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2024年5月7日(火)

あなたの自宅や実家は大丈夫?住宅の耐震化で命を守る

あなたの自宅や実家は大丈夫?住宅の耐震化で命を守る

全国の耐震化率は87%と向上していますが、倒壊の危険がある古い木造の住宅は耐震化されず各地に残ったまま。耐震化が進まない理由は都市部と地方それぞれです。墨田区の木密地域では住宅の密集が工事の妨げになり、伊豆半島では過疎化がネックに。そうした中、高知県黒潮町では、低コストの工法や補助金などで住民の費用を削減。実施率を上げました。個人ではなく地域全体で命を守る住宅の耐震化を進めるにはどうすればいいか考えました。

出演者

  • 福和 伸夫さん (名古屋大学 名誉教授)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

耐震基準“強度に差” 自宅や実家は大丈夫?

桑子 真帆キャスター:
木造住宅の耐震基準は、大きな地震などをきっかけに1981年と2000年の2回、見直されています。まずは1981年以前の旧耐震基準です。これは屋根が重く、筋交いなどが少ないつくりです。その後、改正された1981年から2000年の新耐震基準。これは筋交いなどが増えて、震度6強から7の揺れでも倒壊しない設計になっています。そして、現行のいわゆる2000年基準。筋交いの配置のバランスをよくして、柱などの接合部の補強が厳格化されました。行政が算出している耐震化率というのは、新耐震基準と2000年基準を満たしている住宅の割合のことを指しています。では、揺れに対して強度がどれぐらい違うのか、実際に揺らしてみます。

地震が起きました。そうすると、旧耐震基準は僅かな時間で倒れてしまいますが、その後も揺れが長く続きますと、新耐震基準も倒れてしまいました。このように耐震基準によって強度に明らかな差があるんですけれども、2000年以前に建てられた住宅でも、2000年基準と同等の強度にすることはできます。それは、耐震改修をすることなんです。ただ、取材を進めますと、耐震化が一筋縄ではいかない事情が、都市部と地方、それぞれにあることが見えてきました。

耐震化率95%の謎 密集する木造家屋

東京・墨田区にある京島地区。都内で、建物の倒壊危険度が最も高いとされています。ここで町会長を務める、1級建築士の金谷直政さんです。地区の耐震化を進めたいと考えていますが、都市部ならではのハードルがあるといいます。

京島3丁目北町会 1級建築士 金谷直政さん
「隣の家と(工事のため)の幅も確保できないのが、かなりの数あると思います」

木造住宅が密集し、隣との幅が30センチに満たない場所もあり、耐震改修や建て替えが難しいのです。子どもの頃から、この京島で暮らす山澤常男さんです。自宅は、築50年を超える旧耐震基準の建物。

山澤常男さん
「これが能登の地震のときに、ゆーらゆら。山澤さん家の地震計」

壁や基礎の強度が低く、金谷さんの見立てでは、工事に多額の費用がかかるといいます。

金谷直政さん
「耐震壁というのを増やしていかないといけない。最低限で300万円以上はかかるんじゃないかと思います」

この地区で高齢者が住む家の耐震化には、墨田区から170万円まで補助が出ます。それでも、お金をかけてまで密集した地区で耐震化することに、山澤さんは疑問を感じています。

山澤常男さん
「自分の所をしっかり(耐震化)しても、隣が倒れてきちゃうから、1軒だけ自分がやっても意味がないんじゃないか。おっかなびっくり、毎日、過ごしているしかないでしょ」

墨田区には、他にも木造住宅が密集する地域がありますが、耐震化率は95%です。なぜ100%近い数字になっているのか、区の担当者に聞きました。

墨田区都市計画部 不燃・耐震促進課 課長 田口茂敏さん
「建物の棟数ではなくて、住戸数で計算されていることが要因にある」

耐震化率は建物の数ではなく、住居の数をもとに推計します。例えば、100部屋のマンションが建つと、耐震基準を満たした100戸の住居が増えたと換算されます。そのため、新しいマンションが建築されるたびに数値は上がっていくのです。
実際、墨田区内のマンションなど共同住宅の数は、2020年までの7年間で、およそ1.5倍に急増。耐震化率も95%までに上昇しました。区は、全体の耐震化率だけを見て判断すると、地域のリスクに気付けないおそれがあると考えています。

田口茂敏さん
「実態と数字とが合致しているわけではないというのが正直なところ。倒壊したあとにそれが火元になって、最悪の場合、市街地大火につながるおそれがある。改修や除却(取り壊し)に進んでいけたらというところです」

