近は雪の降り方が変わってきているそうです。
札幌では、通常なら1日5~10センチぐらいの雪が毎日降り積もって1メートルの積雪に達するような降り方でした。ところが、2022年の冬は3、4回の大雪が来て、133センチになった「ドカ雪」タイプでした。
そのうちの1回は、水を含んだ湿った雪でした。今までこの時期の北海道ではあまりなかったことです。湿った雪は凍結するとカチカチになります。これまでと雪の質も変わって、雪対策がより困難になっているのです。
なぜこのような大雪が起きるのか。ニュースウオッチ9や明日をまもるナビでもおなじみの気象予報士、斉田季実治さんに聞きました。

今シーズンの大雪の可能性について、斉田さんはこう説明します。
「昨シーズンの大雪はラニーニャ現象が関係していました。今年もラニーニャ現象が続く可能性が高くなっています。
ラニーニャ現象は、南米ペルー沖の海面水温が低くなる現象です。この影響でフィリピンからインドネシア付近の海面水温が高くなり、この場所で積乱雲が発生しやすくなります。
しかもこの冬はインド洋の海面水温も低くなっていて、より同じ場所で積乱雲が発生しやすくなりそうです。こうなると、上空の偏西風が大陸で北に押し上げられて蛇行し、日本付近で南下するため、寒気が流れ込みやすくなります。」

この冬の降雪量について、斉田さんの予想は…
「最新の3か月予報を見ると、気温は平年並みか平年より低い予想となって、寒くなりそうです。冬型の気圧配置になりやすいため、雪の降る量を見ると、東日本から西日本の日本海側で平年並みか多い予想となっています。」

雪の気象情報で覚えておきたい言葉があると斉田さんは言います。
日本海寒帯気団収束帯 (JPCZ)
冬型の気圧配置で、等圧線が「くの字」に曲がっていると大雪の原因になります。
大陸にある山脈で分かれた雪雲が日本海上で集まって発達し、本州の日本海側の地域では局地的に大雪となることがあります。
南岸低気圧
日本の南の海上を東へ進む低気圧。気温が低い冬から春の初め頃に通ると、ふだんあまり雪が降らない太平洋側に大雪を降らせることがあります。低気圧のコースや気温によって、雪になるのか雨になるのか予測が難しい現象です。
気象庁の「今後の雪」(降雪短時間予報)でチェック!
昨年11月から、気象庁のウェブサイトで「今後の雪(降雪短時間予報)」という情報が見られるようになりました。
6時間先までの積雪の深さと降雪量の予想がわかるもので、道路や鉄道などの地図情報と重ねて見ることができ、目的地までの経路変更や交通障害に備えられるので便利です。
「雪が降るときは、他の災害と比べて影響が長引くのが特徴です。情報を正しく理解して適切に対応してほしい」(斉田さん)
【参考】
今後の雪(降雪短時間予報)気象庁
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雪害による死亡 1位は「屋根からの転落」
雪に関わる事故の死亡原因で一番多いのは「屋根からの転落」です。
雪下ろし作業中に屋根から転落し、けがや亡くなる人が後を絶ちません。

