考える、子どもたちの"いま"

1989年11月20日。
子どもの生きる権利や守られる権利を定めた「子どもの権利条約」が、国連総会で採択されました。
しかし、虐待や貧困など、解決していない課題も多くあります。
「子どもの権利」をテーマに、栃木県内の子どもたちの“いま”を見つめます。

コラム18.12.26更新

私たち大人は、子どもたちとどう向き合うべきか。〈田中 絵里記者〉

今回、"子どもの居場所"の取材を進める中で、放送で紹介したところとは別の"居場所"に通っていたことがある男性に、取材をする機会がありました。
会社員として働く20歳の男性は、中学1年生のころから数年間、"子どもの居場所"を利用していました。
男性の家は、母と兄、妹と暮らす母子家庭でした。経済的に苦しく、ガスや水道が止められ、トイレが使えなくなることも珍しくなかったといいます。食事は1日1食が当たり前。そんな日々が、"子どもの居場所"のスタッフと出会ったことで少しずつ変わっていきました。

居場所

"子どもの居場所"を利用していた男性。

毎日風呂に入れる。普通に食事が出来る。"居場所"に通い始め、生活環境が整っていきました。自宅では兄弟の面倒を見るなどしていたため勉強する時間がなく、またしたいという気持ちも湧いてこなかったそうです。"居場所"のスタッフに声をかけられ、「教えてもらえるならやってみよう」と、勉強もするようになりました。
男性は当時、"子どもの居場所"のことを『もうひとつの自分の家』だと思っていたそうです。話しやすく、誰にも分け隔て無く接するスタッフの人たちには、心を許せる魅力があったといいます。「"居場所"に来るまでは、そういう大人が周りに居なかったから」と。そしていまの男性にとっての"居場所"は、「困ったときに助けを求められる場所」。今でも時々、あいさつがてら顔を出しているということです。

"子どもの居場所"を運営する団体で作る、「栃木県子どもの居場所連絡協議会」の星俊彦事務局長は、「子どもたちが"居場所"で、自分ときちんと向き合ってくれる大人と関わりを持てるようになることを願っている」と話していました。そのことばを聞いて、取材をした"居場所"のスタッフの人たちがみな、自分たちのことを「おじいちゃんやおばあちゃんみたいな感じ」「近所のおばちゃんのような感覚で接している」と言っていたのを思い出しました。

"子どもの居場所"に来る子どもたちの中には、本当に厳しい家庭環境下で育ってきた子もいます。ただ食事を提供する、風呂に入れるという支援にとどまらず、彼らの心に寄り添い、支えていくというケースも少なくないため、支援の質を保ち続けていくことはもちろん大切です。しかしまずは、子どもたちに、そして家庭に関わろうとする存在が、周りにあるということが最も大切なのではないでしょうか。それによって子どもたちもその親も、社会とつながっていけるようになるのだと思うのです。

かつて"居場所"を利用していた男性は、「子どもが好きなので、時間が出来たら"居場所"でボランティアをしてみたい」と言っていました。彼はこれからきっと、支援を必要としている子どもと"向き合う側"になっていくのでしょう。

「私たち大人は、子どもたちとどう向き合うべきか」。
これは私自身に当てたことばでもあります。
彼らを支えていくために自分に何ができるのか、これからも考え続けていきたいと思います。

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