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"牛のげっぷ削減が地球を救う"ってホント?
浅井遼(記者)
2022年07月14日 (木)
牛のげっぷは温暖化の要因?
エコバックの持参、再生紙の利用、電気自動車の購入、太陽光パネルの設置などなど、気候変動や地球温暖化に対応するさまざまな取り組みが家庭や職場、国家単位で行われています。
そのような中、最近注目を集めているのがメタン。
今回の取材テーマの主役です。
2021年11月にイギリスで開かれた国連の気候変動対策の会議「COP26」では、温室効果があるとされるメタンの排出削減がテーマとして掲げられました。そして、日本を含む多くの国と地域が参加する形で2030年までに少なくとも30%削減を目標とする枠組みを発足させたのです。
では、なぜ今、メタンが注目されているのか?
それは二酸化炭素の20倍以上と言われる温室効果があるからです。
まさに、メタン削減は温暖化対策のカギとなるかも知れません。
このメタン。実は、主な排出源の1つが牛などの家畜が出す「げっぷ」と言われています。こうした家畜からの排出は国内のメタン排出量の35%前後と言われています。
「牛の数を減らせば、メタンを減らせる」とする極端な意見もありますが、牛という存在は私たちに牛乳や食肉などといった形で恩恵を与えてくれています。やはり、地球にも配慮した牛など家畜との「付き合い方」が今、求められています。
気軽にメタンの測定を!
十和田市にある北里大学の鍋西久 准教授です。
ふだんは獣医学部の学生を指導しています。
実はこの鍋西准教授、発明家としての顔も持っていて、これまで二酸化炭素を簡単に測れる装置などを作ってきました。
そして、今回開発したのがメタンを測定できる「サーモニ」という測定器です。見た目は昔、友達が住んでいた団地のドアなどで見かけた呼び出しベルといった感じ…。
ゴッツい装置を想像していた私(記者=浅井)は、若干の驚きを感じながら取材を続けます。しかし、この「ゴッツくない」風貌に、「サーモニ」のすごさが濃縮しているのです。
最大の特徴はその価格。専門の研究施設にある測定器は数百万円しますが、家庭用のガス警報器からヒントを得てその10分の1以下のおよそ10万円の価格設定です。
また、小型のため牛舎に直接持ち込んで測定できる手軽さもあります。
さらにアプリと連動させ現場で測定された数値を研究室のパソコンなどでリモート確認できるようにしました。
鍋西准教授
「これまで測定器が高価でメタン削減の効果を気軽に確かめられなかった研究機関・飼料 会社など、そういったところで幅広くアイデアを出して実験ができるようになると思います。メタン削減の取り組みが加速することを期待します」。
現場で実験!!
鍋西准教授はさっそく、十和田市内の酪農家の協力を得て牛舎で実験しました。生産現場で発生するメタンの濃度をデータとして収集します。
今回の実験では、意図的にメタンの量、つまりげっぷを減らし、それを計測器がしっかりキャッチするかを確かめます。
今回、胃の中のメタンを減らすため使ったのが、カシューナッツの殻から抽出した成分が配合されたエサです。この成分が胃の中の微生物の活動を抑え、げっぷの出る量を減らすということです。
この牛のげっぷ削減の効果があるとされるエサは現在、世界各地で研究・開発が進んでいて、海藻や柿の皮などを配合したものもあります。こうしたエサ開発の背景には私たち消費者の意識の変化もあるようです。
今回の実験のためエサを提供したメーカーに話を聞きました。
エス・ディー・エス バイオテック 田森航也さん
「一般消費者の環境への配慮といったニーズの高まりを感じます。牛の生産から消費者の口に入るまでのプロセスにおいて、エサを通じて地球温暖化ガスの削減という課題に貢献していきたいです」。
一方、鍋西准教授の活動に理解を示し、いつも牛舎を提供している三浦和博さんは静かに実験を見守ります。
浅井記者「どうなると思います?」
三浦和博さん
「そればっかりは牛に聞いて見ないとね。私に聞いても分からない。牛がストレスを感じない、いい環境でお乳を出してくれればうれしいです」。
牛がエサを食べ始め実験がスタート。
鍋西准教授
「始めて数日で何かしらの傾向は、見えてくるかもしれない。期待しています」。
げっぷ削減の取り組みは続く
実験開始から3日後、私は効果の有無を確かめようと北里大学に鍋西准教授を訪ねました。鍋西准教授によると、「段階的に牛舎のメタン量が低下している」ということで、その効果を測定器はしっかり捉えていました。
明らかな効果が出るまで3週間ほどかかるとされ、引き続きデータの収集を進めることにしています鍋西准教授はこうした測定器が広く普及しエサの改良などメタン削減の取り組みを支えたいと考えています。
鍋西准教授「こういった取り組みは生産現場で簡単にすることができませんでした。ですからここが第一歩だと思います。もっと手軽にメタンガスをモニタリングできるようにして削減効果が目に見えるような形にしていきたいというのが直近のゴールになると思います」。
鍋西准教授は今後、大手乳業メーカーと協力して、北海道の大規模な牛舎でも同じ実験を行うということです。
どこでも手軽にメタンを測定できる環境が整い「地球にやさしい」牛乳や食肉を食卓に届けられるようになればと思いつつ、ひとまず取材を終えますが、引き続きメタンの削減に注目していきたいです。