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青森市長選挙に影響も 高騰する青森の除排雪費用
早瀬翔(記者)
2023年04月04日 (火)

青森というと、どういうイメージを持つか?
りんご?ねぶた祭?雪?どれも、青森を象徴するものだ。
ただ、私が赴任して最も驚いたのは「雪」だ。
道路上にこんもりと積まれた雪山は、大人の背丈を上回る。
除雪車が雪をよけ、ダンプカーが列をなして陸奥湾に捨てに行く青森ならではの光景。
一方で、そこにかかる費用は、青森市だけで1シーズンで60億円近く。
雪深い青森では「除雪は行政の成績表」とも言われる。
埼玉県出身の記者が雪国ならではの「成績表」を取材した。
世界一の豪雪都市
私が勤務するNHK青森放送局がある青森市は、世界でも有数の豪雪都市として知られている。
全国の都道府県庁がある自治体で唯一、全域が「特別豪雪地帯」に指定され、アメリカの気象情報の会社によると、人口10万人以上の都市では年間降雪量が世界一だという。
名古屋局から着任した3年前、11月に雪が降り始めた。
あわてて車のスタッドレスタイヤを買ったが、家の車は一晩で雪に埋まり「冷や奴」のようになった。
こうして雪が降ると、業者が大型の除雪車を使って、夜を徹して道路上の雪を押し出して除雪作業を行い、家は地震が来たのかと思うほど揺れが続く。
この写真、冬の青森の歩道でよくみられる風景だ。
気付くと、歩行者用の信号機近くの高さまで雪が積もり、「馬の背」のような道なき雪道を歩くのは、雪国 青森にとっては当たり前。
仕方なく除雪された車道を歩く人も少なくない。
除雪された雪はコンビニの角や、道路の端にどっかり積まれ、場合によっては5メートルを超える高さにまで達している。
公園にある子どもの滑り台よりも高く、埼玉県出身の私にとっては、驚きの風景だ。
こうして除雪車が寄せた雪は、列をなした大型のダンプカーに積まれていく。
ダンプカーが向かうのは海。
ホタテやマダイなど、豊富な海洋資源を育む陸奥湾が「雪捨て場」だ。
ダンプカーが連なって荷台から雪を下ろす様子は、もはや驚きを通り越して壮観だった。
雪捨て費用で・・・?
雪は放っておけば、溶けて水になる。
それは当たり前のことだが、こんこんと降り続く地域ではそうはいかない。
青森市だけでもこうした「除雪」、それにその雪を運ぶ「排雪」にかかる費用は、昨年度でおよそ60億円。
雪が比較的少なかった令和4年度も、降る時期が集中したこともあり、55億円ほどとなる見込みだ。
さらに、ここ最近、費用は上昇傾向にあるという。
ロシアのウクライナ侵攻などにより、燃料費は高騰。除雪に欠かせない「凍結防止剤」も急激に高騰しており、5年前の2倍近くまで上がっているという。昨今の人件費の上昇も追い打ちをかけている。
そのうえ、厳しい行政の財政状況の中で公共事業は減少。その影響で、冬に雪を運ぶダンプカーも減っていて、排雪時に足りない状況となり、費用は上がる一方だ。
除雪が思うように進まないことにいらだちを隠せない市民から批判の声も相次いでいるという。
ちなみに、50億円から60億円という金額がどれくらいのものなのか、ちょっと調べてみると、例えば人口7000人ほどの青森県外ヶ浜町の当初予算の規模とほぼ同じだ。毎年、人口7000人の町の予算が、陸奥湾に溶けて消えていく計算になる。
青森市は、当初予算で30億円を除排雪費用として計上するが、年度末には不足する。年度末が近くなると、青森県や県内の自治体が国に財政支援を要請するのが、毎年の恒例行事となっている。
溶けて水になるものに、それほどの金をかける必要があるのかと思われるかもしれないが実際に暮らしてみると、除排雪がなければ、数日間は物流が滞るだろうし、そもそも買い物に行くために外を出歩くことすら困難になる。
極端に言えば生きていくことさえ難しいと感じるのが、「青森市の雪」だ。
「除排雪は成績表」
青森市民にとっては、青森の夏を彩る「青森ねぶた祭」が夏の最大の関心事とすれば、除排雪が冬の一番の関心事だ。
「青森市 除雪」で調べれば「青森市 除雪 ひどい」とか「青森市 除雪 苦情」といったマイナスな言葉がサジェストに出てくる。
青森市で暮らす人に等しく影響が出る除排雪は、常にネガティブなニュアンスをともなう。
これが除排雪の「うまさ」が市長の「成績表」とも言われる理由だ。
評価の基準は、生活道路への影響をいかに抑えられるか、幹線道路など大きな道路で立ち往生が起きないかなどだ。
かつては、除排雪がまちづくりの大きな動きの一因になったことがある。
青森市では、20年ほど前、除排雪の範囲を狭めることを目的の1つとした「コンパクトシティ構想」が練られた。人口減少や少子高齢化の対策なども含め、徒歩で移動できるよう都市の中心部に住宅や商業施設、行政機関などを集積させようとしたのだ。
しかし、こうした構想の中核となっていた、駅前の再開発ビルは経営破綻に追い込まれ当時の市長が引責辞任。
事実上、「コンパクトシティ構想」は失敗に終わった。
雪を巡る都市構想がまわりまわって、市長の辞職にすらつながってしまうのだ。
「コンパクトシティ構想」で辞職した市長の後任に選ばれた現職の小野寺市長は2期目の選挙でも、公約の柱の1つとして歩道や車道脇に設置され雪の塊を流す「流雪溝」の整備をあげるなど、「除排雪」に全力をあげる姿勢を示していた。
青森市の今後の行く末は?
雪国ならではの、行政テーマである「除排雪」という名の成績表。
青森では、6月に県知事選挙があり、小野寺氏が立候補を表明。
県知事選挙と同時に、青森市長選挙も行われる見込みだ。
知事選挙で、青森市民はどういう成績表を小野寺氏に示すのか。
そして、次の市長はどんな除排雪の政策を掲げるのか。
青森は初夏の選挙でも、雪と離れることは出来ない。