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file247 「沖縄の民家」

透き通った海。サンゴのかけら。そのサンゴが敷きつめられた道に黒い石垣。色彩豊かな沖縄。
南国気分を更に盛り上げるのが赤い屋根の「沖縄の民家」です。
エキゾチックな風情の民家。日本と中国との間に栄えた独自の文化。そして厳しい自然条件がこの形を生み出したものなのです。
小さな木造平屋建てでありながら、激しい台風や強烈な日差しに耐える強さがあります。
沖縄の人の知恵や歴史が詰まった「庶民の家」を知れば、本当の沖縄が見えてきます。今日は、「沖縄の民家」の美をご紹介しましょう。

壱のツボ 時が生み出す無限の赤を味わえ

手つかずの自然が残る竹富島。
昔ながらの民家が数多くあり、沖縄の原風景に出会えます。
沖縄の民家の特徴は、そうです、赤い瓦屋根です。沖縄ならではの青空に、この「赤」。
画家の金城明一(きんじょう・めいいち)さん。30年以上にわたり、赤瓦の民家を描いてきました。
描くのは、長年、人が住み続けた家。
積み重なった時間が、赤瓦の色に出るといいます。

金城 「色を楽しめるというかね。作った時期はあんまり色変わらんけど、歳月がたつにつれいろんな色が、雨風とかね、時間のしみ込んだ面白さだったり、沖縄の赤瓦らしいというか重厚感が増しますよね。」

金城さんは、さまざまな色を赤瓦に使います。
そうして見ると屋根は、実にまだら。赤いものから黒っぽいものまでがあります。
沖縄の赤瓦は、「素焼き」のため、雨などがしみ込み、カビやコケで独特の味わいを醸し出すのです。
金城さんの赤瓦は、まるで花のような色どりです。
一枚として同じ赤がない沖縄の屋根。豊かな赤が複雑なハーモニーを奏でます。

一つ目のツボ、
「時が生み出す無限の赤を味わえ」

なぜ、沖縄では赤瓦なのでしょうか?
ヒントは首里城にあります。
かつて、沖縄はこの城の王に統治された琉球王国でした。
城には17世紀当時貴重だった赤瓦が使われました。赤は、「高貴な色」だったのです。
そのため、庶民は赤瓦を使うことが許されず、茅葺(かやぶき)に住んでいました。
貴重な赤を使うことは禁止され、赤瓦はあこがれだったのです。
瓦の使用が解禁されたのは明治22年。庶民は、こぞって赤瓦を屋根にのせました。

実はこの赤、沖縄の土に由来します。
沖縄の南部一帯にその土があります。「クチャ」という鉄分を多く含む泥です。

赤瓦は黒い土と水だけで作ります。
成形した瓦を40日ほど乾燥させ、1000度という低温で「素焼き」します。
すると…。
土の鉄分が酸化し、焼くことで独特の赤が生まれるのです。
この素焼きの瓦は、暑い沖縄の気候にも適していました。
八幡瓦工場社長 八幡昇さん。

八幡 「沖縄の瓦は、多少吸水率が高いんですけど、スコールとか急に雨が降った時、若干水を吸って暑かったらそれを蒸発します。それによって瓦自体が温度調整しているっていう話は聞いてますね」

水分を蒸発させる時、熱を逃がし涼しくしてくれる素焼きの瓦。赤瓦は、沖縄の亜熱帯の気候に適した屋根でもあるのです。

一方、こちらは、赤瓦が白いもので囲われています。
白と赤のコントラストが美しい屋根です。
白いのは「漆喰(しっくい)」です。強烈な台風に襲われる沖縄では瓦が風で飛ばされないよう漆喰で留められているのです。

この漆喰もまた、雨や日差しで風化。白から灰色へと変化します。
漆喰と赤瓦。共に年月を重ねながら味わい深い表情になっていくのです。

さらに赤瓦の屋根をより魅力的に見せるものがあります。
ご存じ、シーサー。
中国の風水思想にある魔除けです。
よく見ると魔除けなのにお茶目。可愛いものやユニークなものまでさまざまです。
そもそもシーサーが乗り始めたのは赤瓦が庶民に解禁された時期。
瓦を葺(ふ)いた職人がおまけで屋根に残したもの。作った人の個性や遊び心があふれたものなんですね。

シーサーは屋根と同じ材料で作られています。作る過程で出た割れたりかけたりした赤瓦を利用するのです。
長年シーサーを作り続けている屋根左官職人の大城幸祐(おおしろ・こうゆう)さん。
大城さんがシーサー作りで大事にしているのが上あごの角度。この上に目が載るからです。
シーサーの目は、門から入ってくる魔物とにらむ角度でつけられます。

