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鑑賞マニュアル美の壺

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file150 「鎌倉 後編」

壱のツボ 石の表情が鎌倉の風景を作る

三方山に囲まれた鎌倉で、唯一の陸の出入り口となったのが、7か所の切通し(きりどおし)です。
鎌倉の石に詳しい大貫昭彦さんです。

大貫 「切通してますんで、切通っていうんです。当時山を切ったところという意味で、切る所、切所、後に関所に通じると思うんですけども。幕府としてはかなり警戒をしてしっかりと防衛施設を作らないといけないということでね、それでこの切通しを作ったわけです」

こちらは幅およそ1メートル。馬一頭しか通れないように切通したもの。
兵の侵入を防ぐためのくふうです。
地形を利用した人間の知恵が、鎌倉ならではの風情を生み出しているのです。

切通しをよく見てみると、不思議な模様が残っていることがあります。

大貫 「模様を見てもお分かりの通り、だいたい一尺位の幅で石が切られています。ちょうど石段の高さ位の幅に切っている跡がよく見えますね。切り抜いた石はまた石段に使ってみたり、あるいはお寺の柱の礎石に使ったり。随分いろいろと利用したんじゃないかと思います」

切通しから採れた石は、鎌倉石(かまくらいし)と呼ばれています。
やわらかく細工しやすいのでさまざまな用途に用いられました。
磨り減りやすく、月日と共に独特の風合いが生まれるのも、鎌倉石の特徴。鎌倉の景観のアクセントとなっているのです。

鎌倉の美鑑賞、四つ目のツボは、
「石の表情が鎌倉の風景を作る」

鎌倉最古の寺・杉本寺の石段。
丸みを帯びた石をびっしりこけが覆っています。こけがつきやすいのも鎌倉石の特徴の一つ。深い緑が渋い味わいを醸し出しています。

こちらは路傍に建てられた鎌倉石の塔、お茶ぶきさん。風邪ひきに霊験があり、治るとお礼にお茶を差しげます。
鎌倉石は長い歴史を経て、人々の暮らしに溶け込んでいるのです。

武将・上杉家の墓と伝えられる石塔群。一つだけ表情の違う石塔があります。伊豆石という別の石が用いられているのです。

伊豆石を使った、鎌倉時代の五輪の塔。 高さは3.5メートル。伊豆石は伊豆地方でしか採れない硬く、大きな構造物に適した石です。
このお墓に眠る極楽寺の僧・忍性(にんしょう)が、鎌倉に新たな石文化をもたらした人物です。

忍性は慈善事業に生涯をかけた僧侶でした。寺の中に療養所を設け、また民の暮らしをよくするため、橋や道路を率先して作りました。そして、伊豆石を導入しただけでなく、高い技術を誇る石工たちを、鎌倉に呼び寄せます。安養院の宝篋印塔(ほうきょういんとう)は、こうして生まれた傑作です。
固い伊豆石をシャープに彫った(刻んだ)石工の腕の冴えを見ることができます。鎌倉石とは違い、まるで昨日作られたかのようなくっきりした形。伊豆石ならではの味わいです。

素朴な鎌倉石と、シャープな彫刻が楽しめる伊豆石。
2つの違いに注目しながら、悠久の歴史に想いをはせてみませんか?

弐のツボ 地形をいかした庭園演出を楽しむ


鎌倉には“花の寺”が数多くあります。それは尾根が複雑に入り組んだ鎌倉の地形に理由があります。山(ヤツ)です。鎌倉では山と山の谷間を、ヤツと呼び、六十六谷あるといわれています。
これに目をつけたのが、僧侶や武士たち。入り組んだ地形を逆手にとって、このヤツに鎌倉ならではの庭園を作ってきました。

建築家の宮元健次さんです。

宮元 「谷底ですので、日当たりがあんまりよくないんです。ですから京都の庭のように大きな木が育つということが少ないわけですね。低木が非常に多くなってきます。ですから、大きな樹木を楽しむというよりは、草木を楽しむ、そういう独特の庭のあり方が作られたんだと思います」


ヤツに築かれた個性的な花の庭園の数々。このように鎌倉の庭園には地形をいかしたくふうが凝らされているのです。

鎌倉の美鑑賞5つ目のツボは、
「地形をいかした庭園演出を楽しむ」

あじさい寺として知られる明月院。鎌倉の西にある明月谷という細長いヤツにある小さなお寺です。
明月院では、傾斜していてしかも狭いという地形を巧みに利用しています。少し歩いて気がつくのは、通路の細さ。おまけに迷路のように張り巡らされています。庭の狭さを感じさせないための仕掛けなのです。


歩くことおよそ5分。視界が突然開けます。ここに明月院庭園の要となるものがあります。
ヤツの一部をくり抜いて造られた「やぐら」と呼ばれる墓。鎌倉時代の武士の墓です。


少ない平地に墓を作ることは禁じられていたため、武士たちは、岩に穴を掘って墓を作ったのです。

宮元 「庭というのはルーツをたどっていきますと、岩座(いわくら)であるとか要するに神が宿る石であったり、宗教と非常に深く関係があるわけですね。要するに墓石というものを眺めるということが、ぼだいにつながる。そういったことから“やぐら”を眺めるというのも庭の鑑賞方法の大切な要素ではないかというふうに思います」

