発掘ニュース

No.286

2021.01.29

ドラマ

井上ひさしさん『ブンとフン』ラジオミュージカル放送!

毎月最終土曜日にお楽しみいただいている『発掘!ラジオアーカイブス』。今月は小説家の井上ひさしさんが書き下ろしたラジオドラマ『マンガミュージカル ブンとフン』です!!
1969年(昭和44年)1月2日、『新春子ども劇場』という番組内で放送されました。

文庫本でお読みになった方もいらっしゃるかもしれませんが、実は、井上ひさしさんがNHKラジオのために書き下ろし、のちに書籍化。なんと!井上ひさしさんが小説家デビューする初作品が、この「ブンとフン」なんです!

今年元旦に放送した特別番組『あけまして!発掘!ラジオアーカイブス』で少しだけご紹介したところ「是非全編放送して欲しい!」という声をたくさんお寄せいただき、たっぷりとこのドラマをお楽しみいただくことになりました。

出演者&ストーリーはというと…

熊倉一雄さん演じる小説家のフン先生が、四次元の大泥棒・ブンを小説に書いたところ、ブンが現実世界に飛び出し、いたずらをして世界を大混乱させる…というユーモアたっぷりのミュージカル風ラジオドラマです。この四次元の大泥棒・ブンを30歳代の黒柳徹子さんが演じています!

井上ひさしさんと言えば、大人気となった『ひょっこりひょうたん島』『ネコジャラ市の11人』など人形劇を手掛けたことは皆さんご存知の通り!

また一昨年11月に放送した『発掘!ラジオアーカイブス』では、井上さんの代表作の一つ『吉里吉里人』の原点ともなったラジオドラマ「ツキアイきれない」をご紹介。NHKのテレビとラジオは、井上ひさしさんと切っても切れない深い縁があるのです!

ユニークな作品の数々を世に送り出した井上ひさしさんいったいそのルーツとは??
1979年に放送した『若い広場~マイ・ブック』では井上さんが、影響を受けた“3冊の本”についてインタビュー形式で語っています。聞き手の斉藤とも子さんからの発掘です。

★宮沢賢治「どんぐりと山猫」

斉藤さん「この本を読んでみて、童話みたいな感じでいろんな動物が話したり、木が話したり、会話が多くて、すごくきれいな感じで楽しかったです。」
井上さん「僕は山形で生まれまして、山がたくさんあるんです。例えば風の時は山が怖いような感じで鳴ったり、秋はとっても綺麗だったりする。子供の気持ちにも怖いとか綺麗だとかあるんですが、それをどういう風に人に話したらいいかというのは分からない。たまたま子供の頃そんなことを考えていた時に偶然これを読んだわけです。」

「非常に感激したのは、自分たちが名前を付けられなかった怖さとか綺麗さを、この童話がキチっと言葉にしているんです。例えばとても怖いと思っている先生がいて、誰かがあだ名をつけるでしょ。子供のころ頭の髪が短いヒゲを生やした先生がいて、誰かが“たわし”ってあだ名を付けた。するともう怖くなくなっちゃうんです。言葉で名前が付けられないものは人間はとっても怖いんですが、名前を付け終わると怖くなくなっちゃうんです。それと同じように山とか林とか森というのはとても怖かったんですが、宮沢賢治の本を読んで、いろんな言葉で山を正確に言葉にしてあるわけです。それを読んだ途端に自分たちが住んでいる山が分かってきたし、怖くなくなった。」

「『どんぐりと山猫』という作品は、あんなに短い間にパチパチとかゴーゴーとかガヤガヤとかたくさん出てきます。“擬声音”という、言葉として単純な幼稚な使い方で、小説にそんな言葉は使ってはいけないというのが小説作法にあるわけです。擬声音をたくさん使うと小説が安っぽくなる、だから使っちゃいけないって。『どんぐりと山猫』を読むと、作法はどうでもいいじゃないか。自分の気に入った言葉で作法を意識して硬くならずに、自分の好きなように書けばいいじゃないかという楽観的な自信が湧いてくるんです。」

