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2022年4月6日(水)

どこまで上がる!? 物価高騰 ~値上げラッシュvs. 家計の行方

どこまで上がる!? 物価高騰 ~値上げラッシュvs. 家計の行方

まさに“値上げの春”。カップラーメン、ティッシュペーパー、ガソリン…かつてない勢いで食品や日用品・光熱費などの価格が引き上げられています。 スーパーとメーカーの間では価格をめぐる綱引きが勃発。このまま物価が上がり続けると、暮らしにどれほど影響が出るのか?そして、家計を守るカギの「賃上げ」は今後どうなるのか?

出演者

  • 酒井 才介さん (みずほリサーチ&テクノロジーズ 上席主任エコノミスト)
  • 桑子 真帆 (キャスター)

※放送から1週間はNHKプラスで「見逃し配信」がご覧になれます。

なにがどこまで高くなる? "値上げラッシュ"の実態とは

私たちの身の回りで、今何がどのくらい値上がりしているのか。

栃木県を中心に21店舗を展開するスーパーマーケットでは、先週、新年度に向けて値札の貼り替えに追われていました。

値上げの対象となるのは生鮮食品から加工品など日用品まで、取り扱う商品の実に6割に及んでいます。多くは5%から10%の値上げです。

連日、取引先のメーカーから出荷価格を上げたいという依頼が届いていました。おととし、去年と比較すると、ことしは対象となる商品の数も値上げ幅も大きく上回っています。

食料・雑貨担当 吉田拓矢さん
「去年1年分の値上げが、もう2か月ぐらいで同じ数きてしまっている。下手したら10倍近くの(商品が)値上げになると思われます。これだけのメーカーさんで値上げが発表されると、どうしてもわれわれの努力だけでは抑えきれない部分も多く、(店頭)価格に転嫁せざるを得ない状況」

なぜメーカーは値上げせざるを得ないのか。先ほどのスーパーに商品を卸している製麺会社を訪ねてみると…。

値上げの1つ目の原因は、うどんの原材料である「小麦」の価格高騰です。世界的な不作などが原因で取引価格が急上昇。

この製麺会社では仕入れ値が去年と比べ、18%上がっています。

製麺会社 大兼宥二社長
「ボイラー(燃料は)灯油なんですが、ボイラーと風で乾燥させる」

2つ目は、麺の乾燥に欠かせない「灯油」が33%。3つ目は「包装」で、原料の石油が値上がりし12%。4つ目は出荷に必要な「段ボール」で、10%コストが増えました。

製造から出荷まであらゆるコストが上がったことで、1袋200円のうどんを210円に値上げせざるを得なくなったのです。

大兼宥二社長
「原料だけだったら我慢するときもあるんですが、すべての包材(包装)から燃料から全部、それも大幅に上がってますから現状でやろうということは無理かなと思ってます」

懸念されるウクライナ情勢の影響

では、一体値上げの波はいつまで、そしてどこまで広がるのか。

栃木県のスーパーでは、4月以降もインスタントラーメンや缶詰のメーカーから出荷価格を上げたいという依頼を受けています。

そして今、最も懸念しているのがウクライナ情勢です。

生鮮担当 布瀬茂樹さん
「ウクライナなんですけれども、小麦、大麦、とうもろこし、非常な大きな生産量を抱えております。(外国産の)牛肉、豚肉、鶏肉、全般に関わることなんですが、飼料が高騰するイコール値上げというのが避けられない状況となっております。5月、6月から影響を受けてくるものと考えております」

情勢次第では、さらなる値上げは避けられないと見ています。

商品部 川島秀記部長
「競合店の状況もあると思いますので、値上げ後に1回確認してもらって、競合に負けないような価格設定にもう1回見直してもらう」

安さをどう維持するか 1円単位の攻防

今後、暮らしの味方だった低価格の商品はどうなってしまうのか。

首都圏を中心に134店舗を展開する大手スーパーでは、高品質・低価格を掲げ30年以上にわたって売り上げを伸ばし続けてきました。

しかし今、看板商品である299円弁当(税抜き)の価格の維持が危ぶまれています。

この日、食材の卸販売業者や容器メーカーと対応策を話し合いました。

スーパー担当者
「しゃけとさばの弁当なんですけれど、現行この商品はほぼほぼもうけがない商品になってます。それをさらに他の具材が値上げする中で維持するのはかなり難しいけれど、煮物をきんぴらにかえます」

