あしたをつかめ 平成若者仕事図鑑

no.122 酪農家

インタビュー
インタビュー
「北海道・No.1の牧場をめざせ」 酪農王国・北海道。全国の生乳のおよそ半分が生産されています。
しかし近年は、高齢化や跡継ぎ不足などで酪農をやめる農家が後をたちません。
そんな中、期待を集めているのが“新規参入者”。宮城県からやってきて北海道幕別町忠類で牧場を始めた小野寺和也さん(32歳)真己(まこ)さん(31歳)夫婦もそのうちの一組です。二人ともサラリーマンの家庭で育ちましたが、動物が好きで学校で家畜などの飼育を学びました。卒業後、宮城の観光牧場で働いているときに知り合い結婚。その後、幕別町忠類の酪農家たちが地域ぐるみで新規参入者を支援しようとしていることを知り、4年前、北海道に移り住みました。
それからは、酪農修行の日々。そして去年10月、念願かない、40頭の乳牛とともに牧場を始めました。冬には氷点下20度近くまで下がる厳しい環境。早朝から夜遅くまで牛の世話を続け、365日休みのない生活。死産や病気なども経験しながらも、10数頭のメスの子牛の出産を成功させてきました。
いま酪農家として初めての春を迎え、生乳の出荷も軌道に乗ってきました。新人酪農家夫婦の半年の挑戦を通して酪農家の夢と現実を描きます。

自分のことより牛が第一。牛のためにモ〜烈に働きます!

■酪農家とは? ■酪農家になるには?■ 収入・待遇は?■ 仕事の味

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 乳牛を育て、乳をしぼって生乳を生産したり、それを加工してバターやチーズなどの乳製品を作ったりする人です。(肉牛を育てる人は肉牛農家、豚は養豚農家、ニワトリは養鶏農家と呼びます)。

 毎日、牛に元気に乳を出してもらうために、「牛舎の掃除」、「牛の健康管理」、「エサやり」などの作業をします。メインの「乳しぼり」は毎日決まった時間に“ミルカー”という搾乳機を使って搾ります。これらの作業を、朝晩2回繰り返します。
 また、牛を健康に育てるためには、エサも大切。牛の主食は牧草です。春から秋にかけて堆肥蒔きや収穫をして、牧草を発酵させて長期保存可能な牧草ロールやサイレージを作ります。それぞれの作業時期をちゃんと見極めて、栄養価の高い餌を作るのが、酪農家の腕の見せ所です。

 さらに、乳牛は子どもを産まなければ乳を出してくれません。1年に1回のお産が目標。人工授精をして、いつ産まれるかをしっかり観察。難産のときは、手助けも必要です。まさに、1年中、朝から晩まで牛のために働く、それが酪農家です。 ◇全国の状況・今の状況  全国の酪農家は、現在およそ26600戸。日本で飼われている乳牛は、ほとんどがホルスタインです。酪農技術が進み大規模な酪農家が増え、今では酪農家一戸あたり平均60頭ほどを飼育しています。酪農王国・北海道では、一戸あたり平均100頭。家族経営の小さな牧場から、従業員を数人雇う会社にして牧場を経営する酪農家もいます。

 その一方で、酪農を辞める人が相次いでいます。北海道でも、跡継ぎ不足や生乳価格の低迷などで離農が進み、1年に200戸以上の農家が辞めています。そこで期待を集めているのが、農家出身ではなく新たに農業を始めようという新規参入者。北海道では、農村にどんどん若者を呼び込もうと地域ぐるみで支援を始めています。 ◇どんな人が向いてるの?  動物が好き、というだけでは足りません。
 とにかく『24時間、365日、牛と向き合う覚悟があるか・・・』

 牛はとても神経質な動物です。乳搾りやエサやりなど決まった時間になると「モ〜モ〜」と呼び始めます。一日でも手抜きをすると、すぐ病気になったり、ストレスがかかったりします。さらに、病気や出産の時には、寝る間も惜しんで観察や介護をすることも。小野寺さんは、この冬の牛の出産シーズンには、早朝5時から深夜10時までの作業時間だけでなく、深夜3時にも赤ちゃんが生まれる牛はいないか見回りに出掛けていました。夜中ほとんど寝ずに牛の出産に立ち会ったこともあります。牛が中心の毎日なのです。

 また、牛との生活は、毎日“根比べ”。言葉の通じない牛とは、気長に信頼関係を築いていくしかありません。叩いたり大声を出しては逆効果。
 例えば、番組の中の小野寺さん夫婦が牛を牛舎に入れるシーン。スムーズに牛が入って行ったかのように見えますが、わずか50メートルを移動させるのに30分以上もかかっているのです。牛は暴れたり、立ち止まって動かなったり。しかし、振り回されて転んでも、すぐに起き上がって再び牛を追う、その根気強さも大切です。

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■酪農家になるには? ■酪農家とは?■ 収入・待遇は?■ 仕事の味

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◇どうすれば酪農家に?  主に酪農の技術と酪農経営の知識が必要です。小野寺さんの場合を見てみましょう。

