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鑑賞マニュアル美の壺

これまでの放送

file281 「うちわ」


日本の夏といえば、うちわが欠かせませんよね。
風で涼しくなる以外にも、炊事やお祭りなど、うちわは幅広く使われます。


最近では、夏のおしゃれとして持ち歩く女性も増えています。


中戸松彦さんは全国の珍しいうちわを収集しています。
集めたうちわは300点以上。
地域によって形や作り方に特色があります。


中戸「うちわについては軽さとか美しさとか、あおいで得る微妙な風ですね、そういうもんが楽しみ。」

形、柄、そして風。この夏も大活躍のうちわ。その奥深い世界にご案内しましょう。

壱のツボ 紙に光の仕掛けあり


岐阜県には、水を感じさせるうちわがあります。
水うちわです。


この地方では、江戸時代からちょうちん作りが盛んです。
やさしい明かりが和紙に透けて涼し気なちょうちん。
その発想を、水うちわに応用したと言われています。


水うちわに使うのは雁皮紙(がんぴし)。特別に薄い和紙です。
雁皮紙は、薄く破れやすいため、ニスを塗って強度を高めます。


すると・・・
雁皮紙が透明になりました。
これは光の乱反射が抑えられるためにおこる現象です。
たとえば、白いシャツに水をかけると透けて見えるのと同じこと。

この効果を利用してできたのが、水うちわ。
澄み切った清流をわたる鮎(あゆ)が、生き生きと描かれています。

今日1つ目のツボ、
「紙に光の仕掛けあり」

岡山県に江戸時代の武士が考案した珍しいうちわが今に伝わっています。
撫川(なつかわ)うちわ。

一見普通ですが、光にかざすと、絵がぐっと鮮やかに。実は、花の部分に特別な仕掛けが施されているのです。

作り方をみてみましょう。
まず、和紙に花の形を切り抜きます。
そこに目の粗い和紙を貼ります。
こうすると、花の部分は光を多く通し、明るく見えます。
武士が考えた工夫です。

このうちわには、もうひとつ武士の遊び心が隠されています。
うちわを横にしてみると・・・
雲の縁のギザギザは、文字だったのです。
手の届く、水きわうれし、かきつばた。
武士の心意気がつまった、撫川うちわです。

弐のツボ 風に技あり

東京葛飾柴又、帝釈天の参道です。
おいしそうな匂いに誘われて、たどり着いた先は、うなぎ屋さんです。
ここでもうちわが。

うなぎを焼いて20年、佐藤輝明さんです。

佐藤「風で熱を操作してます。
やっぱりうなぎの表面が、多少凸凹してるわけなんすよ。
でっぱってる部分に強い火があたって、へこんでる部分が火があたりづらいんで。
風をあおぐと火がまんべんなくあたる。」

かば焼き専用のうちわ。
四角い形は、職人の意のまま風をおこし、狙った先に風を届けます。
加えて、骨組みの竹が太いのも特徴です。
竹が太いと力強い風がおこせます。
職人の経験と技が生み出した、剛のうちわです。

今日2つ目のツボ、
「風に技あり」

極上の風を生み出すうちわがあります。
宇山正男さんが作る房州うちわです。
宇山さんの竹使いの技を見せていただきましょう。

竹は、地元で育った大名竹です。
一本の竹を節のところでつなげたまま、半分、そのまた半分と丁寧に割いていきます。
竹と会話するように割いていくといいます。

宇山「人間には人間の癖と同じでね、根性が悪いとか、そういう癖があるんすよ。それをだから、うっちゃるわけにはいかない。なんとかそれを割るんだけど。それを面倒みんのが大変。自然の竹だから。」

次に、扇形に広げ竹を、一本一本糸で結っていきます。極細の竹が連なって、見事な造形美が生まれます。

竹に貼るのは紙ではなく、薄手の綿です。
伸び縮みして、竹の細やかなしなりを邪魔しません。
房州の竹林にそよぐ、柔らかな風のような、うちわです。

参のツボ うちわの楽しみ無限大

月に10本、オリジナルのうちわを作るという2人。

2人「応援するためのうちわです。
中丸君と錦戸亮君です。」

そう、自分の好きな男性アイドルの名前です。
ファンの間では、コンサートにこうしたうちわを持って行くのが常識なんですって。

会場を埋め尽くすファンの中で、いかに目立つかが勝負。
あーでもない、こうでもない・・・
コンサートの楽しい時間は、ここから始まっています。

今日3つ目のツボ、
「うちわの楽しみ無限大」

江戸時代でも、うちわはアイドルの応援に使われていました。
1590年創業のうちわ問屋、14代目の吉田のぶおさんです。

吉田「うちわですと夏持ち運べる浮世絵っていうんですかね。
ですから私はこの人のファンよと、いう形で多分持ち歩いたと思いますよ。」

現代でも、アーティストたちがうちわでさまざまな表現を楽しんでいます。
美しい蓮(はす)の花のうちわ。
咲こうとする蓮の花に、「未来への希望」というメッセージを込めました。

アーティストの井上隆夫さん。
自然の竹や木、和紙を使い、五感を刺激する作品を作ってきました。

井上「これが両手うちわでね。少し強風を起こす。普通うちわは自分のため。まあ、普通はね。でもあおいであげる。自分は涼しくないけどね。」

井上さんの究極のうちわは、あおがず見て楽しみます。
風にそよぐ竹を表現し、想像力で涼しさを感じてもらう趣向です。

皆さんはこの夏、どんなうちわを手に取りますか?

磯野佑子アナウンサーの今週のコラム

子どもの頃、実家で長く使っていたうちわがありました。
あえてクーラーをつけず、扇風機を使って、手にはうちわ。
主に祖母がパタパタと愛用していた物でした。
毎年夏になると、どこからかそのうちわが登場し、家族に涼をもたらしてくれました。
持ち手の竹の部分は、深い茶色であめ色に近くなっていたな~。
あのうちわ、まだどこかにあるのかしら・・ふと思い出しました。
うちわの風って、やっぱり気持ちいいものですよね。
力強くあおいでも大丈夫!職人が支えるたくましさと、美の繊細さを感じました。
房州うちわを作る時の、竹をさく心地よい音。
あの音、ずっと聞いていたくなるようなすてきな音でした。
水うちわの透明感にも、目でも涼を楽しむ、という日本人の心をひしひしと感じました。
今年の夏は、浴衣にうちわを持って出かけたいです。

今週の音楽

楽曲名 アーティスト名 使われた場所
(番組開始後)
Moanin'Art Blakey & The Jazz Messengers0分2秒
For Minors OnlyArt Blakey1分10秒
JubileeBill Charlap2分27秒
Thanks For The MemoeyJim Hall4分48秒
Chovendo Na RoseiraJoshua Bell6分31秒
Autumn NocturneLou Donaldson8分30秒
C-Jam BluesRed Garland Trio9分31秒
My RomanceMartin Taylor11分37秒
Jazz Pizzicato白石光隆13分5秒
Nostalgia In Times Square中村健吾14分10秒
I Got It Bad And That AinMilton Nascimento15分58秒
Battuto, for string quartetTurtle Island String Quartet18分20秒
Dark IslandBuddy DeFranco, Martin Taylor20分15秒
Jazz Pizzicato白石光隆21分28秒
Jolie CoquineCaravan Palace21分57秒
Almost Like Being in LoveRay Brown23分35秒
Lem And Aid-From Lem's BeatOliver Nelson, Lem Winchester26分0秒
Over The RainbowClaude Williamson Trio28分17秒

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