皆さんは「森のようちえん」を知っていますか?
デンマークで1950年代に始まった子育ての手法で、森や川など自然の中で、子どもたちが遊びながらさまざまな体験をする場所のことを言います。最大の特徴は“何をするかは子どもたちが決める”ということです。
実は今日本でも「森のようちえん」の活動に取り組む保育園や幼稚園、それに民間団体などが増えています。そして、この冬、山形県内でも「森のようちえん」を新たに始めた人がいます。子どもたちにとってどんな場所になっているのか取材しました。
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「1月27日放送」
主役は子どもたち
山形県の豪雪地帯、鮭川村。村にある森林公園で週末に月2回
「森のようちえん」が開かれています。
その名も「カムイキッズ」。「カムイ」はアイヌ語で「神様」という意味で「子どもが主役になれる場所にしたい」「子どもたちを尊重したい、大切にしたい」という思いが込められています。
「カムイキッズ」を立ち上げたのは、アメリカ出身で3年前に鮭川村に移住してきた、フレデリック・ラーワーさん(37)です。
ふだんは小中学校などで英語の講師として働いていて、「フレッドさん」と呼ばれています。
去年11月下旬に保育士の資格を持つスタッフ・伊藤亜弥さんと活動を開始。今年度は年少から小学3年生まで最大8人を受け入れています。
子どもたちは、午前9時から午後3時までの6時間、外で過ごします。そして最大の特徴は、大人が事前に決めたスケジュールがないこと。子どもたちがやりたいことや、興味を持ったことに沿って、活動が進められます。
しかし、冬場の公園は一面の雪景色!滑り台など遊具も一切ありません。取材する前、私(記者)は「雪だけでいったいどんな遊びが展開されるのだろう?」「雪遊びに飽きないのだろうか?」そんな心配をしていましたが…。
子どもたちの発想は無限大!ノンストップで雪遊びを続けていました。雪が積もった坂道を滑り台にしたり、巨大な雪玉を作ってその上から飛び降りてみたり。公園には子どもたちの笑い声が響いていました。
(森のようちえん「カムイキッズ」フレデリック・ラーワーさん)
「自然の中で遊ぶことでいろんな感覚、“五感”を生かせる。触ったり、匂いを嗅いだり、雪をいっぱいなめて食べたり。あとは、何もないところから遊びを生み出す力や、何かを発見する観察力とか。そういう大事な感覚・能力の成長を支える場所として“森のようちえん”はすごくいい」
自分らしく、思う存分遊べる場所を
フレッドさんは、以前暮らしていた群馬県で妻のちひろさんと「森のようちえん」の立ち上げを手伝った経験もあります。そして、鮭川村に移住したあとも、親子で川遊びや雪遊びなどを楽しむイベントを企画して、自然の中で遊ぶ機会を増やそうと取り組んできました。
きっかけは、現代の子どもたちを取り巻く環境に疑問を持ったからだと言います。
例えば、子どもが自由に遊べる場所がどんどん少なくなっている中で、室内でテレビやゲームなどをやる子どもが増え、体を十分に動かす時間がないこと。
また「勉強」を始める時期が低年齢化したり、習い事が増えたりして子どもたちが多忙になり、自分の興味・関心に没頭する自由な時間が少ないこと。
さらに、日本ではまだ大人が指示したことをやる「指示型」の教育が主流で、みずから考える機会が少ないことなどです。
フレッドさんは“子どもたちが思う存分やりたいことができる場所が欠かせない”と思うようになり、「森のようちえん」が必要だと考えたのです。
小さな“気づき”大切に
活動を始めたばかりの去年11月と12月はまだ雪がなく、新庄市内の森林公園が会場となっていました。いずれも、雨の天気でしたが、危険がなければ、中止にはなりません。雨宿りできるようにテントを張って活動開始です。
取材した日は、子どもたちの希望で森の中を散策することに。
どの道を進むかは子どもたちの判断に任せます。その途中で子どもたちがいろんなものを発見します。
