ページの本文へ

サッカー日本代表 森保一監督が語るチームビルディング

2022年11月18日(金)

記事サムネイル画像

FIFA ワールドカップを前に、サッカー日本代表を率いる森保一監督に理想のチーム像について、宇宙飛行士の野口聡一さんが迫りました。サッカー日本代表のチームづくりをしてきた森保監督と、多くの宇宙飛行士と生死をかけたミッションを行ってきた野口さんの対談の様子を2回シリーズでお届けします。

ちなみに、宇宙飛行士の野口聡一さんは、宇宙にサッカー日本代表のユニフォームを持っていくほどのサッカー好き。前編では、異なる分野のプロフェッショナル同士がチームビルディングをテーマに語り合いました。

森保 一(もりやす はじめ)

1968年、長崎県出身。日本代表では2018年のワールドカップロシア大会でコーチとして帯同、大会後に監督に就任。予選から本大会まで一貫して指揮を執る初めての日本人監督。去年夏の東京オリンピックでも指揮を執り、2大会ぶりにベスト4に進んだ。

野口聡一(のぐち そういち)

1965年、神奈川県生まれ。2005年にアメリカのスペースシャトルで初めての宇宙飛行を行って以降、3度宇宙に滞在。世界で初めてスペースシャトル・ソユーズ・スペースXを全て制覇した。子どものころからサッカーに親しんでおり、国際宇宙ステーションにユニフォームを持ち込むほどのサッカーファン。

未来に向けたチームビルディング

野口聡一さん

日本代表監督を4年間通して続けているのは、非常に珍しいケースだと聞きました。前回大会からこの大会までの4年の間、チームのピークをここに持ってくるようなチームビルディングとしては何を一番大事にしていましたか。

森保一監督

目標を立てることを大切にしていました。ワールドカップに出場して、ベスト16の壁を破るという大きな目標を持っていた中で大切にしていたのは、目標と「いま」を整理して、目標を立てながらも「いま」という部分でいかに積み上げができるかということです。それを考えていままでやってきました。

その積み上げも、前回2018年のロシア大会が終わって新たなチームがスタートしたタイミングから始めたわけではありません。過去の日本代表の歴史、特に日本がワールドカップに出始めてからの過去6大会で、どういうことができて、どういうことができなかったのか。良いところはさらに伸ばす、できなかったことは改善しながら、世界の中で戦っていけるようにと考えてきました。監督としてのゴールは、ワールドカップではありません。

野口聡一さん

長期的なことを考えている?

森保一監督

2050年までに、日本がワールドカップで優勝するということを日本サッカー協会が発表しているので、それまでの期間のなかで、いま、自分がどう積み上げられる立場にいるのかということを考えています。

野口聡一さん

目指すワールドカップ優勝は2050年ではなく2022年なので、ぜひそこは前倒して達成してもらいたいです。

森保一監督

実はそういう気持ちも持っていますが、なんで今回「ベスト8以上」と言っているのかというと、現実は見ないといけないという。ただ、いまの力があれば、そこはこえていけると思っています。これまでベスト16の壁を破れませんでしたが、いま選手たちの力、日本のサッカーのレベルはすごく上がっていると思います。

落ち着いて、自分たちの力を個々が100%発揮する、チームとして100%発揮すれば、いままでの日本のサッカーの歴史は超えられる。現実を考えて積み上げていけば、必ずチャンスがあると思っていますし、その先につながっていくのかなと思います。なんか、目標ありきではいたくないというか。自分たちが強くなれば、自然と結果はついてくるんじゃないのかと思っています。

この記事は、11月17日にBS1で放送した「森保一×野口聡一 日本代表監督に聞く」の内容をまとめたものです。
野口聡一さん

我々宇宙飛行士も、ミッション、やるべきことの目標を100%達成するのを第1に考えますが、1つ1つのミッションで終わりではないという感覚をすごく大事にします。つまり、それぞれのチームが目標を達成するけれど、そのチームはもう少し大きなサークルの中にいて、「大きなサークルとしての目標の達成のために自分は役立っている」という感覚を私は大切にしてきました。この感覚は、森保監督がおっしゃっているところとすごく近いなと思いました。

森保一監督

宇宙には、何人で行くんですか。

野口聡一さん

1つの同じカプセルに乗るのが、4人程度です。ロケットが爆発したら一緒に死ぬので、4人は本当に一心同体ですよね。

森保一監督

話を聞いていて私が思ったのは、「バトンを渡されて次世代につなげていくのだ」ということです。自分たちは常にいまの結果を求めながらも、次の世代にバトンタッチしていけるようにと考えてやってきています。

私も2018年のワールドカップロシア大会に、当時の西野朗監督にコーチとして連れて行ってもらい、世界の舞台をスタッフとして見させてもらいました。そして「お前が監督をやれ」とバトンタッチをしてもらって、ロシア大会以降、監督として仕事をさせてもらっています。私自身も、監督としていまの勝利と発展を考えながらも、自分が監督を退任したときに、次の人に何らかの形で生きて行くようにしたいなということをすごく思っています。

野口聡一さん

なるほどね。

前回ロシア大会 決勝トーナメント初戦のベルギー戦で感じた悔しさ

前回2018年のロシア大会では、直前に就任した西野朗監督がチームを率い、1次リーグを突破。決勝トーナメント1回戦で強豪のベルギーと対戦しましたが、逆転負けを喫し、初のベスト8進出を逃しました。現在の監督の森保一さんは、日本代表のコーチとして、現地で選手たちと一緒に戦っていました。

