【記者特集】作り上げられた"コロナデマ"

 

「絶対に許されることではないし、遊びとか嫌がらせだけの問題で済ませられるようなことではないと思っています」

 

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怒りをにじませて私たちの前で語ったのは、県内で製造・販売業の会社を経営する男性です。

 

会社の店舗関係者に新型コロナウイルスに感染した人がいると、事実ではないことをインターネット上に書き込まれ、売り上げに大きな影響が出ました。

「不正確な情報のせいでどれだけ人が傷つき、苦しめられるのか知ってほしい」と、今回、取材に応じてくれました。

 

 

“目を疑う書き込みが次々と”

男性が書き込みの存在を知ったのは令和2年の3月下旬。顧客からの電話がきっかけでした。

「『お宅でコロナ発症したようだけど、本当なのか』

という事実確認の電話が何度も来ました」

 

調べると、ネット上には

「男性がイタリア旅行から帰ってきて、店に保健所が入ったのは本当か」

という数日前の匿名での書き込みがありました。男性はイタリア旅行にさえ行っていませんでした。

しかし、その書き込みがあった翌日には本当に保健所が調査に入ったかのような書き込みがされ、またさらに2時間後には…。

 

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「会社の店舗で共に働いている父親が感染した」

と、断定的に書かれていました。

 

「事実とは全く異なることなので、頭の中が真っ白になったというのを今でも覚えています。どうしてこんなひどいデマを流すんだと憤りを感じました」

 

 

“デマが売上に影響”

当時、県内ではまだ新型コロナウイルスに感染した人は確認されていませんでした。

「デマ情報」にも関わらず、会社には予約のキャンセルが殺到したほか、商品の納品先である百貨店からも取り引きの一時見送りを伝えられました。

その結果、これまでの損失はおよそ2000万円に上ったといいます。

 

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「毎年、頑張ってきた従業員に必ずボーナスを出すんです。それもできないような状態だった。潰れるとか、倒産するということはおかげさまでなかったのですが、これが一般的な会社であれば、このデマによって簡単につぶれるし、下手すれば首をつる経営者だって出てくると思います」

 

 

“考えた上で書き込みをして”

男性は周囲の目が気になって、書き込みから1年以上がたっても取引先への配達に行けない状態が続いているといいます。ネットの書き込みの一部は、いまだに残されたままです。

 

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男性は書き込みをした人と徹底的に闘いたいと警察に被害届を出し、警察は令和3年7月に偽計業務妨害と名誉毀損の疑いで県内に住む男2人を書類送検しました。

 

取材の中で、男性は

「キーワードで検索されると出てきてしまう。一生ネット上から消えないでしょうね」

とぽつりとつぶやきました。

あたかも事実のようになった「デマ情報」に苦しむ人がいることを知ってほしい。男性の強い願いです。

 

「私だけの問題ではなくて、ご先祖様がこの会社でやってきたこと、両親がこの会社でやってきたこと、すべてに泥を塗られた。どれだけ人がデマによって不幸になっているのか、そういうのをもっと考えた上でネットの書き込みをしてほしいなと思っています」

 

 

“繰り返されるデマの流布”

男性の受けた被害と同じようなことが過去にも問題となっています。

令和元年、茨城県の常磐自動車道で起きたあおり運転事件です。ドライバーがあおり運転を受けた末に、殴られてけがをしました。

この事件とは全く無関係の女性が、逮捕された男の車に同乗していた女だとして名前や顔写真がネット上で拡散されました。

その結果、SNSには女性を中傷する書き込みが相次ぎ、女性が経営していた会社にも電話が殺到したそうです。

 

今回も、「デマ情報」があたかも事実のように広がって関係者を追い詰めました。

一度拡散したら時間がたっても元に戻らず、取り返しのつかない結果につながるということを、ネットやSNSが普及した今、1人1人が胸に留めて必要があると思います。

 



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山形局記者 | 投稿時間:17:45