【記者特集】私たちの声を届けたい ~"医療的ケア児者"と家族 初の全国組織が発足~

 

生きるためにたんの吸引や人工呼吸器などの医療的ケアが必要な「医療的ケア児」。最新の推計では(令和2年度)全国に1万9238人(0歳~19歳)いるとされていて、医療の進歩でその数は10年前のおよそ2倍に増えています。

 

そして、この春、全国の「医療的ケア児」と高校を卒業した18歳以上の「医療的ケア者」、それに、その家族をつなぐ、初の全国組織が発足しました。

 

去年9月、医療的ケア児者への支援を進めることを自治体などに求める「医療的ケア児支援法」が施行されてから半年あまり。全国の当事者と家族にとって大きな一歩となっています。

 

(2022年3月28日放送)

 

 

愛称は「i-Line」

 

ことし3月27日に発足した、医療的ケア児者とその家族の全国組織「全国医療的ケアライン=i-Line(アイライン)」。全国各地の医療的ケア児者とその家族でつくる家族会のメンバーや支援者およそ1480人が加盟しています。

 

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「アイライン」という愛称は、「医療的ケア」、共生を意味する「インクルーシブ」、「愛情」の頭文字の「i」。そして、全国の当事者と家族、それに支援者を1本の強い線で結ぶという意味の「Line」を組み合わせました。

 

発足当日は東京都内のスタジオを拠点に、47都道府県に住む医療的ケア児者やその家族などをオンラインでつないで記念式典が開かれました。

 

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代表を務めることになったのは、次男が人工呼吸器が必要だという東京都在住の宮副和歩さんです。式典の冒頭、宮副代表は、次のようにあいさつしました。

 

「医療的ケア児者の就園や就学など在宅生活を支える仕組みはまだ未整備なものが多く、サービスがあっても質や量については地域間格差が広がっています。

 

『医療的ケア児支援法』では、医療的ケア児者や家族の在宅生活を社会全体で支えていくことが基本理念とされ、国や地方公共団体の責務が明記されました。私たちはこの法律が順守されることで、医療的ケアが必要であっても住み慣れた地域で安心して暮らし続けられる環境を切望しています。

 

全国医療的ケアラインでは、当事者同士の交流を深めるとともに、『医療的ケア児支援法』の理念を実現するような制度やまちづくりについて積極的に発信し、インクルーシブな社会を目指す、行政のよきパートナーとして活動していきます。

 

多くの方々に医療的ケアをめぐる社会的な課題に関心を持っていただき、その解決と、医療的ケア児や家族が自分自身の人生を見つけ歩んでいける社会になるよう力を貸してもらえれば幸いです」

(全国医療的ケアライン「アイライン」・宮副和歩代表)

 

 

当事者の声にこそ“力”がある

 

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式典で司会を務めたのは、全国組織の結成を呼びかけた、内多勝康さん。東京・世田谷区にある医療的ケア児を受け入れる医療型短期入所施設「もみじの家」で働いています。

内多さんが会の結成を呼びかけた背景には「当事者の声にこそ力がある」と感じてきたからでした。

 

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3年前(令和元年)人工呼吸器が必要な子どもたちが、親の付き添いがないと特別支援学校に通えないという制度を変えたいと、東京都の医療的ケア児者の親の会が都に要望書を提出したところ、行政が改善に動いたのです。

 

それを間近で見ていた内多さん。まずは、全国の都道府県に医療的ケア児者の家族会を作ろうと、去年5月ごろから各県の関係者や知り合いなどに声をかけ始めました。すると、賛同する声が相次ぎ、はじめは3県にしかなかった家族会は、一気に43都道府県にまで増加(発足当時)。全国組織の発足にこぎつけました。

 

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「1人1人の声は大切ですが、残念ながら1人だけでは声が届かないんです。なので、都道府県の冠がついた家族会とすることで行政に情報が出しやすくなるし、行政側も1人1人の声に対応するのではなく、地元の皆さんの『総意』として向き合うことができると思うんです」(もみじの家 内多勝康ハウスマネージャー)。

 

 

全国組織への“期待”

 

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式典に山形県の家族会(山形県医療的ケア児者・重症児者の会~Faro(ファーロ)~)の代表として参加した親子がいます。新庄市に住む、渡邊千里さんと、この春、中学1年生になった次女の桃瑚さんです。

 

桃瑚さんは、食べ物を自力で飲み込めないため、1日5回チューブを通して直接、胃に栄養や水分を送るケアが必要です。

 

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姉と弟の3人きょうだいという桃瑚さん。母親の千里さんはきょうだいのための時間もとってあげたいと、桃瑚さんが日中通うことができる通所施設や、泊まりがけで預かってくれる「短期入所施設」を長い間、地元などで探してきました。

 

「通所施設」については、千里さんたちの置かれた状況を偶然知った地元の事業所が受け入れ体制を整えてくれました。しかし、「短期入所施設」については、県内では自宅から片道およそ2時間離れたところにあったり、受け入れ体制が充実しているところは、首都圏にあったりと、地元には希望がかなう場所は見当たらないのが現状です。

 

全国組織ができることで、千里さんは先進的な取り組みなどが共有され、各地で支援が進むことを期待しています。

 

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「情報共有ができたりとか、いいところの事例がほかの県で参考にされるということもあると思うので、そういう意味で全国会には、すごく大きな期待を持ったし、うれしく思いました」(渡邊千里さん)

 

さらに、千里さんが長年、課題だと感じてきたのは親亡きあと、誰が桃瑚さんの面倒を見るのかということです。きょうだいには負担をかけたくないと考えていますが、現状では、医療的ケアが必要な人が家族と離れ離れになっても生活できる「グループホーム」などはまだまだ少ないのが現状です。

 

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「きょうだいに頼らずとも、親が年とったときに面倒を見てくれる、本人があわよくば1人で生きていける場所を作るというのがいつしか私の生涯の課題になっています。絶対にそれは実現したいなと思っていますし、全国組織が立ち上がったことでこうした場所が増えていけばなと思います」(渡邊千里さん)

 

 

「アイライン」ホームページも始動!

 

発足後、「アイライン」のホームページも完成しました。問い合わせができるページや、専用のYouTubeチャンネルができたことなど会の最新情報、それに、イベントの告知などが掲載されています。

 

さらに、先月(令和4年5月)からは「全国一斉情報キャッチ」という新しい取り組みが始まりました。医療的ケア児者とその家族に役立つさまざまな情報を専門家などがリモートで講演するという内容で、YouTubeよるライブ配信で毎月開催する予定だということです(テーマによってはアイライン関係者限定となる可能性もあります)。1回目の動画は、すでにYouTubeチャンネルに掲載されています。

 

今後も、交流会や医療的ケア児者を取り巻く課題など当事者の声を発信するイベントなども企画していきたいとしています。

 

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これまで、医療的ケアが必要なお子さんを持つ家族から、「ネットなどで検索しても、医療的ケア児についての情報がない」とか「同じような境遇の家族となかなか知り合えない」という声を数多く聞いてきました。「アイライン」がこうした家族の“光”となってほしいと思います。

 

【「アイライン」のホームページはこちら】

https://ilinezenkoku.wixsite.com/iline

 

 



医療的ケア児    

山形局記者 | 投稿時間:16:26