2010年 1月9日 土曜 午後10時15分〜10時58分

深夜1時、繁華街にあるペットショップにはいつも人だかりができている。市場規模1兆円、日本のペットブームはいまだ衰えを知らない。だが、その陰で、ペットの命が脅かされる現実も広がっている。
捨てられたペットの保護活動を続けてきた静岡県の女性は、猫を引き取りたいという男にとんでもない目にあわされたという。譲り渡した猫が虐待されたのだ。男は30代の会社員。妻と二人の子供を持ちながら、動物虐待に手を染めていた。
一方、飼い主によって自治体の処分施設に持ち込まれるペットも後を絶たない。殺処分される犬や猫は年間およそ30万匹。飼い主を思いとどまらせるのは難しく、「大量処分」の現状が続いている。
人間の身勝手な都合によって命を弄ばれるペットたちの悲劇。いったいその背景には何があるのだろうか-。
神戸にある動物愛護団体では、ペットの虐待に関する情報を収集している。虐待が疑われる飼い主のリストを作成し、犬や猫を譲り渡さないよう、各地の愛護団体に呼び掛けている。だが、なかなか被害は無くならないという。今、ネット上では、ペットを手放さざるをえない飼い主達が、掲示板を使って引き取り手を募集している。こうした掲示板は、新たな飼い主を幅広く探せるメリットがある一方、悪意のある引き取り手が紛れ込んでしまい易いのだ。
去年秋、大阪にインターネットの掲示板を使って子猫を集めては次々に捨てる飼い主がいるとの情報が、もたらされた。動物保護のボランティアは、ブログをチェックしていたところ、近所の男性の記述に不審を抱いた。掲示板で手に入れた子猫達の様子を公開しているのだが、一か月もたつと、様々な理由で子猫たちがブログ上から姿を消してしまうのだ。その数は、2年間で30匹。ボランティアは、男性は子猫にすぐ飽きてしまい捨てていると疑いを強めていた。ペットの飼育を放棄して捨てる行為は、動物愛護法で禁じられており、最高で50万円の罰金が科せられる。ボランティアは、仲間と一緒にこの男性を訪問し、真相を問いただすと、男性は猫を置き去りにしたことを告白した。
栃木県には、刑事告発された飼い主も存在する。告発した愛護団体に話を聞くと、この飼い主は、ペットを飼えなくなった人たちから大事に面倒をみるというふれこみで、ペットを引き取っていたという。餌や予防接種の代金などと称して3万円から最大30万円の手数料を徴収。ところが、人気のある犬は転売していたとみられている。そればかりか、売れない犬や猫は世話をせずに放置し、衰弱死させた疑いがもたれている。近所の人達は、犬や猫が餌を満足に与えられず、弱っていく様子を度々目の当たりにしたという。
告発された内容は事実なのか。取材班は、自宅に戻ってきた問題の男性に直接取材を申し込むことにした。しかし、男性は「現在、ペットの引き取りはやめている」と繰り返すばかりであった。現在、警察では、この男性の立件に向けて捜査が続いている。
ペットの悲劇は「虐待」だけではない。大量放棄が生み出す「殺処分」も大きな問題になっている。
熊本市の動物愛護センターには、犬を手放したいという相談が毎日のように寄せられている。センターでは、こうした電話に対して思いとどまるよう説得するなど、「殺処分」をゼロにするための活動に力を入れてきた。努力が実を結び、殺処分の数は10年前の10分の1にまで減っている。だが、それでも、飼い主から持ち込まれる犬は後を絶たず収容能力は限界に近いという。犬を持ち込む理由で最も多いのが、噛み癖や吠え癖などの問題行動だ。
8か月前、暴れる飼い犬に悩まされ、センターに相談を寄せてきたという飼い主を訪ねることにした。この飼い主は、飼い犬の度重なる問題行動に長年手を焼いてきた。大けがを負ったこともある。センターからドッグトレーナーを紹介してもらいシツケに取り組んでいるが、問題行動を完全に直すのは難しいと言われている。その原因は、子犬の頃の育ち方にあるという。日本では多くの犬が生後間もなく親や兄弟から引き離されるため、社会性が身につかず、ワガママになりやすいのだ。多くの犬が生後間もなく母犬から引き離される背景には、消費者の極端な子犬志向がある。最新のデータでは、ペットショップで販売された犬のうち、9割以上が生後2か月以内となっている。
また、子犬志向にはもう一つの問題がある。愛護センターでは、収容犬をしつけ直し、新たな飼い主を募集しているが、大きくなった成犬には引き取り手がなかなか現れないのだ。推定5才のイノキは、半年前、街をふらついているところを保護された。当初は職員の言うことを聞かず「お座り」もできなかったが、今では「伏せ」や「待て」も難なくこなす。しかし、引き取りを希望する飼い主はまだいない。去年11月、保護された犬を一同に集めて「譲渡会」が開かれたが、人気は子犬に集中、成犬に関心を示す人は少なかった。イノキに至っては、見向きもされなかった。子犬を好む人が多い日本。その志向が、不幸なペットを増やし続けている。
どうすれば「子犬志向」を改め、ペットの大量処分を防ぐことができるのか。動物愛護の先進国・ドイツの取り組みを取材した。犬猫あわせて1300万匹が飼われているドイツでは、行政が犬や猫を殺す「殺処分」は一切行われていない。まず、街の中心部にあるペットショップを訪ねた。熱帯魚や犬の首輪は売られているが、衝動買いを誘うケースに入れられた子犬の姿は、どこにもない。店主によれば、「ペットショップで犬を販売することは規則で禁じられている」という。
更に、犬を繁殖させる段階から厳しい規制が設けられ、子犬志向に歯止めがかかっている。例えば、ブリーダーは、生後8週未満の子犬を母犬から引き離すことはできない。子犬が、母犬や兄弟と一緒に過ごすことで、社会性を十分に身につけさせるためだ。
また、「ティアハイム」と呼ばれる、市民団体が運営する保護施設では、引き取った犬や猫を最後まで世話している。ドイツには、こうした施設が500か所以上あり、市民や企業の寄付で運営されている。ティアハイムでは毎週、保護した犬達を市民に紹介し、新たな飼い主を探す活動を続けている。保護された犬の9 割が、年齢に関わらず、新しい飼い主に引き取られるという。更に、施設では、犬が欲しいという人にも、簡単に引き渡さない。何度も通って犬との相性を確かめられ、最期まで飼い続ける覚悟を認められた人だけが、新しい飼い主になれるのだ。
1月、熊本市動物愛護センターでは、今年初めての譲渡会が開かれていた。しかし、イノキたち成犬には人が集まらず、人気は子犬に集中。結局、引き取られたのは2匹の子犬だけであった。イノキにとって42回目の譲渡会も実を結ぶことはなかった。
年末年始、センターには更に10匹以上の犬が収容され、施設はパンク寸前の状態を迎えている。やむなく殺処分をする可能性も出てきているという。命あるペットがモノの如く消費される現状をいかに改めるか、ペットを社会の一員として迎えるには何が必要か、待ったなしの議論が求められている。

