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納涼!日本の夏スペシャル 「食」

夏の厳しい暑さを乗り切るため、日本人は日々の食生活にさまざまな工夫を凝らしてきました。食べ物に器にしつらえに、京都の食文化をはじめ、目にも舌にも涼感あふれる食の美をご紹介します。

おばんざいのツボ 旬を見極め素材の味を楽しむ

京都の台所、錦市場にある、とある八百屋。この店の常連客、秦めぐみさんは野菜の短い旬を逃がさないよう、店の人と密にコミュニケーションをとりながら、食材を選びます。

秦 「時期の時に時期のものというのは、やっぱり力を持ってますし、色も綺麗(きれい)ですし、姿も綺麗ですし、味もいいですし、まず何より安いです」

この日買ったのは、朝採れたばかりのナス。京都の食の目利きは、その野菜が一番おいしく美しい旬をつかまえて、夏ならではの味を楽しんでいるんです。

おばんざいのツボ、
「旬を見極め素材の味を楽しむ」

秦さんのお宅は江戸時代から続く商家。秦さんは、家に代々伝わるおかず「おばんざい」を、若い人たちに教えています。必要以上に手をかけず、旬の素材の持ち味を引き出すことに心を配ります。

今日作るのは、ナスのゴマあえ。錦市場で買ったナスを蒸し器にかけます。蒸すことで旬のうまみを逃さずに加熱します。色合いが食欲をそそるのも、旬のものならでは。擦ったゴマとだしであえ、ナスの甘みをさらに引き立たせます。ナスの淡い紫が映える白ゴマを振りかけてゴマ和えの出来上がり。

こちらは温かいおわんでいただく瓜(うり)の葛引き。見た目は涼しく美しく。でも、体は冷やしすぎず。家族の夏の健康を考えた優しいおかずです。

こうした旬をいかした素材の使い方は、祖母から母へ、母から秦さんへと受け継いできました。

秦 「旬のものを使うと素材そのものにちゃんと味があるので、いろんなものを足さなくていいんですよ。あまりいじくりすぎてもおいしくなくなりますし、そのほどほどの加減というのが、私が母から見聞きして身に付いたものでしょうし、それが生活の中にある知恵なのかな、と思います」

旬の食材に最小限の手をかけて味わう夏のおばんざい。一品一品に夏を豊かに過ごす知恵が込められています。

鱧(はも)料理鑑賞のツボ 鱧は五感で味わえ

油照りする京都の夏。厳しい暑さの中、人々が心待ちにしている食べ物があります。それは鱧。夏に旬を迎える魚で、その淡白な味わいが好まれてきました。

鱧の調理に欠かせないのが、この「骨切り」と呼ばれる下ごしらえ。透き通った白い身に包丁が入る音が涼しげに響きます。

鱧は小骨の多い魚です。数ミリ間隔で刻むことで、小骨を気にせず食べられるようになります。皮一枚を残して切る見事な包丁さばきは、身に付けるのに何年もかかるといいます。見た目の身の鮮やかな白と、食べた時のさっぱりした口当たり。鱧は目で舌で骨切りでは耳で楽しみます。そんな鱧料理は五感で夏を知らせてくれます。

鱧料理鑑賞のツボ、
「鱧は五感で味わえ」

骨切りを活かして、さらに涼しくおいしくいただく、とっておきの料理があります。それは、「ぼたん鱧」。鱧の身を真っ白な牡丹(ぼたん)の花に見立て、花の中心に梅肉を添えました。まぶした吉野葛が艶やかに輝き、鱧の白さを涼しげに引き立てます。

京都の料亭で料理長を務める荒巻廣行さん。

荒巻 「鱧っていうものは淡白な魚で高級な脂を持っている。それを葛で打ってキレイにして脂を止めるということをすれば、おいしく召し上がれる」


華やかな鉾(ほこ)が京都に夏の到来を告げる祇園祭。このハレの日のごちそうに、鱧は涼しげな姿とはまた違った装いでお目見えします。照り焼きです。繰り返しタレをかけ、さらに焼くことで照りは増し、香ばしい香りが食欲をそそります。夏の京都で愛されてきた鱧料理には舌だけでなく五感をもれなく刺激する調理の工夫にあふれています。


東京・神田には、江戸時代の末から甘酒を作り続けているお店があります。創業当時のまま、今でも夏に熱い甘酒を売っています。
それにしてもなぜ、暑い夏に甘酒を飲んでいたんでしょうか?


店主の天野博光さんにその理由を伺いました。

天野 「もともと甘酒というのは冬の飲み物じゃなくて夏の飲み物なんですね。というのは、甘酒ってのは砂糖が入っているわけじゃないですから、甘みの主成分がブトウ糖で、夏に飲むと疲労回復だとか夏バテ予防になるわけです」

この店の地下では、甘酒の原料になる糀(こうじ)が作られています。糀とは、米に糀菌を繁殖させたもの。蒸した米と合わせ発酵させると甘酒になります。この時、米のでんぷんが、吸収しやすいブトウ糖に分解されるため、甘酒は夏バテに効くといわれています。

天野 「江戸時代は水事情も悪かったみたいで、夏になると生水を飲んであたってたみたいなので、甘酒がもてはやされたみたいなんですね」

厳しい夏、甘酒は手軽に水分と栄養を補える飲み物として重宝されていました。まさに江戸っ子の夏の知恵だったんです。

備前焼鑑賞のツボ 濡れた肌合いを愛(め)でよ

素朴で温かみのある味わいが魅力の備前焼。夏にお勧めの使い方、楽しみ方があります。それがビールを飲む時に使うビアマグです。きめ細かい泡の秘密は、その土肌にあります。備前焼のザラザラした肌には細かい無数の穴が開いています。この穴の奥に残る空気が、たくさんの小さな泡を作ると考えられています。

