課金 後払い キャリア決済…子どものお金のトラブル集
これは「おとなりさんはなやんでる。」(2023年2月24日放送)で紹介する、ある家族に起きた“本当の話”です。こうした子どものお金のトラブルは、残念ながら珍しいことではありません。
「後払い」「キャリア決済」など、大人にとっては便利な支払いサービスが次々に登場していますが、子どもが利用することでトラブルに発展する場合も…。大ごとに巻き込まれないように、親が知っておくべきことは何か取材しました。
(ディレクター 伊藤 大輔)
子どものお金のトラブル
まずは具体的なトラブルをご紹介します。
「ゲーム課金」
東京都内の消費生活センターによせられた、子ども(6~15歳)のオンラインゲームに関する相談は、2022年度は400件。5年前と比べると3倍に増えています。ほとんどが「課金」に関する相談で、中には100万円を超える請求が来たケースもあるといいます。
●実際に起きたトラブル…親に無断で34万円のゲーム課金をした小学6年生のケース
この児童は、毎日のように父親のタブレットでオンラインゲームをしていました。気に入っていたのは自分のアバターを作り、好きな洋服を着せるなどして楽しむゲーム。基本的に無料で遊ぶことができるものでしたが、「課金」をすると、無料のものよりもちょっと豪華なコスチュームなどが手に入るという仕組みです。この女子児童も、時々課金をして遊んでいました。
女子児童は課金をするにあたり、家族と以下のようなルールを決めていました。
①具体的に何に課金したいか、親に「申告」する。
②親が課金してよいと判断したら、親がタブレットを操作し、登録しているクレジットカードを使って「課金」をする。
③課金に使った金額、娘のおこづかいから差し引く。
しかし結果的に、この児童は自分一人で34万円もの課金をしてしまいました。
●一体どうやって、親に無断で課金をしたのか
課金をする時には、スマホに登録してあるクレジットカードを利用しますが、決済を承認するには“パスワード”を入力する必要があります。しかし、パスワードを入力する画面には「パスワードを忘れた」という選択肢が表示される場合があります。この児童は、「パスワードを忘れた」をクリック、すると「6桁のコード」を入力する画面が出てきました。これは、タブレット自体を開くときに必要な6桁の数字のこと。この児童は親が普段操作するのを見ていたことから、たやすく6桁の数字を入力。
すると、クレジットカード利用のパスワードの変更ができました。こうしてクレジットカードを使って課金ができるようになった、というわけです。
ほしかったアイテムを手に入れた児童でしたが、その後、他のアイテムも欲しくなりはじめました。クレジットカードが使い放題の状態になっていたこともあり、課金を繰り返した結果、合計34万円の「ゲーム課金」をしてしまったのです。
しかし、この児童は、34万円分のアイテムを購入したわけではありません。課金をしていたのは、「ガチャ」。1回100円ほどでできる“くじ”のことです。
●“ガチャ”に魅了される子どもたち
様々なゲームで見かけるこの仕組み。「くじ(ガチャ)」を引いて(まわして)、当たりが出れば欲しいアイテムなどを手に入れることができます。くじですから、必ずしもほしいものが手に入るとは限りません。当たる確率が1%以下の「レアアイテム」もあるといいます。
ゲーム依存に詳しい公認心理師の森山沙耶さんによると、この仕組みが子どもたちを高額課金へと誘う引き金にもなると言います。
人は毎回必ず「報酬」が得られるよりも、たまに「報酬」を得られるほうが、その行動を続ける傾向があります。まさに「ガチャ」は毎回当たりが得られるわけではなく、「あと一回やってみよう」と、特にハマりやすくなってしまう仕組みといえます。ですから、課金をして、レアなアイテムが当たり、快感や満足感を得る。そうしてついハマってしまうのは、子どもの意思の問題だけではないかと思います。今の子どもたちにとって、ゲームはコミュニケーションツールの一つでもあり、頭ごなしにダメというのも難しいところですが、金銭感覚が十分でないうちに「ガチャ」に課金するのは、あまりおすすめしたくないのが率直な気持ちです。
「定期購入」
東京都の消費生活センターによせられた、子ども(6~15歳)が当事者の相談の中で、「オンラインゲーム」の次に多いのが健康食品(サプリメント)、化粧品(脱毛剤、コスメなど)の「定期購入」に関するもの(2022年度142件)。動画サイトやSNSで「痩せる」「肌がつるつるになる」という広告を見た子どもが購入し、トラブルになるケースが相次いでいるそうです。
