この記事は、明日をまもるナビ「デジタルが変える!防災の未来」(2022年10月30日 NHK総合テレビ放送)の内容をもとに制作しています。
これだけは知っておきたい、災害時のSNSとのつきあい方
▼迅速かつきめ細やかな災害対策には、SNSの膨大な情報が欠かせないと考える自治体が増えている。
▼過去の災害映像の使いまわしや画像生成ソフトの使用などをチェックし、デマ情報を見破るAIシステムが開発されている。
▼SNSの発信と受信で気をつけたいキーワードは「だいふくあまい」。
災害情報の収集に欠かせなくなったSNS
情報収集や発信、連絡手段として欠かせない存在になっているSNS。災害のときも、多くの人がいま自分の周りで起きていることを発信し、テレビやラジオで把握しきれない災害情報もどんどん投稿され、「何がいま起きているのか」をリアルタイムで知ることができるようになっています。
2011年3月の東日本大震災と、2016年4月の熊本地震を比べると、災害の情報収集におけるSNS利用率は格段に増えました。

このSNSの情報量に着目して、災害対策に活用しているという自治体があります。
大分県防災局は、台風や地震が発生した際には「情報収集班」として専属の担当者を配置。ツイッターやフェイスブックなどで情報を集めます。
こうした取り組みのきっかけとなったのが6年前の2016年に起きた熊本地震でした。
大分県でも9000棟以上の建物が破損する被害があったこの地震。消防や警察には通報せずに、SNSで被災情報を投稿する住民が数多くいたのです。

「その画像や動画を通して、かなりリアルなものが入ってくる。こういったものの即応性をいかすために取り組んだ」(大分県防災対策企画課 課長 後藤恒爾さん)
迅速かつきめ細やかな災害対策には、SNSの活用が欠かせないと大分県は認識しました。
デマをAIで見抜く
しかしSNS活用には課題もありました。有益な災害情報が投稿されていた一方、悪質なデマも流れていたのです。
熊本地震では、動物園からライオンが逃げ出したという嘘の情報がネットに出回りました。動物園には不安になった住民から100件を超す電話が相次ぎ、復旧作業に支障をきたしたといいます。

こうしたデマに振り回されることなく、SNSの情報を有効活用しようと大分県が導入したのがAI(Artificial Intelligence 人工知能)でした。
このシステムではまず、無数にあるSNS投稿の中からAIがテキストや画像の内容から判断し、大分県の災害に関するものを抽出します。
さらに、その中からデマの可能性の高いものをチェック。信憑性の高い投稿と振り分けます。

●AIによるデマの見抜き方
いったいAIは、どのようにしてデマを見抜くのか。このシステムを開発する企業を訪ねました。
デマ投稿で多いのが、過去の災害の画像を使いまわしたものだといいます。
「過去にあった災害のときに撮られた写真を、あたかも今、目の前でこんなことになってるというような形で出すと、それを見た人が本当にこんなこと起きてるんだと思ってしまう」(システム開発会社の代表取締役 村上建治郎さん)

AIシステムでは、投稿されたSNSの画像が過去に撮影されたものかをネット上で検索。同じ画像が見つかれば、その投稿はデマの可能性が高いと判断します。

デマ投稿のなかには、画像生成ソフトを使用して作ったフェイク画像も存在します。
こちらは、2022年9月の台風15号で拡散された、町が水没したというフェイク画像です。一見、本物のように見えますが、水の流れが激しいところと穏やかなところの境目が極端であるなど、不自然な点があります。

「光の反射具合など、いろいろ細かいところを見るとわかるんですが、これをぱっと見て、気づくかというとなかなか難しい」(村上さん)

