1. トップページ
  2. 社会
  3. あなただけが不安じゃない。コロナ禍の学生をつなぐ新たなカタチ

あなただけが不安じゃない。コロナ禍の学生をつなぐ新たなカタチ

執筆者細川高頌(記者)
2021年06月18日 (金)

あなただけが不安じゃない。コロナ禍の学生をつなぐ新たなカタチ

「最近、心のバランスを崩す大学生が本当に増えています」

新型コロナウイルスの感染が広がっていることによる影響について取材していた私は、新学期が始まったばかりのことし4月、八戸市医師会の医師からこんな話を聞きました。

新型コロナの感染が拡大した去年から、心の不調を訴えて診療を受ける人が急増していて、なかでも大学生には深刻な影響が出ているというのです。

大学生の弟が2人いる私はひと事ではないと感じすぐに取材を始めました。

“コロナに感染かも?”不安を相談できずに…

八戸市内でクリニックを開業している小倉和也医師

この話を聞かせてくれたのは、八戸市内でクリニックを開業している小倉和也医師です。

地域の人たちの健康を支える家庭医として診療を続ける小倉さん。

これまで月に数人程度だった大学生からの心の不調を訴える相談が、新型コロナの感染が拡大し始めた去年からは5倍ほどに急増しているといいます。

小倉さんのクリニックに通って治療を受けている大学3年の男子学生が話を聞かせてくれました。

青森県外の大学に通っていて、コロナ禍で日常生活に支障をきたすほどの不安を感じるようになってしまったといいます。

男子学生が心のバランスを崩してしまうきっかけとなったのは、去年の初め、頭痛やのどの痛みなどの症状が出て、“コロナにかかったのではないか?”と不安を感じたことでした。

男子学生が心のバランスを崩してしまうきっかけとなったのは、去年の初め、頭痛やのどの痛みなどの症状が出て、“コロナにかかったのではないか?”と不安を感じたことでした。

親元を離れて1人暮らしをしていたうえ、新型コロナの感染拡大を防ごうと外出の自粛も呼びかけられていて、周りの人に相談することができなかったといいます。

男子学生
「もしコロナにかかっていて、相談した人にうつしてしまったら迷惑がかかってしまう。“コロナじゃなくても命に関わるような病気だったらどうしよう”という不安が頭から離れなくなりました」

さらに彼を悩ませたのが、SNSに書き込まれる誹謗中傷でした。

“自分はしっかり感染対策をやっていたのに、コロナにかかっていたら周りから責められるのではないか…”不安はますます広がっていきました。

その頃、彼と電話で話した母親は、様子の変化に驚いたといいます。

母親
「自分の考えすらうまくまとめられない状態で、そのまま放っておくとちょっと危ないんじゃないかなと思いました」

その後、大学のキャンパスに行くことも難しくなった彼は、母親に説得されて八戸市内の実家に戻り、治療を続けながらオンラインで授業を受けています。

彼を治療する小倉さんは、特に大学生は新型コロナの影響で孤立しやすいと指摘しています。

彼を治療する小倉さんは、特に大学生は新型コロナの影響で孤立しやすいと指摘しています。

小倉医師
「大学生というのはもともと、初めて親元を離れて一人暮らしをする人も多く不安を感じやすい時期でもある。その中でコロナの影響で周りの状況が急激に変化して、潜在的に持っていた不安が大きくなってしまっている」

 
“相談できる人”がいるとうつのリスク軽減

秋田大学が新型コロナの学生への影響を調べる調査を実施

いったい新型コロナは大学生の心にどれだけのダメージを与えているのか。

取材を進めると、去年、秋田大学が新型コロナの学生への影響を調べる調査を実施していたことがわかりました。

対象となった大学に通う学生と大学院生5100人余りのうち約2700人が回答し、中程度以上のうつ症状が、▽女性の11.5%▽男性の10.3%で見られました。

この調査では、生活スタイルなどについても聞いて分析しています。

うつ症状のリスクは、
喫煙している場合は2.85倍、週5回から7回飲酒する場合は2.45倍に高まる一方、高い頻度で運動していた場合は0.54倍、相談できる人がいる場合は0.24倍までリスクが低くなるというのです。

コロナ禍で孤立してしまった学生も相談できる人がいれば心に不調をきたすことを防げるのかもしれない。

そう思った私は、学生の相談にあたるカウンセラーや教職員などで作る日本学生相談学会の事務局長で、東京大学で学生相談のカウンセラーをしている高野明准教授に話を聞きました。

高野准教授は、何気ない雑談などでのコミュニケーションが重要だといいます。

高野准教授は、何気ない雑談などでのコミュニケーションが重要だといいます。

高野准教授
「本来であればキャンパスで友人たちと雑談をすることで不安やストレスが解消されていたものが、授業がオンラインになったり、大学に行っても授業だけ受けてすぐ帰ったりと、何気ない雑談をする機会が激減しています。意識してコミュニケーションの中に雑談を入れていくことも大切ですし、そういったつながりを作っていくことも必要です」

