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File226 「かごバッグ」

街で、草木や竹を編んだバッグを持つ女性を見かけませんか?ファッションの世界で、これを「かごバッグ」と言います。古くから多くの女性に愛され続けてきたアイテムです。

スタイリストの椎名直子さん。かごバッグにほれ込み、ほかのバッグはほとんど使わないといいます。

椎名 「宝物ですが、どちらかというと夫婦や友達みたいな感じです。棚の上に置いておくというよりは、ぞんざいな扱いをしていても信じ合ってるような。」

今、注目されているのが日本製のかごバッグ。そこには、身近にある材料を暮らしにいかしてきた、人々の知恵や工夫が隠されています。

壱のツボ 「手」が生み出す豊かな表情

同じ素材を用いたバッグでも、よく見るとさまざまな網み目があります。定番の「網代(あじろ)編み」から、花ビラが重なり合うような「花結び編み」、立体的に編まれた「亀甲編み」など、編み方を変えることで全く異なる表情が生み出されます。

日本製のかごバッグ専門店の店主、籾山瑞枝(もみやま・みずえ)さん。

籾山 「人の手によって紡ぎ出される表情の豊かさや、楽しさが編み目の魅力じゃないかと思います。」

ひとつ目のツボ、
「『手』が生み出す豊かな表情」

古くからかごバッグが作られていた青森県・弘前市。
かご職人、葛西矗(かさい・しげる)さんは、山ブドウの樹皮を丁寧に加工し、隙間なくぎっしりと詰まった編み目に仕上げることで知られています。

葛西 「私が気をつけているのは皮の肌と切り幅ですね。いかに肌がよくても切り幅が一定でないと、きれいな、まっすぐな編み目はそろいません」

使用する山ブドウの樹皮は、太さも厚さも均一ではありません。さらに、ねじれていたり反っていたりとさまざまな癖があります。まずはこれを丹念に加工し、編みやすく美しいものにしていきます。

はじめに樹皮を一定の幅にカット。それを水でぬらし、専用の道具でこすると、繊維が均等になり癖が減るといいます。

さらに、皮の厚い部分を手で探り、均等な厚みに削っていきます。

編みの作業のコツは、少し食い込ませて編んでいくこと。水を含ませ編みやすくした山ブドウの皮。重ねて編まないと、乾いた時隙間ができ、美しい編み目にならないのです。

もうひとつのコツは、なめしても消えない癖を、引っ張って矯正しながら編んでいくこと。手で触れて確かめながら微妙な力加減で進める作業です。

ぎゅっと詰まった美しい編み目。それは野生の力との地道な戦いを経て生み出されるものなのです。

青森のかごバッグは、職人たちだけでなく、農家の人たちもその担い手でした。かつて津軽の人たちは、冬の農閑期、暮らしに使うかごを作り、時にそれを売って生計の足しにもしていました。


りんご農家の西沢つえさん。りんごの収穫が終わる12月から4月までの間、かご作りをします。

西沢 「お父さんもおじいちゃんも出稼ぎに行っていたころは、雪片づけやら子どもの世話やら大変だったけど、好きなかご作りでこの作業場に来れば、ほっとしました」

美しい編み目には、家を守りながらかごを作り続けた、女性たちの手仕事のぬくもりが込められています。

弐のツボ ありのままを愛(め)でよ


次は、カゴの材料に注目します。かご作家の真木雅子さんは、さまざまな材料を使い、表情の異なるバッグを制作してきました。

真木 「アケビは御殿場や信州、東北など寒い所のものが赤くてとてもきれいです。ツヅラフジは四国や九州にあり、少し青みがかっています。」


クルミの木の皮を巧みに使ったバッグです。

真木 「クルミは表と裏で色がかなり違うので、使い分けることによって非常にきれいな市松が浮かび上がってきます。」

かごバッグにはそれぞれの素材の個性が存分に生かされているのです。

ふたつ目のツボ
「ありのままを愛でよ」


秋田県・横手は、かごバッグの材料として人気の高いアケビの産地です。秋はアケビの収穫時期。良質なつるがあるのは、適度に光の差す低木の雑木林だといいます。


バッグに使うのは、根元から出ている若いつるです。春に芽を出し、秋まで伸びたもので、適度な弾力をもち自由な造形が可能です。しなやかなアケビのつるですが、それでも無理に曲げるとヒビが入り台無しになります。


