生活保護受給者の男性49歳が、人との関わりを絶つか否か決めようとVR空間に飛び込んでみたら…野良猫を救うために人と関わり始めた/『プロジェクトエイリアン』出演者のその後
現実社会では出会わないような4人が、自分が何者かを伏せたままVR空間上でエイリアンのアバターに身を包んで交流する番組「プロジェクトエイリアン」。
参加者の1人で、生活保護を受給しているドーアツさん(49歳/仮名)。一緒に飲食店を経営していた母の死がキッカケでさまざまな歯車が狂い、生活保護を受給することに。その後、再就職した職場でいじめを受けることでうつ病を発症。人との関わりを避けるように暮らしてきました。VRでの交流を経て、いったい何を感じ取ったのか、取材しました。
(「プロジェクトエイリアン」ディレクター 伊豫部紀子)
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生活保護を受給して、うつ病になって…人と関わることへのためらい
『プロジェクトエイリアン』では、VR空間を舞台に、見た目に影響されないアバターでの交流を通じて、ジェンダーや国籍などを理由とした“分断を乗り越える”きっかけとなる場を作ろうとチャレンジしています。生活保護を受給しているドーアツさん。日々の暮らしとそこに至るまでの背景を教えてもらいました。
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ドーアツさん
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「生活保護を受給するようになったのは、たしか7~8年前だと思います。あのころは大変で記憶がなく…。母親と商売やっていたんですが、母親ががんになって亡くなって。仕事を探していたんですけど、保証人がいなかったし田舎で仕事ってなるとなかなか見つけられなくて…本やら漫画やらお皿やらもう、家にあるものは母親の形見以外は全部売れるものはすべて売ってなんとか食いつないで。最後の所持金は7円だったんじゃないですかね。それで体が動くうちになんとか市役所にたどり着いたのは覚えてます。今、自分が暮らしている自治体では月7万弱を受け取っています。必要最低限生きていくだけのものをそろえられるだけの金額だと思うんです。食べたいものを食べるんじゃなくて、割引きシールが貼ってあるものを買う日々です」
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ドーアツさん
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「私自身も次の職場を探して、さまざまな資格を取得しました。調理師免許も持っていたので、飲食店に就職したのですが…。市役所の生活保護の担当者から会社に何の用事か分からないんですが電話が来ちゃって。『生活保護を利用している、利用していない』は守秘義務なので本来は電話してはいけないそうなのですが、自分が生活保護を受けていたことが職場に知られるようなこととなりまして。おそらくそれがきっかけで、それまでは包丁使ったり配膳したりって仕事から、いきなりもうずっと一日中皿洗いさせられるようになって、もう『ほかの事に一切手を出すな』といった感じで。同僚からも今まで一緒に職場を出たのに避けられるなどいじめを受けまして。精神的にも全然…『あーもうだめだ』と。病院の診察を受けて『うつ病だよ』と」
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ドーアツさん
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「今はほとんど人との交流は避けるようにしています。そうなると、自分はこの社会に存在していないんじゃかなって思うようになって。働けなくて人とのつながりがないって存在してないのとほぼイコールじゃないですか。周りの方は立場が変わってたり家族が増えたり減ったりしているなかで自分だけはずっと時が止まったというか置き去りというか、そういう気持ちを抱えながら生きています」
VR空間で“エイリアン”になってみて気づいたこと―
番組では、現実社会では交わり合わない4人が外見や素性を伏せて、エイリアンのアバターに身を包みVR上で一緒に月面旅行をしてもらいました。ドーアツさんには、プロジェクトエイリアンの世界はどのように映ったのでしょうか?
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ドーアツさん
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「参加するにあたって、『自分は境目にいる』と思って臨んだんです。これを機会に人と関わらないようにするか関わるようになるのか。どちらかの変化にはなるだろうという思いでした。ただ、最初に参加してみて思ったのは、皆さんがどうしてもまぶしく見えてしまったんです。うーん、なんでみんなそんな楽しそうに話せるんだろうと思って。『生まれ変わるなら何になりたいか?』という話題で、参加者の1人のウテリーさんが『ジャンヌ・ダルクになりたい』って聞いたとき、『やっぱりきれい事ばっかなんだよな、みんな』って思って、自分は置いてけぼりなんだという思いが強くなってしまいました」
その後、2週にわたってそれぞれの背景や素性を知っていくこととなったドーアツさん。ほかの3人の姿や言葉はどのように映ったのでしょうか。
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ドーアツさん
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「ウテリーさんはただ単純に理想を語れる人ということで、自分のように出来ないつらさと無縁の人だと思ったんです。でも、その後『在日韓国人3世』でいらっしゃって、差別や偏見を受けながら成長されたということを知ったのですが…。やっぱりどうしても『この4人の中で自分がいちばん下だ』って思っちゃったんです。みんなには支えてくれる家族がいるし、自分は1人で孤独で強くないし、生きている価値は自分にはないって思いました」
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ドーアツさん
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「そんな中、乳がん患者のルーさんが、『私は私の苦しみがあるし、ここにいる4人は、4人の苦しみがある』と言ったことが心に残りましたし。トランスジェンダー女性のカモミールさんは、孤独なときにテーブルやソファーを見て『誰かが作ってくれたからここにある』と思ったという話をしてくださって。モノの先に、作ってらっしゃる方の顔が浮かんで、そういう人たちに支えられているということに気づいたんだって。とても大事な気づきだと思いました。『自分のことは誰も支えてくれない』、そのことばかりにこだわっていて妬んだりしていたことに、終わってから気づいて申し訳なかったなと反省しました」
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ドーアツさん
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「今は、猫や自然を写真に撮って、知人にシェアしたりするようになりました。花の写真は割と人から褒められたりします。よく出会う野良猫は、自分がうつになっていた時に、一生懸命生きているその姿で、死にたいと思っていた自分を救ってくれた存在なんです。今の生活保護の私では飼うことは出来ないし、保護団体を作ることもできませんが、もしかすると誰かが興味をもってくれるかもしれないし、何かを感じてくれるんじゃないかなって写真を撮り続けています」
他者との交流のハードルを下げ、さらには距離感を縮めることも可能なVR空間。「VR×社会課題」プロジェクトでは、今後もVRの有効活用法を模索していきたいと思います。
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