メインの食材は変えず、副菜を見直すことで値上げせずに済む道はないか。

スーパー担当者
「299円を維持するとしたら、メインで入っているから揚げ4個入っているけど、1.5個(分)取らないといけない」
スーパー担当者
「パスタが30グラムで、今10円ぐらいですね」
スーパー担当者
「パスタをじゃあ」
「パスタを抜きます」
スーパー担当者
「これでから揚げ何個分?」
「これでから揚げが1個分です。あと0.5個分ぐらい減らさないとだめですね」

1円単位のコストカットは限界に近づいていました。

スーパー担当者
「このソースって、さすがに難しいよね、価格」
卸販売業者
「今あの、結構ギリで価格出させてもらってて、値上げ幅も最小に抑えさせてもらっているので」

話し合いの結果、から揚げ弁当は小麦が原料のパスタをなくし、副菜も変更。コストが上がったから揚げは4個のままとしました。

さらに容器も見直し、これまで使っていたシールがなくてもふたが閉まる容器に変えました。

その結果、シール自体のコストや貼るための人件費、時間など、合わせて年間1,000万円を超えるコストを削減。こうして、299円の価格をなんとか維持することになりました。

大手スーパー 二宮涼太郎社長
「こういった世界情勢の変化を受けて、いろんな分野で今までと違う状況が起きていますけれど、そういった中でもお客さまの日常生活はこれからもずっと続きますので、今まで以上にいろんな商品の見直し、知恵を絞りながらスピードアップして対応していく必要がある」

家計への影響を"値上げ予報"で分析

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
きょうはのゲストは、日本経済の調査・分析を専門としている酒井才介さんです。よろしくお願いいたします。

スタジオゲスト
酒井 才介さん (みずほリサーチ&テクノロジーズ 上席主任エコノミスト)
日本経済の分析が専門

酒井さん:
よろしくお願いします。

桑子:
値上げがいつまで、そしてどこまで広がるのか。番組では酒井さんに独自に試算をしていただきました。その名も「値上げ予報」ということで、まずこの矢印、これが値上げの可能性がある時期ということになります。

カレンダー形式になっていまして、色が濃くなれば濃くなるほど値上げが進むことを表しています。4月上旬を見ますと、この先もずっと矢印が伸びているんです。つまり、まだ私たちは値上げの入り口にいるということなんですね。

酒井さん:
今、世界的に原油、小麦とかいろいろなものの値段が上がってきています。そして、それがわれわれ国内の消費者が直面する小売価格に波及してくるのがこれからということになります。

例えば小麦ですが、小麦というのは政府がまとめて輸入して、それを小麦と商品を作るメーカーに渡しているのですが、そのときの価格を過去2番目に高い水準まで価格を引き上げました。

そして、そのメーカーに受け渡す価格が引き上がった影響が、われわれ消費者が直面する小売価格に波及してくるのが数か月後、6月から8月ぐらいにかけて小麦関係の商品の値段が上がってくるということになります。

桑子:
それで色が濃くなっていると。ただ、これを見ますとさらにその先、11月以降も色が濃くなっています。これはどんな要因なのでしょうか。

酒井さん:
政府がメーカーに受け渡す際の価格は半年に1回引き上げているのですが、次に10月に引き上げられます。ウクライナ情勢の緊迫化というものが反映されてくるのが、10月の改定ということになります。そして、10月のときにはウクライナ情勢を受けた小麦の価格の高騰、この影響が反映されてきますので、それを受けて小麦関係の商品がさらに値上がりしてくる。ことしの終わりから来年にかけて、小麦関係の商品の値上がりがさらに一段と進む可能性が高いということになります。

桑子:
今の値上げというのはウクライナ情勢が反映されていないということになるわけですね。

年7万円、月6千円の負担増も?

桑子 真帆キャスター:
こうした見通しが出ているわけですが、では去年と比較して家計の負担が年間でいくら増えるのか試算していただきました。前提として2人以上で年収が400万円から500万円という平均的な世帯で試算しました。

まず、パンやうどんなどの小麦に関連する商品は不作によって年間で4,447円の負担増。

かにやサーモンなどの水産物はロシアからの供給減などで、さらに肉や牛乳、そして卵は飼料の高騰でそれぞれ負担増になります。

さらに原油の高騰の影響も大きいです。まず輸送コストが増すことで商品の値段が上がる。さらにはエネルギーの高騰で、それぞれ万単位で負担が増えていくわけです。

ほかにも不足する小麦や原油の代わりとなる物の値上がりも含めて、全部足しあげますと400万円から500万円の年収の世帯では年間7万円余りの負担増。月額にしますと、6,000円近くの負担増になります。酒井さん、7万円というのはどれぐらいのインパクトがあるんでしょうか。