●トラブルの事例・・・“初回”に注意
14歳の中学生が、SNSで「痩せるサプリメント」の広告を見た。「初回500円」とあったので、親に内緒で購入した。商品を受け取りコンビニ払いで代金を支払ったが、10日後に同じものが届き、中に1万円の請求書が同封されていた。1回だけ買ってみるつもりだったが、申し込んだ画面をよく見てみると、「定期購入することが、初回500円となることの条件」と書かれており、解約できなかった。
「後払い決済」
これは、ショッピングサイトなどで見かける支払い方法です。商品を受け取ったあと、同封されている振込票を使ってコンビニなどで代金を支払うという仕組み。手元にお金はなくても、物を買うことができます。未成年が利用する場合は「保護者の同意を得た」というチェック欄がある場合がほとんど。
●トラブル事例・・・手元にお金がなくても買い物ができる
17歳の高校生がネットショッピングで「後払い」で洋服を購入。商品を受け取ったものの、期限内に支払うことができず、請求を放置していました。すると後日、弁護士事務所から支払いの督促通知が家に届きました。保護者は、この時はじめて状況を把握したと言います。というのも、この高校生は親に無断で「同意を得た」という項目にチェックをして、使用していたからでした。
また、後払いを利用し始めた当初は、自分のおこづかいで支払える範囲で買い物をしていたと言いますが、何度も繰り返しているうちに、慣れて、利用額が少しずつ大きくなっていったと言います。
「プリペイドカードアプリ」
「プリペイドカード」とは、あらかじめ金額をチャージして利用するカードのこと。例えば、1000円をチャージした場合は、1000円分だけ利用できます。したがって、自分が支払えないような金額の買い物をすることはできません。この「プリペイドカード」をスマホ上で発行し利用できるのが「プリペイドカードアプリ」です。利用するために、クレジットカードのような審査を受ける必要はありません。アプリをダウンロードし、「生年月日」「電話番号」「メールアドレス」などを入力すれば数分で登録完了。コンビニやATMなどで現金をチャージすれば、すぐに使うことができます。13歳以上であれば使用できるものもあります。
●トラブル事例…“プリペイド”なのに後払いできる?
13歳の中学生が、自分のスマホで「プリペイドカードアプリ」を登録。このアプリには「後払いチャージ」という仕組みがありました。これは、いま手元に現金がなくともチャージができるというもの。指定された期限までにチャージした分の金額を支払います。使用には500円ほどの手数料がかかります。この中学生は手元にお金はありませんでしたが、「あとで払えばいいや」と思い、5000円分をチャージ。ゲーム課金に利用しました。こちらのシステムも、未成年が利用するには保護者の同意が必要ですが、この中学生も、無断で「同意を得た」にチェックをして使っていました。保護者は、子どものスマホをチェックした時、カード会社からメールで支払い請求が来ているのを見て、状況を初めて知ったそうです。
●トラブル事例…「後払いチャージ」で詐欺
14歳の中学生が、SNSで「副業サイト」の広告を見て連絡をしてみると、「簡単に稼ぐ方法」が書かれた「マニュアル」の購入するように勧められた。マニュアルの値段は1万円。手元にお金がないと伝えるとプリペイドカードアプリの後払いチャージを利用するようにすすめられ、使ってしまった。その後、相手とも連絡が取れなくなった。
「キャリア決済」
「キャリア決済」は、各携帯電話会社が提供する決済方法です。スマホを使って支払いをする時に「キャリア決済」を支払い方法に選択すれば、代金は毎月の通信・通話料金などと合算して請求される、というものです。ショッピングサイトやゲーム課金など、様々な支払いに利用することが可能です。
●トラブル事例…親のお古のスマホでキャリア決済
17歳の高校生がアイドルのライブ配信への「投げ銭」に5万円を使用。支払いは「キャリア決済」を選択していた。この高校生が使用していたのは親のお古のスマホ。親はキャリア決済が可能になる設定のまま子どもに渡してしまっていたため、親の通信・通話料金とともに5万円の請求がきて発覚した。
トラブルを防ぐには 親はどうすれば?
