カフェ・あがすけ6杯目 「しあわせおくり」

 

今月も「山形ひるどきラジオ・なにしったのや~?」の中で

2013年制作のラジオドラマを再放送しました。

この回は、作者のあべ美佳さんとずいぶんやりとりをしてセリフを決めた箇所があります。

さあ、どこでしょう(笑)

 

ラジオドラマ・なまら小劇場

Café あがすけ (6杯目)

 

 

『 しあわせおくり 』

 

マスター  柴田 徹
客   白崎映美

  ☆ 
脚本 あべ美佳

 

 

N「ここは『cafe・あがすけ』。カウンターしかない、小さな喫茶店です。……え? あがすけの意味ですか? 山形弁で“カッコつけで生意気な男”のことを言います。──ええ、もちろん、私のことではありませんよ。皆さんはもうご存じかと思いますが、ここ『cafe・あがすけ』の看板は、悩める山形県人にしか見えません。さて、今宵はどんなお客様がやってくるでしょうか」

 

 

カランコローンとドアベルが鳴る。女性客が1人。

 

 

マスター「いらっしゃいませ」

 

白 崎「あの、すみません!」

 

マスター「どうしました?」

 

白 崎「塩もらえますか?(元気いっぱいなまっている)」

 

マスター「え、塩?」

 

白 崎「中に入りたいんですけど、葬式帰りなもんで」

 

マスター「あぁ、大丈夫ですよ。どうぞお入りください」

 

白 崎「そうですかぁ? んじゃあ、おことばに甘えて」

 

 

   ドアが閉まり、中へ。

 

 

白 崎「(座って)よいしょっと。ふぅ、まだ暑っついね」

 

マスター「ですね。ご注文は何になさいます?」

 

白 崎「アイスコーヒーの氷なしを」

 

マスター「え、常温ってことですか?」

 

白 崎「はい、ぬるいのがいいです。ミルク多めで」

 

マスター「……かしこまりました」

 

 

   コーヒーが、とぽとぽと注がれる。

 

 

M「その人は、なんだか変わったお客さんでした。どなたのお葬式だったのでしょうか。一応元気そうに見えますが、落ち込んでいなければいいのですが……」

 

 

   グラスが置かれ

 

 

マスター「お待たせしました、アイスコーヒー氷なしです」

 

白 崎「すみません、こんな真っ黒な格好で」

 

マスター「いいえ、お気になさらずに」

 

白 崎「ありがとうございます。なんか、ここ数日ばたばたしてて……飛行機に乗る前に、コーヒー1杯、ゆっくり飲みたくなったんです」

 

マスター「そうですか」

 

白 崎「父親がね、急に亡くなって」

 

マスター「お父さんが……それは、ご愁傷様でした」

 

白 崎「あ、んでも、そんな、アレじゃないんですよ! もちろん悲しいですけど、父は88まで生きたし、大往生っていうか、よい人生だったと思いますから」

 

マスター「そうでしたか」

 

 

   コーヒーをすする、女性客。

 

 

白 崎「……んん、おいしいごど!」

 

 

   飛行機が飛び立っていく。

 

 

白 崎「へー、ここ、けっこう飛行機の音、聞こえますね」

 

マスター「ええ、すぐそこが山形空港ですからね」

 

白 崎「マスター、この飛行機のチケット、乗る前だったら払い戻しできますよね?」

 

マスター「まぁ、たぶん。でも、念のため確認したほうがいいと思いますよ。……あれ、チケット2枚ありますけど」

 

白 崎「あぁ、これ、旦那の分です」

 

マスター「ご主人のですか。で、ご主人はどちらに?」

 

白 崎「さぁ。車の中に放ってきました。まだ駐車場かな」

 

マスター「大丈夫ですか?」

 

白 崎「いいんです。用があったら携帯鳴らすでしょ。大体、ずっとパソコンいじってて、私の行動なんか気にしてないと思いますから」

 

マスター「お忙しい方なんですね」

 

白 崎「さぁ。パソコン使って何かの商売をやってますけど、何回聞いてもよくわかりません」

 

マスター「そっち方面は私も苦手です。といっても今の時代は何の商売でもパソコン使いますけどね」

 