木に生えていた大きなキノコや、地面に落ちていたハチの巣の抜け殻など、初めて目にするものばかりです。「キノコめちゃくちゃ大きい!」「この黄色いものはハチミツかな?」…感じたことや小さな気づきを次々と口にする子どもたち。フレッドさんもそれに共感したり、子どもの疑問に答えたりしながら見守ります。
テントに戻ると、たき火で暖をとっていました。そのときも、子どもたちは火の観察に夢中です。火がついた木の棒に息を吹きかけると、焼けた部分が赤く光ることに驚いたり。ここでも小さな気づきが生まれていました。
(森のようちえん「カムイキッズ」フレデリック・ラーワーさん)
「小さな気づきでも、興味を持ってもっと深く探検できるのが、自然のなかでの遊びのいいところ」
“挑戦”をサポート
さらに、子どもたちが挑戦したいということは、全力でサポートします。
たき火に使うまきをおので割ったり、火起こしをしてみたり。子ども1人ではすぐにできないこともありますが、フレッドさんは「いいね!」「そうそう!」と声をかけながら、見守っていたのが印象的でした。
保護者も「森のようちえん」での経験が子どもたちの成長につながっていると感じています。
(6歳・4歳の子どもの母親)。
「のびのびとやって、みんなと仲よくしているのですごくいい場所だと思っています」。
(6歳の子どもの母親)。
「いろんなことをやらせてくれるので、何でも挑戦してやるようになったという感じがします」。
専門家も注目“森のようちえん”
専門家も、「森のようちえん」は子どもたちの成長にさまざまなメリットがあると言います。その1人が、幼児教育が専門の上越教育大学の山口美和准教授です。
山口准教授は
「“大人は見守る”という基本姿勢が1番重要だと考えています。子どもたちは大人から信じて見守られることで、1人の人間として尊重されていると感じることができます。そして、いろんな経験を重ねることが自信にもつながり、失敗しても頑張ろうという気持ちが育ちやすいと思います。私たちの調査でも「森のようちえん」に通っていた子どもは自己肯定感が高いという結果も出ています」
と話していました。
また、山口准教授は想像力やコミュニケーション力が伸びると分析しています。
(上越教育大学・山口美和 准教授)
「木や葉っぱなど自然の素材で工夫しながら遊ぶことで想像力も伸びますし、自然の物を使って“ごっこ遊び”をすると「これは何だよ」というイメージを友だちと共有するときに、ことばが必要になります。このため、「森のようちえん」に参加している子ども同士のやりとりを聞いていると、ことばの使い方がすごく豊かだと感じました」。
子どもの“生きる力”育てたい
フレッドさんたちは、もっと多くの子どもに参加してもらえるよう、ことし4月からは開催日や参加できる年齢を拡大することにしています。今受け入れている年少~小学3年生までを毎週金曜日と土曜日に。希望者がいれば、2・3歳児と小学校高学年のためのコースを設けたいとしています。
また、今は保護者が送迎していますが、車で駅からの送迎サービスを始めたり、防寒着や長靴などを貸し出す仕組みを作ったりする計画です。そのために1月下旬からはクラウドファンディングも始めました。
活動を通して、子どもたちの“生きる力”を育てたい。フレッドさんはそう願っています。
(森のようちえん「カムイキッズ」フレデリック・ラーワーさん)
「子どもたちが自分らしくいられる場所。そして、いろんなチャレンジ(試練)があっても私は大丈夫だという能力、精神的なところも育てられる場所を作りたい。一緒に遊ぼう!って誰にだって言いたいですね」。
私も6歳と1歳の息子がいます。取材を通して、親として子どもを信じて見守ることの大切さを痛感しました。そして、自然の中での自由な遊びがこれほど、子どもにいい影響があるということに正直驚きました。
また、「森のようちえん」で遊ぶ子どもたちは、どの子もすごく生き生きしていて、ありのままの自分を受け入れてもらえているという安心感があるのだと感じました。
「森のようちえん」のように、子どもが自分らしくいられる場所。そして、主体となって成長できる場所がどんどん増えていってほしいと思います。
山形局記者 | 投稿時間:15:52