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ナノコエ・医療的ケア児の支援 家族の復職は?

執筆者吉永智哉(記者)
2022年02月18日 (金)

ナノコエ・医療的ケア児の支援 家族の復職は?

視聴者の皆さんの寄せられた声に答えるナノコエ。2021年7月にこのコーナーで放送した「医療的ケア児」について、その後「医療的ケア児の子どもを受け入れてくれる保育施設が見つからず困っている家族がいる」とか「小学校に上がる場合、仕事が続けられるのか不安なことがたくさんあります」といった声を寄せていただきました。これを受けて、医療的ケア児の家族の仕事継続と深い関係がある保育施設の受け入れについて取材しました。

【1回目の記事はこちら→「ナノコエ・広がり始めた医療的ケア児の支援」

まず「医療的ケア児」についてもう一度説明しようと思います。

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医療的ケア児とは日常生活でたんの吸引など医療的ケアが欠かせない子どもたちのことで、医療の発達を背景に増えています。ケアが必要なことから保育園の入園が認められなかったり、保護者が学校に付き添うことを求められたりするケースが全国で相次いできました。こうした状況を改善するため、2021年9月には「医療的ケア児支援法」が施行されました。この法律にはさまざまな理念や目的が書き込まれていますが、1つ挙げると、子どものケアのために家族が仕事を辞めることがないよう国や自治体などに対応を求めています。

仕事を再開したいけれど…

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今回、まず取材したのは野辺地町で暮らす2歳の石山千華ちゃんの家族です。母親の美穂さんと父親の3人家族です。リンパ節に病気を抱えている千華ちゃんは、呼吸をスムーズにするため、気管を切開する手術を受けています。
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このため、たんの吸引が欠かせません。母親の美穂さんは、千華ちゃんが生まれるまで保育士として働いてきましたが、千華ちゃんの入院の付き添いや日常的に医療的なケアが必要なため、産休後の復職は断念しました。2021年の夏ごろからは千華ちゃんの体調が徐々に安定してきたことから、美穂さんは、もう一度仕事をしたいと考えています。
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〈石山千華ちゃんの母親 美穂さん〉
「私は保育士にずっとなりたいと思ってきました。だから、やっぱり働きたいという気持ちがあります。でも、青森市やほかの自治体では、医療的ケア児を受け入れている保育園は数があるんですけど野辺地町にはなかったんです。特に冬は雪道でもあるので、地元で受け入れてくれる保育施設を見つけるまでは難しいと考えていました」。

受け入れ可能な保育施設が町内にない…

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美穂さんは県が、2020年9月時点で県内の保育施設を対象に行った「医療的ケア児」を受け入れるかどうかについての調査でまとまったリストを見て保育施設を探していました。
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この調査で、条件付きも含めて「医療的ケア児」の受け入れが可能と回答した保育施設は53と県全体の1割にとどまっています。受け入れ可能とする保育施設がない自治体も野辺地町を含む23と半数以上に上っています。
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美穂さんは、隣町の七戸町で保育士として働くことができる新たな職場を見つけました。仕事を始めるめどが立ったことから、2021年の秋ごろ、リストには載っていない、地元の野辺地町の保育所に相談しました。すると保育所からは千華ちゃんの受け入れに前向きな返事をもらうことができました。ただ、野辺地町では、どの保育施設でも、これまでに「医療的ケア児」を受け入れた経験がありません。そこで、医師や看護師などからなる県のチームが千華ちゃんの受け入れなどを支援しようと乗り出しました。

“不安に対して一つ一つ解決策を提示する”

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新型コロナウイルスの感染状況が落ち着いていた2021年12月半ば、野辺地町の公民館で千華ちゃん受け入れに向けて課題を共有する会議が開かれました。会議には保育園の園長や県の支援チームの医師のほか野辺地町の担当者も出席。千華ちゃんの今の状態や受け入れにはどのような準備が必要なのか話し合われました。
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支援チームの大瀧潮医師は集まった関係者にこう話していました。

「医療的ケア児を受け入れる場合は、経験をしたことがないから漠然と不安という部分があるので、どこがどう不安ということを具体化して一つずつそれに解決策を提示していきたい」。

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受け入れを検討している保育園の園長は支援体制を充実してほしいなどと訴えました。

「どういう支援体制があるのか確認して、最終的に園のみんなでできると思ったら前向きにやるけれど、保育園の看護師を研修に派遣するなどしているが、まだまだ不安はある」。

県立中央病院などがある青森市から離れている野辺地町には、常勤の小児科医がいません。そうしたことから、保育園で千華ちゃんの体調に変化があったときはどう対応するのか、保育園の受け入れ体制をどう支援するかなどについて、さらに検討を進めていくことになりました。

美穂さんは、保育園や自治体が千華ちゃんの受け入れに向けて動き出しているとして、再び働ける日が来るのを粘り強く待つと話していました。そして、こんな期待も口にしていました。

