考える、子どもたちの"いま"

1989年11月20日。
子どもの生きる権利や守られる権利を定めた「子どもの権利条約」が、国連総会で採択されました。
しかし、虐待や貧困など、解決していない課題も多くあります。
「子どもの権利」をテーマに、栃木県内の子どもたちの“いま”を見つめます。

記者企画リポート18.11.28更新

必要な支援を "子どもの居場所"〈11月28日:田中 絵里記者〉

いま、厳しい環境の下で、困難を抱えながら生活している子どもがいます。
今回お伝えするのは、こうした子どもを支えようという取り組みです。
自分の周りにいる子どもたちに、目を向けてみませんか。

"子どもの居場所"と呼ばれる施設をご存じですか?

経済的に厳しい家庭や、親が子どもの面倒を見られない家庭など、自治体が「助けが必要だ」と判断した家庭の子どもに、食事や入浴、それに勉強などの支援を無償で行う施設です。
県内には、5つの市にあわせて9つあり、現在、115人の子どもたちが通っています。

そのうちの一つ、居場所『にじのいえ』は、那須塩原市の住宅街にたたずむ一軒家です。
市の委託を受けたNPO法人「キッズシェルター」が運営していて、現在、小中学生12人が週2日、放課後などを過ごしています。
那須塩原市内には、この“子どもの居場所"が2か所あります。

居場所『にじのいえ』

"子どもの居場所"に通う子どもたちの家庭は、さまざまな困難を抱えています。
袖がすり切れてぼろぼろの洋服を着て"居場所"にやってきた子ども。
「一番きれいだ」と言って自宅から持ってきたタオルは黒く汚れていました。
経済的に余裕がない、親が家にいないなど、厳しい家庭環境の中で生活してきた子どももいたといいます。
『にじのいえ』のスタッフの1人は、「子どもたちの親も、子どものころにつらい時代を送ったのかもしれない。このまま大きくなると、お母さんが苦労したようになってしまうので、"居場所"にいる間は、子どもらしく過ごしてほしい」と話していました。

ぼろぼろになった服。「お気に入りだったのだろう」とスタッフは話します。

"子どもの居場所"の特徴のひとつは、送り迎えもするところです。家に車がない家庭もあるからです。
子どもたちは車の中で、その日学校であったことや、さまざまな話をしてくれます。
スタッフは、この時間を"宝物"だといいます。
ある男の子は、朝から何も食べていないことをスタッフに伝えました。スタッフは "居場所"に着くとすぐ、男の子におやつのメロンパンを勧め、夕食作りを手伝ってもらいました。自分自身でも食事を作れるようになってほしいからです。

この日の夕食はミートローフでした。スタッフに教わりながらタネをこねます。

"子どもの居場所"は、地域の協力も得て運営されています。施設の収納スペースには、地域の人たちが寄付したり買ってくれたりした学校用品が並んでいます。子どもたちが学校で必要になった時、自由に持って行けるようにしています。文房具、運動着、お道具袋、中には新品のスパイクもありました。
子どもが望めば、近所の家に遊びに行くこともあります。近くで飼われている犬と遊ぶのを楽しみにしている子どももいます。その子は優しい手つきで犬の背をなで、犬も吠えることなく、落ち着いた様子でした。犬の飼い主が「何度も来ているから、慣れたんだね」と笑いながら話していました。
子どもたちを、地域の中で見守りたい。そんな思いを実感した瞬間でした。

毎週、この犬に会いに来ているという子ども。犬を抱いて嬉しそうでした。

スタッフと接する中で、子どもたちの様子も変わってきているといいます。
将棋が大好きだという男の子は、"居場所"でスタッフと将棋を指すのが1番の楽しみです。 “居場所"に通ううちに、いやがっていた勉強にも取り組むようになりました。スタッフが熱心に向き合い、寄り添い続けた結果でした。
こうした変化はほかの子どもたちにも起きています。スタッフが子どもたちの様子を記録している書類には、「ほかの子に勉強のしかたを教えてあげた」「テストがよく出来てうれしそう」など、小さくても大切な変化がたくさん書かれていました。

子どもたちが楽しみにしている夕食。何度もおかわりする子どももいました。

"子どもの居場所"にいられるのは午後7時ごろまでです。 スタッフの車で家に向かう途中、夕飯づくりを手伝った男の子が、"子どもの居場所"のことをどう思っているのか教えてくれました。
最近は学校に行けず、ずっと家にいることが多いという男の子は、"居場所"を「安らぎを与える場所だ」と言い、親が仕事に出て誰もいない自宅へと入っていきました。

スタッフは、「子どもたちはお父さんとお母さんのことは好きだと思います」「一緒に喜んだり、一緒に悲しんだりする、子どもの伴走者になりたいなっていう思いだけなんですよ」と話していました。

"子どもの居場所"は、送迎や入浴など手厚い支援を提供する分、受け入れられる子どもの数は、限られてしまいます。
"子どもの居場所"の運営団体でつくる連絡協議会は、今後、いまある施設の調査を行うことで、必要性を広く知ってもらい、施設の数を増やしたいとしています。

私たち大人は、子どもたちにどう向き合うべきか。
"居場所"で過ごす彼らの姿が問いかけています。

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