2012年6月7日(木)

東日本大震災と海外報道~ニュースはどう伝わるのか~

遠い海の向こうのニュースを各国の放送局がどのように伝えるのか。
私たちは世界のニュースを毎日、見つめ続けてきました。

そんな私たちに、去年、想像もしなかったことが起きました。
東日本大震災と福島第1原発の事故。

世界の放送局は連日トップニュースで放送。
それは私たちにとって、日本の出来事を、海外の視点で見ることになった瞬間でした。

当番組を担当する、高橋弘行キャスターは、この震災をきっかけに、国際ニュースに対する自らの見方までが、がらりと変わったと言います。

今朝の世界の扉、高橋キャスターがこの5年間、番組を通して学んだ、高橋式・世界のニュースの見方をお教えします。


高橋
「『世界の扉』のコーナーです」


徳住
「今朝は5年にわたってキャスターをつとめてきた、高橋弘行キャスターが今週で番組を降りるということで、特別編として高橋キャスターから皆さんにメッセージを送る、世界の扉です」


高橋
「番組を去るに当たりまして、これだけは皆さんにお伝えしたい国際ニュースを見るコツといいますか、国際ニュースだけではないんです。
NHKも含めた、世界のあらゆるニュースの見方について、こんな視点から見てもらえればいいなというポイントを、この番組を通じて知ったことを、いくつか挙げてみたいと思います」

震災で知る ニュースの真実

徳住
「まず高橋さん、冒頭にもありましたが、今回の震災が『世界のニュース、自分の国際ニュースの見方を変えた』とおっしゃっていましたが、これはどういうことなんでしょう?」

高橋
「見方を変えたというか、いろいろなことがこの震災の報道で初めてわかった、ということだと思います。
まず、なんと言っても痛感したのは、『海外のニュースには思わぬワナがある』ということを感じました。
これは、むしろ取材する側の立場で見たから、わかることかもしれません。
わかりやすく言うと、現場に着いた記者は、まずは『目についた』ものを記事にしようとすると。
目についたものが映像となってニュースに流れる、そして、それを人々が見る。
それが往々にして大きな流れを作ってしまって、戻せないことになるということです。
例えば、東日本大震災の直後、世界の報道はどんなものがあったのか。
こちらご覧ください」

「被災地を訪問した私は、次のような光景を目にしました。
1億2800万人が住んでいる国の中で、被災の後、略奪は1件も報じられていません。
私たちが目にしたのは、驚くべき『忍耐』と『秩序』です。

 

この母親をはじめ、多くの人たちが食べ物を買うために、忍耐強く、子どもを3時間も抱きかかえて並んでいる光景は、本当に信じられません」


 

高橋
「つまりですね、外国から来た取材陣たちは、こうやって整然とした人たちに、被災者であるのに(外国のリポーターにも)お菓子を分け与える人たちに、まずびっくりするわけですね。
そして、外国の報道陣たちは『略奪もない。日本人は素晴らしい』というふうに感動して報道したわけです」

徳住
「まず見たものから、ニュースになるものを探すということですよね?」

高橋
「そうですね。
ところが、そうした日本賞賛の声が一変する時期を迎えます。
やはりこの非常に見た目、わかりやすい映像が世界に流されてからです」

「住民が放射線の影響を調べる、スクリーニング検査を受けました」




 

「救援にあたったロナルド・レーガン搭載機のパイロットから、放射能が検出されました。
ジョージ・ワシントンの乗員からも放射能が検出されました。
海軍では、全乗組員に袖をまくり上げないこと、窓は出来る限り閉めておくこと、と指示しました」

 

高橋
「つまりですね、この空母が放射能汚染されたということもあるんですが、その前にお見せしたBBC(英国放送協会)ですね。
防護服、これが非常にインパクトがあったわけです。
世界の人たちは、チェルノブイリの原発の事故を知っています。
ニュース映像としては、ほとんど計測しても値が出なかったという報道なんですけれども、ああいう防護服の映像が出てきますと、世界の人々は『やはり、ついに放射能汚染の懸念が高まったのか、日本は』というふうに感じてしまうわけですね」

徳住
「やっぱりテレビだと、映像がものを言いますからね」

高橋
「そうですね。そして、報道陣もそういうのを探すわけです。
結果として、こんな事態が起きるわけです」

「国際空港では、落ち着いた日本人をよそに、様子が異なる人々の姿がありました。
不安に駆られた多くのフランス人が、荷造りも早々にフランスへの帰国を急いでいました。
『お話している場合じゃないんです。3日前からずっと帰ろうとしていたんです』」

 

「国外に退避しようとする人々で混雑しているという空港の方は、どうなっているでしょうか?」



 

「はい、東京の羽田国際空港です。
私の後ろにもフライトを待つ人々の列が出来ています。
日本から脱出しようという人たちです。
私がこれから乗る予定の飛行機にも、多くのアメリカ人が殺到しています。
残念ながら、事故を起こした原子力発電所の状況が、ますます悪化していることは誰の目にも明らかです。
私もあと30分ほどの便でニューヨークに戻ります」