大城 「お客さんが家に入ってきたら玄関に立ちますよね。立った所に獅子がちゃんと向かってにらみつけているんだった怖いでしょうね。魔除けですから、あんまり笑ってもいけないですしね。」

命を吹き込まれたシーサーが赤い屋根を守ります。
赤瓦、漆喰、そしてシーサー。
沖縄の風景になくてはならない彩です。

弐のツボ 雨端柱が魅せる極上の空間


沖縄の民家は中国と日本、そして琉球の文化が混じった独特の形をしています。
まず石垣の門を入ると立ちはだかる壁。「ヒンプン」と呼ばれます。中国の風水の影響で、魔物が家に入ってこないよう立てられています。
「ヒンプン」を右に行くと、お客さんが入る方向。左は、家の人たちが出入りします。

最大の特徴は玄関がないこと。広く取った開口部から自由に出入りします。
家屋の南側には壁がなく、南風をふんだんに取り込いれて、広々とした庭や自然を感じることができます。

280年前に建てられた「中村家」。
本島で奇跡的に沖縄戦の戦火を免れ琉球時代の面影を残しています。
ヒンプンを右から入ると…
「豪農」だった中村家には右手に客人をもてなす「離れ」、左が母屋です。
表に面して、柱だけが並び広々中が見渡せます。


開口部には部屋を雨や日差しから守るため、長い軒があります。この軒下の空間を、「雨端(アマハジ)」といいます。
玄関のない沖縄で、雨端は、家に出入りしたり、軒下でくつろぐなど、重要な場所です。

この長い軒を支えるのが、「雨端柱」です。沖縄では、強烈な台風で軒が飛ばされないよう、しっかりと地面とつないでいるのです。
そのため、「チャーギ」と呼ばれる頑丈な木材が使われています。沖縄で、最高級木材です。
琉球大学工学部名誉教授 福島駿介さん。

福島 「柱を製材すると雨風に非常に弱くなるんです。そういうために製材する前の自然に生えたチャーギを使っているんです。自然に生えている特に木の根元っていうのは非常に水に強いんです。」

製材しないことで、雨に強く、野趣あふれる表情を見せています。そのままの木肌を味わおうとするところ、まるで床柱みたいですね。
大事な雨端の空間には、沖縄の人々の贅(ぜい)と知恵、美意識が込められているのです。

二つ目のツボ、
「雨端柱が魅せる極上の空間」


雨端柱が作り出す、もう一つのすてきな美があります。
こちらは、17年前に建てられた山城清盛さんのお宅です。
こだわったのは沖縄産の木材。壁にはセンダンや杉が贅沢(ぜいたく)に使われています。
縁側は、楠(くすのき)を使用。どっしりとした重厚感を醸し出します。


そして山城さんご自慢の雨端柱。

山城 「これは、うちのおじいさんが明治の代にうちの実家に植えたチャーギですね。今、県産のチャーギを探すのは大変です。第二次世界大戦があったからだいたいそれで古いチャーギはなくなっちゃったわけですから。今もっと大事にしないといけないね。」


この雨端柱でとっておきの空間が演出されるといいます。どんな空間なのでしょう?

山城 「樹齢100年以上になる柱が2本、この間から見える景色です。」

部屋から雨端を望むと…
丸太のままのチャーギがまるで映画のスクリーンのように庭を切り取ります。

山城 「今日はいい風が流れていまして、心地よいです。」

雨端のスクリーンを前に三線を弾く山城さん。まさに極上の時間です。

おじいさんのチャーギが、やすらぎの時に寄り添います。

参のツボ 先人が作り上げた島の景色をめでる

竹富島。美しい白い道が印象的な島です。
道には、サンゴのかけら。町が水はけや美しさを維持するために、年に2度、道や庭にしきつめます。
その白に対比するのが石垣の黒。
石垣は、サンゴが堆積してできた岩・琉球石灰岩を積み上げています。
南国の光の下、鮮やかなコントラスト。

この島で生まれ育った大山祐達(おおやま ゆうたつ)さん。毎朝、サンゴの道と祖父が建てた家を掃除をします。
庭には、家をより美しくみせる緑があります。

大山 「これは福木っていう木なんだけど、家屋敷を守る神様。だから古い家は、たいていこれを持っているよ 。」

樹齢200年の大きな木。根元には、「地所御獄(ジージョオン)」という神様がいます。
この木は、家の北東にそびえ、屋敷を北風や台風から守ってきました。
赤瓦と緑。もう一つ鮮やかなコントラスト。

