【医療的ケア児特集③】どうする?看護師の育成

 

3回連続でお伝えしてきた「特集・医療的ケア児」。

最終回は、医療的ケア児とその家族を支援するために欠かせない「看護師の育成」についてです。

 

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そもそも看護師は、どこで医療的ケア児に関わるんでしょうか。

多いのは、保育園のように日中通うことができる施設や学校などです。

また「訪問看護」と言って、自宅を訪ねて家族の代わりにケアをすることもあります。

生活のあらゆる場面で関わっていると言ってもいいと思います。

 

しかし、この看護師をめぐって、今あることが課題になっています。まずは、こちらの映像をご覧ください。

 

 

不足する看護師

看護師は、そもそも全国的に不足しています。さらに「医療的ケア児を見ることができる看護師」となると全く足りていません。

 

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大きな理由が「医療的ケア児を見ることへの不安」です。

医療的ケア児の中には、体調が急変しやすい子どももいます。このため、医師が常駐していない施設や学校などで「いざというときに本当に自分が対応できるのか」と不安に感じる看護師が多いと言われているんです。

 

背景には「医療的ケア児について勉強したことがない」という看護師が少なくないこともあります。

 

以前は、医療的ケア児の数が今より少なく、あまり注目されていない時期もありました。このため専門家によると、看護師として長く働いている人でも、医療的ケア児などの障害児について勉強する機会がなかったという人が多いんです。

 

先進県の取り組みは…

こうした中、注目したいのが岐阜県の取り組みです。

 

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看護師の不安を取り除こうと、県が、大学や看護協会と協力してさまざまな研修を行っています。

 

具体的には、重い障害のある子どもに対応できる知識や技術を1年かけて学ぶ研修や、実技講習、それに、医療的ケアに詳しい人材を派遣してもらって学ぶ「個別指導」など5種類が用意されています。

こうした研修がきっかけで、医療的ケア児の支援に踏み出せたという看護師を取材しました。

 

 

支援につながる“人材育成”

映像でご紹介した郡上さんのように、医療的ケア児や家族を助けたいと思っていても、不安で踏み出せないという声は、県内の看護師からもよく聞かれます。

 

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ちなみに郡上さんが受けた岐阜県の研修(「重症心身障がい児看護人材育成研修」)は、東京の公益社団法人「日本重症心身福祉協会」が行っている看護師の研修を参考にしつつ、現場での実習を重視した形にアレンジしています。昨年度までの5年間に、150人以上の看護師が修了したそうです。

 

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岐阜県の担当者は、研修の狙いについて「看護師に『支援してください』と言っても『障害児・者の講習を学生時代に受けたことがない』と言われてしまうと、そこで止まってしまう。一方で『医療的ケア児についてピンポイントで教えてもらえば支援できるよ』という声もあったので、それなら勉強してもらって支援の輪に入っていただきたいと思い、さまざまな研修を用意した」と話していました。

 

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県内でも研修あるものの…

実は県内でも、山形大学医学部や

看護協会などが、それぞれ独自に研修を行っています。

 

しかし、個別に実施していることもあってか、受講する人は思うようには増えていません。また、岐阜県のように、病院などさまざまな現場での実習を取り入れた研修となると、県内ではまだ行われていないのが現状です。

 

研修に行く時間が取れないという看護師もいます。例えば「訪問看護ステーション」は、1つの事業所につき、最低2.5人の看護師がいれば立ち上げることができます。このため、働いている看護師が少ない事業所も多いんです。そこで、岐阜県では、年6回の出前講座も行っています。

 

山形県や県内の医療関係者の間でも、研修を充実させなければいけないという声は少しずつ上がってきています。できるだけ早く岐阜県のように“県ぐるみ”で人材を育てる仕組みを作ってほしいと思います。

 

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医療的ケア児への支援なにが必要?

ここまで医療的ケア児の特集をシリーズでお伝えしてきました。

 

医療の進歩によって、せっかく救われた命。しかし、わが子と自宅で一緒に暮らしたいという「当たり前の幸せ」を実現するために、多くの家族があまりに大きな犠牲を払っています。

 

「子育てを楽しむというより、介護に負われているようだ」と苦しい胸の内を打ち明けてくれた母親もいました。

 

また「このまま家族以外にケアできる人がいなければ、親がいなくなったあと、この子はどうなるんだろう」と、子どもの将来に不安を感じている家族もいます。

 

こうした家族への支援を進めていくためには、まず自治体や医療・福祉の関係者を含め、多くの人たちに医療的ケア児について知って頂くことが一歩だと思っています。

 

そのためには、各地域で開催されている「家族交流会」や、市町村で開かれている「医療的ケア児への支援を検討する会議」などで、当事者とさまざまな人たちが”つながる”ことが大切だと感じています。

 

そして、医療的ケア児と家族が何を必要としているのか。みなさんに当事者の生の声を聞いてもらうことで、どんな支援ができるかを一緒に考えていけたらと思います。

 

つながる場としての“シンポジウム”

 

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最後にお知らせです。NHK山形放送局では、12月21日に医療的ケア児への支援について考えるシンポジウムを山形ビッグウイングで開催しました。

医療的ケア児や家族だけでなく、市民のみなさんや特別支援学校の先生、医療関係者、それに自治体の担当者など、定員を超える300人近くの方々に来て頂きました。

 

1月31日(金)には、このシンポジウムの内容などを短くまとめた番組を放送します。

 

ぜひご覧下さい。

 

1月31日(金)【総合】午後7:30

「医療的ケア児 シンポジウムin 山形」〈山形県のみ〉



医療的ケア児    

山形局記者 | 投稿時間:17:03