野口聡一さん

前回2018年のロシア大会の時、ロシアで訓練をしていました。残念ながら日本戦ではありませんが、会場に足を運んで試合を観戦しました。前回大会では予選リーグでコロンビアに勝ちましたし、決勝トーナメント1回戦で日本はベルギー相手にすごい試合をしましたよね。

2018年ロシア大会 決勝トーナメント1回戦で強豪のベルギーと対戦。一時、2点をリードするも、逆転負けを喫し、初のベスト8進出を逃した。
野口聡一さん

あの世界まで行くと、本当に紙一重なんだなと感じました。私のように単に横から見ていても。ベスト16、ベスト8までいくと、本当のタッチの差で変わってくるという。

最後の最後で誰が抜けるかは、もしかしたら運かもしれないし、ほんのちょっとのサッカーの女神のいたずらかもしれないですけど、そこに足を踏み入れるというのは、やっぱり大事ですよね。ベスト16まではこれまで何回か踏み入れているわけで、そこまでいけば本当に何が起こるか分からない。見ていてそういう感覚にさせてもらえるのは、本当に幸せです。

森保一監督

ベルギー戦、もう少しで勝てたのにと思います。「本当に勝ちたいと思えば思うほど、また世界の強さを知る」みたいな感じの悔しさはすごくありますね。手を伸ばせば伸ばすほど、相手も逃げていくみたいなところをどうやって追い越していけるのかっていう気持ちを経験させてもらったベルギー戦でした。

野口聡一さん

かつて、日本はワールドカップに出ることが、まさに手を伸ばしても伸ばしても、届かないところだったわけですよね。個々の選手の力が伸びている中で、これまで届かない届かないと思っているうちに、実はそのレベルを結構超えていて、あっという間にパッとそのレベルを超えて進んでいくっていう瞬間がきっとあるんじゃないかなと思っています。

森保一監督

そう思っています。そう思いたいっていうところがありますね。

結果はどうなるかわからないですが、しっかりとした積み上げができていれば、どこかのタイミングで「ポンッ」って、いままでの自分たちを超えられるタイミングが訪れるのかなというふうに思っています。

チームで思いをひとつにする

前回のロシア大会のあと日本代表監督に就任した森保一監督。最終予選で窮地に立たされながらも、道を切り開いたのは、就任から徹底してきたことでした。

森保一監督

選手のいいパフォーマンスを引き出すためには、選手にただ、ああしろこうしろと言うんじゃなくて、まずはスタッフの間でどれだけ意思統一、意思共有ができるかというのがすごく大事だと思っています。

野口聡一さん

多分そこがキーだと思います。

森保一監督

選手は普段、監督の私より、コーチングスタッフとチームスタッフとコミュニケーションをとることがすごく多いです。なので、スタッフの誰が選手とコミュニケーションをとっても、選手に対して伝わることが同じスタンスであるというのはすごく大切かなって思っています。

ピッチの戦術的なことであったり、ピッチの外のいろいろな立ち振る舞いや姿勢だったりといった考えは、まずスタッフ同士で話をして共有して、スタッフ間で意思統一するということをすごく大切にしています。

野口聡一さん

スタッフのベクトルを合わせる能力は大切ですよね。宇宙飛行でも、地上・宇宙のクルー、それから予算を持っている本社の人たちも含めて、みんなのベクトルが合っていないと、違う指示を受けたときの足並みの乱れ方が半端ないです。

なのでやっぱり、コーチングスタッフですよね。コーチングスタッフの誰もが同じ方向を向いて、同じことを選手にちゃんと伝えていく。監督がもちろんしっかりしているから、そのうえで、統一したベクトルが自然にキャプテンを通して選手にちゃんと伝わっていく。

統一したベクトルのいわゆるトリックリングダウン。アメリカ人が好きな言い方ですが、上から下に落ちていくっていうのは、企業もみんなそれをやろうとして全然上手くいってないんです。唯一できているのは森保ジャパンだけですよ。

2021年10月のアジア最終予選第4戦 オーストラリア戦での森保一監督(1番左)とスタッフ
森保一監督

今回の大会に向けたアジア最終予選の序盤、1勝2敗でつまづいていました。つまづいたけれど、ころんだとは思っていませんでした。

チームが窮地に立たされて苦しい局面になった時、本来であれば、監督である私がいろんな引き出しを持っていて、俺について来ればみんな大丈夫だっていうことを言えなければいけないと思うんです。でも、私が実はやったことは違いました。コーチの皆さんに、攻撃・守備担当、セットプレーの攻撃・守備担当、ゴールキーパー担当など、それぞれの担当の立場からチームを勝たせることを提案してくださいっていうことを言いました。もちろんいままでやってきたことがベースにありますが、それぞれのコーチに託して、そこから結果が良くなりました。

できるコーチがいて、そのコーチが選手に向けて、それぞれの立場でミーティングをする、プレゼンテーションをする。トレーニングでも、それぞれの立場からトレーニングを構築して、選手に伝える。各コーチがスペシャリストとして、選手のなかに同じイメージを作り上げてくれたことで、チームが再び同じ方向に向かうことができました。

野口聡一さん

足並みが揃っているからこそ、不測の事態が起きたときに、修正のレスポンスが早くなるっていうのはあると思います。もちろんいろんな性格を持っている人の足並みを揃えるのが大事ではありますが、少なくとも向いている方向をあわせておかないと、修正をかけるのもかけにくいっていう。だからそういう意味では、本当に素晴らしいと思います。

森保一監督×野口聡一さん対談 後編「森保一監督がメンバー選考で重視したこと」はこちら