酒井さん:
7万円という支出金額の増加は、消費税の大体2%の引き上げに相当するインパクトということになります。

桑子:
2%の消費増税分の負担。

酒井さん:
この試算なんですが、原油や小麦とかが足元の水準から大体50%ぐらい上昇して、そのあと高値圏で推移していくということを前提にした試算です。

少し厳しめの試算ということになるんですが、ただ経済制裁の強化の状況とかを踏まえますとそのぐらい上がってしまうリスクが十分考えられるかと思います。

桑子:
家計にかなりのダメージがあるということで、ちなみにこれは400万円から500万円の場合なのですが、例えばほかの年収の世帯の場合だとどうなるのでしょうか。

酒井さん:
例えば年収300万円未満の低所得者の方にとってみると、消費税の3%程度の引き上げに相当するインパクトということになります。

桑子:
負担がさらに重くのしかかるということなんですね。

酒井さん:
そうです。低所得者の方はガソリン代、電気代、あるいは食料品といった生活必需品の支出が、収入に占める割合、これがどうしても高くなるので生活必需品の値上げの影響というものがより大きく反映されるということになります。

桑子:
こうしてさまざまなものが値上がりする厳しい状況の中で、鍵となるのが「賃上げ」なんです。ただ、果たして実現できるのでしょうか。

"未曾有の物価高騰" 「賃上げ」の実現は?

牛丼店をはじめ、国内外におよそ1万店舗を展開する大手外食チェーンの売り上げは6,000億円余り。従業員は1万6,000人に上ります。

創業者の小川賢太郎会長は、日本の消費を活性化するためには継続的な賃上げが欠かせないと考えています。去年、労働組合と正社員の基本給を10年連続で増額するという約束をしました。

大手外食チェーン 小川賢太郎会長
「生活産業は消費者の消費に依存していますから、要するに賃上げが必要だということ」

そこで、去年12月には牛丼並盛を350円から400円に。原材料高騰への対応に加え賃金を引き上げるなど、人への投資も進めようと値上げに踏み切ったのです。

小川賢太郎会長
「賃上げもやるし、消費者のみなさんにもバリューある商品を届ける。この2つをバランスをとってやっていくには、節度ある値上げが必要であると。価格政策にも織り込んで長期的な視点でやらないと」

こうした中で迎えた、ことしの春闘。労働組合は大幅な賃上げを求めました。

ゼンショーグループ労働組合連合会 本坊興一会長
「これが2022年春季労働条件改定交渉の要求書です。賃金が上がったと実感できるレベル。これが1万円。家計の不安と負担というものは、日に日に大きくなっている」

原材料価格が高騰し、ウクライナ情勢が緊迫化する中で行われた交渉。組合の要求どおりだと、人件費の増加分は年間1億円を超えることになります。

人事本部長
「われわれとしては、定期昇給1.9%。ベースアップ、これが1.6%。合計3.5%。金額にして11,739円の賃上げという回答をいたします」

経営が出した回答は、過去最高の賃上げとなりました。

しかし、これからも賃上げを続けていくためにはその原資をさらに確保する必要があります。

本部と店舗の厨房をシステムでつないで品質を一元管理。調理も自動化するなど、生産性の向上を徹底的に図ろうとしています。

小川賢太郎会長
「単にコストとして人件費としてではなく、人材、財産、新しい価値を生み出すと。給与を上げて、上がった分の多くを消費に回す。ポジティブな国民経済のスパイラルが回っていく。構造転換を日本はいま真剣にやらないと、沈没し続ける」

一方、労働者のおよそ7割が働く中小企業に賃上げの動きは広がっているのか。

国が今強化しているのが、中小企業と大手企業などの取り引きを監視する下請けGメン。4月から倍増しています。

下請けとなっている中小企業が大手企業などに製品を納入するときの取引価格を大手に上げてもらうことができれば、中小企業は賃上げがしやすくなります。そこで中小企業庁は全国各地にGメンを派遣し、不当な取り引きがないか聞き取り、大手企業に違反があれば行政指導を行います。

この日、行われた調査報告会。Gメンの元には悲痛な声も届いています。

"取り引き開始以来、値上げを認めてくれることはなかった"

"怖くて価格交渉ができない"

