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file335 「春呼ぶ、ランドセル」


最近、大人も使えるランドセルが増えているんです。
こちらはアンティーク調の革のランドセル。
給食袋用のフック、名札入れまで付いています。


これは、帆布という素材で作られた布のランドセル。
カジュアルな服装によく似合います。


自由に着せ替えができるランドセルも。
かぶせの部分が取り外し可能で、さまざまな色や柄が楽しめます。

海外では、日本生まれのファッションアイテムとして人気を博しています。世界に誇れるメードインジャパン。
多くの人を魅了するランドセルの美を見ていきましょう。

壱のツボ 曲線を極め、命を吹き込む


1本のランドセルは、なんと約200のパーツでできています。


大峽製鞄の大峽宏造さんはこう言います。

大峽「ランドセルにはすべての技術が集約されているってよく言われますけど、この曲線、いつ見ても綺麗(きれい)だなって思いますね。ここを作るのがいちばん難しい。」


革のダイヤモンドと呼ばれるコードバン(馬のおしりの革)。
繊維のキメがすごく細かいのが特徴。
1枚の革から最も上質な部分を見極めます。


最高の革に、炎の熱で特殊な加工を施します。
縁にそって刻まれた凹凸は「しぼり」と呼ばれ、美しい曲線を仕上げます。


さらに、もうひとつの裏技。
かぶせの裏に、豚の革を張るのです。
この豚革も、職人が手もみし、ほどよい柔らかさに仕上げます。
もんだ前後では、比べてみるとその差は歴然。
コードバンの革と豚革、2つの革が支え合い、かぶせにしなりの美が生まれるのです。


かぶせの曲線美を維持するのに欠かせないのが金具。
利便性に加え、形状維持にも大きな役割を果たしています。
その秘密のひとつが、全面に刻み込まれた模様。
模様を入れることによって強度が増すといいます。
この揺るぎない強さで、形を保っているのです。
曲線美には欠かせない、縁の下の力持ちです。


最高の素材と職人の技。
曲線美は絶妙なハーモニーを奏でています。

1つ目のツボは、
「曲線を極め、命を吹き込む」

弐のツボ 憧れの箱型に歴史あり


ランドセルは人間工学的視点から見ても優れているといいます。
日本大学理工学部まちづくり工学科の青木和夫教授が語ります。

青木「ランドセルは箱型になっているので、とても出し入れがしやすい。中に入れたものが動かないので、本が傷んだりすることがない。」


青木「荷物を背負う時は、足から引いた直線の上に、荷物の重心が乗るといちばん軽く感じます。箱型のランドセルは重心の位置が高いので、体をちょっと前に傾けただけで、重心が乗ってきます。また、転んだ時も頭を打たず安全です。」


学習院初等科。ランドセルは男女とも、校章入りの黒い箱型。
日本のランドセルはここから生まれました。
明治18年、当時人力車で登校する子どもが多かった中で、学校側が、歩いて登校し体力をつけさせようと、ランドセルを導入したと言います。


学習院に、明治のランドセルの名品が残されていました。
大正天皇の第三皇子である、高松宮さまが実際にお使いになっていたものです。
もともとは、ヨーロッパ列強の歩兵が使用していた背負いカバンである背嚢(はいのう)をモデルに作られたランドセル。その独特なシルエットである箱型を利用して、さまざまなオシャレも生まれました。
高松宮さまは黒塗りの筆箱を脇に刺していました。


学習院大学史料館の学芸員、長佐古美奈子さんはこう言います。

長佐古「皇族の方や家族の方たちが、ある種ファッションリーダーであったんですね。そういう意味では、ランドセルを背負って学校に通うというのが、憧れの的だったのかもしれないですね。」


箱型への憧れが生んだ、幻のランドセルをご紹介。
戦中戦後の物資がない時代、革の代わりにさまざまな素材でランドセルが作られました。
こちらは籐(とう)でできたランドセル。
ゴザ編みという手法で隙間なく籐が組まれています。
縁は籐を縦に束ねて補強され、美しい装飾にもなっています。


昭和館の学芸員である財満幸恵さんはこう語ります。

財満「ものがない時代にかなりの技術を使ってランドセルを作る。その労力は、大変なものがあったかと思います。」


そのほかにも、戦闘機の材料の余りで作られたジュラルミン製。
ファイバーという固い紙で作られたものも。
かわいらしい絵が施され、ワクワクするような箱型です。
ランドセルは、昭和30年代までに、日本全国の子どもたちに広がりました。

2つ目のツボは、
「憧れの箱型に歴史あり」

参のツボ 想い出のタイムカプセル


使用済みのランドセルを、小さくリサイズしたミニランドセル。
ミニランドセル作りに魅了された1人の女性がいます。


ミニランドセル職人の寺岡孝子さん。
2児の母でもある寺岡さんは、15年前からミニランドセル作りをしています。
もともとカバンメーカーに勤め、カバン作りをしていましたが、ミニランドセル作りは1つ1つに想いが込められているところが魅力だと言います。

寺岡「タイムカプセルみたいな・・・想い出をずっととっておくためのミニランドセル」


1日1個のペースで作る寺岡さん。
今日は、時間割りを入れるケースがボロボロになった、久保雄太郎くんのもの。やんちゃな男の子であったことがうかがえるランドセルです。


作業中、思わぬ発見も。
10年以上、眠り続けていた40円が出てきました。

寺岡「親が、何かあった時に連絡できるように持たせてるんだと思います。でも4枚はちょっと・・・心配性な感じって・・・勝手に想像しました。」


ミニランドセルと再会するときがやってきました。
依頼主の久保恵子さんはこの日を心待ちにしていました。

久保「ははは。息子が使っていた、そのまんま。」

傷も同じ場所に。ボロボロの時間割りケースもそのまま。

久保「緊急用の40円。全然忘れてました。」

母の愛情を、雄太郎くんは大切にとっていました。


寺岡さんの長女、くるみちゃん。来年、新1年生です。
寺岡さんは、手作りのランドセルを贈ろうと決めています。優先するのは、卒業後、ミニにしたときの姿。

寺岡「ランドセルとして使うのは6年なんですけど、ミニになってからの方が、カバンの人生があると思うので。」


長くつきあうことで生まれる、愛着の美。
ランドセルは、人生を共に過ごすカバンです。

3つ目のツボは、
「想い出のタイムカプセル」

今週の音楽

楽曲名 アーティスト名 使われた場所
(番組開始後)
Moanin'Art Blakey & The Jazz Messengers0分2秒
Happy Ending...Ludovic Bource0分33秒
Comme une Rose' e de LarmesLudovic Bource0分58秒
I'm Getting Myself Ready For YouJanet Klein1分5秒
St. ThomasSonny Rollins2分59秒
One O'Clock JumpCount Basie4分16秒
One O'Clock JumpCount Basie5分39秒
Deep NightSonny Clark7分38秒
ラッパ吹きの休日白石光隆10分24秒
If Someone Had Told MeThad Jones11分47秒
VendomeThe Modern Jazz Quartet13分14秒
BroadwayArt Pepper15分34秒
Walkin' on HomeMarty Paich17分12秒
They Can't Take That Away from MeElla Fitzgerald 、 Louis Armstrong19分31秒
Alice in Wonderland Dave Brubeck / Paul Desmond 21分52秒
I Got a Right to Sing the BluesBuddy DeFranco, Martin Taylor26分10秒
SpaceshipThomas Newman28分14秒

                                                      

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