インタビュー

愛情をもって役にアプローチできる、朝ドラの力

愛情をもって役にアプローチできる、朝ドラの力

好奇心旺盛でおてんばなヒロイン・今井あさ(波瑠)が、幕末から明治の激動期に女性実業家として奮闘する姿を描いた第93作「あさが来た」(平成27年度後期)。彼女の活躍を陰で支え、心のよりどころになっていたのは、道楽者ながらやるときにはやる夫、白岡新次郎(玉木宏)でした。
玉木宏さんが朝ドラの“相手役”を務めたのは、第68作「こころ」(平成15年度前期)に続いて二度目。一躍人気を得た新次郎を、どんな思いで演じていたのでしょうか。

――玉木さんの朝ドラ初出演は、「こころ」に登場する花火職人の弟子・堀田匠役でした。ヒロインの相手役でもありましたが、どんなことが印象に残っていますか?

匠は、花火への情熱を持ちながら、自分の置かれた状況にフラストレーションを感じている役。若者らしい小生意気さを出せればと思ったのですが、演技経験が浅かったので、ただただ一生懸命に演じていました。師匠役の寺尾聰さんに、芝居における気持ちの作り方を教えていただいたのも懐かしいです。役を離れても師弟のように接してくださり、とてもお世話になりました。
僕にとって「こころ」は、アルバイトをしながら出演していた最後の作品。撮影中盤になって出番が多くなったタイミングで、俳優一本でやっていくことを決めました。そういう意味でも、すごく思い出深いです。

――12年後の「あさが来た」では、再びヒロインの相手役を務めました。演じた白岡新次郎は、道楽者ながら要所であさをフォローする、独特の魅力を持った人物でしたね。

最初に台本をいただいたときは、正直なところ、よく分からない人だなと思いました(笑)。新次郎の行動は、1シーン、1エピソードでは完結しない描かれ方でしたから。でも結局、新次郎の核心は「よく分からないところ」だった。あの柔らかい雰囲気は、弱さを隠す術(すべ)であり、彼の強さだったんです。物語が進むにつれて、役の解釈をだんだんと深めていくことができました。

――あさ(波瑠)とは絶妙な凸凹夫婦でしたね。2人のシーンで、特に思い出深いものはなんでしょう?

年齢を重ねながら一緒の時間を過ごしていったぶん、娘の千代(小芝風花)が生まれたときは本当にうれしかったですね。ほかにパッと思いつくのは、相撲で派手に投げてもらったシーンや、初めて床を共にするときに障子を素早く閉めたシーンでしょうか(笑)。波瑠さんとはよく、細かいスパイスの足し方を話し合っていました。
彼女はヒロインでセリフも多いし、時代劇だから衣装チェンジも多くて大変だったはず。夫婦役ですし、いろいろサポートし合えればと思っていました。大阪に単身赴任していたのは、僕ら2人だけでしたから。

――現場に新しい出演者が来ると、玉木さんが親睦会を開いていたそうですね。粋な計らいで、どこか新次郎のようです。

できあがった現場に入るアウェイな気持ちを、少しでも楽にできればと思って。とはいえ、僕は率先して引っ張るようなリーダータイプではないので、そういう意味では新次郎ポジションだったかもしれません(笑)。
思えば、「こころ」の頃の自分は、匠のようにがむしゃらでした。あれから12年も経っていますから、多少は現場のことを客観的に見られるようになったのだと思います。作品がよりよいものになるよう、周りをサポートしたり、アイデアを出したりする心の余裕ができたのかもしれません。

――「あさが来た」は、玉木さんにとってどんな作品になりましたか?

魅力的な役に巡り合え、その半生を演じることができ、見ている方々にも喜んでもらえた幸せな時間でした。放送が終わって3年経ちますけど、いまだに街で「新次郎さん」と声をかけてもらえるくらいです。
それはたぶん、朝ドラが登場人物の“人生”を描いているからだと思います。長い間、新次郎を演じてきたので命が終わるときは本当に悲しかったし、いろんな感謝も湧いてきました。そして、長いことあさを支え続けてきたからこそ、どこか、“あたたかい死”を演じられた。新次郎の思いは死んでも変わらないし、これからもあさを見届けていくんだと思えました。愛情をもって役にアプローチできる、朝ドラの力です。

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