岡山市で日本料理店を営む羽村敏哉さん。備前焼の肌合いを生かした、夏ならではの器使いをしています。
器を丸ごと水の中に浸してしまいました。こうするのが瑞々(みずみず)しく使うための工夫なんだそうです。

備前焼鑑賞のツボ、
「濡れた肌合いを愛でよ」

備前焼は表面にガラス質のうわぐすりをかけません。そのため肌合いは土そのもの。水に濡れると器の模様も際立ちます。この模様も備前焼の魅力なんです。

濡れた肌合いをいかして料理を盛り付け。
岡山で捕れたアコウダイとウナギ。
余白を多く残して盛り付け、器のしっとりとした味わいを楽しみます。

最後に備前焼のとっておきの使い方をご紹介。冷蔵庫で水に浸して冷やしていたのは、ぐい飲みと酒を入れた徳利(とっくり)。こうすれば酒はもちろん徳利もヒンヤリ。
水を含んだ器の冷たい手触りを楽しみます。
見て触って飲んで嬉しい夏の備前。皆さんも試してみてはいかがですか?

朝茶事鑑賞のツボ 水が生み出す朝茶事の涼

食事のもてなしにも夏ならではの演出があります。
石川県金沢市。夏は蒸し暑いこの街で、涼感あふれる時間を楽しむ人たちがいます。

陽射しが強くなる前、朝のうちに開く茶会、「朝茶事」。亭主の大島宗翠さんは、朝茶事で客をもてなす心がけについてこう言います。

大島 「いかにお客さんに涼しさを感じてもらうか。ここへ来られると、なんか山の渓谷に来たんじゃないかなっていう気分がね、朝の清々しさとともに感じてもらおうと。そこからが始まりですね」

実はこの朝茶事、客に涼しさを感じてもらうため、念入りないくつもの準備がなされていました。そのポイントになるのが「水」。

朝茶事鑑賞のツボ、
「水が生み出す朝茶事の涼」

朝茶事の準備は前日から始めます。夕方、庭に打ち水をしていきます。この夕方の打ち水は、大雨が降ったかのようになるまで行います。大量の水が時間をかけ蒸発することで、庭の温度は低く保たれ、翌朝、より涼しい空気を味わうことができるのです。

翌朝午前5時。茶室の障子が外されます。
そこに掛けるのが前日の晩に水に浸けておいた簾(すだれ)。この簾を通ってくる庭の空気が、茶室へと涼を運びます。

午前6時。客が訪れます。まず茶の前に、懐石料理が運ばれます。その献立にも演出があります。
こちらは魚を描いた九谷焼に盛られた煮物。野菜の中にアワビを盛り付け、さりげなく海を感じてもらう趣向です。

亭主が運んできた金沢の鮴(ごり)を食べながら酒を酌み交わすなかで空気が和んでゆきます。

大島 「涼しさの中に、今度は心温まるものがないとね、やっぱりダメなんです。すべてクールじゃなんか覚めた感じですから。 涼しいというのは、暖かいものがあってこそ涼しさを感じるわけですから。相対するものをうまくバランスとっていくことによって、より涼しさを感じていただける、と思います」

さまざまな心づくしの後、供(きょう)されるお茶。澄んだ空気の中に、温かな余韻を残します。

最後に夏のお酒にぴったりの場所をご紹介しましょう。夕暮れ時、賑わいを見せる京都・鴨川の床(ゆか)。五月から九月の間、川沿いを彩る夏の風物詩です。
その鴨川の床のだいご味は、刻一刻と変わってゆく景色の移ろいにあります。

納涼床のツボ、
「移りゆく夕闇を味わう」

夕やみが迫ると、明かりが幻想的な雰囲気に。移りゆく情景を満喫しながらいただく京料理。光と時の移ろいを感じながら、夏をいただく至高(しこう)の時間です。

今週の音楽

楽曲名 アーティスト名
Dancing On The Ceiling Drothy Ashby
Ruby My Dear Thelonious Monk
Georgia On My Mind Itzhak Perlman ,Oscar Peterson 
Blue In Green Mark Egan, Danny Gottlieb, Lionel Loueke & Eriko Akiya
Futures Burton, Corea, Metheny, Haynes, Holland
Seabreeze Winner's Circle 
ずっと二人で 渋谷毅
In The Mood The Glen Miller Orchestra
Flight For Two 山下洋輔
9:20 Special Jim Hall
Caravan Essential Ellington
3/4 For God & Co. Les McCann & The Jazz Crusaders 
Windy Laurindo Almeida
Kuala Lumpur ハクエイ・キム
The Bare Necessities Alfred Rodriguez
Black Beauty Duke Ellington And His Cotton Club Orchestra
Benny's Dream  Larry Goldings , Harry Allen 
Oliloqui Valley Hervie Hancock
The Verry Thought Of You Chris Botti
Like Someone In Love Ella Fitzgerald
Dewey Square Joe Lovano
On Green Dolphin Street Peter Mazza
Day Dreaming On The Niger Regina Carter
Moonrays Master Sounds Play Horace Silver
Hidden Land ハクエイ・キム
Bijou James Farm
Crystal Silence Return To Forever
Morning Has Broken Larry Goldings
Amnesia  blu
Donna Lee Joe Lovano
Old Man Harlem Mooney & Keni With Lucky Rhythm

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