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テレビ?ラジオ?自治会独自の放送って何?

  • 2022年05月24日

五戸町の小原修蔵さんから、こんな投稿が寄せられました。

この投稿を初めて読んだとき、自治会独自の放送とはどんなものだろうと、疑問に思いました。放送というからにはテレビやラジオなのか、でも自治会独自にそんな放送ができるのだろうか?さまざまな疑問が湧き上がりました。その疑問を解消するために五戸町に向かいました。

放送拠点は地域の商店

小原修蔵さんが住む五戸町の倉石又重太田地区は、町の中心部から10キロほど離れた山あいの地域にあります。およそ30世帯が暮らす、のどかな地域です。

小原さんは地域にただ1つだけある商店を営んでいました。実は、自治会独自の放送は、小原さんの商店から出されているというのです。

商店の奥に設置されている放送の設備を見せてもらうと、マイクがただ1つだけある簡易的なものでした。小原さんの説明によると、放送とはいっても、テレビやラジオではなく、主に自治会のお知らせや緊急時の連絡などに使われているということでした。

放送は前回の東京オリンピックの2年後、昭和41年から始まり、60年近くにわたって、小原さんの商店から地区の各世帯に放送を伝えてきたということです。

放送内容は自治会のお知らせが中心

小原さんの商店と、地区内の各世帯は電線で結ばれていて、放送は各世帯に設置されたスピーカーから伝わる仕組みです。

地区の各世帯に向かって、マイクを通して語りかけるのは小原さんの妻の瑞子さんです。取材した日は、集会の日時と、そのとき集める集金の額が伝えられました。

放送内容
今月の定例会についてお知らせいたします。今月は20日、夜6時30分から集会を行いますので時間になったら集まってください。そのときに自治会の会費前期分として7000円集金になります。


放送は地区内のすべての世帯に伝わり、家の中にいれば、どこにいても伝わるということです。取材させていただいた家庭では、孫を抱いた高齢のご夫婦が放送に耳を傾けていて、この放送が地区に住む人たちの日常の一部に溶け込んでいると感じました。

小原修蔵さん
一度放送をすれば、瞬時に地区の皆さんの耳に届くので、携帯電話やスマートフォンよりもはるかに便利です。

自治会では一般に回覧板を通じて、自治会のお知らせを伝えることが多いと思いますが、小原さんの自治会では、この放送が回覧板の代わりになっていて、高齢化が進んだ山あいの地域で負担の軽減にもつながっているということです。

放送が始まったのは意外な理由から

では、なぜ、この放送が始まったのでしょうか?携帯電話やスマートフォンに慣れ親しんだ私からは想像できない理由からでした。

放送が始まる以前のこの地区の様子を知る中田潔さんが、当時の事情を話してくれました。

中田潔さん
当時は電話がある家庭は、この地区に1件しかなかった。緊急の電話がかかってきても、電話のある家庭が呼び出しに行かなければいけなかった。

実は地区で唯一、電話があったのが小原さんの商店でした。そして、伝令役を担っていたのが、当時小学生だった小原さんでした。

小原さんは電話がかかるたびに、地区内の家に走って向かいました。一番遠い家は200メートル離れていたということです。

小原修蔵さん
当時は街灯すらついておらず、暗い夜道を電灯をかざしながら呼び出しに行ったことを覚えています。

その手間をなくすために始まったのが、この放送でした。当時の契約書によると、放送設備の価格は当時で13万円。自治会で積み立てたお金で購入したということです。その後は、小原さんが呼び出しに行くこともなくなりました。

役割を変えた放送

当初は地区内の家に電話がかかってきたことを知らせるのが役割だった放送でしたが、各世帯に電話が普及しても、放送が途絶えることはありませんでした。地域のつながりを維持するという、新たな役割を担うようになったからです。

今、放送は集会の日時の案内や自治会で行う作業への協力の呼びかけなどに使われています。

放送内容
日曜日朝8時から砂利敷き作業を行いますので、太田寛さんの元のポンプ場のところに集まってください。

月に1回行う集会では1週間前と前日の2回放送を行い、日時を知らせることで、欠席する人はほとんどいないということです。

放送で地域のつながり いつまでも

放送によって地域のつながりを維持してきた、この地区も過疎化や高齢化の問題に直面しています。最も多かったときは地区内におよそ50あった世帯数は30にまで減りました。地区を歩くと、空き家が目立つようになっています。

小原さんは山あいの地域で暮らし続けるには住民どうしの助け合いは欠かせないと考えていて、放送を続けることによって、自治会の活動を続けていきたいと考えています。

小原修蔵さん
集落では毎月のように必ず顔を合わせるような作業や行事があります。それを連絡漏れなく伝えられるということが、この集落の絆を強くしていると思います。時代は変わりましたが、放送は今でも欠かせないと思っています。

つながり維持する手段はそれぞれ

インターネットやスマートフォンが当たり前の日常となった時代に育った私の感覚では、小原さんが取材に対して「放送が携帯電話やスマートフォンよりも便利だ」と答えていたことが、最初は理解できませんでした。

その理由について、小原さんは高齢化が進み、スマホを使いこなせる人が少ないことや、互いに生活のリズムを把握していて、何時に放送すれば、伝わりやすいということまで分かっていると説明してくれました。

私は、つながりを維持する手段は地域の事情に合わせて、さまざまなかたちがあってもいいのではないかと考えるようになりました。

東日本大震災などの大災害では、住民どうしの助け合いの大切さが広く認識されています。小原さんの自治会では、放送を通じて日頃から地域の結びつきを強め、いざというときに備えほしいと思いました。

  • 髙橋昂平

    記者

    髙橋昂平

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