"最悪の場合はすべての仕事を失う可能性がある"
中小企業庁(下請けGメン担当)遠藤幹夫課長
「(大手などが)『賃上げ分は転嫁しない』、『自社でなんとかしてください』と言い続けている限りは、賃金を上げていくという社会を実現できない。労務費(人件費)についてもしっかり価格転嫁をしていただけるように対策を進めていかないといけない」

カギとなるビジネスモデルの転換

<スタジオトーク>

桑子 真帆キャスター:
経済が回る仕組みを図示してみましたが、賃金が上がれば消費もその分上がって景気が上向いていく。そうすると企業の業績もよくなる。

この好循環を作っていきたいわけなんですが、賃金を上げるのを中小企業で、実現するのが鍵なんだというお話でした。ただ、実際に実現するにはどうしたらいいんでしょうか。

酒井さん:
賃金の原資のために、将来の売り上げを伸ばしていかなければなりません。鍵となるのはビジネスモデルの転換だと思います。

これまで行ってきた事業をそのまま延長するということだけではなくて、例えばデジタル化を活用してオンラインでの販売チャネルを開拓するとか、そういったことを通じて新しい事業に乗り出すといった工夫が中小企業の経営者に求められるんだと思います。

桑子:
確かにデジタル化といっても、いろいろ普及してきましたよね。

酒井さん:
単にソフトを導入するということだけではなくて、それを使う社員のスキルの向上、こういった「人への投資」ということも大事になってきますよね。

桑子:
ビジネスモデルの転換でいいますと、デジタル化のほかに何かできそうな分野はあるのでしょうか。

酒井さん:
もう一つのキーワードは「グリーン化」ということかと思います。やはり環境問題に対する人々の意識もSDGsといわれたりするように高まってきていますので、そういった人々の志向に応えるような商品の開発、提供、こういったことも考えられると思います。

桑子:
まだまだ手をつけられる分野はあるということですね。

酒井さん:
そういうことになります。

桑子:
そして最後に私たち消費者です。消費者として値上げにどう向き合っていったらいいか、どんなことを今考えたらいいでしょうか。

酒井さん:
これだけいろんなものの値上げというものがある中で、われわれの生活というのは苦しい状況になってきています。ただ、その中で見方を変えますと、ふだんのわれわれの生活を見直す一つのきっかけにもなったのかなと考えています。

桑子:
見直すきっかけになったと。

酒井さん:
例えば家計簿を見直していただいて、どんなものに支出しているのかということをまず「見える化」していただいた上で、先ほど申し上げたように小麦の価格が上がると食パンとかスパゲッティとかそういった小麦を扱う商品の値上げが避けられないわけです。ですが、日本人というのは振り返ってみると米というものが一つの重要な食材だったと思うんです。

桑子:
米文化ですよね。

酒井さん:
ですから、米というのはまだ在庫も潤沢にありますし、まだ値段も上がってきていません。ですから小麦の商品が上がって、よく「パンが食べられなければケーキを食べればいいんじゃないか」という話もありますけれども、ケーキも残念ながら小麦を使うのでだめなんです。

ですから、ここは「おにぎり」だと。小麦を使う商品の値段が上がるのであれば発想を転換して、例えばふだんランチでサンドイッチを食べるけれど、定食とかおにぎりものにするとかそういったことを考える。そういったことを少しずつ見直しをしていく。そういうこともわれわれ消費者に求められるのかなと思います。

桑子:
この日本を直撃する値上げの波ですが、発想の転換で乗り切ろうとする模索も始まっているんです。

"値上げの波"乗り切る 発想の転換とは

原油価格の高騰に直面するプラスチック用品のメーカーでは、原材料の急激な値上がりで利益が30%減るなど大きな打撃を受けています。

プラスチック用品メーカー 岩﨑能久社長
「(原材料の)価格は約1.5倍。(商品の)第2次値上げの局面がくることを懸念」

そこでこの会社が力を入れ始めているのが、石油に頼らない製品の開発です。

こちらのごみ箱。独自の技術で地元の竹を原料に使い、プラスチックの量を半分に減らしました。原油高の影響を避けつつ、環境意識の高い消費者のニーズを取り込むねらいです。

一方で、プラスチックの高い成形技術を生かし、新たな分野にも進出。医療関連では針を使わない注射器の開発も進めています。

逆境からビジネスチャンスをつかもうと、知恵と工夫を凝らして値上げの波を乗り切ろうとしています。

岩﨑能久社長
「チャレンジしていく意欲、明るい夢を描けると。こういうことが全社のパワーになっていくのかなと」

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