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わら焼き なぜなくならないの?

  • 2021年11月12日

質問を寄せてくれたのは、つがる市のペンネーム、ゴンさんです。
わら焼きというのは、稲刈りが終わった後に出る稲わらを燃やすことです。

私の実家のある岐阜県でも、子どもの頃、よくわら焼きを目にしましたが、稲刈りのあとの風物詩のように思っていました。
青森県に転勤してきて、わら焼きによって、さまざまな弊害が出ていることを知りました。

コメの作付面積の1%にまで減少も…

県内の稲わらの焼却面積は、統計を取り始めた1975年にはおよそ2万ヘクタールで、コメの作付面積の25%、4分の1でわら焼きが行われていました。それが年々減り続け、2020年には550ヘクタールあまり、コメの作付面積の1%にまで減っています。ただ、ここ10年ほどは、下げ止まった状態が続いていて、1%を切ることができません。

岩木山がかすむほどの煙の量

県内の稲わらの焼却面積の7割を占めるのが、五所川原市やつがる市などの西北地域です。ことし9月29日に五所川原市の金木地区で、わら焼きが行われていないか見回る県のパトロールに同行しました。ちょうど、この時期は稲刈りのピークの時期にあたっていました。県の担当者は、わら焼きをせず、稲わらを土にすき込んで肥料にするか、回収して有効に活用するよう呼びかけました。

パトロールの途中に出会った稲刈り中の農家に、このあと稲わらをどうする予定か尋ねると、多くは土にすき込んで肥料にすると答えていました。

いっぽうで、わら焼きが行われ、煙が上がっている田んぼも多く見られました。この地域のシンボルでもある岩木山が煙でかすんで見えなくなるほどでした。わら焼きをしていた高齢の男性に、わら焼きをする理由を聞くことができました。

わら焼きをしていた高齢の男性
稲わらを土にすき込むにも回収するにも機械が必要で手間がかかる。わら焼きがいちばん手っ取り早い。

わら焼きの影響は?

行政にはさまざまな苦情が寄せられています。

稲わらを放置すると悪影響も

取材の過程で、わら焼きをせず、稲わらをそのままにしておくことはできないのか?という疑問も湧きました。

同じ田んぼで、翌年もコメ作りを行う場合、春には田んぼの土を耕さなければなりません。その際、稲わらも土と一緒にすき込んでしまうことになります。ただ、春に稲わらを土にすき込むと、田んぼに水をはった際、分解されなかった稲わらが水面に浮かんで田植えの邪魔になったり、硫化水素やメタンガスが発生して、稲の生育にも悪影響を及ぼしたりする可能性があるということです。


このため、稲わらは稲刈りを終えた後、すぐに土にすき込むか、回収することが推奨されていますが、どちらも手間がかかります。

そのいっぽうで、いちばん手間がかからないのが、稲わらを燃やすだけで済む、わら焼きなのです。

行政は取り締まれないのか?

新型コロナウイルスの影響で、米価が下落しているため、少しでも経費を抑えたいというコメ農家の心情も理解することはできますが、行政は取り締まることはできないのでしょうか?

廃棄物処理法では、屋外で廃棄物を焼却する野焼きなどの行為は原則として禁止されています。しかし、農業を営むためにやむをえない理由での廃棄物の焼却は例外とされ、わら焼きは禁止されていません。

県は2010年に条例を制定し、「稲わらを焼却せず、有効利用に努めなければならない」としているものの、禁止はされておらず、罰則はありません。

稲わら収集の現場は?

わら焼きを防止するため、県が今力を入れているのが、稲わらを収集し、家畜の餌などとして販売することです。

五所川原市のコメ農家、吉田郁世さんは100ヘクタールの田んぼで稲わら収集を請け負っています。吉田さんはロールベーラーと呼ばれる大型機械を使って、稲わらの収集を行っています。この大型機械はトラクターに引かれて、田んぼを移動し、短時間で稲わらを収集して、1個の重さがおよそ200キロの稲わらロールを作ります。

吉田さんは、この地域で稲わらの収集を請け負って、7~8年になるということですが、さまざまな課題を感じているということです。

稲わら収集を行うコメ農家 吉田郁世さん
肌で感じるのは個々がいくら頑張っても限界がありますので、行政と手を組みながら、情報を共有・交換しながら、課題を一つ一つ、解決していくしかないのではないかと思います。

課題は3つあります。

吉田さんが使っている大型機械は、短時間で稲わらを収集することができ、非常に便利ですが、1台がおよそ1000万円と非常に高額で、稲わらを収集したいという人のネックになっています。また、稲わらロールは雨にぬれると、家畜の餌としての品質が落ちてしまうため、屋根のついた倉庫などの保管場所が必要です。さらに1個200キロになる輸送手段の確保も必要です。

稲わら回収の担い手を増やす取り組み

こうした中、五所川原市は稲わら回収の機械を購入し、希望する人に貸し出すことで、課題の1つの回収の担い手を増やそうという取り組みを始めました。

市では1台およそ100万円の機械を3台購入し、この秋から希望者3人に貸し出しています。今年度はモデル地区として大型商業施設が立地する唐笠柳地区の田んぼ、およそ30ヘクタールで稲わらの回収を行うことにしています。

市内で小玉スイカを栽培する農家の阿部信幸さんは希望者の1人です。阿部さんは回収した稲わらを自分の畑で、土の上に敷く敷き材として利用するほか、余った分は市を通じて、家庭菜園用などとして販売することにしています。

小玉スイカ農家 阿部信幸さん
私が小さい頃から、この辺りでは煙が非常に多かった。私の孫も小学生で、この近辺に住んでいる。わら焼きを少しでも減らしたい、いくらかでも役に立ちたいと思って稲わらを回収している。

五所川原市によりますと、11月のはじめの時点で、目標の30ヘクタールのうち、半分で稲わらの回収を終え、1つ重さ15キロの稲わらロールにして、4500個分を回収したということです。今のところ、この地域で、わら焼きは全く行われていないということです。市では回収した稲わらの需要の開拓も進めることにしていて、これまでに1個400円で100個を販売しました。

五所川原市農林水産課 中村信仁 係長
ことしは唐笠柳地区をモデル地区として、このモデルがほかの地域に広がっていけばいいと考えています。わら焼きを減らすには時間はかかると思うが、いいモデルを農家や地域に見せていくことができれば、いい波及効果が生まれて、広がっていくことを期待したい。

息の長い取り組みを

わら焼きはピーク時に比べれば、大幅に減ったと見ることができるかもしれませんが、質問を寄せてくださった、つがる市のゴンさんのように、わら焼きの煙によって苦しんでいる人がたくさんいることを考えれば、わら焼きを減らす取り組みをさらに進める必要があると思います。

さらに現在、国連が定めた持続可能な開発目標=SDGsを達成するため、農業分野でも地球温暖化対策の一環として、二酸化炭素の排出量を減らそうという動きも進んでいます。

わら焼きの問題を解決するうえで、最も難しいのは9月から10月というわずか2か月の間に稲刈りが集中し、稲わらが大量に発生することです。このため、土にすき込んだり、回収したりする作業が追いつかないのです。わら焼きをなくすには息の長い取り組みが必要で、五所川原市の取り組みには今後も注目したいと思います。

※五所川原市では稲わらの販売を行っています。稲わらが欲しいという人は農林水産課まで連絡してください。

問い合わせ先
五所川原市役所 0173-35-2111(代表)

  • 梅本一成

    記者

    梅本一成

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