白 崎「ほんとだ」

 

マスター「ご実家が山形なんですか?」

 

白 崎「はい。この春、主人の会社の支店をね、東京でも立ち上げたんです」

 

マスター「ご主人、社長さんですか。東京に支店なんて、やり手ですね」

 

白 崎「こっちはいい迷惑です。この歳になってから、都会暮らしはじめることになるとは思いませんでした」

 

マスター「このご時世に、たいしたもんだと思いますよ。山形には、ユニークな社長さんがいっぱいいるそうですから、ご主人もきっとその1人なんでしょうね」

 

白 崎「あぁ、そういえばこの間、表彰されてました。経済ナントカ賞ってヤツもらったって」

 

マスター「すごいじゃないですか!」

 

白 崎「何が?」

 

マスター「……え? だから表彰なんて、なかなかされるもんじゃありませんからね」

 

白 崎「ふーん、マスターもそういう考えの人なんだ」

 

マスター「え」

 

白 崎「表彰ねぇ……忙しいのがそんなに偉いかねぇ」

 

マスター「あれ。なんか、あんまりうれしくなさそうですね」

 

白 崎「マスター、私ね、最近思うんです。世の中どうして“何かした人”ばっかり褒めるんだろ、って」

 

マスター「はぁ」

 

白 崎「長い一生のうちで、なぁんにもしなかった人のほうが、私はよっぽど偉いと思うんです」

 

マスター「うーん、それはおもしろい考えですね」

 

白 崎「そりゃあね、世の中のために何かを開発した人とか偉いと思いますよ。でも、何もしなかったっていう人も、相当偉いじゃないですか」

 

マスター「たとえば?」

 

白 崎「うちの父、みたいな。誰にも迷惑かけませんでした、悪いこともしないし、拳を振り上げて何かに抗議したりもしない、ただ粛々と、淡々と、毎日をご機嫌に生きて、人から笑われもしなければ後ろ指も差されない……そういう人はどうして表彰されないんでしょうね」

 

マスター「うん、実に愉快な考えだと思います。私は好きですけどね、そういうの」

 

白 崎「んだべ?!」

 

マスター「でも、何でそんなことを思いついたんですか?」

 

白 崎「あぁ、葬式のときです。ばあちゃん……うちの母がね、葬式のときに言ったんですよ。死んだ父の顔を見て、しみじみ『いだましいなぁ』って」

 

マスター「いだましい、ですか。もったいないって意味ですよね?」

 

白 崎「はい。『いだましいことしたなぁ、んでも、歳だがらしょうがねぇべなぁ』って」

 

マスター「お母さんは、お父さんが亡くなったことがもったいないと……。なんだかドキッとすることばですね」

 

白 崎「んだべ? それ聴いたとき、私、思いました。あぁ、母は父のことを尊敬してたんだなぁって。あんな、目立たない、ほんと普通の人なのに」

 

マスター「そうでしたか」

 

白 崎「うちの両親は、親同士が決めたお見合いで結婚したんですって。結婚式当日までお互いの顔も知らなかったんですよ、信じられます?」

 

マスター「ちょっと……考えられませんね」

 

白 崎「まぁね、昔の人はそんな話、珍しくもないって言うけど、今だったら考えられませんよね。でも、そんな人と半世紀以上も連れ添って、あげくに亡くして『もったいない』って言えるなんて……」

 

マスター「うん、すてきですね。そんな人と巡り会えて、夫婦になれたなんて、うらやましいです」

 

白 崎「うらやましいって言うより、私は怖くなっちゃいました」

 

マスター「こわい?」

 

白 崎「はい。だって私は……20年後、もし主人が死んだら……そりゃあ悲しいけど、泣くとは思うけど、いだましいとは思えないかも、って」

 

マスター「そうですか」

 

白 崎「そんな私を見ていて、娘はなんて思うだろうって」

 

マスター「娘さんがいるんですね」

 

白 崎「はい。ことしで二十歳になりました。一丁前に彼氏がいるとかで、すぐにでもお嫁にいっちゃいそうです」

 

マスター「それはそれは」

 