鎌倉の庭は、こうして歩き回って自由な視点で面白い風景を見つけ鑑賞するのがポイントなんです。


こちらは鎌倉の東・紅葉ヶ谷(もみじがやつ)にある瑞泉寺庭園です。
作者は、鎌倉時代の禅僧・夢窓国師。禅の境地に通じる数々の庭園を作りました。この庭には、庭石や灯篭などがまったくありません。岩を掘ることだけで作られた「引き算の庭」といわれています。
禅僧にとって庭は修行の場。岩を削った洞(ほこら)で座禅を組み、池に映る月を観て、瞑想したといいます。庭全体が、余計なものを捨て去りたどりつくという、禅の境地を表しているのかもしれません。

瑞泉寺には、もう一つ国師の思想をうかがわす秘密の庭があります。
富士山を遠望する大自然のパノラマ。これが山々を垣根に、海を池に見立てた大きな庭なのです。

住職の大下一真さんです。

大下 「本当の庭というものは、“四気にかわる気色を、くふうとする”つまり自分の修行の元になる。そのために庭を作るとおっしゃっているんですね。山のたたずまい、海のたたずまい、その時の季節や時間によって違うわけです。そういうのと合い向かいながら自分の心を磨いていくのです。夢想国師にとって庭を造るというのは、趣味ではなく修行なんですね。その中にいて、自分が修行するために庭を作ったんです」

鎌倉の庭園には、自然そのものを庭に見立てる壮大なスケールが隠されているのです。

参のツボ 青葉や花の匂いを感じて歩け

鶴岡八幡宮の参道、若宮大路。
鎌倉を南北に走る堂々たる大通りです。
しかし、一歩裏に入ると・・・。

車も入ることのできない狭い路地が、くもの巣のように張り巡らされています。
作家・大佛次郎は、鎌倉の路地をこよなく愛しました。
『鎌倉に住む私が散歩に出て、好んで歩くのは、そうした裏道である。(中略)不快なガソリンの臭気に代わって、青葉や花の匂いを感じて歩いていられる。左右の家の樹木の枝が、道路の空で交わっているところもある。(中略)人影のない行く手を猫が悠々と歩いて先に行く。
~「路地礼讃」~より』

鎌倉の美鑑賞最後のツボは、
「青葉や花の匂いを感じて歩け」

もともと鎌倉時代、敵の侵入を食い止めるために、路地は迷路のように張り巡らされました。武士の世が遠く過ぎ去った今、ここに暮らす人々によって、鎌倉の路地は知る人ぞ知る美の宝庫となりました。
鎌倉の路地に住む野口勝さんの自慢は、この垣根。父の代から手塩にかけ、ここまで立派に育ちました。

野口 「緑というのはものすごく心を安らぐというのかな、そういう意味では非常に楽しく刈り込みをやらしてもらってます」

歩いているとさまざまな垣根に出会います。
鎌倉時代に人工的に作られた迷路に、長い間の人々の暮らしが積み重なり、見事な景観を作り上げているのです。

鎌倉の風景を撮り続けている写真家の原田寛(ひろし)さんは、撮影を続けるうち、路地には一つの鑑賞法があることに気付きました。

原田 「鎌倉の住人というのは表通りは混んでるじゃないですか、路地を伝い歩くように移動するっていう雰囲気があるんですね。私も住人気分でやってみようかなって歩いたらすごくすてきだったんで。鎌倉の路地は、奥に見える風景というんですかね、それが魅力ですね」

最後に、原田さんが最も愛する路地。垣根の横をすり抜けると、雄大な海が現れます。
今度鎌倉を尋ねた時は、思いのままに路地を歩き、自分だけの景色を見つけてみてはいかがですか。

古野晶子アナウンサーの今週のコラム

今回の鎌倉スペシャル、いかがでしたか?後編は住宅街を網の目のように走る「路地」が出てきたので、鎌倉を散策する楽しみが一層増しました!
でも知らない路地って、一歩入ると迷路のようですよね?ぐるぐると同じ場所を歩いているような感覚になって、道に迷ったという方もいらっしゃるのではないでしょうか?私は散策のとき、地図も看板もほとんど見ずに「こちらの道の方がおもしろそうな気がする・・・」と気の向くままに歩くので、路地では毎回迷ってしまいます。ですが、こんなときにこそ不思議と美味しいケーキ屋さんや穴場の喫茶店をみつけることできるのです!予期せず出会った格別な味に歩き回った疲れも一気に癒されます。その度にお店の名前や住所を書きとめておこう!と思うのですが、だいたい忘れてしまってその味に再び出会えることはほとんどありません。さんざん道に迷った末にたどりつくので、再び行こうと思ってもなかなかたどり着くことができないのです。忘れられないあのケーキを目当てに、またあの路地へ迷子になりに行こうかな・・・。

今週の音楽

楽曲名 アーティスト名
Charade Henry Mancini
Pretend Nat King Cole
Theme De Robert Francis Lay
NOS.12 Chic Corea
All The Things You Are Paul Desmond / Gerry Mulligan
Creole Blues Marcus Roberts
Clair De Lune Phil Woods /    Michel Legrand
Vivre pour Vivre Francis Lay
作曲された花と水 菊地 成孔 / 南 博
Milestones Miles Davis
Anything Goes Stephane Grappelli & Yo-Yo Ma
Mood Indigo Marcus Roberts
All Blues Miles Davis
Ballad Of The Sad Young Men Wynton Marsalis
Country Keith Jarrett
O Grande Amor Gary Burton & Makoto Ozone
My Song Pat Metheny
Unforgettable Nat King Cole

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