しかし、人の目では見抜きにくいフェイク画像も、AIであれば簡単に見抜けるといいます。
「写真の加工アプリは基本的には同じで、何か加工されてる場合は、(データを)加工した形跡は残ります。人の目ではわからなくても、AIであれば見抜くことができるんです」(村上さん)
しかし、AIがデマを見抜く能力は完璧ではありません。この会社では、最終的なチェックは人の目で行っています。
「やはりAIは大量のデータを瞬時に処理をするには、非常にたけている技術です。そこにはAIを活用するのが一番有効だと思います」(村上さん)
SNS発信で救われた家族
このAIシステムの活用によって、救われた家族がいます。
2020年7月に発生した大分県日田市の記録的豪雨。山あいの栃野地区は、道が土砂崩れによってふさがれ、孤立状態に陥りました。
この地区に住む鷹野恵祐さんは、電柱が倒れて固定電話が使えなくなり、さらに携帯電話の回線も不調で、外部との連絡もままならない状況だったといいます。
かろうじてネット回線だけはつながっていた中、妻の麻里奈さんがツイッターで投稿しました。
「避難所の真後ろで土砂崩れ。
停電、道路寸断、川の氾濫、孤立した。
一歳半と妊婦で避難はきつすぎる」
「当時、私は妊娠7か月でお腹が大きい状況。小さい子どももいて、とりあえず今の現状を誰かに知ってほしい、この苦しい状況で孤立したのを、誰か私を見つけて助けてほしい、みたいな感じで投稿したんですよ」(麻里奈さん)

AIシステムを使って情報を収集していた大分県の担当者が、この麻里奈さんの投稿を発見し、栃野地区の孤立を知りました。
すぐにツイッターでメッセージを送り、災害本部の連絡先を伝えました。
メッセージを確認した鷹野さん夫妻は、県に麻里奈さんの体調や地域の現状などを伝えました。

県は鷹野さんの情報を地元の消防署に共有。それを受けて、消防署の職員が麻里奈さんの体調を気遣い、安否確認に訪れました。

日田市の豪雨から3か月後、無事に出産した麻里奈さん。SNSの投稿をキャッチし、支援にまでつなげてくれた県の対応に感謝しているといいます。
メッセージをキャッチした大分県防災局の藤崎晃和さんは、当時の対応をこう振り返っています。
「われわれ行政は、実際に住民の方とやり取りできる機会は少ない、特に県庁の本部なので少ないけども、(SNSは)現地にいる方の詳細な情報を取れるところが一番大きい」

“だいふくあまい”でSNSとつきあおう
災害時のSNSの活用で気をつけたいことを、防災科学技術研究所・総合防災情報センター長の臼田裕一郎さんは「だいふくあまい」というキーワードにまとめました。
「だいふく」はSNSを見るときに気をつけてほしいこと。「あまい」はSNSに発信をする時に気をつけてほしいことです。
だ=誰が言っているの?
その情報は誰が言っているのか?全く知らない人や、IDを見ても全然想像もできない人が言っていることは一度疑いましょう。
い=いつ言ったの?
すごい写真が来たりすると、今こうなっていると思いがちです。でも、時間を見ると、数日前のものだったということもよくあります。
ふく=複数の情報を確かめた?
1個の情報だけでは必ずしも本当の情報かどうかわかりません。ところが、同じことを複数の人が違う言い方をしたり、違う角度で撮った写真があったりすると、真実味は変わってきます。
次は発信する時の注意点です。
あ=安全を確認しよう
危険なところに写真を撮りに行ったりせず、まず自分の安全を確認しましょう。
ま=間違った情報にならないかな?
「この写真は古くて、もうこんなことは今その場で起こっていない」けれど、今発信すると、まさに今そこでそれが起こっているように思われるかもしれないと考えましょう。
い=位置情報を上手に使おう
その被害がどこで起こっているのか分からないと救助にも行けませんし、行動がとれません。発信する時、文章の中に、いま、どこの建物の前でこんなことになっているといった情報を載せるだけでも非常に有効になります。

また、災害の情報を確認する時に活用していただきたいのが、自治体が独自に立ち上げている防災アプリや気象庁のアプリ、そしてNHKのニュース防災アプリです。

臼田さんはデジタル技術との付き合い方について、こう提案しています。
「デジタルの技術に使われないようにしましょう。人間が作ってるわけですから、人間が使えないわけがないのです。新しい先端的な技術であっても、ぜひ使いこなして、使い倒していってほしい」
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