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file164 「和風旅館」

日本人なら一度は泊まったことのある和風旅館。
伝統的な日本建築の粋を集めた建物には、客の目を楽しませ、くつろいでもらうためのさまざまなくふうが隠されています。

壱のツボ 部屋までの道行きに仕掛けあり

福島県・東山温泉にある明治6年創業の老舗(しにせ)旅館。
玄関から客室に向かう廊下を歩くと、ガラス戸越しに雪化粧した庭園が広がります。さらに、廊下を曲がると、今歩いてきた回廊が見えます。

実は、廊下をコの字型に造り、庭園と建物をさまざまな角度から楽しめるようにくふうしてあるのです。
6代目社長の平田裕一さん。

平田 「旅館に到着したときから物語が始まっています。非日常体験の楽しみを、廊下を歩きながら感じてもらえる設計です」

夜には、雪見ろうそくの炎が、到着客を出迎えます。これも日常を忘れ楽しく過ごしてもらうためのくふうです。
一つ目のツボは、
「部屋までの道行きに仕掛けあり」

長野県・別所温泉のこの旅館は、広々とした庭園が自慢。
離れの客室を点在させ、それぞれを結ぶ渡り廊下から、庭の眺めをたんのうできる仕掛けが施されています。ふだんでは体験できない空間が、旅の気分をかきたてます。

長野県・渋温泉、山の斜面に建てられたこの旅館は、広い庭がないかわりに、客の目を楽しませるくふうを凝らしています。
まるで夜の路地のような廊下。空をイメージして青く塗られた天井が、表を散策している気分にさせてくれます。

神社やお寺などを手がけていた宮大工たちが、ほとんどくぎを使わない伝統的な技法で建てた高さ17メートルもある木造建築。昭和11年に完成しました。
当時、大規模な旅館建築は、高度な技術を持った宮大工が、個性的な空間づくりに腕を振るう場でした。

旅館建築を研究してきた鈴木喜一さんに案内していただきます。

鈴木 「段差が低い廊下は登りやすく、そして、ゆったりとした踊り場ではひと休みしたくなります。ベンガラ色の壁が、旅館建築ならではの色気をかもし出しています」

最上階の踊り場には、富士山の大きな窓が飾られ、その上に月に見立てた電灯がつられています。宮大工たちの粋な演出です。

鈴木 「もうすぐ最上階に着くという登頂感を富士山が表現しています。宮大工たちは、寺社建築の規則を離れて、思い切り自由に腕を振るったんでしょうね」

玄関から部屋までの短い旅路には、旅館ならではの遊び心がいっぱい込められているのです。

弐のツボ 疲れを癒やすほのかな明暗

江戸時代から続く、京都を代表する老舗旅館です。夏目漱石などの文豪が好んで滞在しました。
部屋に足を踏み入れると、ほのかな光に心が和みます。旅館の客室には必ずある広い縁側が、窓からの強い日ざしを受け止めます。


さらに、障子が光を和らげます。
この旅館の改装を手がけている道田淳さんです。

道田 「旅館は滞在時間が長いため、くつろぎや安らぎを与えることが重要です。そのため、客室はほのかな優しい明るさになるように設計させています」

二つ目のツボは、
「疲れを癒やすほのかな明暗」

東海道五十三次のひとつだった赤坂宿。
昭和初期に旅籠(はたご)として創業し、いまも営業を続けている旅館です。


その築300年近い客室は、庇(ひさし)と格子、障子によって、幾重にも光が和らげられ、ほのかな明るさになっています。
旅人の疲れを癒やす優しい光は、江戸以来の伝統でした。

風通しや明かり取りのための欄間も、客室の明暗を演出する重要な存在です。

道田 「光の移ろいや人の気配などが、欄間を通し、ワンクッション置いて伝わってきます。そのため、くつろいだ優しい気持ちで滞在することができるのです」


和風旅館の欄間には変化に富んだデザインが施されています。
土壁から竹の骨組みをのぞかせたかのような欄間が、心地よい陰影を刻みます。


山並みや寺、海に浮かぶ船を彫刻で表現した欄間。光を通すと、その景色が影絵のように浮かび上がります。
旅人が心と体を休めるために、光に気を配り、ほのかな明暗に包まれた客室をつくっていたのです。

