NHK

鑑賞マニュアル美の壺

最新の放送

file152 「武将ファッション」

今、戦国時代があついブームを呼んでいます。
有名な武将のフィギュアや、旗印(はたじるし)入りグッズ、兜(かぶと)の形のストラップなどを売るお店が登場。
歴史ファンのお父さん大喜び、と思いきや、目立つのは若い女性たちの姿です。
彼女たちを引きつけているのは、戦国武将の鮮烈な生きざま。

それを象徴するのが個性的なファッョンです。
こちらは、伊達(だて)政宗(まさむね)の甲冑(かっちゅう)。
漆黒(しっこく)の鎧にギラリと光る三日月の飾り。
これは、月が欠けては満ちる事から不死身の強さを託したと言われています。
それぞれの武将たちが、合戦の時のいでたちにくふうを凝らしました。
そこには彼らの生きざまと美意識が込められていたのです。

ファッションデザイナー、山本寛斎さん。
寛斎さんは若いころから戦国時代に奇抜なファッションに注目してきました。

山本 「本来の日本人は、ふだんからすごくきれいなものをよしとする、目立つことをよしとする。それをかぶくという、歌舞伎という単語ができたくらい。安土桃山文化を見るとその水準なんですよね」

戦国武将たちのファッションセンスには、世界的なデザイナーをもうならせる驚きが詰まっているのです。

壱のツボ 立てものに武将の心意気あり

まずは、兜に注目です。
大河ドラマでおなじみ直江兼続の兜。
愛の一文字は、愛染明王への信仰によるとも、民を愛する決心を託したとも言われています。

国宝など文化財に指定された鎧兜の修復を手がけてきた甲冑師(かっちゅうし)の、森崎干城さん。
兜には、武将たちが特別な思いを込めていたと言います。

森崎 「戦国時代は死との背中合わせ、身を守るだけでなく、かっちゅうは、死に装束ともなります。自分の思い入れもかなり入っているので、威厳と風格だけではなく、信仰や大切なものが盛り込まれています。」

武将の思い入れが凝縮している場所、それが、たてものと呼ばれる兜の飾りです。
前の立もの、「前立て」は、不死身のシンボルとされた月。

脇には鹿の角をかたどった立て物。神の力が宿るとされていました。

武将ファッション、最初のツボは、
「立てものに武将の心意気あり」

木の棒に熊の毛を張り付けた、この立て物は、毛虫を表しています。
毛虫は、前に進むのみ、後ろに下がることはありません。
また、葉っぱを食べることから、「刃(は)」、つまりやいばを食い破ることにかけて、勇猛さの象徴になったのです。
脇には、鳥の羽まで付いています。
命がけの戦場でなぜ、こんなに目立つ格好をしたのでしょうか?

戦国時代に入ると、刀による一騎打ちから、鉄砲を使った集団戦に戦い方が一変します。
戦場で主君に手柄をアピールしたり、家臣に無事を知らせるため、派手な兜が必要になったのです。
ところで、こんな大きな「立てもの」を付けて、重くはなかったのでしょうか。

森崎 「この鹿の角は木でできていますが、のこりは、紙と漆でできていて、とても軽いものです。馬に乗って走った際枝に引っかかっても折れるように。折れないと、兜の緒で首をやられるので、壊れやすいように作ってあります。」


やがて、立てものが鉢の部分と一体化した「変わり兜」が生まれました。
こちらは、ウサギの耳を表した兜です。ウサギの素早さを、戦場で発揮したいという願いが込められています。

こちらも変わり兜。
薄い木の板に銀ぱくを押してつくったものです。
豊臣秀吉の家臣、黒田長政がかぶっていました。
横から見ても、後ろから見ても何とも不思議なデザイン。
源義経が断崖を駆け下りて平氏を破った「一の谷の戦い」の地形を表しているんです。


そして、この一の谷兜とゆかりが深いのが、「大水牛脇立て兜」。
ドラマ「天地人」で、石原良純さんが演じた福島正則の兜として知られています。
その姿は、突進する猛牛のようです。
根元は木、それ以外の部分は紙と漆。
なだらかな曲線が、みごとな造形美を生み出しています。
独創的なデザインには、戦国武将ひとりひとりの、熱い心意気が宿っているのです。

弐のツボ オシャレ合戦は南蛮モードで

今度は鎧の上にまとう陣羽織のお話です。
戦場での雨風(あめかぜ)や寒さを防ぐための陣羽織。兜と同様、戦場での活躍をアピールする奇抜な色やデザインとなりました。
こちらは、関ヶ原の合戦で勝敗のカギを握った武将、小早川秀秋のもの。真っ赤な生地の上に鎌の模様を、縫い付けた、力強いデザイン。

二つ目のツボは、
「オシャレ合戦は南蛮モードで」


こちらも、羊毛でできた陣羽織。
羊毛は、この時代にスペインやポルトガルの人々によって広められました。
信長、秀吉をはじめ、武将たちは商人や宣教師から競って南蛮の生地を求め、奇抜なデザインの衣装を身にまといました。


そこには、おしゃれを越えたある意図があったと、静岡大学名誉教授(戦国史)の小和田哲男さんは言います。

小和田 「ヨーロッパからいろんな、たとえばビロードだとか、輸入して。経済力がないとできない財力を誇示する意味もあって、おまえらには着れないだろう、大将としての一種のステータスシンボルという側面もありますね」


