和食器では、直径が３寸に満たないような皿を「豆皿」と呼びます。手のひらに載る可愛（かわい）らしいサイズ。皆さんのお宅では、しょうゆ皿や漬物皿としてご活躍でしょうか？

身近な生活の器ですが、ユニークな形や絵柄が多く、ひとつひとつ手に取ると思わず引き込まれてしまいます。
小さいので値段が手ごろ、ウンチクもいらない豆皿は初心者に人気のアイテム。

目利きの愛好家もいます。
森荷葉さんは毎日の暮らしに豆皿を取り入れて楽しんでいます。今日は、お茶のお供を１つずつデザインの違う豆皿にのせました。
外国のものでも、サイズが合えば日本の豆皿と取り合わせて使います。

森「いろんな地方に旅行に行ったり仕事に行ったりしましたときに、そこの骨董（こっとう）屋とか、そういうところで１脚だけ買い求めるというのも、思い出としては非常に良い物だと思っています。本当に小さき中の贅沢（ぜいたく）な世界ということで、日本人ならではの丁寧さといいますか、こんな小さなものにも気を配って時間を惜しまないというのは、身近で良いんじゃないでしょうか。」

小さなものに注がれる日本人の美意識は、海外の人々をも魅了しています。
パリで人気のインテリアショップ。日本の現代作家が作った豆皿が並びます。
世界の最先端のデザインに囲まれてなお、引けを取らない存在感。

小さいからこそ、心惹（ひ）かれる豆皿。
自分だけのお気に入りと見つけてみませんか？

食卓のアクセントになる豆皿は、江戸時代から、さまざまな形のものが作られてきました。

桃の形に、扇の形。
みんななんだかユーモラス。
遊んでますね。

現代の豆皿も、江戸時代のものに負けず個性豊かです。
これは、ジグソーパズルをかたどったもの。

日本の伝統工芸を世界に紹介している、田中美知代さん。
全国の作家たちに、豆皿の制作を依頼してきました。

田中「それぞれの作家さんが何を思って、何をイメージされてこうしたのかな、とかね。そういうことを考えていると飽きないんですよね。
作家さんもやっぱり、これって全く実用をあんまり考えていないんですよね。それこそかくあらねばならぬと思わないで始めているというところだと思うんですよ、この辺。そこのはじけ方がおもしろい気がします。」

自由な形こそ、豆皿の魅力です。

１つ目のツボは、
「形さまざま　はじける遊び心」

豆皿は、作り手の創作意欲をくすぐります。
陶芸家の井上塁さんはとびきり独創的な豆皿を手がけてきました。

これが井上さんの作品。花の形をそのまま写した豆皿です。

作り方は、意外にも伝統的な手法によるもの。
厚さ５ミリの粘土板を切り抜き、型に入れます。こうした粘土板から焼物を作る手法は「タタラ作り」と呼ばれ、古くから行われてきました。

型を使っていろいろな豆皿を作るのは、江戸時代も今も変わりません。
ただし、井上さんは型そのものが独特。なんと、本物のガーベラから、じかに石膏で型を取っているのです。

咲き誇る花の姿を永遠に止める豆皿。
何とも斬新な器です。

井上「豆皿は、ほかのごはん茶碗（わん）とか湯飲みとか違って使い方が限定されていないと思うんですね。ごはん茶碗だとごはんを入れるために使いやすいもの、使いたいものということになると思うんですけど、豆皿と言われて１０人が１０人皆、これに使うという言い方をする物はあまりないと思うんですよ。なので形の方も自由に遊んで使って下さる方が自由に使って下されば、という風に思うんですけど。」

井上さんは、人間には作ることのできない自然の造形に心惹かれると言います。
蝶（ちょう）の羽をかたどった豆皿。
組み立てて、飾ることもできます。

今も昔も、人は手のひらサイズの造形にワクワクするんですねぇ。

豆皿を集めて５０年あまり、京都の骨董商・貴道裕子さんのコレクション。その数は、２千枚以上にのぼるとか。

貴道「すごく巧みに細かく描かれているときのもあるんですけども、ちょっと失敗作かなと思うところもあったりね、そこがおおらかな良いところだと思いますけど、どうしてこんなのができたのかしらと思うぐらい、いろんな図柄がございますでしょ。そしてパロディになってたりするのもありますし、本当に楽しいです。」

豆皿の絵柄の楽しさは、ごく小さな画面ならではの表現にあります。
真ん中に、金魚が１匹。大きな皿ではありえない模様です。
小さいから、可愛いのです。

これは、象と象使い。
豆皿の小ささをあえて強調するかのように、空間からはみ出すように描いています。

一方こちらは、ひとつの皿に桜を１輪ずつ。
遠くから眺めるのではなく、花に寄り添うような視点。
小さな豆皿ならではの発想です。

２つ目のツボは、
「３寸の皿に３寸の構図あり」

豆皿独特の絵付けを受け継ぐ職人がいます。
江戸時代から続く、波佐見焼の絵付け師、村上三和子さん。

村上さんの豆皿には、熱帯に住む動物たちが描かれています。
生き生きとした仕草（しぐさ）や表情が印象的です。

村上さんは、ダミ筆という太い筆でどんな絵も描いてしまいます。

輪郭線なしに、大胆に塗っていき、小さな空間に、この躍動感。
一気呵成（かせい）に、アシカの絵ができあがり。
あえて上半身だけを描いて、大きさを表現します。

村上「豆皿はコントラストとかレイアウトでどこをみせるか、そこをいちばん考えますね。これだけがあって真ん中にあって、この空間があると、すごく存在感がある。反対にこっちは横からもってきている。見えるところは大体ここだけしかないんですね。だからその配分ですね。」

小さな画面という制約を逆手にとって、センスで勝負。
俳句を生んだ日本人ならではの、感性です。

豆皿を使った究極の料理をご紹介しましょう。
９つの器に９種類の料理を盛りつけた、なんとも優雅なもてなしの膳。使われているのは、すべて豆皿です。
食卓の脇役だった豆皿が、改まった席にも相応しい、主役の器に生まれかわりました。

３つ目のツボは、
「豆皿三昧で“おもてなし”」

銀座の日本料理店で料理長をつとめる渡邊毅さんは、豆皿だけを使って膳を盛り付けます。

渡邊「１口で召し上がって、召し上がって頂いた後に器も愉（たの）しんで頂ける。という風に考えています。
これは豆の昆布締めなんですけども、この豆を召し上がって頂いた後におたふくの絵が出てくるんですけども、これを見て福を呼び込む、福を頂く、お客様がそれで喜ばれるかなという。」

それぞれの器の特色を生かした料理と盛りつけに知恵をしぼります。
小さくても手の込んだ、豆皿と料理の競演。

渡邊「こんなにちっちゃな器にいろいろ描かれたりとか、いろんな形があったりとか、本当に、私が作る料理もそうなんですけども細かな作業がこなされているというのが、私自身が盛っていても美しいなと。で、お客様のところにもっていっても、わぁ、という風に感動して頂けるというのが自身で作っていて楽しいです。」

豊かな器の伝統を、手のひらで愛でる。
今度お客様を迎えたら、豆皿尽くしのおもてなしはいかがですか？