20世紀は人類が初めて歴史を「動く映像」として見ることができた最初の世紀です。映像は20世紀をいかに記録してきたのか。
世界中に保存されている映像記録を発掘、収集、そして再構成した画期的なドキュメンタリーのシリーズ。
活字とはひと味違った映像ならではの迫力と臨場感あふれる映像で20世紀の人類社会を鮮やかに浮き彫りにします。
2023年1月27日(金)
激動の20世紀をアーカイブ映像でたどる、ドキュメンタリー番組「映像の世紀」。1995年から放送が開始され、高い人気を誇る。シリーズ第2弾「新・映像の世紀」から放送中の第4弾「映像の世紀 バタフライエフェクト」までを担当する番組チーフプロデューサーに制作秘話とこれからについて聞いた。
1982年NHK入局。岡山放送局、社会情報番組部、大型企画開発センターなどを経て、現在「映像の世紀 バタフライエフェクト」チーフプロデューサー。
1995年3月~1996年2月 「映像の世紀」全11回
2015年10月~2016年3月 「新・映像の世紀」全6回
2016年5月~2017年3月 「映像の世紀 プレミアム」全21回
2022年4月~現在 「映像の世紀 バタフライエフェクト」
映像の世紀 全11回(1995年初回放送)
20世紀は人類が初めて歴史を「動く映像」として見ることができた最初の世紀です。映像は20世紀をいかに記録してきたのか。
世界中に保存されている映像記録を発掘、収集、そして再構成した画期的なドキュメンタリーのシリーズ。
活字とはひと味違った映像ならではの迫力と臨場感あふれる映像で20世紀の人類社会を鮮やかに浮き彫りにします。
『映像の世紀』は、戦後50年の1995年から放送される歴史の足跡を辿る番組だ。
「画期的な発明だったんですよ。今まで、アーカイブス映像は、ナレーションで載せたり、インタビューを補足したりする程度の、補助的な存在だったんですよね。それを主役にした。すごい発明だったんです。」
寺園さんは、その第2弾である「新・映像の世紀」から制作に携わっている。「第1弾の制作当時、インターネットは、今よりは普及していなかったんですよね。アーカイブスの映像は、船便や航空便で届けていた時代だった。だけど、私たちが制作を始めた2015年には、もうインターネットが普及していて、映像も一瞬で届くようになった。ソ連が崩壊して、東アジア社会の情報公開が一気に進み、手に入れられる映像の量も数倍に多くなった」。インターネットの普及により、制作期間は格段に短くなったという。
第3弾である「映像の世紀 プレミアム」は、世界各地のアーカイブスから発掘された、これまで番組には盛り込めなかった映像を盛り込んで、テーマ史の形式で制作された。
現在、放送中の「映像の世紀 バタフライエフェクト」は、10人程度の映像のリサーチ専門のチームが存在している。ナショナルアーカイブス(米国国立公文書館)から専門のジャンルのアーカイブス機関まで、世界中から映像を集めている。制作期間は、1本あたり4カ月から5カ月だ。
担当のディレクターが時間をかけるのが、膨大なアーカイブ映像の中から、ストーリーを見出す作業である。シーンをつないで、物語にするとは、どういうことか。
「今制作している『映像の世紀 バタフライエフェクト』では、『運命の恋人たち』というテーマで準備をしています。世界を動かしたラブストーリーを取り上げる予定です。アメリカに、マリリン・モンローが、イギリスに、ダイアナ妃という人がいるじゃないですか。ダイアナ妃の愛唱歌というのは「キャンドル・イン・ザ・ウィンドウ」という曲なんですが、これは実はエルトン・ジョンがマリリン・モンローにささげた曲。ダイアナ妃はこの曲が大好きで、彼女が事故死した時に、イギリス国民がその歌を歌ったということがあった。つまり、そういうことなんです。そこで、ダイアナ妃とマリリン・モンローがつながる。マリリン・モンローとダイアナ妃という、時代も国も違う別々の事象や人物をつなげるっていうところが、1番難しいところではあるけど、この番組の醍醐味だと思います」
「『バタフライエフェクト』では、ブルース・リーを取り上げるんです。ブルース・リーの黄金の像が、なぜ今、ボスニアヘルツェゴビナにあるのか。どうしてこの二つが結びつくのかを、一生懸命調べるわけですよ。祖母がイギリス人の彼は、中国では白人と、アメリカでは中国人と言われ、アイデンティティを模索しながら生きてきた。旧ユーゴスラビアは、激しい宗教や民族の対立があった土地。人種や国籍、宗教、ありとあらゆるものを超越した存在でありたいと願う彼の存在は、旧ユーゴスラビアでは英雄だったんですよね。そういう風に、いろんな文献や映像にあたりながら、ひとりひとりの営みが、大きなうねり、バタフライエフェクトを起こしていくということを調べて、作っているんです」
誰もがスマートフォンで映像を撮影、発信できるようになった、21世紀。真の意味で、映像の世紀である。昨今、課題になっているのが、フェイクニュースだ。一体、だれが、どんな意図で撮影した映像なのか。撮影当事者への綿密な裏取り取材と、書籍などの文献による考証が重要になってくる。その一方で、可能性もある。
「パンデミックになって、私たちはほとんど現地ロケに行けなくなった。その時に、どうやって番組を作るのか。当時、NYの看護師さんとか、いろんな人たちが、自分たちの記録を撮っていたんですよね。そこでみなさんにスマホによる自撮りをお願いしたりしながら番組を作るのが、すごく有益だったんですよ。戦争とか、その場にいかないとわからないことはたくさんあります。でも、今ウクライナは、そう簡単に足を運べる場所じゃない。そういうときに、ウクライナの人に、撮ってもらう。そういう作り方は、可能性があるんじゃないかな。テレビ局が自前で撮ることだけ考えていたら可能性が狭まると、映像の世紀をやっているから思うのかもしれない」
自前の映像にこだわらずに、番組を作る。アーカイブスだけではなく、新たな手法で実現していくことが、今後試される。
キャリアのなかで、印象的なことを聞いた。「個性的な番組を作りたいと思いながら、日々追われながら、やってきた。視聴者が一生懸命見てくれ、反応が届く。温かい言葉も、厳しい、激しい指摘も。届いている実感が、なによりうれしいですね。そして、番組が、時に、視聴者が自分に何ができるのかを考えるきっかけになることがある。自分がやってきたことが、人に働きかけていることを実感できることが一番うれしいことですね」
2023年2月にかけて、テレビ放送70年を記念して、1995年公開の「映像の世紀」が再放送される。寺園さんは、第5集の『世界は地獄を見た』こそが『映像の世紀』だと感じたいう。「第二次世界大戦を分析的に読み解くよりは、こんなにひどい地獄があったんですねと、映像で見せている。論ではなく、テレビは、ひとの心を動かさないといけないということを感じる。番組が、今の時代にも通用する人の心が動く瞬間で、構成されていることを実感する」
見たことのない世界を見てみたい。そんなシンプルな人間の欲求に、心震える映像が、きっと応えてくれるだろう。