NHK青森放送局ブログ
樹木が好きすぎる18歳、コロナを機に青森へ
斎藤希実子(アナウンサー)
2021年11月17日 (水)

「僕にとって青森や奥入瀬の森はワンダーランドのようです。」
そう話すのは、高校を卒業して間もない18歳の青年。
海外の大学に合格し、新生活に期待を寄せていた矢先、新型コロナの拡大で入学が1年間延期に・・・
ぽっかりと空いてしまった時間で、ひとり青森に移住。
奥入瀬の森にほれ込み、その魅力を伝えるガイドツアーを立ち上げました。
奥入瀬に若きネイチャーガイド現る
「こんなところにこういう木があったのかとか、こういうとこにこんな植物があったのかって、何回歩いても何回でも楽しめるのが奥入瀬の魅力です。」
奥入瀬の森について、前のめりで興奮気味に話すのは、三浦夕昇(ゆうひ)さん(18)。
地元兵庫県の高校を卒業した後、2021年5月、青森県十和田市に移住してきました。
現在、奥入瀬渓流で自然環境の調査をしながら、週末はネイチャーガイドを務めます。
奥入瀬の森にほれ込み、その魅力を伝えようと、移り住んですぐの6月に「樹木ガイドツアー」を立ち上げました。
静かに佇んでいるように見える樹木たち。しかし実は、あの手この手を使って試行錯誤しながら、森の中を生き抜くことに必死・・・
そんな樹木の意外な一面を、巧みな比喩を交えながら紹介していきます。
三浦さん
「ブナって、実は料理をする木なんです。」
三浦さん
「枝先とかに微妙にミネラルが付着しているんですけど、そういった物質を雨水に溶かし込んで下ろして、また根で吸うってことをしています。
雨水をただ飲むだけじゃなくて、ふりかけをかけるような感じで料理するんです!」
お客さん
「なるほど!味変!」
毎日が、樹木を好きになるきっかけ
幼いころから樹木が大好きだった三浦さん。
誕生日プレゼントは、図鑑や苗木、植物園に連れて行ってもらうなど、毎年必ず樹木に関するものでした。
三浦さん
「森を歩いて樹木に触れれば触れるほど、樹木が面白くなって、無限に面白さが増していくので、どういうきっかけで好きになるかって言われると・・・毎日としか言えないです!」
独学で勉強を続け、17歳のころからはブログの中で樹木の面白さをつづってきました。
将来の夢は、環境保全など自然に携わる仕事。
今年の夏から、オーストラリアの大学で環境学を学ぶ予定でした。
突然生まれた空白の1年
しかし、新型コロナの影響で入学が1年間延期に。
高校卒業間際の2月、突然の連絡に頭が真っ白になりました。
三浦さん
「周りはみんな大学に合格して、スーツ買いに行くんだとか聞くと、人生ゲームの1回休みがリアルにきたみたいな感じで、1年足踏みをしなくちゃいけないのかって落ち込んでいました。」
そんな三浦さんに、声をかけてくれた人がいます。
奥入瀬自然観光資源研究会の古里宣光さんです。
SNSを通じて、三浦さんのことを知った古里さん。
彼のブログを読み、奥入瀬に来ないかと誘いました。
古里さん
「(ブログを読んで)知識量もすごいと思ったけど、木だけれど人間社会になぞらえたり、引き込まれるような文章を書ける子なので、いろいろなものを勉強してきたんだなと直感的に期待値が高まりました。学んできたことをアウトプットできる場所があった方が彼の成長につながるだろうと思いました。」
今年4月、古里さんに連れられて、人生で初めて青森を訪れた三浦さん。
奥入瀬の森との運命的な出会いが待っていました。
三浦さん
「巨木で構成された、巨木の神殿のような雰囲気がとにかく感動的で。樹木好きにとってワンダーランドのような場所だなって。」
この森で1年を過ごしたいと、移住を即決。
青森での暮らし、そしてガイドツアーに挑戦する日々が始まりました。
奥入瀬の未来をつくれるような人に
6月末から始まった樹木ガイドツアー。県の感染拡大防止策による1か月の休止期間を挟み、10月末までのおよそ3か月間で、90人あまりのお客さんが参加しました。
今日も、目の前に立っている樹木ひとりひとりの生き様を、自分なりの言葉で伝えます。
三浦さん
「これ凍裂といって、冬の寒さが厳しすぎて、幹の中で根から吸い上げた水が凍ってしまって起こります。この木実は若くして亡くなってしまっていて、非常に不幸な木です。」
お客さん
「理由が分かると、キノコ生えてるってだけじゃなくなりますね。そうやって見ると木の見方が変わりますよね。」
三浦さん
「木ってただ立ってるだけじゃなくて、一人ひとりにそれぞれの人生があって、その人生をのぞき見できるのが、森を歩くことのひとつの魅力です」
お客さんとの時間を重ねるうち、自分の中からあふれ出る樹木への愛で、森を訪れる人たちに楽しんでもらえると気が付きました。
思わぬ形で始まった、青森での暮らし。
しかし、奥入瀬での経験を通して、「自然に携わる仕事がしたい」という夢への想いは、より強いものになりました。
三浦さん
「こんなに思い出深い時間ってもうないかもしれないっていうくらい、本当に充実した日々を送らせてもらっていて、青森の土地に感謝しています。将来も、なんらかの形で絶対に青森に関わっていきたいし、変わっていく奥入瀬の未来をつくっていけるような人になりたいです。」
取材後記
たくさんの人の人生に、様々な形で影響を及ぼしている未曽有のパンデミック。
取材の中で三浦さんは「人生に必要なのって、希望の進路にいくことじゃなくて、そこにいけなくても、希望通りにならなかったなりに、その中で充実した時間を過ごすことなのかなって思いました。」と話してくれました。
制約の中でも、今できることを探し続ける三浦さんの姿には、18歳とは思えない凛々しさがありました。青森での時間を自分にとって実りあるものにしている、その原動力になっているのは、どんな状況でも自分の“好き”を諦めない姿勢なのではないかと感じました。