考える、子どもたちの"いま"

1989年11月20日。
子どもの生きる権利や守られる権利を定めた「子どもの権利条約」が、国連総会で採択されました。
しかし、虐待や貧困など、解決していない課題も多くあります。
「子どもの権利」をテーマに、栃木県内の子どもたちの“いま”を見つめます。

記者企画リポート18.11.21更新

外国人の子どもの未来 どう守りますか〈11月21日:有馬 護記者〉

 「学びたいけど、日本語がわからない」
多くの外国人の子どもたちはこう思いながら、日本の学校に通っています。
文部科学省によりますと、栃木県内で、日本語が分からず指導が必要な外国人の子どもは、627人います(おととし5月現在)。

教室で皆に囲まれるゆりこさん

教室で皆に囲まれるゆりこさん

日本語を学ぶための個別指導

 そのひとり、足利市の市立けやき小学校に、アルゼンチン育ちの女の子が通っていました。 比嘉門・ゆりこ・なおみさんは、ことし10月、来日したばかりです。友だちともなじみ始めています。

ゆりこさんに個別指導をする大屋さん

ゆりこさんに個別指導をする大屋さん

 しかしまだ、日本語がほとんど理解できない比嘉門さん。週に1度、日本語の個別指導を受けています。教えるのは、市の外国人児童生徒教育専門指導員の大屋亜紀さんです。大屋さんも南米で生まれ育ち、スペイン語とポルトガル語が堪能です。スペイン語でコミュニケーションをとりながら、ひらがなの読み書きから日常会話まで丁寧に教えています。

 「友だちとの会話の中で分からなかったことをスペイン語で聞けることがいいことだと思う」(比嘉門・ゆりこ・なおみさん)
「日本の文化や生活、特に学校生活が全然分からないので、そういう所は最初に教えます」(外国人児童生徒教育専門指導員 大屋亜紀さん)

保護者に説明する大屋さん

保護者に説明する大屋さん

 大屋さんの仕事は、子どもへの日本語指導にとどまりません。日本語が分からない保護者に、学校での子どもの様子などを伝える役割も担っているのです。大屋さんは、ゆりこさんの両親に、ゆりこさんが短い期間で友だちとなじんでいることを伝えました。

大屋さんと打ち合わせをする妹の飯田さん

大屋さんと打ち合わせをする妹の飯田さん

増え続ける外国人の子ども スムーズにいかないことも

 大屋さんは、同じくスペイン語とポルトガル語が堪能な妹の飯田留美さんと2人で、指導員を務めています。姉妹が日本語の指導をしている子どもはあわせて50人(ことし9月時点)。3年前と比べて20人も増えました。

スマホを使って指導する飯田さん

スマホを使って指導する飯田さん

 2人は、全く分からない言語を話す子どもの指導も行っています。妹の留美さんが向き合っていたのは、中国籍の小学5年生でした。留美さんは男の子にやさしい日本語を使って質問をしますが、男の子は分かりません。留美さんは、苦肉の策でスマートフォンの翻訳アプリを使ってコミュニケーションを取りました。足利市には中国語を話せる指導員はおらず、手探りの対応が続いています。

 「指導には時間がかかります。スムーズにいかない時もあります。子どもが出来るだけ早く日本の生活になじめるようにやっています」(外国人児童生徒教育専門指導員 飯田留美さん)

学生の打ち合わせ風景

学生の打ち合わせ風景

学生ボランティアが学校現場を支援

 外国人の子どもたちに手をさしのべようと、大学生たちがボランティアで支援しようという動きも出始めています。宇都宮大学は、8年前から外国語が話せる学生を県内の小中学校へボランティアで派遣しています。現在、参加しているのは国際学部の43人の学生です。中国やベトナムからの留学生も協力しています。

宇都宮大学 田巻松雄教授

宇都宮大学 田巻松雄教授

 ボランティア派遣事業を担当する宇都宮大学国際学部の田巻松雄教授は、「外国人の子どもが最終的に、高校に行ってもらうための学力・日本語を身につけてもらいたいという思いで学生の力を活用したかった」と狙いを話します。

フィジーの子に指導する齊田さん

フィジーの子に指導する齊田さん

 高根沢町の中学校を訪れたのは、アメリカへの留学経験があり、英語が堪能な齊田雛さん。フィジー出身の女の子に日本語を教えました。高根沢町には、外国人の子どもに日本語を教える指導員はいません。高校への進学を希望する女の子のために、入学に必要な日本語での面接と作文を指導しています。

 「ことばの壁はもちろん、友だち関係でも色々とあると思いますが、そういう面でも少しずつ生徒のストレスや不満を解消出来る支援をこれからもしていきたい」(学生ボランティア 齊田雛さん)
「学校現場は本当に何をどうしていいいか分からない状況が続いているのではないかと思います。この事態を放置すると、高校に行けない外国人の子どもたちがどんどん増えていきます」(宇都宮大学 田巻松雄教授)

足利市教育委員会 若井祐平教育長

足利市教育委員会 若井祐平教育長

問われる行政や私たちの意識

 あまり知られてはいませんが、実は、外国人の子どもは、日本の義務教育を受ける義務はありません。保護者が希望した場合のみ学校で受け入れることになっているのです。
外国人の増加に伴い、日本語がわからない子どもも増えています。
その課題に直面する足利市ですが、市教育委員会の若井祐平教育長は次のように話します。

「今のところ指導員の増員は考えていません。指導員よりも周りみんなで支援することを特に重視したい。色々な関係機関、団体と行政が今まで以上に連携して協力を強めることがこれから大事になるのではないかと思う」(若井教育長)

指導員の増員は検討していないといいます。

しかし、足利市の指導員の負担はとても重くなってきていることも事実です。宇都宮大学の田巻教授は「日本の義務教育を受ける義務がないことで、外国人の学びの場を保障しようという意識が社会で広がっていないのではないか」と指摘します。
行政、そして地域に暮らす私たち1人1人が、この課題に真摯に向き合うことが求められています。

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