転落事故を防ぐにはどうすればいいのか?ポイントは4つです。
ポイント① 命綱を付けて作業する はしごは固定する
必ずヘルメットや滑りにくい靴、命綱を着用します。
はしごは必ず固定します。定められた角度を守り、動かないようにすることが肝心です。
ポイント② 2人以上で作業する
1人で雪下ろしをすると、事故のとき、発見や救助が遅れてしまいます。家族や近所に声を掛け、必ず2人以上で行いましょう。
ポイント③ 建物まわりの雪を残す
万が一屋根から落ちた時、衝撃を少しでも減らすため、建物のまわりに雪を残しておくことも大切です。1階の屋根からの転落事故も多いので油断は禁物です。
ポイント④ 携帯電話を所持する
事故が起きた時に助けを求められるよう、携帯電話を忘れないようにしましょう。
年々増える高齢者の死亡事故
雪下ろしの転落事故で亡くなる方のほとんどは、65歳以上の高齢者です。平成の中頃は60から70パーセントぐらいでしたが、近年その割合が高くなっています。
その背景には、山間部の豪雪地帯の人口構成の変化があります。若い人たちが都会に行き、残った高齢者だけで雪下ろしをせざるを得ない状況があります。
一般のご家庭では、ヘルメットも命綱もつけずに作業するのが圧倒的に多いのが実態です。
国は雪下ろし中の転落事故の対策に乗り出し、国土交通省が「豪雪地帯対策基本計画」の見直しを進めています。
計画では、命綱などの安全装備や、命綱を固定するアンカーや転落防止柵などを豪雪地域の一般住宅の屋根に設置することを促進し、費用の一部を自治体が補助する制度を設ける予定です。
「雪おろシグナル」を活用しよう
雪下ろしのタイミングがわかるウェブサイト「雪おろシグナル」があります。河島さんも関わっている防災科学技術研究所が中心になって開発し、毎冬運用しているものです。
それぞれの地域の積雪の重さが色で表示されていて、雪下ろしのタイミングの目安になります。

【参考】
雪の重さがひと目でわかる「雪おろシグナル」(積雪荷重計算システム)
青森県版
他に [北海道]・[秋田]・[山形]・[福島]・ [新潟]・[富山]・[福井]・[長野]
があります。
※NHKサイトを離れます
雪害による死亡 2位は「落雪」
外出時、注意が必要なのが「落雪」です。
雪が降った後に気温が上昇すると、雪の表面がとけて、とけた水が屋根の表面に。すると、屋根との摩擦が少なくなった雪が突然滑り落ちるのです。
屋根から雪が落下するとどのくらいの衝撃になるのか?2階の屋根の高さから重さ30キログラムの雪の塊を落としてみると…木の箱は砕けてしまいました。

こうした衝撃は、雪が降ってから数日たった状態の「ざらめ雪」の場合、特に大きくなります。

降ったばかりの「新雪」は、空気を多く含むため軽くてふわふわです。「ざらめ雪」は降った雪の一部が融けて、固まっています。

2つの雪の重さを比べると、降ったばかりの雪では、100立方センチメートルあたり5グラム。降ってから一週間ほどたった「ざらめ雪」は35グラム。実に7倍の重さでした。
雪の塊を一辺の長さ50センチの重さで比較すると、「新雪」は6~18キログラム、「ざらめ雪」は37~62キログラム。もし後者が落ちてくると、人間ひとりが屋根の上から落ちてくる衝撃に相当します。
また、落雪は雪の衝撃だけでなく、雪に埋まって窒息し死に至ることもあります。

屋根からせり出している雪や、軒先のつららも要注意。棒でつついて落とそうとすると、一気に落ちて非常に危険です。
大雪の後の外出時は、常に頭上に注意して歩きましょう。

太平洋側でも注意 “レインオンスノー”
落雪の心配は豪雪地帯だけではありません。太平洋側でも注意が必要です。
2014年2月、関東地方を襲った大雪では、各地でカーポートなどの崩落が相次ぎました。

