この記事は、明日をまもるナビ「潜入!気象庁 予報や警報はどう出されるのか!」(2022年11月20日 NHK総合テレビ放送)の内容をもとに制作しています。
これだけは知っておきたい、気象台の役割
▼気象庁による気象災害の警報と自治体の避難情報は、緊密に連携して出されている。
▼気象台と自治体が「顔の見える関係」を作り、実際に避難指示を出す自治体の防災担当者のトレーニングも行っている。
気象台の役割とは?
東京の気象庁を中心に、全国各地には地方気象台があります。各都道府県に1か所あるだけではなく、北海道や沖縄のように範囲が広い地域には複数配置されています。
そんな地方気象台のとりまとめ役を担うのが「管区気象台」です。
その1つが、宮城県を中心に東北6県を統括する仙台管区気象台です。
東北で災害が起こった場合は、東京の気象庁と地方気象台を結ぶ拠点となります。
2022年8月3日。仙台管区内では各地で記録的な大雨が発生。
山形県では初めて「大雨特別警報」が発表されました。
この時、どんなやり取りが行われたのでしょうか?
仙台管区気象台と山形地方気象台、そして被害の大きかった飯豊町(いいでまち)の担当者の証言で振り返ります。
大雨特別警報はどのように出された?
山形県飯豊町役場の防災担当者によると、8月3日の朝、雨は小ぶりだったそうです。
飯豊町役場防災管財室の佐藤智昭室長はこう振り返ります。
「(大雨の)予兆は感じられなかった」
一方、仙台管区気象台主任予報官の阿部真治さんは深刻な予想をしていました。
「前日の2日の段階で、東北・日本海側を中心に警報級の雨になるだろう。通常の大雨よりも危機感をもって対応が必要と考えていた」
●午前8時
気象台が警戒していた通り、青森県の日本海側に線状降水帯が発生。その後、山形県では徐々に雨が強まってきます。
●午後0時43分
山形地方気象台が大雨警報と洪水警報を発表。その10分後、土砂災害警戒情報が出されます。
その頃、飯豊町でも短時間で雨量が増していきました。
「一気に降り始めて降雨量がどんどん増えていった」(飯豊町役場 佐藤さん)
大雨の原因は、線状降水帯でした。午後1時過ぎに、その発生が確認されました。
仙台管区気象台の阿部さんは警戒を強めていました。
「同じ場所で雨が持続すれば、山形県において大雨特別警報の発表もあるという可能性も視野に実況監視を強化した」
●午後4時すぎ
飯豊町は避難所を開設。高齢者に避難を呼びかけました。
●午後5時
飯豊町が災害対策本部を設置。
●午後6時
飯豊町は町内全域に避難指示を出しました。
その頃、仙台管区気象台では、山形地方気象台、東京の気象庁と連絡を取り合い、甚大な災害が想定される場合に発表する「大雨特別警報」発表の準備を進めていました。
大雨特別警報は、警戒レベル5=緊急安全確保に相当します。これは最高の危険度にあたるため、気象庁は慎重な判断を迫られていたのです。仙台管区気象台は、この危機感を山形地方気象台と共有していました。
●午後7時15分
山形地方気象台が、飯豊町を含む6つの自治体に「大雨特別警報」を発表。
大雨特別警報の発表後、各自治体は「緊急安全確保」を出します。
しかし、飯豊町は午後6時すぎの時点で既に発表していました。なぜ特別警報の発表前に、緊急安全確保を判断できたのでしょうか?
そこには、地元気象台と町の迅速な情報共有があったためです。
山形地方気象台台長の渡邊好範さんは当時をこう振り返ります。
「飯豊町に関しては、午後6時過ぎに(飯豊町長から)電話をいただきまして、『今後数時間は強い雨が続く。夜間は無理をせずに“垂直避難”など安全を確保していただきたい』と申し上げた」

地元気象台の責任者と飯豊町町長の「ホットライン」による迅速な情報共有が決め手となったのです。
●翌8月4日朝
山形県を襲った大雨の被害状況が明らかになりました。飯豊町では、24時間の降水量が306ミリを記録。8月の平年1か月分に相当する大雨が1日で降りました。
この雨の影響でJR在来線の鉄橋が崩落。他にも激しい濁流により県道の橋の一部が流され、1人が行方不明となりました。迅速な避難指示もあり、これ以上の犠牲者は出ませんでした。
10月19日、山形地方気象台の職員が飯豊町を訪れ、8月3日の大雨について意見交換を行いました。
気象台と自治体のホットラインを活用して緊急安全確保に結びついた点を評価した一方、電話回線が利用できなくなった場合に備え、ほかの通信手段も必要という課題が見えてきました。
飯豊町防災管財室室長 佐藤智昭さん
「我々としても(当日は)混乱がある状況だった。振り返ることによって今後の災害が発生した時の準備ができる」
山形地方気象台 地域防災官 丹野咲里さん
「担当者の方と今回意見交換をして、“どういった情報を出せばより伝わるのか”がわかったので大変有意義だった」

警戒レベル5に相当する特別警報が出ることは本当に危険な状況です。
ただし、特別警報イコール避難指示ではありません。
具体的な避難の指示は、特別警報の発表などを踏まえて、各自治体が出すものです。
そのため、災害時に必要なのが、気象台と自治体の連携です。
「自治体の担当者も気象のプロではないので、(避難の指示を)いつ出せばいいのか?どこに出したらいいのか?判断が難しいのです」(竹之内さん)
気象台と自治体の「顔の見える関係」づくり
気象庁では、気象台と自治体がふだんから「顔の見える関係」を作る取り組みを日々行っています。
福島県と地方気象台が企画した「自治体職員向けのワークショップ」を取材しました。
洪水警報が出たら、どう対応すべきか?実際に避難指示を出す防災担当者が、シミュレーションに臨みます。
参加者は架空の町の職員になり、気象台からの大雨情報をもとに、住民への避難指示を出す判断やタイミングをグループで議論します。

この日は、「洪水の危険が高まる中、『高齢者等避難』をどのタイミングで出すべきか」が議論になりました。高齢者は避難に時間がかかるため、慎重な判断が要求される問題です。
問題:
あなたがが自治体の担当者になったとして、どちらの意見が正しいと思いますか?
A:「洪水警報の3時間前に出す」
B:「洪水警報と同時に出す」
気象情報の活用について研究している竹之内健介さん(香川大学創造工学部准教授)は「どちらも正解」だと言います。
「場所によって違います。雨が降るとすぐ水位が上がる場所もあれば、水位が上がると本当に避難する道が危なくなってしまう場所もある。いろいろな想定を考えておくことがいい。その意味でどちらも正解なのです」
自治体の担当者だけでなく、私たち住民も災害時にどうすべきか、考えておくことが必要です。
子どもの防災力向上への取り組み
自治体との関係づくりとともに、気象庁が取り組んでいるのが教育の場での防災力向上の試みです。
北海道の帯広測候所では、今年9月下旬に、帯広近郊の小学校で出前授業をしました。さらに、新たな試みとして、地元の中学生に測候所の仕事や防災の知識を伝えています。
その様子は明日をまもるナビの「防災アクション」で詳しく紹介していますので、ぜひご覧ください。
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