肥満症と肥満の新薬登場 注意すべき点は?

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「肥満」と「肥満症」は違う

肥満または肥満症の疑いがある男女9400人を対象にしたアンケート調査によると、「自身の体型が健康面から問題と感じる」と答えた人は76%と、体型を気にしている人が非常に多い一方で、「肥満」と「肥満症」の違いについて「知っている」と答えた人はわずか8%にとどまっています。
「肥満」と「肥満症」は違います。今回登場する新薬を正しく使うためには、この2つの違いを知ることが大切です。

肥満と肥満症に関する意識実態調査

「肥満」と「肥満症」の違い

「肥満」は、体格指数BMIが25以上の人が該当します。一方、「肥満症」は、BMI25以上に加え、2型糖尿病や脂質異常症、高血圧、高尿酸血症などの肥満に関連する11の健康障害のどれか1つ以上を合併している、または、内臓脂肪の蓄積がある場合に診断されます。

肥満症とは

「肥満」は治療の対象にはなりませんが、放置すると、糖尿病や脂質異常症などのリスクが高くなるので注意が必要です。一方、「肥満症」は積極的に減量治療を行うべき病気と診断されます。特に、内臓脂肪を減らして、肥満に合併する疾患を予防・改善することが重要です。

肥満症と肥満の新薬とは?

今回、登場する新薬の1つは、肥満症の“治療薬”で「セマグルチド」と呼ばれ、2024年2月に発売が開始される処方薬です。もう1つの新薬は、肥満の人向けの市販薬で、2024年春頃に発売開始予定の「オルリスタット」という肥満症の“予防薬”です。

肥満症治療薬と肥満症の予防薬

セマグルチド:肥満症の治療薬

セマグルチドは医師の処方が必要な薬で、週1回、皮下注射します。

セマグルチドはもともと2型糖尿病の治療薬として用いられてきましたが、今回、肥満症の治療薬として安全性と有効性が確認されました。肥満症の治療薬として、実に30年ぶりの登場となり、関心が高まっています。

セマグルチドは「GLP1受容体作動薬」というカテゴリーの薬で、脳に働いて食欲を抑える効果、胃の動きを抑える効果、さらに血糖値を抑える効果があるため、食べてすぐにお腹いっぱいだと感じ、食べる量が減ることにつながります。

セマグルチドの効果

日本を中心に行われた臨床試験の結果、食事・運動療法などの生活習慣の改善に加えて、セマグルチドを約1年継続したところ、10%以上の体重減少効果が認められました。

セマグルチドは、自己注射で行う事が可能です。健康観察のために定期的な受診は必要です。

オルリスタット:肥満の人向けの肥満症予防薬

オルリスタットは市販ののみ薬で、医師の処方なしに購入が可能です。カプセルタイプで1日3回、食事中もしくは食後に服用します。

オルリスタットには、脂質の吸収を抑える効果があります。
通常、小腸では、リパーゼという脂肪分解酵素が脂質を分解して、脂質が吸収されます。一方、オルリスタットを服用すると、オルリスタットはリパーゼと結合し、リパーゼの働きが抑えられます。その結果、脂質は分解されず、そのまま便として排出されます。

リパーゼが脂質を分解
リパーゼが脂質を分解して、脂質が吸収される

オルリスタット服用の場合
生活習慣の改善とオルリスタットを服用した場合

臨床試験では、生活習慣の改善とオルリスタットの服用を組み合わせたところ、半年で内臓脂肪の面積が約14%減少、体重にして3%ほどの減量が確認されました。つまり腹部が太めな人の内臓脂肪と腹囲の減少効果が期待できます。

使用できるのはどんな人?正しく条件を知ろう

肥満症の治療薬・予防薬、ともに使える人には条件があり、副作用のリスクもあります。

セマグルチドの適正使用条件

セマグルチドの適正使用条件

セマグルチドが使える人は、肥満症と診断されている人の中で、以下の①~③のすべてに該当する人です。

①高血圧・脂質異常症・2型糖尿病のいずれかを合併している
②食事・運動療法を行っても十分な効果が得られていない
③BMI27以上で肥満に関する健康障害が2つ以上ある、または、BMI35以上の人

まずは医療機関で適切な診断を受けることが大切です。この治療は日本肥満学会などが認定している肥満症の専門病院などからスタートします。医師や管理栄養士の指導のもと、生活習慣の改善とともに薬を用います。

薬を使っている期間は減量効果がある程度期待できますが、薬をやめるとリバウンドすることが知られていますので、それを避けるためには、生活習慣を改善することが大切です。

セマグルチドの副作用

セマグルチドの副作用

主な副作用としては、吐き気やおう吐、便秘、下痢などがあります。個人差はありますが、「胃がムカムカする」「脂っこいものを受け付けなくなった」などの事例もあります。

やせる効果がある一方で、こうした特性があることも十分に理解した上で使う必要があります。また、頻度は少ないものの、低血糖や急性すい炎、胆のう炎や胆管炎などの重大な副作用を生じる可能性があります。気になる症状がある場合はすぐに医療機関に相談することが必要です。

オルリスタットの使用条件

2024年春頃から市販薬として販売予定ですが、適正使用のためには条件があります。

オルリスタットの使用条件

  • 腹囲が男性は85cm以上、女性は90cm以上。
  • 健康障害がなく、BMI35未満。
  • 食事や運動など生活習慣の改善の取り組みを3か月以上行い、体重や腹囲の記録を1か月以上記録していること。
  • 定期的に健康診断を受けていること。

これらの条件をすべて満たしている場合に使用できます。

腹囲の条件を満たしていても、健康障害がある場合は「肥満症」に該当するため「オルリスタット」は使用できません。

オルリスタットは、全国の薬局で購入できるようになる予定です。ただし「要指導医薬品」と言って、薬剤師と対面で薬についての指導を受けた場合のみ購入ができるため、「この薬についての研修を受けた薬剤師」がいる薬局で販売されることになります。まずは、薬剤師がいるドラッグストアなどで相談しましょう。

オルリスタットの副作用

オルリスタットの副作用

重大な副作用は少ないと考えられていますが、薬の特性によって不快な症状が出ることがあります。例えば、肛門からの油のもれ、便を伴ったおなら、便が油っぽくなる、便がゆるくなるなどの症状です。知らず知らずのうちに下着を汚してしまうこともあります。

これらの症状は、薬の効果と表裏一体の症状で、本来は分解されて吸収されていた脂質がそのまま便によって排出されるために起こるものです。脂質の摂取を減らすなど、生活改善を行うことで、症状は改善していきます。

今回登場する2つの薬は、肥満症や肥満ではない人がダイエットのために使用することはできません。肥満症を治療・予防するための薬です。誤った使い方をしないようにすることが大切です。

この記事は以下の番組から作成しています

  • きょうの健康 放送
    ニュース「肥満症 新たな治療薬が登場 注意すべき点は?」