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ナノコエ・広がり始めた医療的ケア児の支援

執筆者吉永智哉(記者)
2021年07月08日 (木)

ナノコエ・広がり始めた医療的ケア児の支援

皆さんの声に耳を傾けるナノコエ。

今回は、「医療的ケア児」と呼ばれる難病や障害で日常的にたんの吸引や人工呼吸器などの医療的なケアが必要な子どもたちへの支援についてです。

取材のきっかけはことし2月に開かれた県の支援検討部会でした。

実は首都圏に住んでいる私の古い取材先のお子さんが「医療的ケア児」で、Facebookに支援の現状が投稿されるのをたびたび目にしていました。

青森県の現状はどうなっているのだろうと関心を持ち部会を取材したのです。

そこで出会った「医療的ケア児」の家族や支援の体制作りを担う人たちから「NHK青森でも、ぜひ現状を伝えてほしい」という声を聞き、本格的に取材を進めることにしました。

増え続ける医療的ケア児 支援に課題

在宅の医療的ケア児(推計値)

医療的ケア児は全国では、おととしの時点で約2万人いると推計されていて、医療技術の進歩などを背景に10年ほどで約2倍に増加しました。

県の調査でも県内に170人近い「医療的ケア児」がいると推計されています。

「医療的ケア児の親御さんに対して世の中で言われてる子育て支援って何ができてるんだろうかっていうとあまりに無力」(青森県の支援体制を検討する部会メンバー・網塚貴介医師)と指摘されるなど、数は増えている一方で、子どもや家族の支援についてはまだまだ課題が多いのが現状です。

「医療的ケア児」を預かる保育所などは限られるほか、学校に付き添いが必要な場合などもあり、家族が仕事を続けられないといった声が出ているのです。

取材に応じてくださった青森市に暮らす坂本百合乃さん(7)とその母親のやすのさん

「医療的ケア児」とその家族はどのような状況に置かれているのか。

快く自宅での取材に応じて下さったのが、青森市に暮らす坂本百合乃さん(7)とその母親のやすのさんです。

百合乃さんには、先天的な疾患があり、チューブを通しての栄養補給など様々なケアが欠かせません。

坂本百合乃さんと母親のやすのさん

坂本百合乃さんの母親 やすのさん
「(栄養剤を)1時間に60ミリリットル12時間かけて投与していきます。夜に起きてケアするのが当たり前の生活なので、やっぱり精神的にも時間的にも体力的にもやっぱりぎりぎりだなってことは常々感じている」

坂本百合乃さん

百合乃さんは、去年、市内の養護学校に入学しました。

2学期までは通っていましたが、10月に一時、心肺停止になった後は、人工呼吸器を常に使用するようになるなどケアの内容が大きく変わりました。

体調も安定せず、入退院を繰り返しています。

母親のやすのさんは、百合乃さんにさまざまな経験をしてもらいたいと、体調が安定すれば、再び学校に通わせたいと考えています。

母親 やすのさん
「笑う回数も増えるし、学校に行ったらもっと楽しいことあるんだろうなと思うので学校にはぜひ行かせたい」

“我が子を学校に通わせたい”というごくごく当たり前の希望。

ところが「医療的ケア児」の通学については課題が指摘されているんです。

どんなケアが必要か、誰が対応するのかといったことを学校と調整しなくてはいけません。

百合乃さんの場合は、学校に再び通うには、人工呼吸器が常に必要になったことなどケアの内容が変わったことを学校側に対応してもらう必要があります。

どんなケアが必要か、誰が対応するのかといったことを学校と調整しなくてはいけません。

また、学校への送り迎えや、場合によっては学校にいる間ずっと付き添う必要もあるなど、家族にとっては、新たな負担も出てくる可能性があります。

全国でも送り迎えや付き添いをするために親が仕事を諦めざるを得なくなるというケースが出ている上、そもそも、さまざまなケアが必要となる「医療的ケア児」を受け入れられる学校は限られていて、自宅から遠い学校に時間をかけて送迎をしなければならないケースもあります。

青森県の支援体制を検討する部会メンバー・網塚貴介医師

こうした課題を解消していこうと県は部会を立ち上げて支援体制を検討していますが、この記事の前の部分にも登場した、部会のメンバーの網塚医師はこんな風に指摘しています。