耐震化にあきらめ 地域全体のリスクに

一方、地方で耐震化が進まない理由には、費用の問題に加え、地域特有の事情があります。

伊豆半島の南端に位置する静岡県南伊豆町です。20年前から災害対策に力を入れてきましたが、耐震化率は62.6%にとどまっています。耐震改修に手厚い補助金を出しているにもかかわらず、この8年で工事に至ったケースは1件もありません。

南伊豆町役場 地域整備課 肥田怜さん
「どこの地区も高齢化が進んでいるので。家が古いからという理由で、『(耐震化を)やったところで意味がない』という方も中にはいたので」

築50年の家に暮らす柴本玉代さんも耐震化に踏み切れない1人です。子どもは地元を離れ、現在は1人暮らし。この家に暮らすのは柴本さんが最後になる見込みです。さらに、耐震化できないのは、海沿いの事情もあるといいます。

取材班
「それ動かないですか?」
柴本玉代さん
「動かない。塩と砂で」

塩害でサッシや水道管などが痛みやすく、家を維持するだけでも費用がかさむのです。

柴本玉代さん
「1軒の家を持つと維持するのが大変だと、年をとったらよけいに思います。(耐震化は)何百万の話でとてもじゃない。そういう話はできないなって」

しかし、耐震化が進まないことは、この地域全体のリスクにつながると指摘する専門家がいます。静岡県の防災計画に携わってきた岩田孝仁さんです。地震によって津波が来た場合、住宅の倒壊が被害を拡大させると懸念しています。

静岡大学 防災総合センター特任教授 岩田孝仁さん
「こういう狭い道で(家が)倒れ込んでくると人が通れなくなる。緊急避難でこの通路が通れないと、別に通路を探さなきゃいけない。それだけ(避難に)時間がかかる」

能登半島地震でも、倒壊した建物が道路を塞ぎ、避難が遅れたという被災者の証言があったといいます。さらに、岩田さんが危険視しているのが空き家。劣化が早く、倒壊の可能性が極めて高いというのです。

岩田孝仁さん
「こういう地域は伊豆半島だけではなく、全国、地方都市にはいっぱいある。(家は)個人の財産であるけれども、地域全体の大きな課題になる。地域の総意で話し合いをしていくのが非常に重要」

全国平均87% 耐震化率どう見る?

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
各自治体が発表している最新の耐震化率をこちらにまとめました。これは、色が濃いほど耐震化率が高いことを示していますが、これを見ると、ほとんどが色のついた80%以上であることが分かります。

中でも都市部では高く、例えば東京23区では90%以上が7割以上を占めるんです。なぜ、この耐震化率が建物の棟数ではなくて、戸数ベースで推計されているのか、私たち国土交通省に聞きました。すると、「住宅の耐震化の主な目的は、居住者の安全を確保すること。耐震性がある住宅に住んでいる世帯が、どの程度あるかを把握するために戸数ベースの把握が適切だと考えている」という答えでした。ここからは建築耐震工学が専門の福和伸夫さんとお伝えします。よろしくお願いします。誤った認識を与えかねないんじゃないかと思うんですけれども、この耐震化率の数字は、どういうふうに考えたらいいのでしょう?

スタジオゲスト
福和 伸夫さん (名古屋大学 名誉教授)
建築耐震工学が専門

福和さん:
ただ、人の生き死にで言いますと、戸数ベースなんです。一体、何割の人が死亡するような倒壊危険度が高いか。だからこれは、こういう数字を出すことには一理はあるんです。ですが、一方で、どれだけの建物がまだ直っていなくて、その建物で何人が犠牲になるのかという意味で言うと、率ではなくて棟数である必要があるんです。それから、努力がどれだけ進んでいるかと見ることも大事で、墨田区のように毎年1%ずつ人口が増えるところは、毎年1%ずつ自動的に耐震化率が増えちゃうんです。一方で、過疎地は新しい人はいないので、古い建物がずっと残るわけです。問題は、古い建物のうち何割が耐震改修されたか、この努力の証しを見せてあげないといけないということが一つ。もう一つは空き家の存在です。これは、非常に問題が多いので、空き家の戸数がどれだけあるかは合わせて見せる必要があります。

桑子:
では、なぜ耐震化になかなか踏み切れないのか。国土交通省が5年前にアンケートを行った答えを見てみますと、お金の話に次いで、“耐震化しても被害は避けられないと思う”という割合も23.9%いたわけです。ただ、実際に1月に起きた能登半島地震では、改めて耐震化が有効だということが国の調査で明らかになってきているんです。

地震の住宅ダメージ 耐震改修の効果は?

