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file173 「眼鏡」

眼鏡は13世紀にヨーロッパで誕生したと言われています。最初は今のような形ではなく、二つのレンズに柄をつけて手で持つものでした。

眼鏡文化研究家・白山晰也(しらやませきや)さん

白山 「手に持ったりなんかして非常に不便なんです。そこで長い間かかって人類は耳を使うってことを覚えたんです」

発明から400年後の18世紀、ようやく耳に掛ける今の形が生まれました。
その後の技術革新の中でレンズが軽く薄いものになり、自由自在にフレームをデザインすることが可能になりました。

20世紀に生まれた定番の形。その一つが「フォックス型」と呼ばれるフレームです。 1950年代に活躍したマリリン・モンローが映画の中でこの形の眼鏡をかけ、よりチャーミングになる女性を演じました。その後女性たちの間で大流行。眼鏡はあこがれの人と自らを重ねるオシャレのアイテムになったのです。

壱のツボ フレームは時代を映す

太く存在感のある黒縁のフレーム。「ウェリントン型」と呼ばれる定番の形です。 1950年代にアメリカで流行し、現在は、俳優ジョニー・デップの影響でその人気が再燃しています。

眼鏡プランナー・五藤伸介(ごとうしんすけ)さん

五藤 「ウェリントン型はトレンドを表現しやすい形だと思います。定番だからこそいろんなアレンジができるし、古い形だからこそ今新たにいろんなアレンジを加えて出すことで新しさみたいなものを表現できるのです」

五藤さんは夏に向け、ウェリントン型を最新の形にバージョンアップしようと考えていました。
若者の街で流行をチェック。スカートの下にレギンスやデニムを合わせる「重ね着」の流行に目をつけました。

シンプルなウェリントン型を活かしながら現代的な色使いを試みます。
2010年夏の新作は色の違うプラスチックを幾重にも重ねたデザイン。その名も「レイヤード」、重ね着です。

五藤 「これから10年20年先に振り返った時に、このウェリントンブームと言うのは今の時代を反映したものに見えるはずです。さらに、こういうカラーリングのポップな眼鏡も今の雰囲気を表現したものとして、将来みなさまに感じていただけたらと思います」

一つ目のツボは、
「フレームは時代を映す」

眼鏡フレームは、その時代を生きる人々の気分を映し出す鏡のようなものだったのです。

弐のツボ 手から生まれる曲面美


今では珍しくなったセルロイド製の眼鏡。
深い黒の光沢と曲面がもたらすフィット感。
眼鏡愛好家の間では今なお支持を集めています。

セルロイドの眼鏡は、職人の手によって一つ一つ生み出されています。
福井県鯖江市で眼鏡を作り続ける匠(たくみ)、増永誠(ますながまこと)さん、79歳。


冬は深い雪に閉ざされるこの土地。農業だけで生計を立てて行くのは難しいため、100年余り前に、誠さんの祖父・増永五左衛門さんが眼鏡産業を興しました。
鯖江は今、世界有数の眼鏡フレームの生産地に成長しています。

誠さんがこだわるセルロイドは、木綿などを原料にした素材です。加工しやすい新素材におされ、今では使われることが少なくなりました。


増永 「セルロイドは硬い。硬いということは長いこと掛けていても形が変わらないということやね」

硬くてゴツゴツしたセルロイドを、美しく掛け心地のいい眼鏡に変身させるヤスリ掛けの技。熟練した手技が、顔にフィットする絶妙な曲面を生み出します。


さらに、フレームに輝きを与える研磨。
誠さんは、セルロイドの眼鏡は生き物のようだといいます。愛情をこめて、大事に磨きあげることで初めて自ら光を発するようになるというのです。


増永 「ほとんど手ですよ。ヤスリ掛け手、研磨も手。自然と手が覚えて行くんやね。自分で覚えようと思わなくても。これから時代は変わって機械化はされていくやろうけど、こういう伝統的なものは残っていくやろうね」