<まずは知識をつけよう→学校で畜産の勉強>
地元・宮城県の農業短大で畜産を勉強。家畜の衛生学や管理などのほか、乳搾りなどの研修も受けました。
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<酪農の基礎を修得→観光牧場に就職>
宮城県の観光牧場に就職。乳搾り、エサやり、牧草作り・・・酪農の基礎はここで学びました。勤務は朝6時〜夕方5時半まで、お休みも週に1回ありました。
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<どんな酪農がしたいのか、夢を明確に→北海道へ移住>
北海道幕別町忠類に初めて研修に来た時、「ここで小さな牧場を持って、牛をのんびり放牧させ、ストレスなく育てたい」という夢を持ちました。酪農家のお手伝いをする“酪農ヘルパー”の経験を持つ妻の真己さんの理解も得て、ともに北海道へ移住。北海道の多くの市町村では、夫婦二人で、というのが新規参入者の条件です。
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<新規参入するために→3年間の努力>
地元の酪農家のもとで酪農修行
知り合いの酪農家、多田智さんにお願いし、3年間実習生として働かせてもらいました。北海道ならではの大きなトラクターや農機具の扱い方、牧草作り、さらには冬、凍り付いた糞の処理まで、色々な技術を身につけます。

経営知識を身につける
同じ北海道十勝にある北海道立農業大学校で「新規参入者のための基礎研修」を受講。年に4回、4日間にわたって開かれるこの講座では、農地の選び方や搾乳技術などの講習のほか、農業簿記やベテラン酪農家の体験談などを聞いて自分の経営方法を考えます。

自己資金を貯める
真己さんとともに、開業に備え自己資金およそ600万円を貯めました。牧場を始める際の自己資金はその地域によって違いますが、小野寺さんの住む幕別町の場合、最低500万円が必要です。牛舎などを建てる際の頭金にする他、当面の生活費に当てます。牧場を始めてからすぐに収入を得られるわけではないからです。

地域との交流を深める
農村の行事や祭りに参加して、地元の人との交流を深めました。農業は自分一人だけではなく、牧草の収穫や機械を借りるなど地元の人のお世話になることが沢山出てきます。いかに地元の人たちにとけ込み、信頼してもらえるか・・・これも大切なポイントです。
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<晴れて、新規参入!!>
◇ どうやって農地や牛舎を手に入れるか  北海道では、新規参入者の支援として、(財)北海道農業開発公社が、離農する酪農家から買い上げた農地や牛舎などを、最長5年という条件でリース契約で貸してくれる制度があります。小野寺さんは、この制度を利用し、最初の5年間はリース料を支払い、6年目以降は、およそ8000万円の資金を借り入れ、開発公社から農地や牛舎などを買い取る計画です。まずは最初の5年間で経営を安定させ、牧場を軌道にのせることが大切です。

 そのために、小野寺牧場では牛の出産を順調にさせ、メスの子牛を増やすこと。そして母牛も子牛も健康に飼うことで治療費を減らすなどコスト削減を心がけています。
 また生乳の価格は、北海道の場合、ホクレンと乳業メーカーの取引価格だけでなく、出荷する生乳の乳質や乳成分のバランスも影響します。清潔に大切に牛を育て、新鮮で美味しい生乳を出荷できるようになる、これが目標です。

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■ 収入・待遇は? ■酪農家とは?■酪農家になるには?■ 仕事の味

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◇収入のめやす  酪農家の場合は、牛の頭数や生乳の価格などにより様々です。
 総収入は大きいですが、そこから餌代など生産費がおよそ7割かかると言われています。残りの3割の利益から、リース料金や借金などを月々返済していきます。 ◇小野寺牧場のある一日

ある一日

◇生活サイクルと休日  生き物相手なので年中無休のお仕事です。でも最近は、酪農家に代わって乳しぼりやエサやりなどを手伝ってくれる酪農ヘルパーを雇い、休日をとることもできます。
 また、夏になると日常の作業に加え、牧草の収穫が始まります。酪農家が自分でやるとなると大忙し。最近はコントラクターといって業者に作業を委託する酪農家も増えています。

 小野寺さんのような新人時代を乗り切り牧場が軌道に乗れば、朝晩の作業を各3〜4時間で終わらせ、日中の時間はゆっくり休んだり出掛けたりなど、やり方次第でゆとりを生むこともできます。

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■ 仕事の味 ■酪農家とは?■酪農家になるには?■ 収入・待遇は?

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◇おいしさ  子牛が元気に産まれてきたり、牛がモリモリ餌を食べていたり、大人しく乳搾りに応じてくれたり、名前を呼んだら振り向いてくれたり・・・ちょっとした牛の成長が楽しいそうです。まるで我が子のよう・・・たくさんの牛に囲まれ、とても賑やかな生活です。

 そして、何よりも夫婦二人で支え合いながら、一生かけてがむしゃらに夢を追いかけていける。小野寺さん夫妻の目標は、いつでも牛が栄養満点の牧草を食べられるような放牧地を作り、牛をのびのび元気に育てることです。 ◇苦さ  朝から晩までの作業が毎日続くだけでなく、体重650〜700キロある牛に押されたり、蹴られたり・・・体力的にはとても大変です。
 また、生き物相手の仕事なので、覚悟はしていても、牛の病気や死産の時は悔しさや寂しさがつのり、牛の命を守らなければならない酪農家の責任の重さを改めて感じるのだそうです。

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NHK日本放送協会