調査委員会では、耐震基準によって住宅のダメージがどれだけ違うか、現地調査を進めています。

京都大学 生存圏研究所 教授 五十田博さん
「向こうは旧耐震のようですね」

倒壊した建物の多くが旧耐震基準と見られます。さらに。

「これも新耐震。これは金物がついてる」

新耐震基準と見られる住宅で倒壊しているものもありました。

五十田博さん
「2000年基準は満足していない。性能100がいまの基準だとすると、これは70とか80ぐらい」

そうした中、旧耐震基準にもかかわらず、被害がほとんど見られない家がありました。

五十田博さん
「この建物は改修をしていますか?」
住民
「外を化粧して、中を少しあれ(耐震改修工事)したんで。家の中に斜交い(筋交い)を入れた」
五十田博さん
「斜めのやつね」
住民
「斜めに」

この築59年の木造住宅は、10年前に耐震改修を行っていました。建物の6か所に筋交いや壁を追加。さらに、柱が抜けるのを防ぐ金具も取り付け、2000年基準と同等の強度にしていました。

住民
「絶対に潰れていてもおかしくないけれども、意外ときれいかなって感じ」

今回の調査では、耐震改修をしたと思われる6軒の木造住宅が倒壊を免れていました。

五十田博さん
「周りがかなり被害が出ているのに、(耐震改修した家は)ほとんど被害が防げているところを見ると、非常に効果があったことが分かってよかった」

耐震改修どう進める? 8割の自治体で補助

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
この国の調査委員会の結果は、秋ごろに出るということでしたけれども、耐震改修しているかしていないかで大きな違いが出ますね。

福和さん:
見事です。先ほどの桑子さんの実験のとおりのことが能登で起きたわけです。ですから、何としても耐震化を進めるしかないんです。これ、ちゃんとしなければ命も生活も守れません。特に甚大な被害が予想されている南海トラフ地震のような地震は、あまりにも被害が大きいので、大工さんが足りない、避難所も足りない、仮設住宅も足りないんです。とにかく、この国をなんとか持ちこたえるには、すべての国民が自分の命と生活を守る、そういう責任を持っていることに気が付いていただきたいと思います。

桑子:
危機感を持たないといけないですね。そのために耐震改修がとても大切になってくるわけですけれども、どのように耐震改修を進めればよいのか、流れをまとめました。まず行うのが耐震診断です。これは、建築士が家に来て、柱や壁、窓の大きさなどをチェックして、どれくらいの強度があるのか数値で評価をしてもらいます。そのあと改修計画・設計を行って、見積もりを出してもらって、実際に耐震改修工事に進むということです。8割以上の自治体では、この診断や工事に補助金を出しているんですけれども、ここで注意があります。初めに自治体に問い合わせなければ、この補助金、受け取れない場合があります。さらに額や条件も自治体によって異なりますから、まずは自治体に問い合わせることがとても大切です。この耐震化を進めるためには、工事を実施する必要があるわけですけれども、住民が次々に重い腰を上げている自治体があるんです。

住民の背中を押す施策 負担を最小限に

武政敏明さん
「目の前が海なので、魚介類もおいしいし、最高の場所やと思いますね」

高知県・黒潮町(くろしおちょう)に住む武政敏明さんです。生まれ育った築51年の家を耐震化するかどうか、3年間迷ってきました。そんな武政さんが、この春、ついに工事を行うことにしました。お金がかからない自己負担ゼロの耐震改修ができるようになったからです。

武政敏明さん
「自分のところの持ち出しがなくて、工事ができるのはすごく大きい」

可能にしたのは、耐震化を強く推進する町の政策でした。南海トラフ巨大地震で最大34メートルを超す大津波が想定される黒潮町。住宅の倒壊で避難を妨げないようにするには、耐震化が重要だと考えたのです。

黒潮町役場 情報防災課 国見知法さん
「命を必ず守る、犠牲者をゼロにするためには、次にどういう手を打ったらいいか。耐震化を強く進めてきた」

町が、住民の自己負担を減らすために導入したのが、低コスト工法です。
例えば、壁の改修工事。アルミの棒を取り付け、上から板を張りつけることで補強します。壁をすべて取り払っていた従来の工事より手間がかからないうえ、2000年基準と同等の強度にすることができます。