東京都消費生活総合センターによれば、ポイントは「子どもを信頼する・しないの話ではない」ということ。子どもにスマホやタブレットを使わせるなら、けじめとして、以下のようなことを注意してほしいということです。
① 支払いの承認に必要なパスワードを単純なものにしない、入力しているところを見せない。
② 特に注意が必要なのは「家族共用のタブレット」と「お古のスマホ」。保護者のアカウントでログインしている端末だと、登録してあるクレジットカードの情報を子どもが利用し、高額課金などをされてしまうリスクがあります。子どもが使う端末にはクレジットカードの情報を入れておかない。
③ ゲーム課金やクレジット決済をしたときに、通知が届くように設定し、こまめに確認をする。
④ 子どものゲーム課金を許可する場合は、クレジット決済ではなく、コンビニなどで購入できる「ギフトカード」の利用も高額課金の予防となる。ギフトカードに記載されている「バーコード」をスマホのカメラで読み取ると購入した分の金額がスマホに入金される。例えば、1000円分の「ギフトカード」を購入し、スマホに入金をすれば、1000円分しか使うことができません。ある程度子どもが使う金額を管理することができます。
もし本当にお金のトラブルに巻き込まれたら 親はどうすれば?
「未成年者取消権」
「未成年者が保護者の同意を得ずに交わした契約は、本人か保護者が取り消したり、返金を求めたりすることができる権利」
この権利を行使するためには、まず契約先に取り消しを申し出ます。電話などで口頭で伝えることも可能ですが、交渉に必要なたくさんの情報を正確に伝える必要があるため、「書面での申し出」が推奨されています。
【書面に記載すること】
・契約した日にち、購入した商品、金額など(取り消したい契約をはっきりさせる)
・子どもが同意を得ずに契約した経緯
・返金の振込先
※子どもが親のクレジットカードや現金を無断で使ってゲーム課金などをしていた場合は、再発防止に向けた反省と対応策なども必要だということです。
申請後、契約先が合意すれば、未成年者取消が認められます。
●実際に「未成年者取消」が認められたケース
父親が、12歳の子どもに、夏休みの間だけ自分のタブレットを貸していた。何か課金をしたい場合は、相談するように言っていたが、知らない間に「キャリア決済」を使い、ゲームアプリに20万円近く課金をしていた。
「キャリア決済」を提供する携帯電話会社に相談をしたところ、ゲーム会社に返金を求めるように言われた。しかしゲーム会社に返金は拒否されてしまった。
その後、消費生活センターに相談し、「未成年者取消」を書面で申請。すると、ゲーム会社から10項目の質問が記載された確認書が送られてきた。すべて記入し返送したところ、返金されることになった。
東京都消費生活センターによると、保護者が契約先と直接やり取りをしようとしてもスムーズに進まない場合は多いので、まずは全国共通の「消費者ホットライン#188」に連絡してほしいということです。
●必ずしも「取消」が認められるというわけではない
以下のような場合は、取り消しが認められないこともあるので注意が必要です。
・子どもがおこづかいなどで支払い可能な範囲の金額だった場合
・子ども本人が「成人」と偽って契約をしていた場合
・取消の申し出が2回目以降の場合(保護者の管理責任を問われる)
・親のタブレットなどでのゲーム課金の場合(本当に子どもが操作したか証明が難しい)
なかったことにしない!
