ページの本文へ

  1. トップページ
  2. スポーツ
  3. 世界記録に挑戦! スーパー90代の"熱い"夏に密着

世界記録に挑戦! スーパー90代の"熱い"夏に密着

執筆者浅井遼(記者)
2021年10月29日 (金)

世界記録に挑戦! スーパー90代の"熱い"夏に密着

「浅井くん、ちょっとこれを取材してみないか」

 と上司に言われたのはことし(2021年)の5月。

「六ヶ所村で開かれる陸上大会なんだが、なんでも90代の4人の選手がリレーするらしいんだよ」

こう告げられたとき、私はゆっくりと走る90代を思い浮かべました。

しかし、取材で陸上競技場に足を踏み入れると、そこにいた4人は真剣な表情でリレーと向き合うアスリートの姿でした。

とても90代とは思えない鍛え抜かれた走り…。

私は一瞬で魅了され、世界記録を目指した4人の”熱い”夏を追いかけることにしました。

スーパー90代!

敦賀又四郎さん(92)工藤勇蔵さん(93)三ツ谷光造さん(90)リーダーの田中博男さん(90)

敦賀又四郎さん(92)
工藤勇蔵さん(93)
三ツ谷光造さん(90)
リーダーの田中博男さん(90)

4人は青森県内に住む90代のランナーです。

このうち田中さんは、60歳前後に老後の趣味として陸上競技を始め、それまで毎日吸っていたタバコをやめて練習に没頭しました。

そして、なんとこの世代(90歳から94歳の部)の100メートル、世界記録の保持者になりました。

この田中さんを中心にリレーでも世界を目指そうと90代のチームが結成されたのです。

青森県は平均寿命が全国で最も短くそのイメージ払拭に一役買いたいと考えています。

田中博男さん

「私たちのリレーが引き金となって(県民が)健康に改めて注意を払うという風に少しでもつながってくれれば」

 4人が全国で注目されたのはことし5月。まさに私が初めて4人を取材したときです。

4人が全国で注目されたのはことし5月。まさに私が初めて4人を取材したときです。

1人400メートルを走る1600メートルリレーの男子90歳から94歳の部で世界記録を上回るタイムで走ったのです。

一躍有名になったメンバーは青森県知事も表敬します。

一躍有名になったメンバーは青森県知事も表敬します。

この席で、新たな目標を明らかにします。

「400メートルリレー。(世界記録を)ぜひゲットしたい」

「400メートルリレー。(世界記録を)ぜひゲットしたい」

次に狙うは1人100メートルを走る400メートルリレーの世界新記録。

4人は8月末に弘前市で開かれる大会を目指して”熱い”夏を駆け抜け始めました。

元気の秘けつは?練習に密着!