二つ目のツボは、
「手から生まれる曲面美」

その手に刻まれた確かな技。それが、なめらかな掛け心地と輝きを生み出しているのです。

参のツボ “なりたい自分”に変身

眼鏡選びのポイントとは何かを研究してきた、眼鏡アドバイザーの末田広志(すえたひろし)さん。

末田 「なりたい自分をイメージして、眼鏡を合わせることによってなりたい自分に近づけるのが眼鏡の力なんです」

ふくよかな頬(ほお)を気にする女性。
末田さんが提案したのは、フレームの両端に厚みをもたせたプラスチックの眼鏡でした。

くっきりした紫色と相まって顔を引き締まった印象にしてくれます。確かにすっきりと見えますよね。

女性 「眼鏡をかけているのがしっくりきたのか、はずして眼鏡を掛け替えているときに、自分の顔がもの足りないと思いました」

こちらの男性は、眼鏡を使って違う自分を表現したいと考えています。末田さんが提案したのは下半分に縁のないメタルの眼鏡でした。

しかし、眼鏡選びを通じて思いがけない発見があったといいます。

男性 「もともと暗いイメージなので、眼鏡も暗そうな感じのものを掛けていました。こういうフレームの細いものを掛けてみると意外と明るく感じますね」

末田さんは言います。

末田 「眼鏡を掛けることでこんな風に自分の印象を変えることができるのだとわかれば、いろいろな眼鏡を楽しむことができる。眼鏡を選ぶ可能性は、自分がなりたい姿を思い描けば描くほど広がっていきます」

どんな自分になりたいかをはっきりイメージしたとき、眼鏡はいっそう輝きを増すのです。

三つ目のツボは、
「“なりたい自分”に変身」

人気ロックグループ、ビートルズのジョン・レノンが最初に眼鏡をかけて登場したのは1966年。 アイドルとしてもてはやされる中で次第になりたい自分とのかい離を感じるようになりました。
眼鏡を掛け、アイドルからアーティストへ。
歌を通じてベトナム戦争への反戦運動のうねりを起こしていきます。愛と平和、そしてなりたい自分の象徴がこの丸い眼鏡だったのです。


古野晶子アナウンサーの今週のコラム

子どものころ、「眼鏡」をかけている同級生にあこがれたことってありませんか?下を向くと落ちてくる眼鏡を指で押し上げるしぐさはとても知的に見えましたし、眼鏡を外したときには、その子の素顔をかいま見たような気持ちになったものです。当時の私には「眼鏡=大人に見える、かっこよく変身できるアイテム」という固定概念が出来上がっていました。視力は良かったのですが、眼鏡をかけたい一心で、あの手この手を使って眼鏡化計画を進めたのです。「暗いところで文字を読んではダメ!」と親にきつく言われていたにもかかわらず、隠れて薄明かりの下でわざと本を読んでみたり、視力テストでCマークの開いている部分の左右を逆に言ってみたり・・・。今考えると、なんて愚かなことをしていたのだろうと思うのですが、そのときは眼鏡をかけたい!という希望をかなえるために真剣でした。そんなこんなで念願かなって「眼鏡っ娘」になった訳ですが、視力が良いのにあえて眼鏡をかけている訳ですから、快適なはずがありません。あんなに望んだ眼鏡だったのに、次第にかけなくなってしまいました。うしろめたさからか、まだそのファースト眼鏡はとってあります。あのジョン・レノンも愛したまん丸な形の眼鏡です。本当に眼鏡が必要になった今、さまざまな色や形の眼鏡を楽しんでいます。

今週の音楽

楽曲名 アーティスト名
Quel Temps Fait-il A Paris A.Romans
Imagine John Lennon
Lazy Afternoon Fredie Hubbard
NOS.2 Chick Corea
Whisper Not Lee Morgan
Midnight Blue Kenny Burrell
I Feel Fine The Beatles
Manege F.Lemarque
See Glass Joey Calderazzo
I Remember Clifford Yoshiaki Masuo & Tsutom Okada
In My Life The Beatles
La Prateria Armando Trovaioli
Fibra Paulo Moura Hepteto
Three To Get Ready The Dave Brubeck Quartet
All Of You Miles Davis
All You Need Is Love The Beatles

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