この美しい石垣もまた家を守ってきました。

大山 「瞬間風速70メートルの風にも耐えられます。石垣を抜けていく間に無風になっちゃうんですよ。屋根自体が低い勾配になってるでしょ。だから強い風は壁に当たらずに屋根から空に抜けるように、合理的になっているんです。昔の人の知恵ですね。」

石垣は強烈な風を弱めます。またその高さは、風が家の壁を直撃しないよう絶妙な高さになっています。
島の美しい景観は、家と家族を守ろうとした沖縄の人の知恵の結晶でもあるのです。

最後のツボは、
「先人が作り上げた島の景色をめでる」

島のほとんどの家にある石垣。これが竹富島独自の景観を作ってきました。
この石垣島の人たちが長年の経験から生み出されたものだといいます。
竹富島の資料館館長・上勢頭芳徳(うえせどよしのり)さん。

上勢頭 「この石垣の積み方、野面積みっていいますね。外側と内側と両側に大きな石を積み上げていきます。大きな石と石の間には小さい石を詰め込んでいきます。小さいのが入るとせめぎ合い、引っ掛かり合いますから、セメントを使わなくても大丈夫なんです。」

さらに石積みには、ある想いが込められているといいます。

上勢頭 「竹富のキーワードは<うつぐみ=助け合い>です。この石垣自体も大きい石、小さい石、それぞれの立場で<うつぐみ>しあっている、助けあっているってことでしょうね。」

台風の多い島で村の人が協力していきてきました。石垣には知恵と島の精神が宿っています。

もう一つ独特の景観を持つ島を紹介しましょう。
わずか4キロメートル四方に400人余りが暮らしています。
深い緑の森にすっぽりと覆われ、ところどころ赤い屋根がのぞいています。
というのも、家々は道から1メートルほど低い場所に建ててあるからです。台風の強い風が家を直撃するのを避けるのです。

また家の周りをフクギという木がぐるりと囲っています。
肉厚で大きな葉が、台風や強烈な日差しから家を守ってきました。
渡名喜島に住む比嘉利克さん。

比嘉 「葉っぱも堅いし強いし塩害にも強いということで、防風林としては最高の木じゃないかな。夏は涼しいし、台風にも強いし、心の優しく、心の大きい、ひとつの木じゃないかなと思います。」

フクギ林に抱かれるように可愛(かわい)い赤い屋根が肩を寄せ合っています。
先人たちが植えたフクギが時を経て心地よい木陰を生み出し、人々に豊かな時間をもたらしています。
沖縄の美しい民家の風景。それは数百年という時間と知恵が育んだものなのです。

磯野佑子アナウンサーの今週のコラム

沖縄~♪心はもうすっかり沖縄に飛んでいます(笑)島のゆったりとした時間と、風が心地よく流れていく様子。良いですね~。民家も実用的であり、そして美しい!土地が育む美、というものを改めて教えてもらいました。
沖縄の本島には行ったことがあるのですが、離島は未経験です。
赤瓦と白い道、黒い壁をこの目で見た~い!
あ、シーサーも忘れずに。あんなに個性的で可愛(かわい)いものとは知りませんでした。魔物だけど、意外とゆるキャラ?!

今週の音楽

楽曲名 アーティスト名 使われた場所
(番組開始後)
Moanin' Art Blakey & The Jazz Messengers 0分2秒
てぃんさぐぬ花 吉川 忠英 1分12秒
Per Te Chris Botti 2分47秒
Tabarka Keith Jarrett 4分40秒
Maiden Voyage Bobby Hutcherson 5分38秒
Creole Blues Marcus Roberts 7分51秒
Us Three Horace Parlan 8分55秒
I Remember Clifford Lee Morgan 11分2秒
Cinema Paradiso Charlie Haden / Pat Metheny 12分23秒
Stolen Moments Turtle Island String Quartet 13分54秒
You Leave Me Breathless Milt Jackson 16分21秒
Sea Glass Joey Calderazzo 18分44秒
Take The A Train Herb Ohta 21分20秒
Summer Time Jim Hall & Pat Metheny 23分41秒
For Heaven's Sake Makoto Ozone & Gary Burton 25分5秒
Over The Rainbow Chris Botti 25分55秒
ハイサイおじさん 吉川 忠英 28分25秒

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