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雪の津波避難 子どもと試しにやってみた

  • 2024年02月20日

元日に発生した能登半島地震。
改めて災害はいつどこで起きるか分からないということを改めて認識するきっかけになった。
青森県の将来の地震や津波の想定を見ると例外ではない。
例えば、「日本海溝」で巨大地震が起きた場合、太平洋側だけでなく、陸奥湾に面した青森市でも津波は到達すると想定されている。
到達までの時間は、市内の中心部でおよそ90分。最悪の場合は青森市では県内で最も多い2万1000人が死亡するおそれがあると想定されている。
最も被害が拡大すると想定されているのは、冬の夕方だ。
雪によって津波からの避難速度が低下するためだ。
積雪がある中で津波から避難が必要となった場合、どのぐらいの時間がかかるのか。2歳になる息子と避難を試してみることにした。

積雪「40センチ」と「なし」を比較

雪道が避難にどう影響するのか。
去年12月上旬に実際に青森市内を歩いて試してみた。
青森市内で40センチほどの積雪があった日と、その後、雪が溶けて全く雪がない日の2日間を比較した。

避難ルートは津波の浸水想定区域の中にあるNHK青森放送局から直線距離で1キロほど離れ、青森市の緊急の避難場所にも指定されている「青い森セントラルパーク」を目指すというもの。
途中、自宅に立ち寄り、2歳の息子を連れて目的地に向かった。

ふだんは平坦な道路も、積雪のある状態では、この画像のようにひざ下まで雪があり、足が取られてしまう。

場所によっては雪が踏み固められているため、滑りやすくなっている。
地元の人が「馬の背のようだ」とも表現する歩道は歩きにくく転ばないように慎重に進んでいく。
歩くスピードをあげることは難しいと改めて実感した。

子連れだと難易度↑

ここからは、子どもを連れた場合の避難の時間も検証するため、自宅にいる2歳の子どもを連れて、避難場所を目指すことにする。
自宅まででも雪がない状態の倍ぐらい時間がかかったが、さらに子どもを連れた場合はどうなるのだろうか。

気温の低い冬の場合は、防寒対策も欠かせない。
子どもであればなおさらだ。
長時間屋外や暖房のない環境で過ごす可能性もある。
息子は、いわゆる「イヤイヤ期」のまっただ中。
靴下をはかせる際に、「いやー」と言い出した。
なんとか私なりに説明を尽くして、靴下をはかせて家を出た。

寒さ対策だけを考えれば、自家用車での避難を選びたくなるが、青森市の津波避難計画では津波からの避難は原則徒歩とされている。
渋滞などが発生して逃げ切れなくなるおそれもあるためだ。
今シーズンは、雪が記録的に少ない状態だが、過去の大雪の際、通勤時間帯に青森市中心部の渋滞に巻き込まれた経験がある人も少なくないのではないか。あくまで今回は、徒歩で避難場所にかかる時間を検証することにする。

13キロの息子を抱えて・・

子どもを連れた場合の積雪時の避難。
大変であることは想像していたものの、その難しさを今回、身をもって体験できた。

散歩が好きな息子は、今回の避難もちょっとした散歩のように捉えていたのか、上機嫌に出発してくれた。
しかし、歩く内に、ペースがどんどん落ちる。
雪に興味津々の息子は、雪で遊ぼうとしてなかなか進まない。

もっとも、雪道の歩きにくさもペースが上がらない要因になった。
雪がない日は小走りで走っていた息子も、ブーツを覆うほどの積雪状態では、歩きづらそうにしていた。
さらに子どもでは膝上まで雪が積もった場所や滑りやすい路面もあり、結局子どもを抱えて歩く場面が増えていった。

息子の体重は13キロ。
気がつくと、汗が止まらない。「暑い、暑い」と無意識に言葉を出しながら、汗を拭いながら進んでいく。

目的地の青い森セントラルパークに到着した私と息子。
かかった時間は51分34秒。

自分の想像を遥かに上回り、予想外に時間がかかっていた。
雪がないときは、全く同じ道、同じルートで22分5秒。
雪がある場合は、その倍以上の時間がかかってしまったことになる。

緊急の避難場所の公園も雪で覆われていて中に入ることはできない。
現在は、トイレなどしか風雪をしのげる場所がなく、長時間とどまることは難しいと感じた。
実際、汗でぬれた体に吹き付ける風が寒く体温がどんどん奪われていくと感じた。

「第2・第3の避難場所事前に決めよう」

今回の雪道の避難をふまえ、どう備えればいいのか、災害時の避難行動に詳しい東北大学の佐藤翔輔准教授に話を聞いた。

「冬期というのは積雪や凍結の関係で平時のときに決めていた避難場所まで到達できない可能性がままあるんですね。本当は十分に安全な場所、ここまでいきたいというのがあるかもしれませんが、間に合わないという状況が冬期には考えられますので、(命が助かる)第2・第3の避難場所というのを事前に決めていただくことが大事になってきます」

その上で、青森県でも油断をせずに、防災意識を高めることが必要だと指摘している。

「これまでの災害で地震や津波になかなか来ないじゃないかなと思われた場所が被災しているという実態もあります。阪神・淡路大震災もそうですし、今回の能登半島地震も比較的リスクは高くなかったというのが事前情報だということになります。そういった意味で私たちが今いる場所というのは いつどこで何が起きてもおかしくない状況だという意識やギアを1つ上げてもらい、ふだんの生活を行っていただきたい」

災害弱者はより早い避難を

今回の体験を通じて、乳幼児だけでなく、高齢や妊娠中、障害があるなどのいわゆる「災害弱者」の人たちや一緒に避難する家族は通常よりも避難に時間がかかるということを学んだ。

「日本海溝」で巨大地震が起きた場合、青森県の太平洋側ではおよそ20分から40分程度で津波が到達し、陸奥湾に面した青森市の場合は、およそ90分で到達すると想定されている。

こうした人たちにとっての青森市の90分というリードタイムについて、東北大学の佐藤准教授は、

「決して平等な時間ではなく、健常で若い方であれば、非常に余裕のある時間かもしれないが、障害がある人やご高齢の人にとってはその90分がぎりぎりの可能性もある」

と指摘する。

こうしたことを考えると、やはり早めに避難をすることが欠かせないだろう。
また、車の避難も青森などの都市部では特に注意が必要だ。

繰り返しになるが、青森市の津波避難計画では、そもそも車の使用は渋滞や事故などで避難を妨げるおそれがあり、避難方法は原則として徒歩となっている。
一方で、避難に時間を要する要配慮者や時間的に徒歩での避難が困難な場合は、状況に応じて車による避難もやむを得ないとされている。

また、大雨などの水害の際に避難の最後の手段の1つとなる高いビルなどへの垂直避難は有効なのだろうか。

佐藤准教授は、

「津波の威力などを考えると建物が破壊される場合もあるので、津波の場合は基本的に垂直避難は考えない方がよく、大前提は内陸・高台への水平避難を考えてもらった方がいい」

と指摘する。

「陸奥湾にも津波が来る」
能登半島地震をひと事とは思わず、津波からの避難について家族や近しい人と話して、いざというときのスムーズな避難や命を守る行動につなげてほしい。

  • 早瀬翔

    記者

    早瀬翔

    2016年入局。初任地名古屋局で警察や行政の取材を経験し、青森局へ。現在は青森県政や青森ねぶた祭などの取材を担当。

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