青森県の支援体制を検討する部会メンバー・網塚貴介医師
「(子どもに)何か障害があったり何か病気があったりするとも今までの人生の設計がまるっきり変わってしまうっていう、実態がある。医療的ケアの必要があるだけでものすごく受け皿が狭められるという現状がある。どのお子さんの家庭でもなんとか対応できるようにするってことが目指すゴールだと思います」

医療的ケア児と支援する人たちを
サポートする専門家集団

そんな中、青森県は去年から医師や看護師などで作る「医療的ケア児」のいる家庭の支援チーム「多職種コンサルテーションチーム」を立ち上げました。

このチームは、医療機関や学校などと連携して、問題点を把握して改善策を検討していきます。そして必要な支援を提案しながら医療的ケア児とその家族を支援する人たちを継続的にサポートします。

このチームは百合乃さんの養護学校への復帰に向けた支援にも当たっています。

県の支援チームの役割

これまでは、母親のやすのさんが、養護学校との間で百合乃さんの学校でのケアについて調整を行っていました。

チームはいわば“橋渡し役”となり、必要になるケアについて学校に説明を行うなどしてサポートします。

百合乃さんの自宅には、チームの医師と看護師のほか学校の先生たちが訪れて、自宅でのケアの状況や常に使用することになった人工呼吸器の使用状況など説明する機会が設けられました。

ことし3月、百合乃さんの自宅には、チームの医師と看護師のほか学校の先生たちが訪れて、自宅でのケアの状況や常に使用することになった人工呼吸器の使用状況など説明する機会が設けられました。

主にケアを担当するのは学校に配置されている看護師ですが、先生たちも理解を深めることで、スムーズな受け入れにつなげようというのです。

支援チームの医師
「学校での対応で一番大きいのは 人工呼吸器の管理。事前の準備の段階で学校とは相談を重ねて百合乃さんにとっての通学の重要性はみんなわかっているので、それを目標にみんなでやっている」

継続的なフォローアップも行われるため、家族も学校側もチームを頼りにしています。

養護学校の先生
「本当に助かります。じゃあどうすればいいのかなというのを聞ける存在なので、本当にいないと困る」

母親 やすのさん
「医師が直接本人の病状などを直接伝えてくれるし私たちの生活のことも親身になって聞いて学校に伝えてくれるのでとても心強く思っている」。

支援の法律成立も これからが正念場

看護師資格の取得を目指して大学で勉強を始めているやすのさん

青森でも広がりつつある「医療的ケア児」の支援ですが、まだまだ課題も多いのが実情です。

例えば保育所や認定こども園については、去年、県内で“医療的ケア児の受け入れが可能”や“症状によっては可能”としていた施設は約10%にとどまっています。

こうした支援をさらに広げていこうと母親のやすのさんは「医療的ケア児」のための施設を作りたいと考えていて、ことし4月からは看護師資格の取得を目指して大学で勉強を始めているんです。

国会

一方、国会では先月「医療的ケア児」の家族からの切実な声を受けて、国や自治体に支援に向けた対応を求める法律が成立しました。

これまでは市町村によって支援の内容にばらつきがありましたがこの法律によって家族の負担が軽減されるような支援が広がっていくことが期待されています。

「医療的ケア児」の家族だけで課題を抱え込ませてしまうのではなく、自治体の制度を含めて支援の輪がさらに広がっていってほしいと思います。

取材後記

取材を始めた当初、参考にしようとNHK青森で書かれた「医療的ケア児」についての原稿を専用の端末で検索しました。

驚いたことに「原稿は存在しません」という結果が出ました。

少なくとも記者についてはこのテーマについて取材し、原稿にした人はこれまで誰もいなかったということになります。

実際に支援の体制作りを担う人からも「ほかの報道機関の人は知ってるんだけど、NHKさんだけは誰に声をかければいいのかすらわからなくて…」と言われました。

私たちは“声を届けてほしい”と願う人たちに耳を傾けてこなかったのではと申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。

このナノコエだけではなく今後も「医療的ケア児」の支援をめぐる動きをフォローしていきたいと思います。

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