高橋
「いかにも、『私もこれから帰ります』という非常に緊迫した雰囲気でニュースを伝えていました。
こうした映像が流れてしまいますと、世界で“日本=放射能=危ない=脱出”というイメージが完全に定着してしまいます。
当時は確かに、どこまで汚染が広がるかわからないこともありましたけれども、ここまで外国人の間でパニックに近い状態が広がってしまったのは、こうした一連のニュース映像の影響があったことは、見ていて間違いないと、当時は感じていました」

“見えるものしか伝えられない” 報道陣の宿命

徳住
「こうやって衝撃的な映像を流すということは、ある意味、規制っていうのは出来ないですよね?」

高橋
「そうですね。私たち日本の記者たちだって、まず外国に取材に行ったら、『目に見えて、絵になる』映像を探してしまうわけです。
言葉がちゃんとできればいいですが、現地語がうまくしゃべれない場合にはなおさら映像本位になってしまう。
防護服があれば、撮りたくなる、これは危険な兆候だと言いたくなる。
『そんなに大げさに言わないでくれ』と現地の人が言っても、日本の私たちが思っても、報道内容は容赦なくなるということなんですね。
ですから、去年この『世界の扉』でお呼びしたこんな方も、日本の中から出てきました」

タレント ダニエル・カールさん
「何でもかんでも、パニック状態をお越しそうな大げさな報道多かった。
これはいかんなと思って、それでどうしたらいいだろうかと。
国内で俺は忙しいんだけど、海外の方が日本以上にパニックしているみたいな感じだったから、クレームつけるようなユーチューブのビデオを作りました」
 

「海外のメディアにお願いします。
どうかヒステリーをやめて下さい。
海外での報道によって、在日外国人たちが混乱しています」

 

高橋
「彼は、日本と海外の両方の報道を見て知っているわけですね。
だから、海外の報道はひどすぎる、というふうに強調していたわけです」

連日の過激映像に マヒする感覚

徳住
「でも、実際に外国の記者のみなさんが来て、撮ったものですから、ある意味、真実ではあるので、誤報ということにはなりませんよね」

高橋
「誤報とまではいかないんですが、強調しすぎた報道ということになっているわけです。
例えば、私たちはこうやって毎日のニュースの中で、シリアの情勢をアルジャジーラから毎日見ています。ショッキングな映像が毎日出ますね。
これで、シリアのイメージはほぼ固まってます。
間違いのない事実ではあるんですよ。
誤報ではないんですが、これがシリアの全てを言い尽くしてはいない、ということは常に注意しながら見ていかなきゃいけないなということは、私たちの原発、震災が世界から報道されたことを見ても、強く感じました。

そして、もう1つ感じたことは、例えばこういう映像。
私たちは例えば、宮古や石巻の津波の映像を見ると、世界からのニュースでも非常に辛く感じますけども、こうした外国の報道を見ても、日本の震災の報道ほどショックを感じない。
『またシリアで100人殺されたのか』と『また50人殺されたのか』という、実は僕たち他人事なんじゃないか、こうして国際ニュースを偉そうに毎日流しているけれども、実は単なる知識や教養として国際ニュースをお伝えしてるだけなんじゃないかという、自問自答の思いというのが、この原発、それから震災の世界の報道を見てから、毎日この1年間、ずっと感じていたことです。
3・11以降ですね、アラブの紛争、中国の人権問題、さまざまなことがありますけれども、例えば、自分たちにもし、そういうことが起こったらというふうにですね、原発の事故や震災のように、出来るだけ自分に引きつけて、私たちも伝えたいし、見る人にも見てもらいたいなというふうに、最近強く感じています」

厳しい 海外の報道姿勢

徳住
「震災と原発事故関連で、是非これは聞いておきたいんですけれども、ショッキングな映像がかなりありましたけれども、同時に海外のメディアは、日本国内の報道よりも、厳しすぎるんじゃないかという指摘があったと思うんですが、これはどうでしょう?」

 

高橋
「原発事故に関しては、東京電力の情報開示のあり方とか政府の対応を含めて、世界の放送局は非常に厳しい論調が多かったです。
特に、脱原発に踏み切ったドイツのZDF(第2ドイツテレビ)は、その批判ぶりが目立っています」

「福島第一原発での作業は危険なものです。
メルトダウンを起こした原子炉に、燃料棒が詰まったプール。
ここの放射線量は命にかかわる数値です」


 

「立ち入り禁止区内に事務所を構えるナカさんは、『ここでは放射線量が高く、働くことは不可能。事務所のおよそ80人の原子力の専門家たちが原発の現状を維持する作業を行っている』と言っています」

「『現状は掌握できているのか?』と聞くと、ナカさんは、『東京電力と政府は現状を把握していて、すべては安全であると言っている。しかし、原発内にはそれを信じる人はいない。4号機の燃料プールには1300本以上もの使用済み燃料棒があり、それは今後も増えていく。強い地震が来れば建屋が崩壊し、新たな負の連鎖が起こる』と言いました」