私はメンバーの1人で五所川原市に住む敦賀又四郎さんの自主練習に密着させてもらいました。

とても90代とは思えない驚異的な走り。

その秘訣を探るため、私はメンバーの1人で五所川原市に住む敦賀又四郎さんの自主練習に密着させてもらいました。

時刻は朝6時半、いつもこの時間に家を出て近所の河川敷に向かうといいます。

私も同行取材するわけで、一緒にランニングすることになるのですが、三脚などの機材を持っていたこともあり、5分ほどで息が切れてしまいます。

しかし、敦賀さんは涼しい顔で岩木山を臨む夏空の中を駆けていきます。

10代の頃、海軍の工場で船の整備をしていた敦賀さん。

10代の頃、海軍の工場で船の整備をしていた敦賀さん。

当時から走るのが得意だったといいます。

海軍で開かれたマラソン大会では全国からやってきた出場者に競り勝ち、見事2位の記録に輝いたこともあったといいます。

しかし、戦争が激しくなると走る余裕もなくなりました。

戦争後は自由に走れるようになり今も走る喜びをかみしめています。

長年市民ランナーとして走ってきた敦賀さん。

今も現役のアスリートです。

そんな敦賀さんの元気の秘訣を聞いてみると・・・。

「ふだんから運動して、1日3食何でもしっかり食べることだね。納豆は大好きだから毎日食べる」

「ふだんから運動して、1日3食何でもしっかり食べることだね。納豆は大好きだから毎日食べる」

大会直前にピンチ到来

4人の走りを見てきた私は、余裕で世界新記録を狙えると思っていました。

4人の走りを見てきた私は、余裕で世界新記録を狙えると思っていました。

しかし、実はあるピンチに陥っていたのです。

メンバーの1人、三ツ谷さんが体調不良で一時入院。

退院したのは大会本番の10日前…。

しかし、大会直前の合同練習に三ツ谷さんの姿がありました。

体調は万全ではないものの、医師の了承も得た上で、出場を決意しました。

「私のプライドが許しません。仲間の人に元気な姿だけでも見せたい」

「私のプライドが許しません。仲間の人に元気な姿だけでも見せたい」

不安が残る中、レースのカギを握るバトンパスの練習を重ねます。

三ツ谷さんも練習に参加しますが、苦しそうに見えます。

しかし、リーダーの田中さんは3人で三ツ谷さんの分もカバーすれば世界記録に十分挑戦できると考えています。

「みんなの力でピンチを乗り越えようと思っています」

「みんなの力でピンチを乗り越えようと思っています」

緊張と感動の瞬間

大会当日となりました。

大会当日となりました。

直前もバトンパスの動きを念入りに確認します。

緊張の瞬間がやってきました。

緊張の瞬間がやってきました。

1走は敦賀さん。軽快に駆け出しスタートダッシュに成功。

そして、2走の工藤さんへのバトンパスもスムーズにいきました。

3走の三ツ谷さんはまだ本調子ではありませんが、1歩ずつ前へ前へ。

持ち前の責任感があふれる姿は観客たちの心を動かしたのか、会場は拍手や声援に包まれます。

そして、アンカーは100メートルを16秒台で走る田中さん。

100メートル世界記録保持者の風格を見せつけゴール。

アメリカのチームが持つ世界記録を40秒近く上回る1分43秒69。

結果は…。

アメリカのチームが持つ世界記録を40秒近く上回る1分43秒69。

見事、世界記録更新です。

最高気温が30度近くまで上がる厳しい暑さでしたが、素晴らしい走りを見せてくれました。

終わりなき旅はまだ続く!

なんと、快挙のおよそ2時間半後に、1600メートルリレーも走ったのです。

4人のレジェンド級のすごさは、これだけに止まりません。

なんと、快挙のおよそ2時間半後に、1600メートルリレーも走ったのです。

というのも、5月の1600メートルリレーはほかに出場するチームがなかったので公式記録には認定されていませんでした。

そこでこの日1600メートルリレーにも再挑戦し…、9分56秒36で完走。

これまでの世界記録を2分45秒あまり上回りました。

前人未到の記録を達成した90代アスリート。

前人未到の記録を達成した90代アスリート。

レース後に話を聞くと、4人はすでに未来を見据えていました。

「目標は100歳まで走ること」

「目標は100歳まで走ること」

「今後も切磋琢磨して走り続けたいと思います」

「今後も切磋琢磨して走り続けたいと思います」

「体調不良をしっかり完治して来年は普通の走りができるよう4人一緒に走りたいです」

「体調不良をしっかり完治して来年は普通の走りができるよう4人一緒に走りたいです」

「95歳から99歳の部に向けて、また4人でリレーにトライできるのではないか。そんな夢物語を頭の中で描いています」

「95歳から99歳の部に向けて、また4人でリレーにトライできるのではないか。そんな夢物語を頭の中で描いています」

4人の”熱い”夏は有終の美で、ひとまず幕を下ろしました。

しかし、新たな目標に向け終わりなき旅はまだ続きそうです。

取材後記

4人の取材を通じて思ったことは、ことばがとても前向きなことです。

そして、走ることに真摯に情熱を傾け日々、過ごしているということです。

平均寿命が短い、「短命県」と言われる青森ですが高齢になっても何かに熱中し健康的に暮らすこと、それが元気に長生きする秘けつなのかもしれません。

この記事に関連するタグ

おすすめの記事