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日本初の世界自然遺産 白神山地30年の歩み

  • 2023年12月11日

「2023年12月11日」
白神山地が日本初の世界自然遺産に登録されてからこの日、30年を迎えました。

広大なブナの原生林が東アジア最大級の規模で広がり、国の天然記念物に指定されているクマゲラやイヌワシなど、多くの生き物が生息している白神山地。

30年目のこの機会に、改めて世界遺産登録までの道のりを振り返りたいと思います。

世界遺産 白神山地

白神山地とは、青森県と秋田県にまたがる約13万ヘクタールの山岳地帯の総称です。
このうち、人の手がほとんど入っていない中心部の約1万7000ヘクタールが世界遺産として登録されています。

世界遺産地域はさらに核心地域と緩衝地域に区分され、このうち核心地域に入れるのは青森県側のみです。それも、27ある指定ルートを利用した登山等に限り、事前に手続きをした上で入山することが可能になります。

きっかけはブナの伐採

白神山地が全国的に注目されるようになったのは1980年代。
青森県と秋田県を結ぶ青秋林道の建設に伴い、多くのブナが伐採されるようになったことがきっかけでした。

当時、県内では鰺ヶ沢町などの周辺市町村を中心にチラシ配りなど、ブナ伐採に反対する運動が行われました。
この反対運動は全国的に高まりを見せ、最終的には約1万3000通もの異議・意見書が国に提出されるほどの大きな動きとなったのです。

自然保護、そして世界遺産へ

その後、1990年には林野庁の森林生態系保護地域に、2年後の1992年には環境庁(当時)の自然環境保全地域にも指定され、ブナをはじめとする、すべての木の伐採などが法律で禁止されたのです。

こうした国内の動きもあり、白神山地は1993年12月11日、鹿児島県の「屋久島」とともに、日本初となるユネスコの世界自然遺産に登録されました。

入山者の減少が続く

世界遺産登録から30年。
しかしながら、白神山地が歩んできた道のりは、決して華々しいものではありませんでした。

約8000年前から、その姿が変わっていないとも言われる白神山地。
環境省のまとめによると、昨年度の入山者は約1万6000人でした。
これは、データが残っている平成16年度以降で見ると、ピーク時の20%未満となっています。

白神山地を代表する観光スポットの1つ「暗門の滝」がある西目屋村では、村の第3セクター「ブナの里 白神公社」が運営する宿泊施設の利用者の減少に歯止めがかからず、地域経済にも影響が出ています。
また村の担当者は、入山者が減ることに伴って、ガイドのスキルも低下するのではないかと危惧しています。

加えて2022年8月、記録的な大雨が青森県を襲いました。
これにより周辺市町村のほか、県内各地で土砂崩れによる通行止めが発生。
周辺の道路が通行止めとなったこともあり、白神山地を訪れた人は、前年から約4割減りました。

入山者のマナーの問題も

一方で、昔から地元の人が山菜採りなどで入山していたこともあり、過去には必要な手続きをせずに山に入る人の姿も見られました。

東北森林管理局計画課の松井章二課長によりますと、違法行為の防止や入山マナーの向上を目的として、東北森林管理局や環境省、それに青森県などが、主に4月から11月にかけて、10年以上前からパトロールを実施しているということです。

それでも、2008年には国有林のブナ10本以上が傷つけられる被害が発生し、地元の人は怒りをあらわに。
傷を最初に見つけた巡視員の男性は、当時のNHKのインタビューに「たいへん腹立たしい。こんなことをする人は山に入ってほしくない」と語っています。

こうした問題を受けて、同年、東北森林管理局はJR青森駅前で入山マナーを守るよう呼びかけるチラシ配りを行いました。

生態系への課題も

また、近年では生態系をめぐる問題も発生しています。

弘前大学農学生命科学部附属 白神自然環境研究センターの中村剛之センター長によりますと、かつて繁殖地も確認されていた国の天然記念物・クマゲラはここ数年、核心地域の外では姿が確認されていないといいます。

さらに2015年には、暗門の滝付近で世界遺産の登録地域では初めてとなるニホンジカの姿を確認。
翌年の2016年にはその目撃が相次ぎ、枝葉の食害や剥皮など、ブナ林の生態系への影響が懸念されることから東北森林管理局などは、わなを設置し対策へ乗り出すことを決めました。

2020年には、ミズナラなどの木が枯れる「ナラ枯れ」が白神山地で初めて確認され、被害にあった木の伐採や虫の駆除など、対策が進められています。

世界自然遺産に登録されてから30年がたった白神山地。
自然を守りつつ入山者を増やす、人と自然の共存への模索が、今も続いています。

 

  • 河野哲成

    ニュースディレクター

    河野哲成

    2014年入局。初任地は、同じく白神山地のある秋田局。
    現在4児の子育てに奮闘中。

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