子どもが多額のお金を使ってしまった場合は「その失敗をなかったことにしない」ことが大切。そう語るのは、ファイナンシャルプランナーの竹谷希美子さんです。竹谷さんがすすめるのは、「借用書」と「返済計画表」をつくることです。
「借用書」「返済計画表」を親子でつくることは、返済してもらうこと自体が目的ではありません。実際に返済するかどうか、返済する場合はその金額や期間など、親子で話し合うきっかけにするとよいと思います。例えば、きちんとルールを決めていなかった親にも責任があるということで、半額は親が負担する、というやり方もあるかもしれません。
やっぱり金銭教育は“おこづかい”から
竹谷さんは、子どもには“おこづかい”を渡し、自分でお金を扱う機会を与えることが大事だといいます。
しかし、番組でも調査をしたことがありますが、おこづかい制にもいくつか種類があります。
子どもが欲しいものがあるときにその都度渡す「都度制」。
「お手伝いしたら○○円」などの報酬を渡す「お駄賃制」。
そして毎月決まった金額を渡す「定額制」。
竹谷さんは、子どもが小学校高学年くらいからは「定額制」がおすすめだといいます。
「定額制」は、大人でいう「お給料」。限られた金額を何に使うか、自分で仕分けして、やりくりをする中で、お金の使い方を学ぶことができます。最初は、もらってすぐに使い果たすなど、失敗もすると思いますが、それでいいと思います。お小遣いが足りない、欲しいものが買えない不安や我慢、そして次におこづかいをもらったときに「ほっとした」という気持ちも感じてほしい。そうした経験が、大人になったとき、クレジットカードを使いすぎないようにしようとか、「お金の使い方」に気をつけることにつながると思います。
また、大事なポイントはおこづかいを渡す“親側”にあります。
それは、「絶対に前借りはさせない」。親は困っている子どもを見るとかわいそうになって、「今回だけよ」という気持ちで渡してしまうかもしれませんが、子どもは2回目、3回目もある、と確信して前借りをしてきます(笑)。「借りればその場をしのげる」というくせを子どもがつけてしまうのはよくないので、「前借りはさせない、しない」とルール決めをしたのなら、親もそれをしっかり守るということが大事だと思います。
取材後記
今回取材した、「お子さんがゲームに高額課金をしていた」というご家族。「こういうことは起こりうると、同じ保護者の方々に知っていただけたら」と、経験談をお話下さいました。実は、この夫婦は、見に覚えのない課金に気づいた当初、お子さんに確認をしたのですが、「課金はしていない」と言われたそうです。「子どもの言葉を信じたい」と思っていたので、そのぶん、真相を知った時にはショックも大きかったようです。親子間で起きる「お金のトラブル」は、とても複雑な気持ちを伴うものだと実感しました。
取材した中には「我が家の1か月のすべての支出内容を子どもに伝えた」というご家庭も。お子さんが小学生のころ、生活費として置いておいた現金から数千円を盗み、ゲームやお菓子につかっていたことがあったそうです。そこで、子どもに、食費・光熱費・習い事代…生活にどれだけのお金をかけているのか、伝えたそうです。「家計」についてオープンに子どもに話すのは少し勇気がいるようにも感じますが・・・このご家庭ではその後「お金のトラブル」もなく、お子さんも月の限られたおこづかいの中で、頑張ってやりくりをしているそうです。
スマホやタブレットの中にたくさんの「お金のトラブル」のもとが潜む時代、ご家庭で出来る対策をとることももちろん大事ですが・・・もし「失敗」が起きてしまっても・・・それも逆に「学び」のチャンスととらえて、しっかり子どもと話し合っていく、そんな心構えも同じくらい大切なのかもしれません。
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