 
“孤立を防ぎたい”立ち上がった学生団体

取材を進めていくと、東北の中心都市、仙台で学生で作る団体が学生たちの孤立解消に向けて活動を始めていることがわかりました。

コロナ禍でも学生どうしが“つながる”ことで孤立を解消していけるのではないか。

さらに取材を進めていくと、東北の中心都市、仙台で学生で作る団体が学生たちの孤立解消に向けて活動を始めていることがわかりました。

仙台市などの大学に通う学生たち約10人で作る「はぐね」です。

「はぐね」という名前には、若者を「育む」「根」のようなつながりを作りたいという思いが込められています。

メンバーの1人、4年生の重文字彩希さんが取材に応じてくれました。

メンバーの1人、4年生の重文字彩希さんが取材に応じてくれました。

青森県出身の重文字さんも親元を離れて大学に通っていますが、新型コロナの影響で授業が休講になるなどしたため、友人と会う機会がなくなり孤立感を抱えていたといいます。

白紙のノート

「授業もないし、友達に気軽に会おうよ!とも言えなくて。オンラインで飲み会は何回かやったけど、やはり対面で会うときのような充実感はありませんでした。貴重な大学生活をこのまま家のなかで過ごしていていいのか、という焦りもありました」

そんなとき、インターネットで「はぐね」の立ち上げメンバー募集のページを見つけ、自分と同じような悩みを抱えている人がほかにもいることを知りました。

“自分にも何かできることがあるのではないか”そう考えた重文字さんは、メンバーに加わりました。

この団体の主な活動は週に1回メンバー全員が集まるミーティング。といっても、難しいことを話し合うというわけではありません。

この団体の主な活動は週に1回メンバー全員が集まるミーティング。といっても、難しいことを話し合うというわけではありません。

大学の授業のことや休みの日にどう過ごしているかなど、何気ない話題で盛り上がるんです。

高野さんが“重要”だと指摘していた雑談を定期的にやっています。

ミーティングで何度もおしゃべりをしていると、団体のメンバーたちは重文字さんにとって何でも気軽に話せる仲間になっていきました。

重文字さん
「孤立で悩む学生のためにという思いはもちろんあるんですけど、活動を通して私自身が人とのつながりの大切さに気がつき、救われました」

 
学生をつなぐ新たなカタチ

インターネットで会議ができるシステムを使ったオンライン交流会

この団体「はぐね」は、ことしの2月から新たな試みを始めています。

インターネットで会議ができるシステムを使ったオンライン交流会です。

学生であれば誰でも、全国どこからでも参加でき、クイズ大会から社会人を招いた勉強会まで、参加者の関心にこたえようとさまざまなテーマで開いています。

新型コロナの影響で就職活動が大きく変化するなか、企業の事情に詳しい公認会計士を招いて勉強会を開いたこともありました。

全国の学生約30人が参加し、「地方銀行の現状について」や「地元でUターン就職を考えているが、オススメの職種は何か」など、次々と質問が寄せられました。

質問に対して公認会計士は「地方で給料の高い企業は少なく、あったとしてもそういった企業は求人を出していないことが多い。自分から情報をとりに行くことが大切だ」などと一つひとつ答えていました。

去年入学してからほとんどオンラインの授業で、思い描いていたキャンパスライフを送ることができず、きょうも一日ずっと家にいました。こうやって人と話をして、頭を動かす機会があるのは本当にありがたいです

「去年入学してからほとんどオンラインの授業で、思い描いていたキャンパスライフを送ることができず、きょうも一日ずっと家にいました。こうやって人と話をして、頭を動かす機会があるのは本当にありがたいです」

重文字さんたちの団体は、コロナ禍でも開けるこうした交流会の開催を通して、学生どうしだけでなく、大人も含めたつながりを広げ、学生が相談できる人を増やし、相談できる内容も広げていきたいと考えています。

重文字さんたちの団体は、コロナ禍でも開けるこうした交流会の開催を通して、学生どうしだけでなく、大人も含めたつながりを広げ、学生が相談できる人を増やし、相談できる内容も広げていきたいと考えています。

重文字さん
「今回のように社会人の話を聞くイベントを企画することで、学生同士のつながりはもちろん社会人ともつながれるような機会を作っていけたらいい。同じように孤独を感じていた当事者だからこそ、上からの支援ではなく、一緒に新型コロナウイルスを乗り越えていきたい」


私は取材を進めるなかで、多くの大学生から「外にも出ずにこんな大学生活でいいのか焦る」という声や、「就職も含め将来が見通せず、漠然とした不安をいつも抱えている」という声を聞きました。

こうした思いを抱える学生たちはどうやってコロナ禍を乗り越えていけばいいのか、高野准教授に聞くとこう答えてくれました。

高野准教授

「あなただけではなくて今の大学生は全員同じような焦りや不安を抱えています。しかもそれはあなたのせいではなくて、そういう社会の状況なのです。その中で自分なりにできることを模索していくことが大切です。それは人によってはオンラインでつながりを作ることかもしれないし、オンラインが苦手だという人もいると思います。自分にあったやり方で、無理をせずにコロナと向き合っていきましょう」

新型コロナウイルスの影響で大学生活が大きく変化し、思い描いていたキャンパスライフを送ることができない大学生たち。

孤立を防ぐために何ができるのか、これからも彼らの声に耳を傾けながら一緒に考えていきたいと思います。

弟にも今回の記事を送って、話を聞いてみるつもりです。

 

この記事に関連するタグ

おすすめの記事