参のツボ 大広間は天井に風格あり


大広間は、明治ごろから宴会の場として造られるようになりました。
大きな床の間を設け、旅館自慢の美術品などが飾られます。

大広間の多くは、格子状の天井=格天井(ごうてんじょう)です。それぞれの格子の中に、畳半畳ほどの一枚板をはめた豪勢な造りです。
格天井は、古くから寺院や城に用いられたスタイルで、その部屋の格の高さを示すものでした。

三つ目のツボは、
「大広間は天井に風格あり」

長野県・渋温泉の旅館にある130畳の大広間。天井を見ると、格子の中に小さな格子が入ったような風変わりな格天井をしています。
実は、建築当初は、普通の格天井でした。ところが昭和20年、戦時中の人手不足によって雪下ろしがままならず、雪の重みで天井が崩落してしまったのです。再建しようにも、当時の木材難で、大きな一枚板は入手できませんでした。

そこで、小ぶりな板を3枚合わせ、小さな格子を入れて継ぎ目をわかりにくくしたのです。
さらに、天井を一段高くする折上げ(おりあげ)を施し、より格式を高めました。
8代目社長の西山平四郎さん。

西山 「材料が不足した中、格式高い天井にするために、大工さんの手間と腕で補いました」

旅館の大広間では、天井を見上げてみてください。宴(うたげ)を華やかに盛り上げる意匠が施されているかもしれませんよ。

四のツボ ふぞろいの客室に美学あり

江戸時代から続く京都の老舗旅館。28ある客室はすべて異なる造りになっています。
作家・三島由紀夫が愛用した客室は、付書院(つけしょいん)や豪華なふすま絵などをしつらえ、格式を感じさせる造りになっています。

次に、別な部屋を見てみましょう。
段のない床の間は、ぐっと簡素なスタイルです。そして、中央が高くなった天井が、部屋を明るく開放的に見せています。

さらに、こちらの部屋は、重厚な印象を感じさせます。
天井が従来より低く、材料に屋久杉を使用。屋久杉は樹脂を多く含み、時がたつと、黒く落ち着いた風合いになります。それが重厚さをもたらしているのです。
和風旅館は、客の好みを考えてさまざまな客室を用意しているのです。
女将の西村明美さん。

西村 「明るい部屋が好みの人、少し暗くても年月を感じられる部屋が好みの人、こぢんまりとした部屋が落ち着く人など、お客様それぞれ好みが違います」

四つ目のツボは、
「ふぞろいの客室に美学あり」

静岡県・河津町、明治12年創業の旅館です。ここも一部屋ずつ味わいの違う客室が用意されています。
昭和37年、二階に客室を増築しました。早咲きで有名な河津桜を間近でみられるように、縁側をぎりぎりにせり出した造りです。客室全体がまるで花見席のよう。
女将の稲穂とし子さん。

稲穂 「河津桜が見られるように造りました」

最初の客は、作家・川端康成でした。
眺めが気に入った川端は、晩年何度となくこの部屋に泊まりました。若いころからなじみ深い伊豆の地に、大切な隠れ家ができたのです。
ふぞろいの客室と、それを愛する客。その関係は、ときに、かけがえのないものとなるのです。


古野晶子アナウンサーの今週のコラム

和風旅館に泊まると、何とも言えない落ち着いた気持ちになります。日ごろ、和室の無い家で暮らしているためか、部屋へ入ると畳の香りや足裏への感触に懐かしさを覚えます。
初めて訪れたお部屋であるにもかかわらず、なぜか「あ~、戻って来た!」という安心感を覚える場所。和風旅館はそんな不思議な魅力に満ちたところです。

今週の音楽

楽曲名 アーティスト名
Call me irresponsible André Previn
Las Vegas Rhapsody-Prologue テオ・ブレックマン&安田芙充央
Dear old Stockholm Ron Carter
Drume Negrita Roberto Fonseca
Raindrops Eldar Djangirov
Variations on Goldbelg's theme and dreams
~Variation 7
Richard Stoltzman
I waited for you Miles Davis
The shadow of your smile Bill Charlap
Body & Soul High Five
Sorry seems to be the hardest word Jimmy Scott
Lullaby of Birdland Stan Getz
59 South Robert Glasper
Lush life 菊地成孔、南博
Say it ain't so Aldo Romano
The nearness of you Willie Nelson
Better git it in your soul Charles Mingus

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