この時、東京では27センチの積雪を記録しましたが、途中から雪が雨に変化し、積もった雪に大量の水が加わりました。

雪プラス大量の水により、カーポートの屋根にかかる重さは大幅に増加。車一台のカーポートで、450キログラムを超えていたとみられています。
こうした積もった雪の上に雨が降る現象は、「レイン・オン・スノー」と呼ばれ、今後増加するとも考えられています。
レイン・オン・スノーは、カーポートだけでなく、ベランダやテラスなども注意が必要です。
対策は、「雨が降って重くなる前に雪を下ろす」ことです。
雪国のカーポートは積雪2メートルほどの重さに耐えられる設計ですが、東京など雪の少ない地域では20センチ程度の積雪にしか耐えられないものが多いのです。
雨が降ってとけた水は、流れずに雪に含まれ荷重を増すということを覚えておきましょう。
転倒しやすい場所は?雪道の歩き方
雪道や凍結した路面を歩く時、注意してほしいのが転倒です。
街の中で危険なのは、以下のような場所です。
●横断歩道=白線部分に薄い氷の膜が張り、滑りやすくなっています。
●バスやタクシー乗り場=雪が踏み固められ、転倒するおそれも。
●駐車場など車の出入りがある歩道=雪がタイヤに踏まれ固くなっています。
●歩道橋=雪がとけにくいので、気をつけて下さい。
歩くときは、靴底が滑りにくいものを選び、軽く膝を曲げ、靴の裏全体を地面につけます。小さな歩幅で歩くことを心がけましょう。
【参考】
おはよう日本 アナウンサーブログ
雪の季節!降る前に…注意するポイント解説
雪道での運転 リスクと対策は?
雪の中の立往生
近年、大雪のたびに雪道での「立ち往生」が発生しています。

立ち往生した時は、まずは救助を要請しますが、救助までの間、怖いのが一酸化炭素中毒です。
マフラーが雪に埋まってしまうと、排気ガスが車の下にたまり、あっという間に車内に入ってきます。
そうした事態を防ぐため、基本的にはエンジンを切ることが大切です。

暖を取るためやむを得ずエンジンをつける場合は、こまめにマフラー周辺を除雪しましょう。

いざという時に備え、防寒着やスコップ、最低限の水や食料などを積んでおきましょう。

走行中に視界不良
雪道の運転で怖いのが、視界不良です。

また、日が暮れるとさらに見えにくくなるので、夜間の走行は要注意です。

視界不良の時は、十分な車間距離でスピードを控えめに。少しでも不安を感じたら、安全な場所で停車し、天候の回復を待ちましょう。
「前を走る車が巻き上げた雪も、視界を悪くする原因になります」(河島さん)
雪が降らなくてもホワイトアウトの危険
また雪が降っていない時でも、強い風が雪を巻き上げる「地吹雪」で見通しがきかなくなる「ホワイトアウト」も、大きな事故を引き起こしています。
2021年1月、東北自動車道で、車やトラックおよそ60台以上が絡む多重事故が発生。1人が死亡、24人が重軽傷を負いました。

事故の直前、現場付近を撮影した映像を見ると、当時、雪はほとんど降っていなかったといわれています。しかし強い風が雪を巻き上げ、前がほとんど見えない状況でした。

このときの最大瞬間風速は秒速27.8メートル。車があおられるほどの強さでした。
「地吹雪」は、道路の脇にある田んぼや畑などの広い雪原に積もった雪が、遮られないまま強い風によって舞い上がり、どんどん成長して吹きつける現象です。風向きは時間や場所によって変動し、突然襲ってくる場合もあります。

どうしても走行する場合には、ライトをつけて、後続車や対向車に自分の車の存在を知らせることが重要です。
吹雪の視界情報でチェック
地吹雪が頻発する北海道では、寒地土木研究所が提供する「吹雪の視界情報」というサイトがあり、現在の視界の状況と24時間先までの予測を知ることができます。

こういったサイトや天気予報を事前にチェックし、ルートや交通手段の予定を変更するなどの判断も大切です。
【参考】
吹雪の視界情報
・北海道版
※NHKサイトを離れます
危険な路面凍結 ブラックアイスバーン
「ブラックアイスバーン」とは、表面に薄い氷が張った状態で、濡れただけの場合と見分けるが難しい道路です。

ブラックアイスバーンは、ブレーキの効きも悪くなります。
時速40キロで制動距離を測ってみると、雪が積もった道路はおよそ20メートル。一方、ブラックアイスバーンは3倍以上のおよそ70メートルでした。

橋の上やトンネルの出入り口、交差点付近は、特に路面が凍結しやすい場所です。
しっかりと車間距離を取り、急ハンドル急ブレーキをしない運転を心がけましょう。
【まとめ】雪道の運転で注意すること