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「そうすれば」は青森特有の方言?

執筆者佐藤裕太(記者)
2023年08月22日 (火)

「そうすれば」は青森特有の方言?

視聴者の皆さんから寄せられた疑問や声に答える「ナノコエ」。
今回は、おいらせ町のニックネーム・ニイモトさんから寄せられた「『そうすれば』というのは青森特有の言い回しではないか」という声にお答えします。

あっぷるワイドのスタジオにて

1年前に青森に赴任した私。コンビニのレジでお会計をする時に耳にした「『そうすれば』1080円です」という言い回しに驚きました。
この文脈だと、共通語では「そうしたら」を使う場合が多いので、東京出身の私にとっては、新鮮な言い回しに聞こえました。
ということで、今回は、接続助詞の「~ば」を使った表現に注目して、青森と東京の若者に調査して違いを探りました。

接続助詞の「~ば」を使った表現

調査のために私たちが準備した例文です。いずれも、仮定の条件のあとに、避けたい内容が続きます。空欄を埋めてもらいました。

まずは青森の皆さん。

インタビューに答える青森の若者

「廊下を走『れば』危ないよ」
「夜中に騒『げば』いけない」
「コーヒーを飲『めば』眠れなくなる」
「余計なことを話『せば』怒られる」
やはり、接続助詞の「~ば」を使った言い方をしますよね。

では、東京・渋谷のスクランブル交差点で聞いてみると、どうなのでしょうか。

東京都の渋谷のスクランブルにて、若者にインタビュー

「コーヒーを飲『むと』眠れなくなる」
「廊下を走『ったら』危ないよ」
「あす雨が降『ったら』私は行かない」
「夜中に騒『いだら』いけない」
今回聞いたのは、東京や神奈川、それに関西出身の人たちでしたが、「~ば」を使う人には出会えませんでした。

青森では「~ば」を使うことを伝えると、この反応。

渋谷にいた人たちに、青森では「~ば」を使うことを伝えたところ

「言わない」
「ちょっとなんか違和感ある」
青森での「~ば」の使い方は特徴的なようです。

今回、私たちは、まさにこの「~ば」や「~たら」などの使い分けを長年研究している専門家にたどりつきました。

國學院大学 三井はるみ教授

國學院大学の三井はるみ教授です。
三井先生がこの研究を始めたのは、40年前、まさに青森で「そうすれば」に出会ったのがきっかけでした。

三井はるみ教授
「例えば時間の約束をするときに、『じゃあ何日にお願いします』ってこちらから言うと、『そうすれば2時に来てください』って言われて。『そうすれば』って言わないなと思ったし、『~ば』の使い方が東京と違うなって気がついたんですよね。違うんだけど、どう違うかがうまく説明できなくて、何かおもしろいなと思ったのがきっかけです」

三井先生はその後、国立国語研究所で方言による表現の違いをまとめた地図の編さんに携わりました。
その1つがこちら。今回、私たちが調査に使った例文と同様に、仮定の条件のあとに避けたい内容が続く「お前が行くとその話はだめになりそうだ」。

方言文法全国地図

この「行くと」の部分をどのように表現するか、全国の方言での表現が記号で分類されて示されています。

行ったら、行くと、行けばの分布図

関東では水色で示された「行くと」が、関西では赤色で示された「行ったら」が多く使われているのがわかります。

「行けば」の分布図

一方、青森県と秋田県、それに岩手県の北部などの北東北、さらに九州南西部では、緑色で示された「行けば」が広く分布しています。一体、どういうことなのでしょうか。

三井はるみ教授
「中央部で新しい言い方が次々に生まれて、それが徐々に周囲に広がっていく。その結果、国の北と南、離れた地域では、かつて中央で使われていた古い言葉が残るという『方言周圏論』という考え方があって、これはその考え方があてはまると考えられます」

もともとは「行けば」が広く使われていた

もともとは「行けば」が広く使われていましたが、江戸時代中期にかけて関西や関東では「行くと」や「行ったら」という表現が登場して、「行けば」から置き換わっていきます。

本州の端に位置する北東北や九州南西部には、このような変化が届かず、「行けば」が残ったと考えられるのです。

一方、本州の端に位置する北東北や九州南西部には、このような変化が届かず、「行けば」が残ったと考えられるのです。その結果、青森での「~ば」は共通語に比べて広い文脈で使われているのが特徴だと、先生は指摘しています。

単に古い言い方が残っているだけではありません。
青森を含む北東北で新たに生まれた可能性ある「~ば」の使い方もあると、三井先生は指摘します。

禁止を表す文脈の「そっちへ行ってはいけない」。

それがこちら。禁止を表す文脈の「そっちへ行ってはいけない」。
先ほどの「方言文法全国地図」によれば、「そっちへ行『けば』いけない」と「~ば」を使った言い方をするのは、全国で北東北だけなのです。

三井はるみ教授
「これは本当に顕著なので、北東北でのもともと広い『~ば』の使い方を基盤にして、他の地域では言わないところにも使うようになった可能性があると思います」

私は今回の取材を通して、三井先生のこんなお話が印象に残りました。

三井はるみ教授

実は、インタビューに答えてもらった青森の若者の多くは、「共通語で『~たら』などが使われるのは知っている」と教えてくれました。それでもやはり家族や友人とのふだんの会話の中で使うから、自然に出てくるのは「~ば」を使った言い方なのだと話していました。

東京出身の私は、共通語と方言を同列に考えてしまっていましたが、共通語が「書きことば」と密接に結びついているのに対して、方言は生活に密着した「話しことば」の性格が強く、全く異なる性質のものだと気づかされました。

SNSなどの発達で共通語の影響が大きくなっているとはいえ、方言はこれからも各地の生活の中で進化を続け、その豊かさを誇り続けると感じます。

今回、三井先生はこのほかにも青森の方言にまつわるたくさんの興味深いお話をしてくださいました。今回取り上げた「~ば」のように、日本語ひいては「ことば」そのものについて深く考えるきっかけになるものがたくさん含まれていると感じます。
「ナノコエ」では、引き続き青森の方言について取材を続けていきますので、日常の何気ない「気づき」をぜひお寄せください。

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