かご職人の中川原信一さん。つるを痛めない絶妙な力加減と手さばきは、半世紀かけて体で覚えたものです。

中川原 「気障(きざ)っぽく言えば、材料と会話しながら作るって言うかな。丁寧に丁寧に一生懸命作ることだけを心がけています。」


完成したバッグは、横から見るとやわらかい丸みを帯びたかわいらしい形をしているのがわかります。
しなやかさを生かしつつも、つるに負担をかけない形です。
つるを傷めない絶妙な丸みだから長年にわたって使い続けることができます。

中川原 「命のつるですよね。自然から恵んでいただいたことに感謝をしながらかごを作ってます。」

おもわず和んでしまう、優しい形。そこには、山の恵みを大切につかう職人さんの思いが宿っていました。

参のツボ 使うほど深まる色艶(いろつや)


モデルの桐島かれんさん。山ブドウのかごバッグを愛用して10年になります。

桐島 「とにかく使い込めば使い込むほど、つるがどんどんやわらかくなってきます。そして手脂によって艶(つや)が出てくる。かごバッグには育てる楽しみがあるんです。」


新品のバッグは、樹皮の堅い感じが残っています。
桐島さんが10年間使い続けたバッグを見ると、よく手が触れる取っ手部分が黒くなり深みのある艶を生み出しています。
またバッグの表面も、ところどころ色があめ色になっていっているのがわかります。


30年使い続けられたものは、桐島さんのバッグよりさらにあめ色が濃く、黒に近くなっています。
かごバッグは、使うだけ育ってゆくもの。その過程を楽しむのです。

3つ目のツボ、
「使うほど深まる色艶」


さまざまな材料の中でも、使うほど艶を増す山ブドウのバッグ。
しかし、いい艶を生み出すのは樹皮の中でも限られた部分だけだといいます。
美しい艶を生み出す樹皮は、キメが細かくうすい茶色だといいます。こうした樹皮は適度な日当たりの中で育ち、ポリフェノールなどの成分をたっぷり含んでいるため、歳月と共に、酸化し、黒くなっていくと考えられます。そこに手の脂が加わることで、ワックスをかけたような光沢を生み出します。


一つのかごバッグを23年間愛用している中田正子さん。
夫にプレゼントされた時から、どこに行くにも一緒でした。夫との旅行や、娘さんの結婚式でも。3年前、夫を亡くした後も常に持ち歩いています。
うれしい時、悲しい時…。このバッグをかたわらに歩んだ23年間の月日が生み出したかけがえのない艶です。


中田 「主人が故人となった今では、そばにおいておくだけで頼りになる想いがございます。」

かごバッグは時に人生を共に歩く味わい深いパートナーにもなってくれるのです。

磯野佑子アナウンサーの今週のコラム

1つのかごバッグを何十年も使い続け、艶や色味が変わっていき、手の脂で深い味わいが生まれる。まさに、一生物ですよね~。
欲しくても、何か月も待たなければ手に入らないものもあるそうです!
自然の営みの中で生まれる、100パーセント天然の素材ですから、人間の欲求通りにいかないのは、当たり前ですよね。
そう考えるとかごバッグって、“自然からの恵み”を私達が使わせてもらっているんだなあとしみじみ感じます。
職人さんの、「弦に負担がかからないように丸く編んでいる」という言葉が印象に残りました。
女性が持つものと思われがちですが、実は男性が持っても良いそうですよ。
さらりとかごバッグを持っている男性、渋くてカッコ良いかも!!
番組中の草刈さんも、お似合いでしたよね♪

今週の音楽

楽曲名 アーティスト名 使われた場所
(番組開始後)
Moanin' Art Blakey & The Jazz Messengers 0分2秒
The Song Is You Bob Thompson 1分26秒
Waltz For Debby Cannonball Adderley & Bill Evans 2分44秒
But Not For Me The Modern Jazz Quartet 4分34秒
Say It John Coltrane 6分16秒
Evidence Thelonious Monk 8分8秒
Stars Fell On Alabama Ella Fitzgerald & Louis Armstrong 10分58秒
It Could Happen To Me Horace Parlan 14分40秒
Love For Sale Miles Davis 15分48秒
Last Train Home Pat Metheny 18分20秒
The Nearness Of You Norah Jones 20分25秒
Four Phineas Newborn Jr. 22分30秒
What's New Bill Evans & Jeremy Steig 23分16秒
Green Sleeves Paul Desmond 24分53秒
I'll Never Smile Again Pied Pipers With Frank Sinatra 26分43秒
Marciac Fun Wynton Marsalis 28分23秒

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