耐震改修 施工業者
「(以前は)この土壁を全部取って、ほこりもすごいし、家の人にも迷惑がかかった。(低コスト工法は)全然違いますね」

町は、低コスト工法を開発した専門家を県外から招き、地元の工務店向けに講習会を開催。技術を普及させました。さらに昨年度、補助金の上限を125万円に増額。その結果、耐震改修をした人の6割以上が、補助金の範囲内で工事ができるようになったのです。
町は、住民の関心を高める取り組みも行ってきました。旧耐震基準の住宅を訪ね、耐震化の重要性や補助制度について説明しています。

黒潮町役場 職員
「役場から125万円、お金が出るんですけど、この125万円で収まった人の方が多いんです」
住民
「年金暮らしですからね。(補助金の)枠内にしてもらえるんやったら」

費用の軽減や戸別訪問が実り、1人暮らしの高齢者の自宅の耐震化も増えています。下村修子さんは息子に勧められ、2024年2月、耐震改修しました。

下村修子さん
「そんな(家が崩れる)とは、一つも思わなくなった。くつろいで寝よるよね」

息子の昌幸さんは別の場所で暮らしていますが、実家であるこの家を耐震化することにメリットを感じているといいます。

長男 昌幸さん
「ここは海岸から3キロぐらい、海抜30メートル近くあります。津波の心配はないので、ここの家を耐震化しておけば避難できる。やらんと損じゃないかと」

黒潮町では、こうした政策の結果、およそ4000戸ある旧耐震基準のうち、1100戸以上の住宅で改修が完了しました。町は、耐震化を、まちづくりの一環としても活用しています。

黒潮町役場 まちづくり課
「こちらは10年ほど空き家だったと所有者から聞いています」

空き家を町が借り上げ、リフォームと同時に耐震改修も実施。月2万円ほどの家賃で移住希望者に貸し出しています。これまで38軒の空き家を耐震化。若い世代の移住による地域の活性化につなげています。

黒潮町役場 まちづくり課
「募集をかければ1戸の住宅に対して、2~3件ぐらいの申し込みがきている。空き家を活用することで、地域の安全につながっている」

住宅耐震化は命に直結 行政の役割とは

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
この黒潮町では、旧耐震の住宅すべてを5年間で3周回るなど、粘り強い対策で耐震化を進めてきたそうですけれども、この低コスト工法は他の地域でも汎用性あるのでしょうか?

福和さん:
いろいろな地域でも、すでに使われ始めてます。こういうアイデアは、もっとみんなで次々と出していかないといけなくて、大工さんも含めて建設業界ぐるみで、いい方法を安く、効果的な方法を出していかないといけないです。

桑子:
本当に家は私たちの命を守るものですけれども、いかに重い腰を上げて耐震化するかというところですよね。

福和さん:
これはなかなか難しくて、今もVTRの中にも出ていましたけど、ちゃんとやった人を褒めてあげる。“すごいな”とみんなが言ってあげるとか、ご近所のよく知った人が親身になって説得をするとか、地域ぐるみ、もう一つ、大事なのは、家族ぐるみなんです。もしも、お孫さんが来て、“おじいちゃん、この家、直っていないと、僕、怖くて寝れないよ”とか、ひと言でも言ってくれれば前に進むんです。ですから、地域ぐるみ、そして、家族ぐるみ。さらには、できれば従業員もちゃんとしたほうがいいから企業ぐるみ。そういったさまざまな取り組みを行政がどれだけ支援できるかということも頑張らないといけないんです。

行政の力は全然足りないのだから、あらゆる力を借りる。と同時に、行政ができることは少しでも同じお金をかけて、よりよく耐震化すること。例えば、ここに耐震診断ってありますけど、今、申請しないとだめなんです。でも、多くの診断は無料なんです。だったら、もう申請しなくても行政のほうがおせっかいに、すべての建物を診断してあげるよって、一歩進めば、ずいぶん動きが変わります。そのあとの設計、改修までの道筋も応援してあげることも大事です。

そして、黒潮町の例にあったように、実は空き家の耐震化を進めると地域の魅力づくりにもつながる。若い人たちが都会からどんどん移住してきてくれれば、地域の活性化そのものになります。さらに、何か首都であれば、そこが疎開先にもなるわけです。さらに、これは首都一極集中の是正にもなるということで、日本の未来を考えるうえでは地域の活力を上げるしかないんです。地域の活力を上げるためには、地域の防災力を圧倒的に上げていくというようなことを、からめ手ですることが大事で、1つの施策じゃだめなんです。あらゆる施策を前向きに組み合わせながら、耐震化をすることを主流にしていく。楽しくやるのが大事です。

桑子:
確かに。ありがとうございます。

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