白 崎「娘には、父と母をお手本にしてもらいたいですね。私は……ちょっとね。あーあ、私も父みたいな人に出会いたかったな。死んじゃったらもったいないと思えるほどの、出会った最初から尊敬できる人に」

 

マスター「最初からじゃないと思いますよ」

 

白 崎「え?」

 

マスター「お母さんに聞いてみたらどうですか? 2人の歴史。子どもが生まれる前は? 30代は? 40代は? 50代は?」

 

白 崎「両親の歴史、か」

 

マスター「はい。何十年も積み重なってはじめて、パートナーが“いだましい人”になったのかもしれません」

 

白 崎「うーん、マスターの言いたいことはわかりますよ。努力して夫婦になったってことだべ? でもね、マスター、そもそも主人は、うちの父とは正反対の人なんです」

 

マスター「どんなところが?」

 

白 崎「何かをしなくちゃ、もっと会社を大きくしなくちゃ、っていつも走り回ってる人です。パソコンと携帯ばっかり見ていて、家でゆっくり話もできません」

 

マスター「仕事、大変なんでしょう」

 

白 崎「それはわかるけど……どうしても比べちゃいますよ、やっぱり。うちの父は違いましたから。自分と自分の家族が食べることだけを考えて……いっつもにこにこ、家族の前では笑ってましたから」

 

マスター「ご主人は違うんですか?」

 

白 崎「ぜんぜん違います。主人はなんだか、世間の評価ばかり気にしている気がします。常に誰かと競い合ってるような……」

 

マスター「誰かって?」

 

白 崎「…………さぁ、誰だべね?」

 

マスター「私には同じに見えますけどね」

 

白 崎「え……」

 

マスター「ご主人は、認められたいだけだと思いますよ──あなたに」

 

白 崎「わたし、に?」

 

マスター「あなたのお父さんのように、たった1人、自分のパートナーに認められれば、本当はそれでいいんじゃないかな」

 

白 崎「そんなこと……あるのがな……」

 

マスター「男にとっては世間の評価って、まぁ、結構、大事なもんなんです。それにね、絶対に負けたくない相手ってのが、男にはいるんですよね」

 

白 崎「……負けたくない、相手」

 

マスター「はい。ちょっと肩の荷を下ろしてみたら楽なんでしょうけどね。だって本当は、1番好きな女の子にもらう感謝状のほうが、どんな表彰状よりうれしいもの」

 

白 崎「なんだかめんどくせぇなぁ、男の人は」

 

マスター「ふふ、めんどくさいけど、めんこいでしょ?」

 

白 崎「めんこいような、めんこぐないような」

 

マスター「お客さんは、どうしてご主人と結婚したんですか?」

 

白 崎「私……なんで主人と一緒になったんだっけ」

 

マスター「ふふふ。……まぁ。ゆっくりコーヒーでも飲みながら、お二人の歴史を思い出してみてください」

 

白 崎「私と主人の……歴史、か」

 

 

   カランコローンと、ドアベルの音。

 

 

マスター「いらっしゃいませ」

 

 

   男性客(トモ)がやってくる。

 

 

白 崎「あ、おめ……」

 

マスター「ご主人、ですね」

 

白 崎「なんで私がこごさいるってわがったの?」

 

 

   小さく笑いだす、マスター。

 

 

マスター「これが夫婦の歴史、ですかね?」

 

白 崎「てが、この状況……前にもあったような……あれ? そういえば、マスターの丸こい顔、どっかで見たことあるような……あぁ……だめだ、混乱してきた」

 

マスター「まぁまぁ。……さあ、コーヒーをもう1杯いかがですか? 今度は、お二人並んで」

 

 

   飛行機の音、キーン。

 

 

M「──みんな愉快な人生を送れますように。……飛行機が飛び立つ音を聞きながら、私はそう祈りました。親から子へ、子から孫へ、幸せがどんどん先に送られていく……。私は幸せ見届け人。いつかどこかで、お二人の娘さんにも会えるかな? 私もなかなか、愉快な人生です──」

 

  『歩いて帰ろう』流れて……。

END

 


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なにしったのや~?  

柴田徹 | 投稿時間:14:08