★ディケンズ「デイヴィッド・コパ―フィールド」

斉藤さん「この本はとっても長い本なんですよね。まだ私は読み始めたばかりなんですが、井上さんはお幾つぐらいの時に読まれたんですか?」
井上さん「高校1年生の夏休みですね。高校の図書館に文学全集がありまして、その中の一冊を抜いたらこれだったんです。最初はちょっと変な題名なんで読んでみたんですが、本を読んで泣いたというのはこの本が最初です。というのは、非常に自分と環境が似ているような気がしたんです。小説の一番大きな力というのは、全然似てない人でも読んでいる時に、つい中の主人公や脇役に自分が良く似ているんじゃないかと思わせるところです。映画だと顔が出てきて三浦友和さんと似たいと思っても似れないわけです(笑)」

「ハラハラドキドキしながら、悲しいことがあると泣いてみたり、主人公の運が開けてくるとホッとしたり、そういう単純な面白さをたくさん持った小説です…。実を言いますと僕はこの本を読んだ時に、こんなに人に大きな影響を与えるものが小説だとすれば、一生に一度でいいからこういうのを書いてみたいと思ったんです。」

「作家志望というのは、この本を読んだあたりからですね。今でも子供が夏休みになると必ず、その本を取り出してきて読むんです。この本はコパーフィールドが30歳くらいで終わります。もう僕はその年を過ぎていますが、感動していた時代が懐かしくなっていつ読んでも面白い小説です。」

★唐来参和「莫切自根金生木(きるなのねからかねのなるき)」

斉藤さん「すごく面白い作者の名前で面白い本なんですが、この題名は上から読んでも下から読んでも同じなんですね。」
井上さん「作者がいたずらしているわけですね。私が大学一年の時、故郷に帰って図書館で、古い本しか予算が無くて置いていなくて、その中の一冊を偶然取り出して読んだ中にこれがあったんです。“黄表紙”といって今の劇画のような本でバカな話をたくさん載せたシリーズの一冊です。」

「お金があってしょうがないという商店の旦那さんと奥さんの話で、なんとか金を早く無くしてしまおうと苦労します。その中の一つに、泥棒に盗られてしまおうというのがあって、家や蔵を開けっ放しにして留守にして泥棒達が集まって大騒ぎになるんですが、夜が明けてしまうんです。ニワトリが鳴くと江戸時代の泥棒というのは逃げることになっていて、あわててみんな逃げだして、その前に盗んできたものも置いて行ってしまう。それでまた金が増えるというお話。」

「当時私は、志望する大学に行けなかった、そのことがものすごい劣等感なわけです。東京へ来て見ると自分の行きたかった学校の学生が歩いているでしょ。すると駅なんかでぶつかると、本当に俺はダメな人間だと思うわけですよ。
でもその本を読んだ時から、いいじゃないかと。逆に見ればいいんじゃないかと気が付いたわけです。この逆に見ればいいんじゃないかというのは、ずーっと、それ以来、僕の一番大事な処世訓です。」

「この作者の正体というのは、あまりはっきりと分かっていないんです…江戸時代のよく分からない人が書いたものが“活字”になって今も残ってね、何代か後のヘンな男の励ましになってるわけです。そういう意味で僕は、ものを書くっていう仕事が好きになったのもそういうことなんですね。

その人の名前は消えても、面白いものや良いものを書けば、それがやがて後世にひょこっと読まれる。そして、ある人間の力になる…そういう意味でも、非常に印象が強いんです、この作品は。」

いかがでしたか?井上ひさしさんの作品のルーツにもなっている“3冊の本”。今回のラジオドラマを聴く前、そして聴いた後に読んでも楽しめますよ!

さあそれでは!
井上ひさしさんが書き下ろしたNHKラジオドラマ『マンガミュージカル ブンとフン』
明日1月30日(土)午後1時5分からの放送を是非お聴きください!
もしラジオの放送を聴き逃してしまったという方や、もう一度聞きたいという方は「らじる★らじる」聴き逃しサービスでお楽しみください!

「発掘!ラジオアーカイブス」
『マンガミュージカル ブンとフン』
今回の聴き逃しサービスは放送終了後、2月6日(土)午後1時55分頃までお聴きいただけます。

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