スペシャルコーナー

iPS細胞だけでは受賞できなかった!?

竹内:今回の授賞理由なんですが、これは再生医療ですとか、創薬ということではなく、初期化というのがキーワードになっていますが、ここはどういうことなんでしょうか。

山中:ノーベル医学・生理学賞ということで、今回の授賞の理由というのは、どちらかというと、(医学ではなく)生理学の成果として。特にジョン・ガードン先生が50年前に、細胞が初期化するのだと。
 iPS細胞という仕事単独では、今回の受賞はなかったと思います。やはりジョン・ガードン先生が始められた初期化という仕事に対する評価でありますので。ジョン・ガードン先生のお仕事がなかったら、私、12年前に今の仕事、始めることもありませんでしたので。
竹内:ということは、ガードン先生が始められたと。そして山中先生が、ある意味それにけりをつけられたということでいいのですか?

山中:けりと言うか、より分子的な方法で、より誰にでも出来る方法で、細胞の初期化を起こしたのが、iPS細胞なのですね。ですから、あくまでもジョン・ガードン先生の切り開かれた分野が、ノーベル賞の対象になったと。

竹内:なるほど。

便乗受賞!?

山中:そして私は、自分では、これは、便乗受賞だと言っているのですけれど。

竹内:便乗ですか?

山中:はい。本当に。これまでの50年間、ガードン先生が始められた50年間の、生理学としての初期化が、ノーベル賞の対象になりました。
 細胞の中には、設計図があるのですね。30億文字ぐらいのものすごく長い設計図なのですけども、100年間ぐらいずっと論争があったのです。100年前は、その設計図が何か、全然分かってなかったのですけれども、設計図があるに違いないというのは分かっていて。しかし良く考えると、細胞はどんどん分化して行って、皮膚(の細胞)になり、筋肉(の細胞)になっていくのですけれど、そういった分化した筋肉(の細胞)まで、完全な設計図を持っているのかどうか。ものすごく論争があったのです。
 普通に考えると、そんな無駄なことはしているわけがないと。もう筋肉(の細胞)は筋肉(の細胞)の設計図さえ持っていたら、皮膚(の細胞)は皮膚(の細胞)の設計図さえ持っていたらいいと。全部の設計図を持っているのは、生殖細胞だけじゃないか。精子と卵子、特に卵子ですね。そこには完全な設計図があるのだけれども、細胞が発生の過程でどんどん分化して行くと、もうどんどん失っていく。その方が効率がいいと信じられていたのです。もう何十年も。
 それが、ジョン・ガードン先生が、いや、そうじゃないのだと。実は細胞というのは、分化してたとえば腸の細胞になっても、その中には、全身すべての設計図がちゃんと残っているのですよということを、50年前に見つけ、証明されたのが、ジョン・ガードン先生なのですね。

竹内:それが1962年の、先生がお生まれになった年に出た論文ということですよね。

山中:はい。まあ、その時は、論文読めなかったですけども、その年にまさに。

今後もiPS細胞でノーベル賞の可能性がある!?

竹内:今回のノーベル賞というのは、初期化に対して与えられたっていうことですね。

山中:そのとおりです。ですから、やはり今後はこのiPS細胞は、他の幹細胞(とともに)、再生医療の応用というのは進んで行くと思うのですが、逆に言えば、将来、そういった再生医療の分野で画期的な仕事をされた方は、またノーベル賞をもらわれる可能性は、充分あると思います。

竹内:つまり、iPS細胞を利用して、創薬ですとか、再生医療の道を切り開いた方が、将来この分野でノーベル賞を受賞される可能性があると。
山中:充分あると思います。例えば脊髄損傷、いま受傷すると、もう麻痺が治らないのを、ある幹細胞を使って、iPS細胞かもしれないし、他の幹細胞かもしれないのですけども、そういった治療で、もう皆が治ると。そういう本当の意味の治療にする方が出て来たら、かなりの可能性で、その方はノーベル賞をもらえると思いますし。他の疾患でも、今、治らない病気がたくさんありますので、そういう病気の、本当の意味の治療法を作られた方っていうのは、これから新たなノーベル賞、それはノーベル医学賞の方ですよね。

竹内:医学賞の方で、取られる。
山中:はい。これ、1つの賞なのですが、これまでの受賞者を見ましても、明らかに医学賞だと思われる人と、生理学賞だと思われる人と、ちょうど中間の人と、いろいろおられると思いますが。

iPS細胞は中学生でも作れる!?

竹内:ノーベル賞の委員会のホームページに、非常に単純な手法によって、という文言がありますが、それを先生が今回発見された?

山中:そうです。本当に中学生とか、今日、この番組を見ておられる中学生、高校生の方でも出来る方法ですので。僕の研究室にも、もうちょっと年齢上ですが、大学卒業して、全然実験の経験のない大学院生がたくさん入って来ますが、もう1か月、2か月後には、iPS細胞作っていますので。

竹内:本当ですか。ということは、将来的には、夏休みの研究とか!?
山中:いや、(道具さえあれば)実際今でも出来ます。

竹内:本当ですか?

山中:はい。本当に簡単なキットを使えばですね、もう誰でも、レシピを見て料理を作れる人であれば、誰でもiPS細胞は出来る、それぐらい簡単な。

竹内:それにより、今回再生医療とか創薬への道が、非常に大きく開けたということですか?

山中:そうですね。

今後もiPS細胞でノーベル賞の可能性がある!?

竹内:ここからはですね、今回のiPS細胞のアイデアの変遷と言いますか、そこについて伺いたいのですが、ドリーが登場した時は、どんなお気持ちだったのでしょう?

山中:あの、びっくりしました。ちょうどあの頃は、アメリカの研究のトレーニングを終えて、日本に帰って来て。それまでは、ボスの、指導者の研究テーマを行うという立場だったのですね。それが今度は自分自身が研究テーマを考える教員になったのですね。で、何をしようかと、いろいろすごく思い悩んでいる時期でしたから。その時にドリーが発表され、そしてもう1つ驚いたのは、人間のES細胞がやはり同じ頃に発表され、その2つがものすごい僕の今の研究、すなわちiPS細胞に影響しています。
山中:そうなんです。哺乳動物で初めて、核の初期化、体細胞から新しい生命を作るのに成功したのがドリーなのですけども。それによって、じゃあ誰が最初これをやったのだって言ったら、カエルだと。しかももうその時(ドリーの登場)から30数年前に、もうガードン先生がやっていたという。
 ただ、まあいろんな自然現象があって、で、何となしに知っていても、そんなに注目はしないですよね。しかし、そこでものすごく注目したのは、やはり(ドリーを作り出した)イアン・ウィルマット先生たちのお仕事がありますので、だから本当に正直な気持ちで、今回の受賞にイアン・ウィルマット先生が含まれていないっていうのは、実は、私、ものすごく不思議というか。むしろ私よりもイアン・ウィルマット先生の方が、受賞されてもおかしくないような気がします。
竹内:ガードン先生が最初に始められて、ウィルマット先生がそれを継いで。

山中:そうですね。まあ、哺乳類で初めて成功するというのは、ものすごく大きいことですので。