「専門家は、この地域で再び強い地震が起きる可能性を指摘しています。
再び原子炉が崩壊するようなことがあれば、それは『日本』の終わりを意味することでしょう」

高橋
「非常に強い論調ですが、このリポートを作りました、ZDFの日本担当特派員、ハーノ記者は私たちのインタビューでこう述べています」

ハーノ記者
「外国のメディアが誇張した報道をしていると批判しますが、それは、世界中どこにでも見られることです。
日本では『ドイツの報道は厳しすぎる』と言われます。
でもそれは、視点の問題です。
どの国であっても国内の視点からは不公平にみえるでしょう。
“日本だから”ということではないんです。
その国には、厳しいというのはわかります。外国の人が自分たちに厳しい目を向けている。
私が思うに、むしろそれはありがたいと思うべきです。
それで自分たちの失敗について、気付くことも出来るからです」

高橋
「批判している側から批判をありがたいと思え、と言われるのも、なかなか複雑な気持ちなんですが、つまりそれだけ海外の報道は、こと他国に関して言えば、遠慮とか配慮とかいったことはしてくれません。
大げさになるかもしれませんが、だからこそ、信頼出来るという面もあると思います。
例えば、今お伝えしたZDFのニュースですが、3月の段階で福島第1原発の4号機の使用済み核燃料のプールの危険性を指摘しています。
当時、日本の大手メディアはですね、まだこの問題にあまり触れていませんでした。
国内メディアの視点を正しいと思いがち、あるいは思いたいという私たちですけれども、海外からの視点も知る価値はあるということだと思います」

海外の 独善的報道

徳住
「海外からの『嫌な』『厳しい』報道というと、気になる点がありまして、周辺諸国と問題になっている日本関連の話題ですね。領土問題とかいろいろありますけれども。
日本人として見ていますと、韓国、中国、そしてロシアの報道ぶりは、納得いかないな、ちょっと嫌だなと思う点も多々あるのは事実なんですが、こういう報道も私たちの番組ではそのまま放送しています。
これは、どういうふうに見ればいいんでしょうか?」

高橋
「私はその点こそが、この番組の最大の『いい点』だと思うんです。
例えば、こうしたニュースをご覧ください」

「韓日首脳会談でイ・ミョンバク(李明博)大統領がいわゆる従軍慰安婦問題の解決に向け、決断を促しましたが、日本の総理は日本大使館前の銅像の撤去を求めました。厚顔無恥とはこのことを言うのでしょうか」



イ大統領
「障害となっている従軍慰安婦問題を優先的に解決する真の勇気を持つべきだと思います」 

「野田総理は慰安婦問題に対し、今後、人道的見地から知恵を出すと述べつつも、日本大使館前の少女の像は撤去して欲しいと要請しました。
これに対し、イ大統領は慰安婦問題が解決しなければ、第2、第3の“平和の碑”が建つだろうとして、あらためて解決に向け、日本側の決断を促しました」

 

「中国について、いつもとかく口やかましい発言をする石原慎太郎東京都知事は(2012年4月)16日訪問先のワシントンで東京都が年内に尖閣諸島を購入すると発表しました」


 

石原都知事
「東京都はあの尖閣諸島を買います。買うことにしました」

「80歳近い石原知事は、やや、ろれつが回らないものの挑発的な口調で話し、また日本の外務省が弱腰だとも暗に批判しました」

石原都知事
「日本人が日本の国土を守るために島を所得するのは何か文句がありますか?」


 

高橋
「KBS(韓国放送公社)は従軍慰安婦問題、そして(上海)RTSは尖閣諸島購入の石原都知事の発言に関するニュースですが、一国の首相を厚顔無恥と言ったり、都知事をろれつが回らないと断じていたりですね、日本の報道では、まずない情緒的な報道です。日本人としては不快な報道だと言っていいと思います。
ですが、問題はこの報道が、良いか悪いかではなくて、実際にかの国で、韓国や中国でオンエアされているという事実です。
つまり、あちらの国ではそうした報道が当たり前になっていて、これが世論を作り出しているということをしっかりと知っておくべきだと思います。
敵を知り、己を知ればではありませんけれども、その国で実際に、どんな報道が行われているのかを知ることこそ、その国にどう対処するか、付き合うかというヒントが詰まっていると私は思います」
 

高橋
「ということで、この5年間を通じて、私、国際ニュースの見方を3つにまとめてみたのでご覧ください。
まず1つめですけれども、『腹立たしい報道』ほどしっかり見た方がいいよ、ということです。これは先ほど、私が申し上げた通りですね。

そして2つめ、報道はあくまで『事実』の一断面であると。誤報ではありません、嘘ではありません。
事実なんですけれども、それは一断面しかないということを、(ニュースを)流すわれわれも、そして見るみなさんも是非、考えておいてほしいということです。
そして3つめ、日本の報道を常に振り返るということです。
日本でも、もちろんNHKをはじめ、世界の報道も日本の報道をやっています。
しかし、私たちの番組は、『世界が見た、世界のニュース』です。
その様子と、そして日本の報道を比べて、事実がどこにあるのか、私たちはどこに進むのかということを考える、これは非常にいい機会でもありますし、本当に手前みそで申し訳ないんですが、この番組はそうした情報提供する、いい機会だなというふうに考えています」

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