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県立高校が生き残りをかけた戦国時代に突入!?~青森県七戸町の新戦略~
浅井遼(記者)
2022年02月04日 (金)
七戸高校存続のため町が動きます
令和3年春、七戸町の小又勉町長と世間話をしている時でした。
町長の趣味であるバイクのツーリング話などで盛り上がった後、「実は県立七戸高校の中に町が運営する塾を作ろうと思っているんです。町議会の理解も得られそうで、ことしの秋に誕生させたいです」と言われました。
県立高校に地元自治体が予算を投入して作る塾、「おもしろい取り組みだ」と思った私。これが青森県内初の”公営塾”取材を始めるきっかけとなりました。
人口減少で県立高校は戦国時代に突入
青森県では少子高齢化による人口減少の影響を受け、生徒数も減っています。
これを受けて、県教育委員会は県立高校の再編に乗り出していて統合や閉校が進んでいます。
サッカーの古豪として知られている五戸高校も令和3年度で閉校が決まっているなど、伝統校が次々と姿を消しています。今後も統廃合の流れは待ったなしで進むと見られています。
このような中、小又町長をはじめ町の関係者は七戸高校存続に危機感を持ち始めます。
七戸町の人口はおよそ1万4500人。この5年間で7パーセント以上減少しています。
町に唯一ある七戸高校も生徒数が減少傾向にあり定員割れが続いています。
町は、人口の減少だけでなく進学を考える地元の中学生が町外の高校に流れていることが影響していると分析。
そこで、町長らは進学率を高めることで地元の中学生に選んでもらえる高校にしようという作戦に打って出ました。
この作戦、さらに先も見据えています。
七戸町は現在、東北新幹線の七戸十和田駅周辺の開発に力を入れています。
そこに、地元の高校が魅力的になることで、若い子育て世代が住みやすい町としてアピールし、人口増加につなげたいと考えているのです。
自身も七戸高校の卒業生である小又町長は、存続に向け重要なのは早め早めの対策だと感じ、動き出しました。
「人口が減っているけれどもせめて高校ぐらいはという思いがあります。伝統と歴史ある高校ですから。統廃合が進んだあとに、県に存続をお願いしても遅いです。先手先手で行動しないとね」
県内初の公営塾!
そして、町は令和3年10月、生徒会館の2階を借りて、公営塾を設立。
塾の名前は「柏葉塾」。
校章にある「柏の葉」に由来します。
運営費用は5年間でおよそ1億7600万円。
国の交付金なども活用しますが、半分ほどは町の負担です。
塾には、これまで他県で実績のある東京の民間業者から派遣された講師3人が常駐。
平日は午後4時半から午後9時半まで。
土曜日は午後1時から午後8時まで講義があり、生徒は希望する進学先にあわせ科目を選ぶことができます。
受講料は七戸高校の生徒であれば無料。
現在、全校生徒の6分の1にあたるおよそ50人が通っていて、今も入塾を希望する生徒は増え続けているそうです。
塾を利用する生徒に話を聞いてみました。
「学校に塾があると移動に時間がかからないので便利だと思います。親はお金のかかる塾より無料の塾のほうが助かると言っていました」
「塾に通い始めて、家での勉強時間が増えました。勉強が少しずつですけど、楽しくなってきました」
ところで高校側はこうした取り組みをどのように受け止めているのでしょうか。
実は取材を進める中で、県内のほかの高校でも公営塾を作る動きがあったことがわかりましたが、関係者の理解が得られず、話が前に進まなかったということです。
自治体や住民の理解を得られても、高校のサポートなくして公営塾を作ることはできません。
そこで、公営塾を受け入れた七戸高校の森田勝博校長にも話を聞きました。
「教職員の人材には限りがありますし資源にも限りがあるので、今の七戸町のバックアップは非常にうれしく思っています。生徒のため塾の講師や町の教育委員会と協力していきたいです」
地元中学校への高校説明会には、高校の教員、教育委員会の職員、塾の講師の3者が参加して七戸高校の魅力を伝えているということです。また、ふだんから3者が会議する機会を設けるなどし、意思疎通を大切にしているということです。
このような協力関係が公営塾の誕生、そして運営をスムーズにさせているのかも知れません。
あなたの夢を全力でかなえます!
七戸高校1年の松舘心優さん。校内の塾に通う生徒の1人です。
松舘さんの高校生活に密着しました。
その松舘さんが青春をかけるものそれは・・・。
空手です。
平日の放課後と土曜日は高校の道場で2時間汗を流します。
高校入学とともに始めたため、まだまだ稽古が足りないといいますが、顧問の先生や先輩部員の指導を受け、ハードな練習を重ねます。
部活が終わると塾へ直行。
松舘さんは週3回、通っています。
この日は数学の個別指導を受けましたが・・・。
少しお疲れのようです。
「眠い時もありますし、おなかは常にすいていますね。でも、がんばります」
文武両道で頑張る日々。
そんな松舘さんはある夢を持っています。
コロナ禍で懸命に働く医療従事者の姿をテレビで見て、自分も看護師になりたいと思うようになったのです。
「看護系の大学に進学したいと考えています。困っている人を助けたいです。そのためには自分も強くなければと思い、精神も体も鍛えてすばらしい看護師になりたいなと思っています」
空手に励むのも夢をかなえるためのようです。
順調にスタートをきった公営塾。
小又町長も高校存続に向けて手応えを感じ始めています。
「塾の評判は非常にいいので期待できると思っています。そして、生徒たちが一流と言われる大学に入ってもらえれば、町としても予算をかけた意味や効果があると思います」