〈石山千華ちゃんの母親 美穂さん〉
「千華を保育園に受け入れてもらって集団生活の中でほかの子とかかわる機会を作ってもらえればそれが一番うれしい。同世代の子とふれあって、本人の刺激になればいいなと思います」。

「医療的ケア児」受け入れの保育園は

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ここまでは、保育施設で「医療的ケア児」をどうやって受け入れていくかについてお伝えしました。次は「医療的ケア児」を受け入れている保育園についてお伝えしていこうと思います。取材したのは十和田市にある「ひかり保育園」です。

この保育園に通う竹中大悟くん(4)の“のど”には障害があり、食べ物や飲み物をうまく飲み込むことができません。このため、胃まで届く管を使った水分や栄養の補給が必要です。取材した日、大悟くんは登園するとほかの子どもたちと一緒に歌を歌う朝礼に参加しました。大悟くんはまだしゃべることが難しいのですが、みんなが歌う様子を微笑みながら聞いていました。そのあと、保育園の看護師が、管を通じて水分を補給していました。大悟くんのケアには看護師と、専門の研修を受けた保育士があたっています。時折、笑顔を見せる大悟くんは保育園になじんでいるように感じました。

この保育園では以前、医療的ケア児を受け入れていたことがあり、大悟くんを受け入れることにためらいはなかったといいます。
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〈ひかり保育園 上原惠園長〉
「医師から指示書をもらったり、看護師からアドバイスをもらったりすれば受け入れられないことはない。いまは子どもたちは大悟くんがいて当たり前、よく触るし、声もかけるし。できることはなんでも一緒にさせたいと思っています」。

復職できたものの「小1の壁」が迫る

保育園が大悟くんを受け入れたことで、母親の裕美子さんは元いた職場に復帰することができました。大悟くんの家は、保育園がある十和田市の隣の六戸町ですが、町内では大悟くんを受け入れてくれる保育施設は見つからなかったといいます。裕美子さんはわらをもすがる思いで、「医療的ケア児」を受け入れたことのある、この保育園に相談したということです。
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〈竹中大悟くんの母親 裕美子さん〉
「はじめはまた受け入れを断られるのかなと思っていました。でも、園長先生が“いつでも来ていいんだよ。お母さん、自分の時間ないでしょう”とすごく寄り添ってくれた。本当に感謝しています」。

 大悟くんは3人兄弟の末っ子です。裕美子さんは、小学生の長男を送り出し、別の保育園に通う次男と大悟くんを送ってから、六戸町の勤務先に向かっています。送り迎えは負担になっているといいますが、希望通りに働けていることに充実感も感じているといいます。

しかし、今後のことを考えると不安になるといいます。2年後、大悟くんが小学校に上がって、仮に付き添いや送迎などが必要になれば、仕事を続けるのが難しくなることも考えられるのです。

〈竹中大悟くんの母親 裕美子さん〉
「さまざまな方に医療的ケア児のことを知ってほしい。医療的ケア児は事例が少ないので“どこに相談していいのか”と悩んでいる親がいっぱいいる。自治体の担当者や支援してくれる人には、一緒に考えていってくれるようなそういう姿勢があったら、救われる親はたくさんいると思っています」

「医療的ケア児」の小学校への進学によって、家族が仕事を続けることが難しくなることは、「小1の壁」とも呼ばれて全国的に課題になってきました。こうした状況を改善するために制定された支援法の施行から半年。医療的ケア児の家族に寄り添った支援が求められています。

(※放送後に県は「医療的ケア児」を受け入れ可能かどうかなどを聞く、2021年9月時点の調査の結果を公表しました。条件付きも含めて受け入れ可能と回答した施設は58施設と2020年から5施設増えました。野辺地町でも今回、受け入れを検討している保育園1か所が、症状によっては受け入れ可能と回答しています)。

取材後記

半年前の放送のあと、NHKに寄せられた声をもとに、今回は「医療的ケア児」の家族の復職のカギを握る保育施設などの受け入れの状況について取材しました。「医療的ケア児を受け入れたことがない」状態から一歩進むことには時間がかかるのだと取材を通じて改めて痛感しました。一方で、自治体や受け入れ側の事情もわからないでもありません。
野辺地町の事例で、ポイントになると思ったのは「きちんとオープンにコミュニケーションとること」や「納得感」です。石山千華ちゃんの母親、美穂さんにとっては、結果的には仕事の再開時期が遅れることになりました。ただ、県の支援チームや保育園、町、それに美穂さん(千華ちゃんも同席)が一同に集まって受け入れに向けて議論する中で、美穂さんは受け入れに時間がかかるという状況に理解を示していました。「寄り添ってもらっている」と当事者が実感できる支援が広がっていくことを願ってやみません。

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