続いては、戦国のファッションリーダーと言われる、伊達政宗の陣羽織。

最後にこの人、絢爛(けんらん)豪華(ごうか)な桃山文化を築き上げた天下人、豊臣秀吉の陣羽織をご覧いただきましょう。
「鳥獣模様綴織陣羽織(ちょうじゅうもようつづりおりじんばおり)」。
最高級のぺルシャじゅうたんを惜しげもなく使っています。
ライオンやクジャクなど、当時の日本人が見たこともないさまざまな動物が、色鮮やかに刺しゅうされています。
これぞ南蛮渡来の美の極致。
秀吉の得意顔が目に浮かぶようです。
武将たちの意地をかけたおしゃれ合戦が、戦国時代をますます華々しいものにしたんですね。

参のツボ 見た目で脅す、鎧(よろい)の力

岐阜県の関ヶ原では、毎年、合戦祭りが開かれ、甲冑(かっちゅう)姿の人々でにぎわいます。
ひときわ目を引くのが赤い鎧。
ここには目立つということだけではない、別の意味もあるんです。

小和田 「単なる防具と言うより、戦国たけなわになると、相手を威圧するとか、ビックリさせるものがあらわれるようになる」

三つ目のツボは、
「見た目で脅す、鎧の力」

徳川四天王といわれ、勇猛な戦いぶりで知られた井伊家に伝わる鎧。
すね当てから草摺(くさず)り、こて、胴、兜に至るまで、すべて赤く塗られています。
糸は紺色、赤をさらに引きたて、強烈な印象を与えています。
こうした赤い鎧を着ていたのは、大将だけではありませんでした。

関ヶ原の合戦を描いたびょうぶ。
井伊家の軍団は騎馬武者から、雑兵(ぞうひょう)、旗まで、全て赤。
「井伊の赤(あか)鬼(おに)」と呼ばれ、恐れられました。
圧倒的な強さの一因が、赤にあったと、色彩心理学者の末永蒼生さんは言います。

末永 「成人女性に今の気分を表現してもらったものすごい赤、夫婦げんかの後、戦闘モードだった。強い赤は攻撃的な感じ。赤は人間の 一番極限の血の色。その色に死の危険を感じ取った。向こうからやってきたら、火の大群のような恐怖やショックを与える効果があったでしょう」

この赤は戦場での心理を計算したものだったのです。

一方こちらは南蛮(なんばん)胴具足(どうぐそく)と呼ばれる鎧。
ヨーロッパからもたらされた鎧を改良したものです。
胴の部分と、兜の鉢は西洋(せいよう)甲冑(かっちゅう)をそのまま使い、鉢の下のしころや足を保護する草摺りは日本式。
作らせたのは、徳川家康。
家康は、この新兵器を導入し、存分に活用しました。
強度も抜群。
しのぎと言う、西洋甲冑独特の山形の形状が、弾丸を外側へそらす効果を生んでいました。

異様な出で立ち。
また鉄砲で撃たれても倒れない姿が相手を恐怖に陥れたのです。
家康は、南蛮胴具足をそろえ関ヶ原の戦いに出陣。
これが、東軍の勝利に貢献したといいます。

最後は人の心理を突いた鎧です。
胴の部分がまるで人の肌のように見えませんか。
戦場で、人は常に恐怖と背中合わせでした。
この鎧は、追い詰められ、肌をあらわにした武者が、捨て身で暴れ回っているように錯覚させ、敵を怖れさせたんです。
命を賭けた戦いの中から生み出された、個性的な武将ファッション。
戦国武将の装いのゆるぎない強さと美しさが、今あらためて私たちを引き付けているのです。


古野晶子アナウンサーの今週のコラム

“歴女(れきじょ)”という言葉をご存知ですか?戦国時代の武将や歴史を愛する女性たちのことを言うのだそうです。戦に出れば生きるか死ぬかの過酷な世。そんな時代を走りぬけた武将たちの鮮烈な生きざまが女性達をひきつけているのだとか。
歴女を名乗るのはおこがましいですが、私も“お城”となると無性にワクワクします!旅先でお城があれば必ず訪れています。最初は遠くから石垣や城の姿をじっくりながめます。中へ入ったらその城にまつわる資料を読みこみ、当時使われていた器や調度品を丁寧に見て、気持ちを盛り上げていきます。そして最後に急な階段を登っていくと・・・そこに広がるのは眼下に見下ろす、天守からの眺め!まるで自分が城主になったような気持ちになります。「○○はどんな気持ちでこの景色を見ていたのだろうか?」なぁ~んて、勝手に思いをはせています。最後にお茶屋さんでお団子と抹茶をいただいて、“家紋”付きの土産品を探す。これが私の城の楽しみ方です。

今週の音楽

楽曲名 アーティスト名
Doug 's Minor B'OK Hank Mobley
7 Miles Davis & Gil Evans
Three Bags Full Herbie Hancock
Shout ' Em Aunt Tillie Marcus Roberts
Twelve Inch Curtis Fuller
Senor Mouse Turtle Island String Quartet
3 Miles Davis & Gil Evans
Indian Song Wayne Shorter
I Remember Clifford Lee Morgan
Stella By Starlight Horace Parlan
Just Friends Charlie Parker
Stardust Clifford Brown
5 Miles Davis & Gil Evans
A Night In Tunisia Turtle Island String Quartet
Decline Turtle Island String Quartet
Clara Duke Peason

このページの一番上へ

トップページへ