第12弾

パラ卓球 × チームふたり

吉野万理子さん(原作・脚本)×岩渕幸洋選手インタビュー

“障害を強みに変える岩渕選手を見て、パラスポーツの見方が変わった”

今回のアニメ制作前、作家の吉野万理子さんが、パラ卓球の岩渕幸洋選手を取材しました。

中学1年生の時に部活動で健常者の卓球を始められて、3年生でパラ卓球に出会ったと伺いました。どういうきっかけだったんですか?

岩渕 当時、学校の卓球部には教えてくれるコーチのような人がいなかったので、部活動に通いながら地域の卓球クラブにも通い始めました。そのクラブのコーチで、パラ卓球の試合の審判をされている方がいて。「君ももしかしたらパラの試合に出られるんじゃないの」って教えていただいたんです。そこからパラの試合に出たっていうのがきっかけですね。

吉野 コーチの方からそう言われた時は、どんなお気持ちでしたか?

岩渕 正直、最初はすごくびっくりしました。というのも、小さいころから両親にいろんなスポーツをやらせてもらっていて、体育の授業も好きな授業の1つでしたし、できないことって本当になかったので。自分が障害者という認識が全くなかったんですよ。最初はそんな自分が出てもいいのかなという気持ちがありましたが、とりあえず一回やってみようという感じでした。

吉野 パラ卓球の最初の大会のことは覚えていらっしゃいますか?

岩渕 よく覚えています。パラ卓球をやっている方って、みんな自分のできることとできないことを分析されていて。すごくいやらしいボールを出してくる選手が多いんですよ。いつも飛んでくるボールの質と全く違う質のボールが飛んできて、最初は「うわ、こんな戦い方あるんだ」って本当に衝撃を受けました。そこで負けて圧倒されたからこそ、「自分が出ていいのかな」という気持ちはなくなって、「次どうやったら勝てるだろう」と自分のプレースタイルを見直すきっかけになりました。

そこからご自身の卓球と向き合う中で、“前陣速攻”というプレースタイルを選択された。その経緯を教えていただけますか?

岩渕 僕は足に障害があるので、台から離れてしまうと動く範囲が大きくなってしまって、それが弱点になってしまうんです。なので、台の前に張り付いてプレーすることで動く範囲を狭めて、自分の弱点を克服しようと考えました。前でプレーすることで、より相手にもプレッシャーを与えられますし、速いボールが打てなくても前にいて早いタイミングで返せれば、それが相手にとっての速いボールになるので。“障害を強みに変える”という意識で、このプレースタイルを選択しました。

吉野 私も学生時代に卓球をやっていたんですが、台から下がって打つカットマンだったんですよ。だから、前陣速攻の方の反射神経のすごさには憧れます。

あと、私は最初パラスポーツをどう見たらいいのか分からなかったんです。普段、障害のある方と接する時に、あまりできないことをオープンに聞くのはいけない気がして……。でも、岩渕選手が「例えば同じクラスで手に障害のある人と戦う時は、その弱点を狙う作戦を考える」とお話されている映像を見て、「パラスポーツってそうやって見ていいんだ!」と衝撃を受けました。パラスポーツは、まず弱点をオープンにして、それを知ることから始まる。そして、そこをどうカバーして強くなったのか。そういう視点で見るからこそ、見ている側もより感動するし、面白いんだって思いました。

岩渕 僕もそれが一番伝えたいことですね。パラ卓球は特に対人競技なので、相手の障害上できないところや難しいところを攻めるというのが1つのセオリーになっていて。ただ、卓球やパラスポーツに詳しくない方が見た時に、それを“かわいそう”と思ってしまう人もいるかもしれない。でも、選手たちはみんな自分の弱点を理解して、そこと上手に付き合ってプレーしているので。障害があるということはコートに入れば関係ないんです。だから、見ている方たちにも試合中の戦術や駆け引きを楽しんでもらえるとうれしいです。

吉野 そうですね。私も自分自身の弱点や苦手なことを見直してみようと思いました。パラスポーツを見ていると、自分ももう少し変われるんじゃないか?と思わせてもらえますね。

岩渕選手は健常者の試合にもパラの試合にも出場されていますが、何か違いはありますか?(制作スタッフ)

岩渕 違いは特にないですね。健常者の選手でも苦手なことはあると思うので。そこを狙って作戦を立てることもありますし、それはパラ卓球も同じです。ただ、パラ卓球の方が選手の個性がより際立っているというイメージですね。強い健常者の選手と戦うことで勉強になることも多いので、僕はどちらの試合にも出させていただいています。

足につけている装具は、もう体の一部のような感覚ですか?

岩渕 そうですね。小学3年生のころから使い始めて、今は日常用と競技用で使い分けています。日常生活では、家から外に出たらずっとつけていますね。これがないと運動ができないので、僕にとってはラケットと同じか、それ以上に大切な用具の1つです。

今、東京パラリンピックが近づく中で、特に強化していることはありますか?

岩渕 僕はもともと声を出してガンガン攻めていくスタイルでやってきたんですが、最近自分も世界ランキングが3位になるなど、相手にも研究される立場になってきて......。得意なサーブが効かなくなってきたり、自分が動きすぎて相手にいなされたり、挽回される試合展開が多くなってきたんです。だから、今はもともとのスタイルも大切にしながら、逆に余裕を持つことを意識して取り組んでいます。例えば、自分から攻めて自分が動くという展開を少なくして、逆に相手に打たせて、そのボールの勢いを利用して変化をつける。“相手を動かす”ということに力を入れていますね。

吉野 きょう、練習を拝見していましたが、すごく楽しそうな姿が印象的でした。

岩渕 例えば勝てなくても、1点、1球に楽しみを見つけられるのが卓球のいいところだと思っています。それが積み重なれば勝つチャンスもあると思いますし、勝てなくても自分の中で目標を決めて「これが打てた」とか「このボールがとれた」とか、そういう気持ちがあるので、楽しく前向きにできていますね。

東京パラリンピックで、注目の選手を教えてください。

岩渕 金メダル争いは、世界ランキング1位のベルギー代表・デボス選手が一番のカギになると思います。リオでも優勝していて5年間負けていない、すごく強い選手なんです。健常者のワールドツアーにも出場していて、もはやオリとパラの枠組みを越えて活躍している選手なので、彼に勝ってパラリンピックで金メダルをとりたいというのが1つの目標ですね。

ご自身の動画チャンネルで、「目指すのは金メダル以上」とお話されていましたが、その目標に込められた思いを教えてください。

岩渕 東京パラリンピックは、僕はゴールではなく、スタートだと思っていて。パラの試合に出て、僕自身も他の選手たちにすごく感動させられたんです。なので、僕が金メダルをとって注目していただくことで、より多くの方にパラスポーツのすばらしさやパラ卓球の面白さを伝えられればいいですね。そんなふうに東京パラリンピックを1つのスタートとして、そのあとも発展していけるようにという思いを込めて、“金メダル以上”という目標を設定しました。

吉野 私も楽しみにしています!

本日はありがとうございました。